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それから

エヴァのログハウス前での決着から、半月ほど……。
3-Aの面々は、傷つきながらも日常を取り戻していた。
朝のHRを控えた教室は、活気あるざわめきに満ちる。

出席番号01番、相坂さよ。
彼女は相変わらず、姿を見せない。和美にも見えない。
けれど、その想いはそこに『居る』。語ることもできなくなったが、依然としてそこに『居る』。
何十年かかるか分からないが、『開かずの間』ならぬ『座らずの席』は、この先も空席であり続ける。

出席番号02番、明石裕奈。
事件の開始と同時にリストカットに走るようになった彼女だが……最近は、その悪癖は収まりつつある。
以前ほどには底抜けな笑いではないけれど、笑みも戻ってきた。
手首の傷を幅広のリストバンドで隠し、彼女は元気よく教室を駆け回る。

出席番号03番、朝倉和美。
最後の戦いで、両手の指を一度は全て切り落とされてしまっていたが……
使われたワイヤーの鋭さ、切断面の滑らかさが、かえって幸いした。
10本全てではなかったが、右の親指と人差し指、左の中指薬指は、手術と治癒魔法により繋がって。
まだ不自由な手で、しかし器用に取材や記事の作成をこなしている。
ちなみに……この一連の事件については、彼女は結局、記事にしなかった。沈黙を守った。

出席番号04番、綾瀬夕映。
茶々丸のビームに両目を焼かれ、一時は失明も危惧された彼女。
しかし魔法的治療を受けた結果、大幅に視力は下がったものの、なんとかギリギリ視力は保たれて。
牛乳瓶の底よりなお厚い眼鏡をかけ、顔を本に近づけてようやく読めるレベルであったが。
彼女は今日も、本を読み耽る。


出席番号05番、和泉亜子。
全身に醜い傷痕をつけられ、包帯で身体をグルグル巻きにし、感情を無くしたかのような様子だった彼女。
しかし少しずつではあるが、ようやく彼女は現実を受け入れ始めたようで。
相変わらず手足は包帯に覆われていたが、傷の残る顔を晒し、たまにではあるが微笑むようになった。
以前よりは無口ではあったが、人の輪に加わるようになっていた。
あるいはそれは、彼女1人の力でなく、優しく彼女を受け入れたクラスのみんなのお陰かもしれない。

出席番号06番、大河内アキラ。
深刻な水恐怖症に陥った彼女。あのストリーキング事件の後、彼女は結局、水泳部を辞めた。
今でも大浴場は使えず、もっぱらシャワーで汗を流すだけの生活。
そんな彼女だが、今は美空に誘われ陸上部に活動の場を移し、寡黙に走りこんでいる。
元々身体能力は高く、また長身ゆえに足も長く。
慣れるまで時間はかかるかもしれないが、新たなる舞台でも彼女は立派な成績を出すことだろう。

出席番号07番、柿崎美砂。
チアリーダー3人組の壮絶なケンカの際、切られた髪に合わせて短めに髪を切り揃えた彼女。
結局彼女はチアリーディングを辞め、コーラス部の活動一本に絞った。
円や桜子との関係は、なんというか、お互い意地を張るのに疲れた感じで。
先日、互いに謝りあった。嫌々謝罪の言葉を口にしただけ、という態度ではあったが、謝りあった。
多少ギクシャクした雰囲気は残っていたが、互いに笑顔で挨拶くらいは交わせるようなっている。

出席番号08番、神楽坂明日菜。
彼女は、最後の戦いでも怪我らしい怪我を負っていない。
ただ、頭の両側に結んでいた髪飾りの鈴が、減っていた。左右それぞれ2つあったものが、左右1つずつに。
片方の髪留めが茶々丸のビームで破壊されたために、残った片方を2つに分けたのだ。
思い出の品を傷つけられ、しかし彼女の態度は表面上全く変わらない。
いつも通りの元気な明るさで、傷ついたクラスのみんなを支えている。


出席番号09番、春日美空。
両足を切断され、一時はかなり落ち込んでいた彼女。
しかし今はその足の断端に義足をつけ、明るく元気に走り回っている。
ハカセ製作による機械式の義足でなく、バネだけで動く器械式の義足。
僅かなリハビリ期間で使いこなせるようになったのは、やはり天性の運動センスの賜物か。
陸上部の活動でも、靴べらのような形をした陸上競技専用の義足につけかえ、走り続けている。
夢は大きく、パラリンピック。いや、やっぱりそれも、魔法使いの定めで出場は絶望的なのだけれど。
シスターとしての課外活動も、以前よりは真面目に行うようになっていた。
どうやら、守りきれなかった相棒ココネの分も頑張ろうとしているようだった。

出席番号10番、絡繰茶々丸。
最後の戦いで、その動力源を破壊された彼女は……しかし、再びクラスに復帰していた。
ただし、背中から太く長い動力コードを伸ばした姿で。
膨大なエネルギーを供給してくれる魔法のゼンマイなき今、彼女を動かすにはこの有線方式しかない。
行動範囲も運動性も大きく制限された茶々丸、しかし彼女に不満はない。
今まで以上に誠実に、今まで以上に他人に優しく。彼女は学校に通い続ける。

