MAGISTER NEGI MAGI from Hell

大きな言葉

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半年前のあの日、ハルナは3階から飛び降りた。
だが、ハルナが飛び降りた場所は土になっていた。
しかもその日の朝、ハルナの住んでいた地域には珍しく、雪が降った。そのため、土が湿ってやわらかくなっていたのだ。
それに加え、その上にハルナの服が重なるという、「3重のクッション」が出来上がっていた。
打ち所も悪くなく、ハルナは骨折や打撲だけですんだのだ。

だがハルナにとって、それは最悪の出来事だった。
自分に対するいじめが公になったあげく、死ぬことも出来なかった。
ハルナは本気で神を怨んだ。
なぜここまでして、自分は生きなければならないのか。なぜ死ぬことは許されないのか・・・。

それは、今現在も感じていることであった・・・。




次の日のマホスポの一面は、やはりハルナいじめについてのことが書かれていた。
だがその内容は、今回のことを詳しく知っているものにとって、少し意表をつかれた物であった。

「マホスポ新人報道部員 中等部生徒をいじめから救出! 学園長も感謝の言葉」

そこに書いてあった内容は、簡潔に言えば以下の通りである。
「某クラスの某生徒が、長い期間悪質ないじめにあっていて、それを朝倉が一人で助けた。
 その活躍と勇気ある行動に対し、学園長が朝倉を表彰した。」

今回、朝倉が学園長に表彰された背後には、このかがいた。
「自分の友達を助けてくれたのはとても嬉しい。だから祖父である学園長から、彼女を表彰して欲しい。」と、彼女は学園長に頼んだのだ。
報道部にとって、これは部の宣伝のチャンスだった。
この前入ったばかりの新人が、一人の生徒を救った・・・これは報道部の印象良くする絶好の機会である。

ところでこの記事には、被害者と加害者の個人名が入っていない。
これはマホスポにとっては珍しいことである(普通はこのような記事に個人名を入れるべきではないだろうが・・・)。
いつもだったら、生徒のことなど考えることも無く、「1-A早乙女ハルナが柿崎美砂からいじめを受け重症」などと書くはずである。
これは朝倉からの希望であり、被害者と加害者のためを考えて名前を伏せた、ということであると、記事に書いてあった。
生徒の個人名が書かれていないため、この記事の「某生徒」の名前を知っているのは、そのほとんどが1-Aメンバーであった。
さらに、パパラッチ朝倉は名前を公表しないことを自ら宣言し、噂拡大人のハルナはその被害者である。
「某生徒」の名前が多くの人に知れ渡ることが無いことは、もはや明らかであった。

ちなみに今回の事件での活躍で、朝倉の学園内での株はかなりあがっていた。
朝倉の顔を覚えた生徒が多いのはもちろん、「朝倉和美」の名前を覚える人も少なくなかった。
マホスポには珍しく、個人名を出さなったことが、朝倉の評価をよりいっそう上げたのかもしれない。



場面が変わり、ここは学園都市内のとある病院である。
彼女は、今回もあの時と同じ、骨折と打撲で入院していた。
何も考えたくなかった彼女は、一日中無表情で外の景色を見ていた。
耳をすますと、外からは子供や女子高生と思われる人の笑い声が聞こえてくる。
・・・虚しい。
なぜ今回も助かってしまったのか・・・なぜ死んではいけないのか・・・。
なぜ神様は、私をここまで生かそうとするのか・・・。


とそこに、来客の知らせがあった。気が進まなかったが、仕方なく会う事にした。

そこに現れたのは、いいんちょであった。
ハルナ「いいんちょ?何しに来たの?」
いいんちょ「ハルナさん・・・申し訳ございません。」
そういうと、いいんちょは深く頭を下げた。
ハルナ「は?え?・・・いいんちょ、なんか私にしたっけ?」
するといいんちょは、暗い表情で答えた。
いいんちょ「・・・今回、ハルナさんがこんな目にあってしまったのは、私の責任です。
      私が委員長としてしっかりしていれば、もっと早く気付けたはずです・・・。」



