MAGISTER NEGI MAGI from Hell

亜子編―第二話―

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すっかり陽も落ちた麻帆良学園都市の中。
人気のない道を、体操服姿の亜子が急いでいた。
「アカン……もう暗くなってもうた。はよ帰らな……!」
亜子はサッカー部のマネージャーをやっている。女子中等部のではない、学園都市内の別の学校のだ。
だからその練習場所は、女子中等部の校舎からは少し遠いグラウンドになる。
定時に終わってくれれば、ちょっと遠回りして運動部の友人たちと合流し、一緒に帰れるのだが……
今日のように練習が長引いたりすると、1人で帰らねばならなくなってしまう。
そして、広すぎる学園には、時間帯によっては真空地帯のように不気味な無人の闇が広がる……
「……!?」
それは、鬱蒼と繁った林の中。両側から木々が覆い被さってくるような道を歩いていた時のこと。
亜子は急に嫌な悪寒を感じ、足を止めた。
誰かに、見られている。どこかから、見られている。
けれど、街灯も乏しいこんな道では。月にも分厚い雲がかかるこんな夜には。
周囲を見回しても、何も見えない。ただ木々の枝が風に揺れるばかり。
「……き、気のせいやったんかな。ハハ、ハハハ……」
亜子は引き攣った笑顔を浮かべる。気休めの独り言を大きく口に出して、自分を奮い立たせようとする。
――だが。
「ケケケッ。気ノセイジャネェヨ」
「ヒッ!?」
どこかから嘲るような声が聞こえたかと思うと、小さな黒い影がつむじ風のように駆け抜ける。
歪な頭身の小さな影。ガラス玉のように光る2つの目。悪魔のような黒い翼が、背中に揺れる。
しかし何よりも目を引くのは、その両手にそれぞれぶら下げられた、身長よりも長い凶悪なナイフ――
黒い影は、亜子の回りをグルグルと高速で回転する。あまりに速すぎて、その姿はマトモに確認できない。
「サア――遊ボウゼ!」
ナイフが煌く。肌に刃が触れるか否かというところで、体操服が切り刻まれ、ボロボロにされていく。
執拗に服を狙った攻撃に、背中の傷痕が、小さな悪魔の目の前に晒される――!

……雲が晴れ、半月に照らされた夜道の真ん中で。
和泉亜子は、気を失って倒れていた。
見れば、傷とも呼べぬような小さな傷が、鎖骨のあたりに1筋。僅かに血を滲ませている。
その頭上には、凶悪なナイフを持った人形がユラユラと揺れて。
「……情ケナイ奴ダナ。コレカラガ本番ダッテノニ、コノ程度デ気絶シヤガッテ」
不満そうに呟くチャチャゼロ。見ればゼロは、頭上に張り出した木の枝から、極細の繰り糸で吊るされている。
エヴァの魔力が最大になる満月ならともかく、こんな月齢ではゼロの能力も限られていた。
空など飛べるはずもない。目にも留まらぬ高速運動など、できるはずがない。
上から吊るされ、グルグルと一点を回るだけ……しかしそれでも上手く催眠術と併用すれば、素人相手なら。
「……マァイイヤ。悲鳴ガ聞ケネェノハ ツマンネーガ……ソノ分、身体デ補ッテ貰ワネートナ」
チャチャゼロは呟くと、自らを吊るしていたワイヤーを解き、地面に降り立つ。
自分の血を見て気を失った亜子。
抵抗力を失った彼女の上に、ゼロはゆっくりと巨大な刃を振り上げて――!