出席番号11番、釘宮円。
あの3人の中で、最後までチアリーダーに残っていたのは、意外かもしれないが彼女だけだった。
もとよりそれぞれに交友範囲の広い3人である。3人の仲が多少気まずくなっても、生活は変わらない。
顔を走る傷痕を少し伸ばした前髪で隠し、彼女は僅かに憂いを得た表情で微笑む。

出席番号12番、古菲。
深い凍傷を負った彼女は、結局、足の指を左右3本ずつ切断せねばならぬ羽目に陥った。
そして武道において、足の指というのは踏ん張りを利かせるのに非常に重要なパーツ。
格闘チャンピオンはその能力を多いに損ね、深刻なハンデを背負わされた……のだが。
古菲には、さほどの悲壮感は無かった。むしろ目の前に出現した新たな課題に、生き生きと取り組んで。
人生これ修行の連続。進む道が容易でなければ、それだけやりがいがあるというものだ。


出席番号13番、近衛木乃香。
最近、彼女の認識障害も、少しずつ直る気配が見えつつある。
少なくとも、本人に自分の障害に対する理解が芽生え、直りたいという意欲が生まれ。
今でも時折、親しい人の顔を見分け損ねたりするが、少しずつ良くなりつつある。
また、それら高次脳機能の回復につれて、一旦は損なわれた膨大な魔力も、回復してきている。
夕映や楓など、最後の戦いで傷ついた皆を部分的にではあれ治したのは、実は木乃香の魔法である。
どちらも完全に元に戻ることはあるまいが、それでも、希望は捨てていない。

出席番号14番、早乙女ハルナ。
和美と異なり、切断されただけでなく細かく切り刻まれたハルナの右手の指は、繋がらなかった。
一時は相当暗くなっていたハルナだったが、しかしいつまでも凹んでいるパル様ではない。
早速、左手で絵を描く練習を始めている。
まだまだ子供の落書きレベルではあるが、練習を重ねるごとに手ごたえは確実にあって。
しばらくすれば、絵のタッチをガラリと変えた漫画家パルの復活が見られることだろう。

出席番号15番、桜咲刹那。
彼女は……人間に、なった。翼をもがれ力を奪われ、能力的には「タダの人間」に堕ちた。
神鳴流剣士としても『気』の力が大きく衰え、戦闘力はガタ落ちになったが……
しかし、彼女は全てを受け入れ、改めて修行を始めた。
今の彼女の生き甲斐は、顔の見分けがつかず困惑する木乃香を支えていくこと。
背中の翼の跡は今も時折痛むが、それは彼女がまだ生きている証でもある。

出席番号16番、佐々木まき絵。
リボン持つ手を茶々丸のビームに貫かれた彼女は、その後、ボールなどをよく取り落とすようになった。
手の平に大穴を開けられた右手が、穴が塞がった後も上手く動かないのである。
それでも、彼女は練習を始めた。動かないなりに上手く使いこなす練習を始めた。
元々熱心な彼女のことだ、そう遠くないうちになんとかしてしまうだろう。
記憶のフラッシュバックも、事件が終わってからは、起きなくなった。
まき絵は事件の全貌を把握できないままに、それでいいのだと納得する。


出席番号17番、椎名桜子。
クッキとビッケを失った彼女は、どこからか新たに2匹の子猫を貰いうけ、飼い始めた。
すばしっこくも可愛らしい2匹は、早くも女子寮の人気者である。
ラクロス部の部活も熱心にやっているようだし、彼女の笑顔はすっかり元に戻った感がある。
……後頭部に隠された、頭皮ごと剥がされた10円ハゲのために、あの髪形だけは戻らないだろうが。

出席番号18番、龍宮真名。
完全失明した彼女は、しかし漆黒のサングラスをかけているだけで、今までとまるで変わらない。
周囲の気配を頼りにごく自然に日常生活を行い、何の不都合もなく。
悩みのタネといったら、授業の黒板が見えないことくらい。
ただ、仕事人としての真名はもう引退している。彼女は時折、ペンダントを握り締め、小さく溜息をつく。
波乱万丈の人生を歩んできた彼女は、また新しい生き方を探さねばならないらしい。

出席番号19番、超鈴音。
最後の戦いに影から手助けをした彼女。身体的には何のダメージも受けていない。
けれど、彼女の人生を賭けて用意してきた『大作戦』は、この一連の事件のせいで台無しになってしまった。
もう実行不可能な、当初の作戦。彼女は世界樹を眺めながら、深く思案する。
「どうするかネ……。このままこの時代に根を下ろすのも、悪くないかもしれないカ……」

出席番号20番、長瀬楓。
ナイフで背を刺され脊髄を損傷し、一生下半身不随か、と思われた彼女だったが。
魔法使いたちの治癒魔法と、彼女自身の忍びの秘術により、僅かに回復の可能性が見えてきていた。
全く動かない・感じられない、と思われた彼女の両足、その指先が僅かに動き、僅かに痺れを感じる。
今は車椅子だ。車椅子で生活しながら、しかし楓は厳しいリハビリを始めていた。
以前のように駆けたり走ったり、人間離れした大ジャンプをしたり、といったことは無理かもしれないが……
この調子で治っていけば、さんぽ部の双子と一緒に、自分の足で歩き回るくらいは出来るようになるだろう。
楓自身は相変わらず飄々とした笑顔で、リハビリの苦しさも口に出さない。
むしろ、同じくリハビリ室の常連であるあやかを励まし、助け合う余裕すらある。