ハルナは驚いた。別に今回のことは、いいんちょは何も関係がないではないか。
なのになぜ謝るのか・・・なぜそこまで気遣ってくれるのか・・・ハルナにはわからなかった。
いいんちょ「・・・ハルナさんには、謝っても謝りきれません。」
ハルナ「・・・いや・・・そんな、いいんだよ。いいんちょ。」
いいんちょ「これは、私からのせめてものお詫びの印です。受け取ってください。」
そういって取り出したのは、特注品のハルナの胸像だった。
ハルナ「(うわーいらねー・・・)あ・・・あんがとね。いいんちょ。」
いいんちょ「それでは、失礼します・・・。」
そういって、いいんちょは部屋を出ようとした。
ハルナ「あ!待っていいんちょ!」
いいんちょ「? なんですか?」
ハルナはいいんちょを呼び止めた・・・どうしても、聞きたいことがあったのだ。
ハルナ「・・・あのさ・・・なんで、いいんちょは私の事を、そんなに気遣ってくれるの?」
すると彼女は、当たり前のようにこう答えた。
いいんちょ「なぜって・・・クラスの仲間を心配するのは、クラス委員長として、当然じゃありませんか。」

ハルナは、何も言うことが出来なかった。



しばらくして、また誰かが来たようである。やはり面倒だったが、今回も会う事にした。
そしてやって来た人物は・・・

円「・・・やぁ。」
ハルナ「!!!」

ハルナは警戒した。何のために円が来たのか?こんなところで、私に何かする気なのだろうか・・・?
だがよく見ると、円の表情は、どこか暗かった。そして、予想外のことを言い出した。

円「・・・ごめんなさい!」
ハルナ「・・・え?」
円「美砂があんたにやったこと・・・全部聞いたの・・・ホントにごめんなさい!」
ハルナは焦った。円の口からこんな言葉が飛び出すだなんて・・・。
それになぜ、美砂がやったことを円が謝るのか、ハルナにはわからなかった。
そして今にも泣きそうな声で、ハルナに話した。



円「・・・私・・・こんなことになるなんて思わなかったの。最初は・・・ただあんたをちょっといじめてやりたいと思って始めたことなの。
  隠した靴をあんたのカバンに入れたのも、あんたのカバンや財布にゴミやガムを捨てたのも私達よ・・・。
  私はずっと、あんたにそれくらいのことをやってやろうって思ったんだ・・・。
  でも美砂のやつ、どんどんエスカレートしていって・・・途中で怖くなってきた・・・。今すぐにでも止めさせたかった・・・。
  せめてあんたにやることを、少しでも抑えさせようと思って、美砂に言ったんだけど・・・全然ダメだった・・・。
  それに、美砂は全然反省してるようなふいんきじゃ無かった・・・。きっとこれからもっと酷くなっていくんだろうと思った。
  それで、今度は先生に言おうとしたの・・・でも言えなかった・・・私がチクったことが美砂にばれたら、もう友達でいられなくなるかもしれないと思ったの。
  それがどうしても嫌だった・・・。だから、あんたが美砂に殴られてるのを、ただ黙って見てるだけしか出来なかった・・・。
  でもやっぱり言うべきだった・・・。そしたら、あんたがこんな目にあうことなんて無かったんだ・・・。」
円は延々と謝り続けた。

円は青少年によくある「悪いことをやってみたい」という衝動により、美砂と一緒に、万引きをしたり、タバコを吸ってみたりとしていた。
だがさすがに、美砂がハルナにやって来た、行き過ぎた暴力、窃盗、性的虐待などには、彼女の良心が我慢できなかったのだ。
それに、円が美砂とやんちゃした理由は、「私がやるのを拒んだら、美砂と友達でいられなくなるかもしれない」という方が強かった。
実際円は、美砂と一緒にやってきた行為に抵抗を感じたことがある。だがそれとは関係なく、彼女は美砂と友達でいたかったのだ。