……彼女は、ぼんやりと目を開いた。
白い天井。馴染みのない清潔なベッド。静寂と薬品の匂いに包まれた空間。
明るくはあるが、あの悪夢の続きのように現実味のない光景。
意識がはっきりしない。ここは一体、どこだろう? 女子寮の部屋でないことだけは分かるが……。
「…………??」
ベッドの上に起き上がった彼女は、何か違和感に気づいて首を傾げる。自らの身体を触れる。
見覚えのないパジャマの下、胸にも腹にも腕にも足にも頭にまで、全身に固く固く包帯が巻かれている――
「……なに、これ?」
彼女は静かな混乱のまま、立ち上がる。幸か不幸か、看護師は席を外していて、彼女の覚醒に気付かない。
学園都市内の病院、その病棟の個室。その片隅にある洗面台の前に立ち、ゆっくりと包帯をほどいていく。
鏡の向こう、包帯を解く少女の姿。
顔にまで包帯が巻かれているので、誰の姿なのかいまいち実感がない。
やがて包帯の下、次々と現れる傷。背中の傷にも匹敵する、救いようのないおぞましい傷痕の数々。
白く滑らかな腹部を、斜めに横切るように。
小さいけれども形の良い乳房を、縦に切り裂くように。
腕にも。足にも。お尻にも。
全身のありとあらゆる部分に、偏執的な執拗さでつけられた無数の刀傷。
いずれも命に別状はない傷。皮一枚切り裂いて、僅かにその下の肉にも到達している傷。
決して後遺症は残さないが、しかし痕を残さず治ることもありえない、計算されつくした邪悪な達人技。
そして、決して美人ではないが誰からも好かれるその顔にも、トドメとばかりに何本もの刀傷が……!

……彼女は、ぼんやりと目を開いた。
白い天井。馴染みのない清潔なベッド。静寂と薬品の匂いに包まれた空間。
明るくはあるが、あの悪夢の続きのように現実味のない光景。
意識がはっきりしない。ここは一体、どこだろう? 女子寮の部屋でないことだけは分かるが……。
「…………??」
ベッドの上に起き上がった彼女は、何か違和感に気づいて首を傾げる。自らの身体を触れる。
見覚えのないパジャマの下、胸にも腹にも腕にも足にも頭にまで、全身に固く固く包帯が巻かれている――
「……なに、これ?」
彼女は静かな混乱のまま、立ち上がる。幸か不幸か、看護師は席を外していて、彼女の覚醒に気付かない。
学園都市内の病院、その病棟の個室。その片隅にある洗面台の前に立ち、ゆっくりと包帯をほどいていく。
鏡の向こう、包帯を解く少女の姿。
顔にまで包帯が巻かれているので、誰の姿なのかいまいち実感がない。
やがて包帯の下、次々と現れる傷。背中の傷にも匹敵する、救いようのないおぞましい傷痕の数々。
白く滑らかな腹部を、斜めに横切るように。
小さいけれども形の良い乳房を、縦に切り裂くように。
腕にも。足にも。お尻にも。
全身のありとあらゆる部分に、偏執的な執拗さでつけられた無数の刀傷。
いずれも命に別状はない傷。皮一枚切り裂いて、僅かにその下の肉にも到達している傷。
決して後遺症は残さないが、しかし痕を残さず治ることもありえない、計算されつくした邪悪な達人技。
そして、決して美人ではないが誰からも好かれるその顔にも、トドメとばかりに何本もの刀傷が……!

「……ということで、和泉さんは今日から暫くお休みだそうです。
 身体の方の怪我は大したことないそうですが、精神的に強いショックを受けられたらしくて……
 今は精神科病棟の方に移されているそうです。皆さんも、暗い夜道には気をつけるようにと……」
3-Aの教室で、ネギが沈痛な表情で事件を報告する。
朝、血まみれで転がっていたところを発見され、病院に収容された亜子。
「変質者に襲われたらしい」とされたこの事件。能天気なクラスの面々にも、流石に笑顔はない。
小さな声でヒソヒソと、お見舞いの相談を始める彼女たち。思わず涙ぐむ生徒もいる。
そんな中、1人だけ小さな笑い声を上げたのは。
茶々丸の頭の上に乗った、小さくも邪悪な呪いの人形――
ゼロは暗い空気に包まれたクラスを見渡し、主人にも茶々丸にも聞こえぬ小さな声で、楽しげに呟いた。
「次ハ、誰ヲヤルカナ。今度ハ シッカリ悲鳴ヲ聞キタイモンダゼ……!」

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