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それは、愛


――少年の意識は、白い光の中に浮かんでいた。

心地よく、疲れを癒してくれる淡い光。どこまでも広がる、霧に包まれたような世界。
地面も、天井も、壁もなく。静寂に満ちた虚空に浮かびながら、少年は思う。

「僕は……眠っているんですね。これは、夢なんだ」

夢を夢と自覚しつつ、少年は目覚めることができない。
まだ、目覚める時ではない。
少年は思う。これまでのことを、思い出す。

最初の日の夜、亜子が病院に収容された、というニュースを聞いたのが初めだった。
2日目、裕奈が初めてのリストカットを行い。
3日目、雪広あやかが犯人に襲われ、手足と心に深い傷を負った。
4日目、チアリーディングの3人は、何か深刻なケンカをしたらしい。それぞれに傷を負い、友情は裂かれ。
同日、ネギは様子のおかしいのどかと、エヴァの家の前で遭遇。以来彼女は引き篭もりである。
5日目、千雨が夜の道で襲われ、意識不明の重傷。3人目の「公式の」犠牲者。
6日目、土曜の午前中、エヴァの家から出て分かれた木乃香は、禁呪に手を出して深く傷ついた。
同日夜、巡回中の美空は両足を失い、ココネは命を落とし。
7日目、聡美が実験中に片腕を喪失。そういえばこの頃から茶々丸の様子が少しおかしい。
同日夜、五月が襲われ、真名が両目を失い、小太郎が殺され……

……そこから先は、ネギは知らない。
さよの身に起きたことも、双子の被害も、アキラのトラウマも、ハルナの件も。
魔法先生たちの会議の席で、突然『眠りの霧』で眠らされて……
こうして、魔法の力で眠り続けている。
夢を見ながら、眠り続けている。



「……治癒魔法の1種、なのかな……。
 まだまだ僕の知らない魔法、いっぱいあるんだ……」

夢の中で、少年は呟く。
おそらくこれは、安らかな眠りを維持することで、心身の疲労を回復させるための魔法。
考えてみれば、次々に発生する事態に追われ走り回っていたネギは、疲れ果てていた。
妥協のできない性格。ついつい無理しがちな性格
彼は、魔法先生たちから割り当てられた時間以上に巡回をし、また修行を重ね……
こうして隔離される寸前には、本当にフラフラの状態だった。
いつブッ倒れてもおかしくない状態。体力は限界に達し、思考力も失われ。
自分でも何をしているのか、何をしたいのか良く分からない状態が続いていた。

しかし、こうして強制的にではあるが、休息を与えられ。
ネギの心身は、ゆっくりと回復していった。
思考力も戻り、過去の記憶を思い出す彼は、やがてその記憶の中、いくつかのポイントに気付く。

エヴァの家の前、『いどのえにっき』を抱えていた宮崎のどか。その時以来、豹変した彼女。
彼女は一体、誰の心を読んだのか? 誰の心を読んで、ああなってしまったのか?
あの時、本の効果範囲に居た『存在』と言えば、のどか、ネギ、エヴァ、茶々丸、そして……!

エヴァの家を出る所で別れた、近衛木乃香。その後、病院に向かって禁呪を使った彼女。
彼女は一体、どうやってエヴァの膨大な蔵書の中から禁呪を見つけ出したのか?
あの時、木乃香と行動を共にしていたのは。家を出る時、木乃香が頭の上に乗せていたのは……!

他にも、様々な事実の断片が、ネギの中で組み合されていく。
思考力の戻った今なら、分かる。冷静に考えることができる。全ての元凶は、間違いなく、あの、

『……聞こえる、ネギ!? 返事しなさいよッ! ネギってば……!』

突如、白い光に包まれた夢の中に。
少年の思索を破る声が響く。懐かしい声。少年を、現実に引き戻す声――!



……窓の外の暗い街に、パパパッ、と電燈が灯る。
数秒のタイムラグを置き、部屋の中も電灯がついて明るくなる。
「う~ん、何とか回復したみたいだな」
「何がおきたんだろうねぇ。簡単には落ちないシステムになってるんだけど」
麻帆良学園都市の一角、住宅街エリア。その一室。
弐集院はその自宅で、停電から回復した街を眺めながら、オコジョのカモと言葉を交わす。

心身を回復させる、眠りの魔法をかけられたネギ。数日は目を覚まさないであろう彼。
彼が目を覚ますまで、その身柄を預かることになったのは、魔法先生の1人・弐集院だった。
ネギを暫く泊めることのできる家の広さ。ネギの面倒を見れる家族の存在。
弐集院の場合、その幼い娘も幻術を修める魔法使い一家だから、なおさら都合がいい。
事情を全て明かした上で、面倒を見ることができる。

