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「御主人モ、コンナ気分ダッタノカ……?
 アノガキドモト一緒ニ居テ、『サウザンドマスター』ト一緒ニ居テ、コンナ気分ヲ味ワッテイタノカ……?
 ……ナア、ドウ思ウ、アルベール?」
「…………」

夜空を覆う雲が、風に流される。
月明かりが森の中に差し込み、密集する木々の中にぽっかり開いたクレーターを淡く照らす。
ゼロの問いかけに……しかし、答える者はいない。
オコジョ妖精アルベール・カモミールは……自らの流した血の池の中で、絶命していた。
失血死だった。
そして――彼の死を確認したゼロは。

「…………。……クククッ。ケケケッ。キャハハハハハハハハッ!」

しばしの沈黙の後、唐突に、笑い出した。
狂ったように笑い出した。誰も居ない森の中、カモの屍の前で顔を上げ、天を見上げて笑い出した。
常に見開かれたままの目。大きく開けられた口。身体をカタカタ鳴らしながら、哄笑を上げる。

「ケケケッ。仕方ネェ! コウナッチマッタ以上、仕方ネェナ畜生ッ!!
 皆殺シダ。エヴァノ奴ニ任セタリシネェ、全部俺ノ手デ殺ス!
 全部殺シテ、アルベールノ待ツ『あの世』ニ送ッテヤルヨ! ケケケケッ!」

それは――絶望の叫びだった。ヤケクソ以外の何物でもなかった。
自らの恋心を初めて知ったゼロ、しかしその想い人は既に自分の手で殺してしまった後で。
殺すことしか知らぬ殺人人形は、その胸に荒れ狂う矛盾した感情の嵐を、全て純粋な殺意に変換していた。
ゼロはそしてヨロヨロと立ち上がると、身長ほどもある巨大なナイフを肩に担ぎ。
カモの屍に背を向けると、死闘を続けているはずの、エヴァたちの所へ……
「!?」



エヴァたちの所に戻ろうとして、不意にゼロは歩みを止める。
森の中、これから向かわんとしている方向に、立ち塞がる影が2つ。
仮面のような白い顔から、鬼のように突き出した2本の角。その巨躯を包むは、ローブのような黒い服。
そんな異様な格好のモノが、並んで2体。醸し出す雰囲気から見ても、明らかにヒトではあるまい。

「……ナンダヨ、オ前ラ?」
「……ナカマ」
思わず呟いたゼロに答えたのは、しかしその『鬼』たちではなかった。
ゼロの背後。ゼロですら気配さえ感じられなかった相手。
ハッとして振り返れば――そこに、幻のように1人の少女が立っていた。
カモの亡骸を愛しそうに抱いた、その制服姿の少女は。
浅黒い肌。ゼロとは違う意味で表情のない顔。その顔を彩る、道化師のような奇怪なメイク。
出席番号31番、ザジ・レイニーデイ。

彼女がいかにしてこの戦いを知り、いかにして仲間を引き連れこの場に現れたのかは、分からない。
語るべきことでもないだろう。ザジ本人とその仲間だけが知っていればいいことだ。
ただ、彼女がこうして、自分や仲間の命さえ危険に晒し、ゼロの前に立った動機は……。

「……頑張ったね、オコジョ君。あとは……任せて」

小動物好きを自認するザジ。カモとは一言も言葉を交わしたことはなく、触れたことすら無かったが……
しかしカモの存在それ自体が、ザジが命を張る理由としては十分過ぎるものだった。
ザジが片手を上げるのに応え、『鬼』たちが一歩前に進み出る。
どこに潜んでいたのか、より小柄な、無機質な顔をした魔物たちも6体ほど、姿を現す。
ザジとその仲間たちはゼロを完全に包囲して……

森の中、カモの代理として。ネギの所から引き離しておきたい、というカモの想いを受け継いで。
人外の群れを引き連れたザジの死闘が、始まった。



森の中を流れる川に沿って、激しく戦いながら2人は駆ける。
どんどんエヴァのログハウスから離れてしまうことが明日菜には気になるが、しかしどうしようもない。
茶々丸の攻撃は激しく、その攻撃を捌き回避する中で、自然と相手の思惑通りに動かされてしまう。

「ちょッ、待ってッ、あッ!!」
「……申し訳ありません、明日菜さん」

人間の反射を超えた速度で繰り出される茶々丸の拳と蹴り。合間合間に混ぜられるビーム。
そのビームが、紙一重でかわした、と思った明日菜の髪留めの片方貫き、破壊する。
タカミチとの思い出の品を壊されて、明日菜は動揺。右側だけハラリと広がる長い髪。
その隙を逃さず、謝りながら放たれた茶々丸のロケットパンチが、明日菜の身体を捉える……
いや、ギリギリで、完全版ハマノツルギの腹を、板のように盾のようにかざし、受け止めてはいたが。
パンチの勢いは止まらず、大剣もろとも明日菜の身体を吹き飛ばす。さらにログハウスから遠ざかる。
吸血鬼騒動の時の戦いでは、直撃を受けても少し痛いだけで済むロケットデコピンしか放たなかったが。
今回は、そんな手加減は一切ない。完全にパワー全開、スピード全開だ。