円「美砂の処分は、まだ決まってないの。どんなのに決まったって、私は美砂に反省して欲しい・・・。
  ・・・今回のこと、許してくれとは言わないわ・・・。でも、私が反省してることだけは、あんたに伝えたかったの。それじゃ。」
ハルナは彼女を攻めようとは思わなかった。他人に言うことが出来ない気持ちは、ハルナ自身が、とてもよくわっていたからだ。
だがハルナは、どうしても彼女に聞きたいことがあった。
ハルナ「・・・待って、円。」
円「え?」
ハルナ「・・・なんで、あんたが美砂のことを謝るの?あんたは何もしてないじゃない?」
円「・・・だって、私の仲間がやったことだもん。止められなかった私にも責任があるわ・・・。」
ハルナ「・・・そう・・・。あ、あともう一つ、言いたいことがあるの。」
円「何?」
ハルナ「・・・「ふいんき」じゃなくて、「ふんいき」だよ。」
円「え!?」

円は顔を赤くした。病室には二人の笑い声が広がった。

円が帰った後、今度はのどかとゆえがやって来た。
彼女達は、すぐにでもパルの見舞いに行きたかったのだが、生憎今日は、この前同様2人とも図書館島の当番だったのだ。
ハルナ「あ、来たんだ~。」
彼女は先程とかわって、今度は来客を歓迎した。だが、肝心の来客の方は、やや暗い顔をしていた。
のどか「ハルナ・・・なんで言ってくれなかったの・・・。」
ゆえ「そうです・・・ハルナ。」
ハルナ「・・・ゴメン。なんか、あんたたちに私のことで、迷惑かけたくなかったからさ・・・。
    私がやられてることを知ったら、あんたたちも辛いと思って・・・。
    あんたたちは今回のことに関係ないのに、そんな思いをさせたくなかったんだ・・・。」
ゆえ「何言ってるですか!」
ハルナ「え?」
それは、ゆえが初めて出した怒鳴り声だった。
ゆえ「関係ないですって!?私達は友達でしょう!?それくらい、一緒になって考えてあげるです!」
ハルナ「・・・そうじゃないよ。友達だからこそ、あんたたちを悩ませたくなかったんだよ。
    私のことで、関係ないあんたたちに嫌な思いをさせたくなかったんだ。」
のどか「ハルナ!」
ここで、のどかが話しの間に入った。



のどか「・・・ハルナは、楽しいことがあったら、私達に話してくれるよね。ゆえだってそうだし・・・私もそうしてるつもりだよ。
    それは自分の気持ちを、みんなで共有したいからだと思うの。楽しいことは、みんなで楽しみたいって・・・。
    ・・・だから、辛い気持ちや、嫌な気持ちも、みんなで共有するべきだと思う。
    一人で悩まないで・・・悲しいことも、みんなで悲しもうよ。・・・それが・・・仲間なんだと思う。」
ゆえ「そう・・・私達は、仲間ですよ。」
ハルナ「・・・のどか・・・。・・・ゴメン。みんな・・・。」
彼女は涙した。「仲間」・・・その言葉が、これほど大きく感じた日は無かった。

彼女がいじめについて他人に言えない理由は、おそらく他にもあるのだろう。
だがしかし、再び今回のようなことがあったとしても、彼女はのどかやゆえに、勇気を出して言うことが出来るかもしれない。
それができる可能性が、わずかにできただけでも、それは彼女にとって大きな進歩であろう。

のどか「・・・それでね、ハルナ。はいこれ。」
のどかは数枚の紙を渡した。
それは、図書館探検部についてのプリントと、・・・メガネのチラシだった。
ゆえ「メガネが壊れてしまったと聞いて、ハルナがいつも行ってるメガネ屋のチラシを持ってきたです。」
ハルナ「あ、そうなんだ・・・。ふ~ん、今度はこの楕円形のやつにしてみっかな~。」
のどか「うん。それならハルナにも似合うと思うよ。」
彼女達の話し声は、とても楽しそうだった。

ハルナが心に受けた傷は、おそらく一生消えないだろう・・・。だが彼女は、あまり心配していなかった。
この傷を癒してくれる、仲間に出会うことが出来たのだから・・・。

ここで彼女は気が付いた。
なぜ、神は私を死なせなかったのか。
きっとそれは彼女に、「仲間」とは何かを教えたかったからかもしれない・・・。


――――物語は、ハルナのハッピーエンドに終わった・・・だが・・・     まだちょっとつづくよ

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