「あの結界に関するトラブルとか、起きてなければいいんだけどねぇ」
「……なぁ、センセイよ。なんで兄貴を眠らせたりしたんだよ?
 結局事件は終る気配もねぇし、兄貴が欠けた分、逆に隙もできちまったようだし……何考えてるんでぃ」
「…………」
カモの言葉に、弐集院はしばし沈黙して。
細い目をさらに細め、渋い表情で外を見る。

「今回の敵は、おそらく、ロクな目的すら持っていない。愉快犯のクラッカーみたいなものだ。
 行為そのものが目的で――そのくせ、技術と用心深さは一級品だ。
 これは僕自身、電子精霊を扱いネット界に基盤を置く魔法使いだから、感じることなんだがね」
「ふむ……確かにな」
「しかも、相手を空回りさせる方法をよく理解している。こういうのは、ウチの娘が結構上手いんだが。
 ネギ君のような真面目なタイプは、一番相性が悪い。正面から挑んでも、無駄に消耗するばかりだ。
 一旦、距離を置く時間が、どうしても必要なんだ……遠回りに見えても、その間に犠牲が出ても、ね」



「…………」
「さて、ちょっと出かけてくる。さっきの停電について、調べてこなきゃ。
 何かあったら、娘か妻に言ってね。ネギ君のこと、頼むよ、オコジョ君」
弐集院はそういい残し、部屋を出て行く。
そして弐集院の客間に残されたのは、眠り続けるネギと、ヒマを持て余したカモだけ。

「まさかとは思うけど……だが『奴』じゃないよなァ。そうであって欲しくねぇなァ。
 確かに、血の臭いとかしてた時あるんだけどよォ……」
ぶつぶつと、カモは1人呟く。
実は彼も、1人の容疑者を思い浮かべていた。
ネギと共に行動していた時、動物妖精ならではの嗅覚で察知した異常。
知り尽くした『親友』の性格と、それがもたらすかもしれない最悪の展開。
彼自身、その仮説を信じたくはなかったのだが……。

と、突然。
再び、部屋の明かりが唐突に消えて。窓の外の街並みも、次々に明かりが消えていく。
2度目の停電――。
カモたちが知る由もないが、それは丁度、エヴァのログハウスの前での死闘の開始の合図。
再び闇に包まれた、部屋の中で……。

「……ふぅ」
「おッ!? 兄貴!? 目ェ覚めたのかよ!? 大丈夫か、オイ!?」

むっくりと、起き上がる気配。
闇の中、そして彼はカモに手を差し出す。

「行こう、カモ君。みんなが、戦ってる。僕たちも明日菜さんと合流して、早く行かなくちゃ」



――そして、物語は最後の局面を迎える。

チャチャゼロ、エヴァンジェリン、茶々丸の3人の前に傷つき倒れた、『最後の6人』。
そこに遅ればせながら到着した、ネギと明日菜、それにカモ。
明日菜は別に、和美たちの期待したような、「いざという時の連絡手段」など持ってはいなかったが……
それでも必死に彼女なりに考え、仮契約カードの機能を用いてネギに念話を送り。
夢の中でその声を聞いたネギは、予定より早く目覚めて。
こうして、揃ってエヴァの家に。

「……明日菜さん」
茶々丸が、静かに呟く。何を想っているのか、その仮面のような無表情な顔からは読み取れない。

「ふふ……ぼーやか。いい表情だ。
 見たところ、疲れも何も残ってはいないようだな」
エヴァンジェリンが、不敵に笑う。
楽しくて仕方ないといった表情。待ち望んだものがついに来たといった表情。
先ほど、6人へのトドメを命じられた時の不機嫌さなど、カケラも残っていない。

そして、そのエヴァの頭上。しがみ付くように乗っている人形は。
「ア……アルベール?!」
呆然と、『彼』の名を呟いた。ネギの肩の上に乗る、『彼』の名を口にした。
表情の変わらない顔。変えられない顔。ただその口をぽかんと開け、視線は彼に釘付けで。
この世で最も会いたくない相手に、会ってしまったという――そんな雰囲気。

3者3様の、リアクション。
対するネギたちは、無言のまま、1歩踏み出して――
激闘が、始まった。


 Final TARGET  →  出席番号08番 神楽坂明日菜  担任 ネギ・スプリングフィールド
                アルベール・カモミール