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生きたい木乃香

至近距離からの発砲で刹那の頭は形容なしにはじけ飛んで、下顎だけが首と皮一枚で繋がっていた
「いやぁぁ――――ッ!!」
刹那を抱きかかえていた木乃香はその大量の返り血と飛散する脳髄を全身に浴びることとなった
刹那の死体を床に叩きつけるように捨て、木乃香は絶叫しながら、体にへばり付く血まみれの肉片を必死に払い落とした
「ハハハ!刹那はお前を守ってくれたんだろう?そんなぞんざいに扱っていいのか?」
木乃香が刹那の死体を放り出したのが、龍宮にはなぜか愉快で仕方なかった
血を拭き取ろうと夢中になっている木乃香を、龍宮は嘲るような微笑を浮かべながらひとしきり眺めていたが、
ふと我に返ったように木乃香から視線をそらすと、呟くようにこう言った
「さてと…次は誰にするかな」
この言葉に一同は体を震わせた
龍宮は残った7人の顔を一人ひとり突き刺すような冷たい視線をもって見回した
しばし重たい沈黙が続く
「いやや!いやや!ウチはいややでッ!死にたくない!死にたくないッ!ウチは…ウチだけは撃たないでっ!撃たないでえッ!」
沈黙を破ったのは木乃香だった。突然もの凄い剣幕で捲くし立てるように叫び出した
「決まりだな…」
龍宮は再び嘲るような微笑を浮かべて、銃口を木乃香へ向けた
「ひいっ!なんで!なんでや!!ウチ死にたくない!死にたくないっ!あああっ!死にたくないッ!誰かっ!誰か助けてぇ!!」
普段の彼女の口調とは似ても似つかない金切り声をあげながら、木乃香は誰かクラスメートの視線を必死に捕らえようした
しかし、みな俯いたままで誰も木乃香のほうを見ようとはしない
友人のために死ぬほどの覚悟をクラス内の友情に期待できるわけもないが、
四六時中刹那に守られて生きてきた木乃香にはそれがわからなかった
自分は守られるべき存在で、他の人は自分を守る義務がある。漠然とだが木乃香はそんなふうに考えていた
そのため木乃香は俯いたまま動かず、自分を助けようとしないクラスメートたちを見て愕然とした
「なんでっ!なんでええっ!助けてぇえ!!誰か助けてえ!!死にたくないよお!!死ぬのはいややぁあ!!!」
龍宮は醜くも必死に生にしがみつこうとする木乃香を心底愉快そうに眺めていた



明日菜は目を堅く閉じ、震えながら親友の悲痛な叫びを聞いていたが不意に木乃香の叫びが止んだ
殺されたのか…?しかし銃声はなかった…
不審に思い明日菜は恐る恐る目を開けて、木乃香のほうを見た
その瞬間、明日菜はあっと声を出して叫びそうになった
木乃香は生きていた。
それどころか両の目をこれでもかと見開いて、期待と憤怒と絶望が混ざり合った焼けつくような視線を明日菜に向けていたのだ
「アスナ…アスナはウチのこと助けてくれるよね……」
今までの狂ったような絶叫とは違い、その声は穏やかだったが、圧しつけられるような重い響きがあった
『やられた!』
明日菜は罠にはめられたように感じ、心の中で呟いた
「どうした神楽坂?何を黙っているんだ?親友が助けを求めているぞ?ククク…」
龍宮の言葉と木乃香の視線に耐え切れず、明日菜はぶるぶると震えながらゆっくりと口を開いた
「…ご…ごめん木乃香…私も…死にたくないの……」
明日菜はまだ何かしゃべろうとしていたが、木乃香の怒声がそれを阻んだ
「この役立たずッ!恩知らず!あああっ…学費払ってやっとるのに!!なんでぇ!なんで助けてくれへんの!
 恩知らず!恩知らず!!恩知らずっ!!ああっあぁー!いやや死にたくない!死にたくないッ!ハァッ!ハァッ!ハァッ!」
明日菜は再び目を閉じて顔を背けてしまった。堅く閉じた目からぽたぽたと床へ涙が落ちた
木乃香は血で全身を紅に染め、目を血走らせて明日菜の背中へ狂ったように叫び続けた
さすがの龍宮もその姿にはぞっとするものを感じた
「これはひどいな…」
そう言った龍宮の顔からすでに微笑は消え去っていた
「あすなぁ――っ!!あすなぁ!ああっ!ああぁっああー!!助けてぇえ!助けてぇええ!!あすなぁぁ―――――ッ!!」
ドンッ!!
叫び声を引き裂くように一発の銃声が鋭く響き渡たり、木乃香は死んだ
あんなに生きたがっていたのに、あんなに死にたくないと言っていたのに死んだ
龍宮は人を撃つことにトリガーの重さ以外なんの抵抗も感じない
「あと6人…」
龍宮は苛立たしげに木乃香の死体を睨みながら呟いた