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最後の6人  中編


街灯に照らされた、ログハウスの前。
エヴァンジェリンとその従者2人……否、チャチャゼロとその従者2人の前に立ちはだかった6人。
彼女たちの前で、チャチャゼロは耳障りな笑い声を上げた、その途端――

――街灯の明かりが、唐突に消えた。

「!?」
街灯だけではない。ログハウスの窓から漏れ出ていた電灯の光も。
森の向こう、学園都市中心部からうっすらと射していた、街の明かりも。
全てが一瞬で掻き消えて、周囲は闇に包まれる。
空にあるはずの月は、厚い雲の中。星々の光も届かずに、森の中は闇に包まれる――
そして、明かりが落ちたその瞬間、その場から一気に飛び出した、エヴァ・茶々丸・チャチャゼロ。
「くッ!」
「やるアルかッ!」
「なんのッ!」
視界を奪われたその瞬間に起こされた動き。
何が起こったのか全く分からないし、闇に慣れてない目はまだよく見えないが……
それでも武闘派3人は咄嗟に身構える。刹那・古菲・楓、それぞれに防御の姿勢を取る。
が、次の瞬間……!

「うわぁッ!」
「ぐッ! め、目がッ!」
「はぅっ! 冷たッ」
何かが彼女たちの脇を走り抜ける。宙を舞う糸が、貫くような閃光が、何本もの氷の矢が、走り抜ける。
そして同時に上がる3つの悲鳴。
武道の心得ある3人ではない、戦闘の素人3人。和美、夕映、千鶴の叫び――!



そう、ゼロたちはこの「突然の再停電」という絶好の好機を活かして。
戦闘力ある3人を襲うのではなく――戦闘力なき3人を、まず狙ったのだ。
戦いの定石では、ここは普通は逆である。後々脅威になる相手に、一撃でも加えることを優先する所だ。
なのに、ゼロたちは迷わず非戦闘員3人を狙った。容赦なく、狙った。
それも、今までのゼロによる襲撃同様、極めてタチの悪い攻撃を――。

チャチャゼロの放った糸は、和美の両手の指をことごとく切り飛ばしていた。
もう、カメラもペンも握れまい。記事をタイプすることもできまい。記者として、もう終わりだ。
茶々丸の放ったビームは、出力こそ大いに落としていたが、夕映の両目を直撃していた。
命に別状はないだろうが、その目は完全に失明。もう大好きな本も読めないだろう。
そしてエヴァンジェリンの放った無詠唱魔法の射手・氷の4矢は、いずれも千鶴の胸に突き刺さっていた。
手加減したのかいずれも命取りになるようなダメージではないが……豊かなその胸は、完全に氷結。
クラスで一番の巨乳は、もはや「死んだ」ようなものだ。

いずれも、ゼロが好んだ「才能や長所を削ぎ落とすような攻撃」。
その攻撃の意味を悟った、残る3名は――
「き……貴様らぁッ!」
「待て刹那! 迂闊に動いては――」
「許さないアルよ!」
楓が残る2名を止めるヒマもあらばこそ。刹那と古菲は、怒りにまかせて突進する。
チャチャゼロ目指して、突進する。
だが、その前に立ち塞がる影が2つ。
「……力が入りすぎだな、刹那。隙だらけだぞ」
「……申し訳ありません、古菲さん。排除させて頂きます」
刹那の斬撃はエヴァの鉄扇に止められて、そのまま刹那自身の勢いを利用され投げ飛ばされ。
古菲の突進攻撃は、横から飛び込んだ茶々丸の回し蹴りに捉えられ、これも吹き飛ばされ。
それぞれ、遠くに弾き飛ばされる。弾き飛ばした2人を、追うようにその場から跳ぶエヴァと茶々丸。
残されたのは、ゼロと楓、そしてそれぞれの痛みにのた打ち回る、和美、夕映、千鶴……。



