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「あぅ~部活行きたくないよ~」
つい声が出てしまった。いつもは楽しい部活なのに、私、明石裕奈は今日憂鬱で仕方ない。
でも休むわけにはいかない。・・・・今日はバスケ部のOBが来るからだ。
私はのろのろと練習着に着替えると、重い足取りで体育館に向かう。

(げ!!・・・・ゴ・・・赤城先輩・・・もう来てる)
遠くからでも一目でわかる風貌。間違いなく赤城先輩だ。
先輩はとてもデカくてゴツイ。彼女に比べれば龍宮さんですら、か弱い乙女に見える。
彼女はどう見ても女子高生には見えない。というか女に見えない。さらに言えば人間かどうかも微妙だ。
むしろゴリラに近い。当然みんな影で『ゴリ』と呼んでいた。
その先輩が獲物を見つけた獣(本当のゴリラは草食のはおとなしい動物だけど)のような目で私を見る。
慌てて挨拶をしようとした私だけど、その前に先輩が吠える。
「オラぁー!おせぇぞ、さっさとこっち並べ!」
ゴリ先輩が和田アキ子よりデカくて低い声で怒鳴ったので私は慌てて現役部員の列に加わった。

「お前ら!この前の地区大会も一回戦負け!それもダブルスコアだったみたいだな!なめとんのか!」
全国制覇だ!が口癖だった赤城先輩の怒りはもっともだ。しかし、うちは弱小なんだからそれは無謀すぎる目標である。
強要するなよ、全国制覇なんて。
「そんなんだからバスケ部は麻帆良のお荷物とか言われるんだ、悔しくないの?」
馬鹿でかい赤城先輩の影に隠れて見えなかったもう一人の光井先輩が嫌味を言った。
この光井先輩は容姿も実力もまぁまぁだが人間的に問題がある。
一年の時勝手に部活を辞めておいて三年になっていきなり体育館に乗り込み暴れまわった挙句
「バスケがしたいです・・・・」とか言い出したキチガイだ。
みんな内心「どの面下げて・・・」と思っていたが、可哀想な人に思い、寛大に受け入れたのだが、
その後は引退した現在に至るまで当たり前のように先輩風を吹かせまくり、ウザイ事この上ない。
「今日は私たちがとことんしごいてやる!覚悟しろ!!」

      • 地獄のような午後が始まった・・・



「オラぁー!後50回!!」
「ほらほら、声出てないよ~」
先輩達の怒声の中、私たち現役部員は腕立て伏せをさせられていた。
下級生や控え組は途中で許されたけれど、私たちレギュラーはまだ許されない。
「ごじゅ・・・に・・・・」
もう二の腕が痛くて限界だ。あと40回以上なんて絶対無理。
しかも、最悪な事に、私の前に光井先輩が来た。
「ゆ~な~。久しぶりだね」
頼む。光井サン、帰ってくれ。
「おら、ちゃんとアゴつけろよ!」
先輩が突然、靴をはいたまま、私の頭を踏みつけた。
もう腕に力が入らなくなりかけていた私は、無様に顔を体育館の床に打ち付ける。
「・・・あぐっ・・・!」
痛みと屈辱で一瞬頭が真っ白になった。
「ひっ・・・ゆーな先輩・・・・!」
一年生の怖れと同情の混ざった悲鳴が聞こえた。後輩にこんな姿を見られるのはたまらなく辛い。
でも、痛みに耐え切れず両手で踏まれた後頭部と打ち付けた顔面をそれぞれ押さえうずくまる私。
「何勝手に休んでんだよ」
さらに先輩の蹴りがわき腹に入る。
「う・・・うぐぅ・・・!」
      • 後で知った事だけど、光井先輩は私のお父さんが単位をくれなかった事を恨んでいるらしい。
しかし、先輩は全体の8割の単位を落としているらしいので逆恨みもいいところだ。
「オラぁー!腕立てが終わったら腹筋300回だ!覚悟しとけよー!」
      • ちなみにあのゴリラはあれで、凄く成績が良いらしい。



「オラぁー!声だせー!さっきからあたしの声しか聞こえねーぞ!」
「ひゃぐ・・・はちじゅ・・・・にぃ・・・・・」
ゴリラの咆哮の中、私たちは腹筋をさせられている。
中でも私は光井先輩に徹底マークされているので適当に手を抜く事もできない。
多分今の私の顔は疲労と苦痛でとても他人様に見せられない程歪んでいるだろう。
だが、そんな事に構う余裕は今の私には無かった。もう吐きそう・・・
ぴきっ・・・・
「んぎっ・・・・!」
突然、鳩尾付近の筋肉に激痛が走った。先ほどから徐々に痛みを訴えていた腹筋の上部が限界を迎えたらしい。
「い・・・痛い・・・」
あまりの痛みに、私は当然の事ながら腹筋を続ける事が出来なくなる。
「だーれが休んでいいって言ったの?」
「も、もう・・・無理です・・・筋肉がつっちゃって・・・」
私は必死に訴えた。しかし。
「言い訳すんな!ウサギがゴリラから逃げる時足つるか!」
「ウホー!あと100かーい!」
許してもらえそうにないと判断した私は仕方なく、少しでも痛めた所に負担をかけないように腹筋を続ける。
ぴきっ・・・・
「あぎぃぃい・・・・!」
それでも、その部分を全く使わないのは不可能だ。痛みが繰り返し、徐々に強くなって襲ってくる。
このまま続けたら、筋肉が断裂するんじゃないだろうか・・・選手生命終わりだ・・・・



…でも、そこまで行く前に私の身体は本当に限界を迎えた。どんなに頑張っても上半身が上がらなくなる。
どすっ
「うげぇ・・・・ご、ごほぉ・・・・」
仰向けに倒れた私の弱りきった腹筋を光井先輩が踏みつけた。
「休んでるんじゃねーよ!コラァー!」
言葉と裏腹に光井先輩の口調は実に楽しげだ・・・でも何を言われようとされようと上がらないものは上がらない。
お父さん・・・助けて・・・・
私の意識が薄れかけた時、聞き慣れた声が耳に飛び込んできた。
「も、もうやめてください!」
私が可愛がっている・・・というより友達みたいに仲の良い後輩の野洲田ちゃんの声だった。
「こんなの・・・酷すぎます。ゆーな先輩がかわいそうです・・・!」
普段大人しい彼女が涙交じりの声でそう訴える。
そんな彼女に光井先輩が口を開いた。
「お前・・・見かけより勇気あるな・・・」
その言葉で、私は彼女が次にとる行動が予想できた

バキッ!

「ゆ・・・ゆーな先輩!」
私はとっさに立ち上がって、光井先輩と野洲田ちゃんの間に割り込む。
口の中に血の味が広がる・・・拳で思いっきり顔を殴られるなんて産まれて初めてだ。
親父にも殴られたことないのに・・・肉体的な痛み以上に私は精神的にショックを受けた。
…でも後輩が自分のために殴られる痛みを考えれば100倍マシだと思う。
「なんだよ、ゆーな。寝てたくせに随分素早く立ったじゃねーか!これでまだ安心していびれるな」
「次はグラウンド30週だウホホー!」