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それは、愛 中編


「誰が犯人だったのか――もう、この状況そのものが、その答えのようなものです」

ネギたちが、1歩進む。まだ、間合いではない。
俯いたネギの表情は、闇の中で。

「どうしてこんなことしたのか、気にはなるけど――まずは、お仕置きが先ね」

明日菜たちが、1歩進む。まだ、間合いではない。
明日菜の顔も、闇に隠れる。

「連戦のところ、申し訳ねェが……俺っちたちも、必死なんでな」

カモたちが、1歩進む。双方にとって、ギリギリの距離。
そして、ネギが、明日菜が、カモが、一斉に顔を上げて。

「――契約執行、『神楽坂明日菜』! ラス・テル マ・スキル マギステル……」
「来たれ(アデアット)ッ!」
「いっけぇ兄貴ィッ!」

ネギたちが、一気に飛び出す。
迷いの無い目。真っ直ぐな気持ち。そして……奥底にある、怒り。
かつて吸血鬼事件の際に戦った相手。あの時勝てたのは、いくつもの偶然のお陰。
今度は手加減もないだろうし、さらにはもう1体、強敵が加わっている。
それでも彼らは突進して――
ほぼ同時に、相手側も突進を開始。戦いが、始まった。



『さて、どうするんだ、『マスター』?』

一歩ずつ近づくネギたちを目の前にしながら、エヴァが笑うような声で問いかける。
いや声ではない、声無き声である『念話』。3人の間だけで通用する声。

『僭越ながら、明日菜さんに対するのは私が最適任だと思います。
 よろしければ、私が明日菜さん相手の足止めを行いますが……』

明日菜たちが、一歩近づく。茶々丸は無表情のまま現状を分析する。
マジックキャンセル能力を持つ明日菜。破魔の力を持つアーティファクト。
エヴァやゼロにとって、危険な相手だ。ゼロなど、下手をすればハリセンの一発で即死しかねない。
それは確かに、合理的かつ現実的な選択。

『…………』
『『マスター』が命令しないなら、我々なりにやらせてもらうぞ。
 ぼーやの血を吸えば、麻帆良を潰すまでもなく自由になれるんだ。
 抵抗されては敵わんからな、まずは精神的に屈服させる。
 『マスター』にも協力してもらうぞ、いいな?』
『……アア……』

カモたちが、一歩近づく。双方にとって、ギリギリの距離。
生返事を返すゼロをよそに、エヴァも茶々丸も戦闘態勢は十分で。
ネギたちが飛び出すと同時に、エヴァも茶々丸も大地を蹴る。
エヴァの頭上のゼロも、エヴァと一緒に。それでも反射的に、ナイフを抜いて。

「リク・ラク ラ・ラック ライラック……『氷爆』!」
「戦闘開始。神楽坂明日菜を、引き離します」
「…………ケケケッ! 喰ライヤガレッ!」



双方が飛び出した、一瞬の後。
ネギと明日菜の間の空間で、凍気と爆風が吹きすさび――
その爆風に煽られ、2人の距離が離れた所に、茶々丸が飛びかかって――
茶々丸のジェット噴射を利用した飛び蹴りに、明日菜の身体が大きく小川の向こう側に跳ばされて――
ほぼ同時に、ネギの周囲に29個の光球が浮かび――
それに呼応するように、エヴァの周囲に29個の闇の球が浮かび――
双方互角。『魔法の射手・光の29矢』と『魔法の射手・闇の29矢』が、互いに相殺しあう。

この全てが一瞬。
茶々丸に弾かれた明日菜、その明日菜を追う茶々丸が遠ざかるのを横目に見ながら。
カモを肩に乗せたネギと、チャチャゼロを頭に乗せたエヴァが対峙する。
「……おい兄貴。今の、何か変じゃねぇか?」
「変って?」
「俺っちの目の錯覚かもしれねぇが……今、エヴァの奴、魔法2つを同時に使わなかったか?」
「……ッ!?」
それは、ありえない話。
遅延呪文や無詠唱呪文など、相手のタイミングを外す技術はいくつかある。エヴァの得意分野でもある。
それでも、「一度に発動できる呪文は1つきり」という魔法の大原則は外せないハズなのだ。
遅延呪文で詠唱を溜めておいたり、無詠唱呪文で詠唱を省いたりすることはできるが……
同じ瞬間に、右手と左手で別々の呪文を『発動』させることは不可能だ。
持続時間のある魔法を維持しつつ、別の呪文を発動させることなら普通の技術なのだが。