「ケケケッ。何ダヨ オ前ラ。連携ハ テンデ駄目ダナ!」
「……やはり、この停電で『魔力』が戻っているでござるか。これは厄介でござるな……」
笑うチャチャゼロを前に、楓の額に汗が滲む。
楓の脳裏に、ここに来る前、明日菜に聞かされた話が蘇る――

 「この停電だけど――そういうことなら、ひょっとしたら『あの時』と一緒かもしれないよ」
 これからエヴァの家に行くのだ、と意気込む6人に、不安そうな声をかけたのは明日菜だった。
 春の定期メンテナンス、あの学園都市大停電に乗じて行われた、エヴァとの戦い。
 あれを知っている明日菜は、今起きたこの停電も、何か関係があるのでは、と直感する。
 だが、6人は。
 「しかし、エヴァ殿の魔力が解放されたならば、拙者たちにも気配くらいは分かるでござるしなァ」
 「確かに気になる偶然ですが、考えすぎでは?」
 楓、そして刹那の「感覚」は、特に何も捕らえておらず。その場では、明日菜の心配は無視された。
 ……まあ、無理もあるまい。『一回目』の大停電は、エヴァの魔力を『封じる』方向で使われたのだ。
 何も感じられなくて当然だ。電力を消費する『封印結界』も、普段から誰にも感じられないもの。
 今さらそれが強化されたからとて、何を感じられるというのか。しかし……

「しかし、今度の停電は、明日菜の言っていた通りでござろうな。
 エヴァ殿の『無詠唱呪文』、ゼロ殿の動きの速さ……『封印結界』を、無効化したか」
「正解ダ。マ、分カッタ所デ何モデキネェダロウガナ。ケケケッ!」

茶々丸が無線を通じ、再び行ったハッキング。今度は、学園結界への電力流入のカット。
それの副作用として、学園都市全体の電気が、またしても途絶え、再度の大停電となっていた。
この『2回目』の停電は、あの吸血鬼騒動の最後の戦いと同じもの。
エヴァンジェリンの魔力が復活し、その延長としてチャチャゼロの運動能力も復活する。



停電に乗じた最初の攻撃。戦えるものたちの頭に血を上らせ、その後の戦いを有利に進める……
全て、ゼロの計画通り。
……いや、今このゼロの目の前にいる楓の冷静さは、いささか計算外ではあったが。

「ソレデモ、オ前程度ジャ俺ニ勝テネーヨ。オ前1人ジャヨ!」
「……随分な自信でござるな。
 だが、拙者とて、1人でこの場に立っているわけではござらぬよ」
笑うゼロに、楓は目を細める。
彼女とて、怒りがないわけではない。ただ、その表現の仕方が刹那や古菲とは違うだけだ。

「甲賀中忍、長瀬楓。及び――『龍宮真名』。参る!」

彼女の強い意志の篭った声と共に、無数の『分身』が出現する。忍び装束の楓の姿が、何体も出現する。
そしてその『楓たち』が揃って手に取ったのは、忍び装束におよそ似つかわしくない近代的な兵器。
「ハンドキャノン」の異名を取る大口径拳銃、デザートイーグル。
視力を失いリタイアした龍宮真名に託され預かった、真名の愛銃。真名の『意志』。
ゼロと直接対峙した時には、とうとう最後まで使う機会のなかった、ライフル以外のもう1つの武器――!

