MAGISTER NEGI MAGI from Hell

最後の6人 後編

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最後の6人  後編


――ログハウスの前。
目にも留まらぬハイスピードバトルが、繰り広げられていた。

「ニンニンッ!」
5人の『長瀬楓』が走る。走るチャチャゼロを取り囲むようにして走る。
ログハウスの前、動けぬ3人の間を駆け抜けながら、激しい攻防を繰り広げる。
離れればデザートイーグル。近づけば『気』の篭った掌底や逆手に握った刃。
身長よりも巨大な手裏剣が、まるで回転ノコギリのように回りながらチャチャゼロを追い立てる。
対するチャチャゼロは……
「ケケケッ!」
一瞬の休みもない、多種多様なその攻撃を、両手に握ったナイフでことごとくいなしていた。
凄まじい威力の弾丸を弾き、クナイを止め、あるいは身を捻ってかわし。
合間合間に投げナイフやワイヤーを使い反撃までする。
流石に大口を叩くだけのことはあるようだ――ただそれでもなお、楓の方が優勢で。
何しろ事実上5対1なのだ、ワイヤーもナイフもほとんどが空を切る。

「どうしたでござる?! 拙者『たち』を返り討ちにするのではなかったでござるか?!
 逃げてばかりではどうしようもないでござるよ!!」
息もつかせぬ攻撃を加えながら、楓は笑う。笑いながら……しかし、内心は決して穏やかではない。
嫌な予感が、するのだ。
防戦に徹するようなゼロの姿に、やる気なくワイヤーを飛ばすゼロの姿に、嫌な予感がするのだ。
その高い防御の技術を見るだけで分かる、ゼロの実力は、まだこんなものではないはず。
なのに、何故もっと攻撃してこないのか。何を狙って時間稼ぎのようなことをしているのか。
焦る楓の安っぽい挑発にも、ゼロは耳障りな笑い声を上げるだけで。

「ケケケッ。急カスナヨ。今、準備ガ出来タトコサ、マア見テロッテ!」
そして、次の瞬間。拳銃を構えた楓の前に、立ち塞がったのは――!



――夜の森。
漆黒の闇に包まれた森は、連続する雷光にフラッシュのように照らされる。
立ち並ぶ木々が、紙細工のように軽々と吹き飛ぶ。

「くッ……! なんの躊躇もなしかッ!」
「神鳴流奥義――斬岩剣」
マントを翻し、木々の間を飛んで逃げるエヴァに、翼を広げた刹那が直上から迫る。
紙一重でかわしたエヴァ、その目の前で、空振りした剣が大地を割る。
十数メートルにも及ぶ長く巨大なクレバスが、剣の一振りで出現する。大木が正面から真っ二つになる。
なんとも凄まじいパワー。流石のエヴァンジェリンも、防戦一方。

翼を出す直前、刹那が指摘した事実。
エヴァンジェリンを縛り魔力を奪う2つの呪い、その片方が未だ残っているという事実。
――それが、この一方的な展開を生み出していた。
結界のみならず、『登校地獄』もまた学園内において、学業に魔法は不要とばかりに魔力を削ぐ。
2つの呪いが共になければ、リョウメンスクナノカミさえも瞬殺できるエヴァだったが……
学園の電気的結界の無効化だけなら、戦闘経験の無かった頃のネギと、魔力的にはほぼ同等。
吸血鬼騒動の時にも、ネギ相手に真正面から打ち合った大規模魔法で、ギリギリで打ち負けている。
今のエヴァも、その時と同等の魔力状態だから……翼を出した刹那に、パワーで敵うわけがない。
真の姿を晒した刹那が得るのは、飛行能力だけではないのだ。

半妖の膨大な潜在能力を露わにし、誰かに見つかることなど考慮せず大技を振るい続ける刹那。
森はもう大変なことになっている。この調子で戦闘を続ければ、この森は跡形もなく消えてしまうだろう。
エヴァは逃げる。ひたすら逃げる。
時折牽制程度に『魔法の射手』を放つ程度で、あとはひたすら、距離を置き、魔法の盾で逸らし。

「いやはや、恐るべきパワーだな……だがやはり、力み過ぎだぞ、刹那!」
「神鳴流奥義――百烈桜華斬」
逃げつつ叫ぶエヴァの叫びに答えず、刹那は狂気の滲む剣を振るう。
たった1振りで無数の斬撃が飛び出して、その1つ1つが、木の幹を断ち切るほどの威力を見せる。
森を壊し木々をなぎ倒しながら、超人たちの戦闘は続く――