「ふふふ……。そこの小動物はよく見ているな。
 以前ぼーやと戦った時、なぜ私がゼロを連れてこなかったか、教えてやろうか?」
対するエヴァは――そのネギとカモのやりとりに、不敵に笑う。
自信たっぷりに、問いかける。
「それは、あまりに一方的な展開になるのが見え見えで、つまらなかったからさ。
 私の出来ることはほぼ全て、ゼロにも行うことが出来る――魔力さえあれば。
 いわば私は、呪文を唱える口を2つ持った『魔法使い』なのさ」



――明日菜と茶々丸は、エヴァのログハウスの近く、流れる小川の向こう側にて向かい合っていた。
明日菜の手には、巨大な大剣。アーティファクト『ハマノツルギ』完全版。
対する茶々丸も、追加装備こそ無いものの、全武装リミッター解除済み。
対戦カードこそ吸血鬼騒動の時と同じだが、双方の持つ殺傷力は本物で。

「……ねぇ、茶々丸さん。1度だけ言うけど……邪魔しないわけには、いかないの?」
「申し訳ありません、明日菜さん。姉さんの意志には、逆らえませんので」
無表情のまま、口だけで謝ると、茶々丸は拳を固める。
「何故か魔法に対して強力な打ち消し能力を持つ明日菜さん……。
 姉さんやエヴァンジェリンにとって、貴女は脅威です」
「まあ、そうだろうね」
「それに対し、私はロボットです。動力以外は全て科学の力で作られた身体。
 不安が無いわけではありませんが……貴女は私が相手するのが最適でしょう」

茶々丸は淡々と語る。
心情的には明日菜に倒して貰いたい茶々丸。しかし一切手を抜くことのできないプログラム。
彼女にできることは、これくらいのものだ。あとは明日菜が、気付くか否か。
「では――行きます」
茶々丸は短く断りを入れて、大地を蹴って――ハイスピードな戦闘が、始まった。


「ラス・テル マ・スキル マギステル、『魔法の射手・連弾・雷の49矢』ッ……!」
「クククッ。リク・ラク ラ・ラック ライラック 『魔法の射手・連弾・氷の27矢』」
「ケケケッ。リク・ラク ラ・ラック ライラック 『魔法の射手・連弾・氷の27矢』」
「ちょっ、お前ら、ズルいぜそりゃッ……!」
ログハウスの前。ゼロたちに破れ、倒れ伏した者たちの眼前で。
相互に放たれた魔法が、次々に相殺されていく中。
エヴァたちの放った魔法だけが、一方的にネギを傷つけていく。



唱える口が、2つある――
実にこれは魔法使い同士の果し合いにおいて、とんでもないアドバンテージなのだった。
魔法の矢の撃ち合いも、普通に唱えてもネギと同じ本数を放つのは簡単だろうに。
エヴァとゼロは、ネギよりも少し遅れて唱え始め、本数は少なめで。
だけども2人分の矢を足せばネギより勝るから、相殺してなお余った矢がネギを傷つける。
迎撃し損ねた5本の氷の矢が、ネギの身体を掠めスーツを裂き、血を滲ませる。
直撃はないが、じわじわとダメージが蓄積する。

さりとて、中国拳法の接近戦に活路を見出そうとしても……
エヴァは合気柔術の達人、ゼロはナイフ格闘術の達人。
片方が余裕をもってネギの攻撃を受け止め、その間にもう1人が呪文を唱えている。
ネギがエヴァを狙おうとゼロを狙おうと同じこと。片方に出来ることは、もう片方にも出来る。
結果、エヴァたちはどう見ても「遊んで」いるのに、ネギの方は手も足も出ない。
エヴァの側の手加減と、ネギの『風盾』とでなんとか凌いでこれたものの。

エヴァの頭の上にゼロが乗る、今のこの格好。普段からよく見られていた体勢。
だがプライドの高いエヴァが、他者を己の頭の上に乗せる、というのは、よくよく考えると少し不自然。
今でこそ主従逆転しているが、元々はゼロは従者に過ぎない存在なのだ。
決してエヴァの「上に立つ」存在ではない。なのに何故、エヴァはゼロを平気で乗せていたのか。
……実はこれ、この2人にとって最強の戦闘態勢でもあるのだった。
ほぼ同じ所から同時に放たれる2つの呪文。4本の腕。ただでさえ強力な魔法が、およそ2倍。
他の数々の異名に並んで、しかし一見するとスキルを示す言葉でしかない『人形使い(ドールマスター)』。
だがこの名が恐怖と共に呼ばれていたのは、まさにゼロという人形の存在による。