一方で、先ほど古菲と戦った時よりも、その動きはスムーズだ。
これは今回、「明日菜を倒すこと」より「明日菜を足止めしておくこと」の優先順位が高いからだ。
古菲と戦った際は、古菲を潰すことを重視し過ぎ、洗練されていない攻撃プログラムを使っていたが。
足止めがメインであるなら、ここまで積み上げてきた技術がそのまま使える。
刹那との剣術修行を始めたとはいえ、素人に毛の生えた程度の明日菜には、到底対抗できない。
茶々丸の思惑通りに誘導されているのを自覚しつつ、打つ手がない。
ロケットパンチで吹き飛ばされた明日菜は、後方回転受身の要領で衝撃を殺し、即座に立ち上がる。
立ったはいいが、しかしどう攻めるのか。剣を構えたまま、額に汗が滲む。

と――突然。
2人の戦いに割って入るように、何かヘビのようなモノが宙を舞って出現する。
丁度、ロケットパンチを引き戻す所だった茶々丸は、回避しきれない。
飛来したリボンは両腕を封じるような格好で、肩より少し下の所で胴体をグルグル巻きにして……。



見ればそれは、リボン。そう、鞭のように振るわれたのは、新体操のリボン。
茶々丸と明日菜の視線が、揃ってその先を追う。武器?を握る者の姿を捉える。
「まき絵さん!?」
「ば……バカピンク!?」
「はぁッ、はぁッ……!」
女子寮から駆け続け、制服姿で荒い息をついていたのは。
出席番号16番、佐々木まき絵。
片手で自分の頭を押さえながら、片手で放ったリボンで茶々丸の動きを封じている。
「ま、まきちゃん、なんでココに来てんの!?」
「わ、分かんない……分かんないんだけどッ! 何か、来なくちゃって思ってッ!」
明日菜の問いに、まき絵は泣きそうな表情で叫ぶ。彼女自身、訳が分からない。
訳が分からないながらも、何かに突き動かされるようにしてこの場に来て……
こうして咄嗟に、明日菜を助けてしまっていた。

4月の吸血鬼騒動の際――。
まき絵はエヴァンジェリンに血を吸われ、一時的にではあるが、半吸血鬼化して彼女の下僕となった。
その後、魔法的な治療を受け、元の身体に戻り、事件に関する記憶も全て消えうせた、はずだったが……。
まき絵自身も気付かぬレベルで、その時の記憶は、彼女の奥底に眠っていたのだった。
あまり物事を深く考えない彼女の性格もあって、本人は違和感さえ感じていなかったが……。

そんな彼女が動き出したのは、あの停電と、復活したエヴァの魔力がきっかけだった。
以前の事件の時と同様の、大停電。僅かに感じられる、エヴァの魔力の気配。
それがまき絵の記憶を呼び覚まし、フラッシュバックを起こしていた。
混沌と湧き上がる記憶の断片。
激しい混乱と頭痛の中、それでもまき絵は直感する。
今、何か大変なことが起きているのだ、と。エヴァンジェリンに関する何らかの事件が起きているのだ、と。
そして自分が何をしたいのかも分からぬまま、まき絵はエヴァの家目指して走ってきて……
ここで、明日菜と茶々丸の戦いに遭遇したのだった。



まき絵のリボンに拘束された茶々丸。
その茶々丸が、首から上だけを回してまき絵の方を見る。光る両目。チャージされるビーム。

「そ、それよりアスナッ! 茶々丸さんの、頭のうしろッ!」
「!! わ、分かった!」

ビームが放たれる。まき絵の掌が貫かれ、リボンが手から離れる。
大穴を開けられた右手を押さえ、うずくまるまき絵。解放される茶々丸。
しかし――その僅かな時間で、十分だった。まき絵の一言で、十分だった。
「やぁぁあッ!」
茶々丸が振り返るより速く、飛び出した明日菜の剣が茶々丸の後頭部を捕らえる。
斬撃ではない。巨大な片刃の剣、その刃のない方による打撃。いわゆる峰打ち。
峰打ちとはいえ、ハマノツルギは硬く、巨大だ。金属バットでブン殴られたようなものだ。
茶々丸の身体が、大きく吹き飛ぶ。地面を転がる。
「ガガッ……! ダメージ軽微……!? いえ、動力系に異常?!」
頑丈な身体を持つ茶々丸はすぐさま立ち上がろうとしたが、その動作の途中で崩れ落ちる。
ガクガクと震える身体。殴られたダメージは大したことないのに、身体に力が入らない。
エネルギー供給が、滞る。

茶々丸の後頭部に仕込まれた秘密の動力源、魔法のゼンマイ――
魔を払い魔法を切り裂くハマノツルギの攻撃を受けたことで、今、その機能が失われようとしていた。
まき絵も明日菜も、この攻撃の有効性をはっきり理解していたわけではない。
ただ、僅かに残った記憶が、あるいは直感が、囁いていた。理屈なんて、いらなかった。

そして、髪を片方だけ乱した明日菜と、片手を押さえて座り込んだまき絵の前で。
茶々丸は最期に一言だけ言い残し、活動を停止した。
どこか、安らかな微笑を浮かべたまま、がっくりと崩れ落ちた。

「ありがとう、ございます……姉さんを、止めてあげて、下さ……!」