――ログハウスの中。
テーブルを割りぬいぐるみを弾き飛ばしながら、超人的なカンフーバトルが繰り広げられていた。
「…………」
「なんのッ! まだまだアルよッ!」
倫理的リミッターの外された茶々丸の打撃は、重く、鋭く、その全てが人体の急所狙い。
人間の反射神経を超えかけた速度で繰り出されるその連撃を、古菲はことごとく防ぎきる。
避け、止め、あるいは先に打撃を当て。
合間合間に放たれる茶々丸のビームも、今のところ直撃はない。

結局のところ――「速くて」「パワーがある」だけでは、古菲は倒せないのだ。
経験の差。そして、積み上げられた伝統の差。
中国拳法はその長い歴史の中で、よりスピーディな敵、よりパワフルな敵と戦ってきた経験を持つ。
そして、その経験の蓄積に基づく技や動きが用意されている。
古菲自身はその意味を理解していなくても、無心に学んだ技と型が自然と彼女を導いてくれる。
人体構造と照らし合わせ最適・最高の動作が、既に古菲の中に用意されている。
相手が刃物や最新の銃器、魔法のような超自然の技を使ってこない限り、古菲には「何とかなる」。

対する茶々丸の方は――この世に生まれて、まだ3年。
ある程度は技術的な継承があったとはいえ、「茶々丸の身体に合わせた格闘術」の歴史も、たった3年。
ロケットパンチを活かせるような格闘術は、人間の世界にはないのだ。自分で作るしかない。
また、今までは「倫理的リミッター」のために、「あえて急所を狙わない」技術を磨いてきた。
急にリミッターを外され、相手を潰すための戦いを命じられても、そのような戦闘の経験はほとんど皆無。
圧倒的に、経験値が不足している。速度とパワーが凄まじいだけで、ほとんど素人のケンカ。
目からのビームにしても、チャージに要する僅かな時間が、近距離戦闘では隙となる。

そして、ハイスピードバトルの中で、古菲は次第に茶々丸の「クセ」を把握しはじめていた。
足捌き。フェイントのかけかた。拳の軌道。防御時の体さばき。ビームを放つ直前の僅かな仕草。
これなら――戦える。これなら、十分勝機が見える。
「そろそろ、反撃させてもらうアルよッ……!」


「ケケケッ!」
「ひ――卑怯でござるッ!」

ログハウスの前。ゼロに一方的に攻撃を加え続ける楓の前に立ち塞がったのは――
両手から血を流す朝倉和美。両目を閉じ痛みに呻く綾瀬夕映。凍結した両胸で苦しい息をつく那波千鶴。
――つまり、最初の先制攻撃で倒れた3人。
それが、顔を歪め、奇妙な足取りと動作で、ゼロを庇うように立つ。
「か……身体が勝手に!?」
「い、痛いですっ! 肩が、外れる……ですッ……!」
「うううっ……」
自分の意志に反して勝手に動く手足に、苦しみの声を上げる3人。
宙を掻くような奇妙なゼロの動作に、楓はすぐに理解する。
「人形使いの技術――でござるか」
「ケケケッ。『裏技』ダガナ」
ゼロが木乃香をたぶらかした時にも使用した、生きた人間を文字通りの「操り人形」にしてしまう技。
弱者を嬲ることを好まないエヴァは、ほとんど使用したこともない人形使いの『裏技』。
楓を狙ったように見せかけ飛ばしたワイヤーを、既に抵抗力のなくなった3人の手足に巻き付けて。
逃げ続けながら準備を進めて、用意し終えた人形3人。
3人の両手両足は既にゼロの思うがまま。自分の意志で動かせるのは、首から上のみ。

「ソッチモ分身使ッテルンダ。卑怯ッテ程デモネーダロ」
「貴様……!」
「サア――続キヲシヨウゼ! 『いざ、尋常に』ナ!」

3人を盾にし、両手の自由な夕映と千鶴にはそれぞれナイフを持たせ。
指のない和美の手にも、人形繰り用の糸を巻きつけナイフを持たせて。
ゼロは笑う。邪悪に笑う。対する楓の額には、脂汗が浮かぶ。
楓対チャチャゼロ、攻守の逆転した第二ラウンドに突入――!

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