ちなみにこれは、余談だが。
この物語の中で、ゼロが呪文を使ったのは、実は2回目である。
1回目は、茶々丸との決闘の際。幻想空間の中で、茶々丸の腕を凍結し粉砕している。
エヴァから供給される魔力が限られていた時には、事実上不可能な技。
学園の魔力封印結界を無効化した今だからこそ、現実世界でも使えるのだ。



「くッ……!」
「どうしたぼーや。私を倒さない限り、ゼロは止められないぞ?
 ゼロが私の主人となった今。もしゼロが壊れても、契約により私はすぐに直さねばならん。
 だが一方で、私が滅びれば、魔力の供給源を失ったゼロもまた滅びる。
 つまり私を倒さない限り、この事件は終らないということだ!」
エヴァは笑う。実に楽しそうに笑う。
何かを期待するかのように、懇切丁寧に説明しながら笑う。
期待。そう、それは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが、何百年も望んで止まない……!

一方、ネギたちは。
片膝をつき、頬の血を拭うネギの肩の上で。
「兄貴」
「何?」
「一瞬でいい、エヴァとゼロの間を引き離せるような、そんな魔法か何かねぇか?」
「……1つだけ、ある。上手く行くかどうか、自信はないけど」
エヴァとゼロが一緒になっているからこそ、手強いのだ。この2人の間を裂くことができれば、あるいは。
不安そうに問い返したネギに、カモは不敵に笑って。
「よし。じゃあ兄貴、ソレ、やってみてくれ。そしたら、俺っちが……」
「……!!」

「ソロソロ、遊ビハ終ワリニシヨウゼ。本気デ行ケヨ」
「……ふん、もう少しでぼーやを屈服させられるというのに。『マスター』はつまらんな……!?」
じれたゼロの命令に、エヴァが皮肉っぽい返事を返しかけた、その時。
2人はハッとネギの方を向く。
「来たれ虚空の雷 薙ぎ払え……『雷の斧』ッ!」
満身創痍のネギが、おもむろに何の前置きもなしに放った、雷系の上位古代語魔法。
振るわれる光の刃、しかしこんな大技、小技からの連携でもなければ当たりはしない。
エヴァの頭を斜めに横切るようなその軌道。
それに対し、ゼロはエヴァの頭を蹴って飛び離れ、エヴァは僅かに身を屈め。
それぞれ余裕を持って回避を――



「――オコジョ魔法最終奥義、『オコジョ流星』!」

大技『雷の斧』を捨て技に、相手の連携を絶つネギ独自の戦術――それは見事にハマっていた。
回避のために、ゼロがエヴァの頭の上から少しだけ離れた、その瞬間。
白い流星が、宙に浮いた殺人人形の身体に、真正面から突進する。
それは、本来戦闘向きではないオコジョ妖精の、最後の手段。
持てる魔力のありったけを、ロケット推進のように噴出し推力とする、決死の体当たり。

「――ッ!? ア、アルベールッ!? 何ヲッ!?」
「ちょっとばかし俺っちに付き合ってもらうぜ、ゼロッ!!
 兄貴――後は任せたぜぇぇぇぇッ!!」

百戦錬磨のゼロたちにとっても、これは意外だった。
この瞬間まで、戦力としてはカウントされていなかったカモという存在。
流星はそのままゼロの身体を捕らえ、人形もろとも、ログハウスを囲む深い森の中に飛んでいって……
そして、見えなくなった。

明日菜 対 茶々丸。ネギ 対 エヴァ。カモ 対 ゼロ。
再び3組の1対1の構図になった戦い、しかし今度はゼロたちの側の仕掛けではない。
停電続く闇の中、戦いは――!


……1人の少女が、片手で自分の頭を押さえながら、闇の中を駆けている。
……1人の少女が、暗い森の中、大木の梢に佇んでいる。
……1人の少女が、暗い学園の中、モニターを前にニヤリと笑う。
異なる場所、異なるタイミング、異なる動機で動き出した彼女たちは、それぞれに――