「短筒の扱いも、忍びの技の1つなり。流石に真名よりは一歩劣るやもしれぬが――
 繰り返して申す。拙者、1人でこの場に立っているわけではござらぬよ。
 その意味、貴殿の身をもって理解して頂くッ!」
「ケケケッ! 面白イ! マトメテ返リ討チニ シテヤルヨ!」

片手にクナイ、片手にデザートイーグルを構えた無数の『楓たち』は一斉に跳躍して――
ログハウス前、痛みに苦しむ3人の目の前で、第一の死闘が始まった。



「……エヴァンジェリンさん。正直あなたには、失望しました」
「……フン。何とでも言うがいい。私自身、とうの昔に自分自身に失望しているわ」

森の中。
『合気』の力で投げ飛ばされた刹那と、それを追ってきたエヴァが対峙していた。
木々の間で、尻餅をついたような姿勢のまま呟く刹那。マントを広げ宙に浮かぶエヴァ。
刹那はヨロヨロと立ち上がる。俯き加減のその表情は、周囲の暗さもあってよく見えない。

「しかし……私はある意味、ツイていたかもしれませんね」
「? どういう意味だ?」
「あなたを倒せば――魔力の源たるあなたを倒せば、あの人形も自動的に『死に』ます。
 あなた自身にも、あの人形を制しきれなかった責任がある。それだけの罪がある」
「ほう……私を倒す、と。随分とデカい口を利くものだな、刹那。
 ゼロに破れ従者の身分に堕したとはいえ……まだまだ私は、お前などよりずっと強いぞ?」

エヴァは笑う。
彼我の戦力差を示し、エヴァは笑う。
以前と身分が変わったとはいえ、その自信もプライドも未だ『エヴァンジェリン』のまま。
刹那の言葉に、自信を持って笑う。余裕をもって笑う。
だが……
「……それは、『全ての呪いがなければ』の話でしょう。未だあなたは、『登校の呪い』に捕らわれたまま。
 普段よりは強いとはいえ、修学旅行の戦いの時ほどの力はありません。それに……」
「それに?」
「それに、私もまた、普段の自分ではありませんから」

刹那がそう呟くと同時に、その両手が胸の前で交差される。何か力を溜めるような動作。
次の瞬間――



バサッ。
光と共に、白く、巨大な翼が、大きく広げられる。
舞い散る羽毛。高まる『気』の力。
袴姿の刹那は――烏族の衣装を纏った彼女は、その真の姿を露わにしていた。
禁断の姿を、現していた。

「な――」
「……もう、何もいらない……」
白い翼を広げ、誰にも明かしてはいけない正体を堂々と晒して。
目を丸くするエヴァの前、俯いたまま、刹那は呟く。
「このちゃんを守りきれず……クラスのみんなを守りきれず……
 学園長に、恩も返せず……こんな自分なら、もう、いらない……もう、どうなってもいい……」
そして刹那は、ゆっくりと顔を上げる。
エヴァに向けられたその表情は、もはや人間のモノではない。
見る者に白目と黒目が逆転したかのような錯覚を与える、その凶眼。壮絶な笑み。

「……もう、何もいらない……! 人間の世界にも、未練はない……!
 ただ、このちゃんの仇さえ取れるならッ!
 このちゃんをあんな風にしたお前らに、仕返しできるならッ!」

絶叫。絶叫と共に、翼の生えた刹那は『夕凪』を振るいつつ跳躍する。
正体を露わにしたことで、解放された真の力。人間離れした『気』の力。
その全てを刃に乗せた、大技・『雷鳴剣』。
もはや他人に正体がバレようとどうなろうと知ったことではない。
一族の掟によって烏族の里に引き戻されることになろうと、知ったことか。
守るべきもの全てを傷つけられた戦士は、開き直った復讐鬼と化して――

森の中。立ち並ぶ木々を吹き飛ばす、巨大な雷鳴と共に。
人外同士の第二の死闘が、始まった。



――ガラスが割れて、古菲の身体が暗い室内に叩き込まれる。

「クッ! やるアルね!」
「……目標の戦闘力、未だ衰えず。戦闘を続行します」

咄嗟に受身を取って、ログハウスの室内で立ち上がる古菲。
無機質な表情のまま、茶々丸がその後を追う。その足元で、踏み割られたガラスがペキリと音を立てる。
2人の戦いは、最初の一撃からそのまま連打戦になって。
茶々丸の蹴りが決まって、ここ・エヴァのログハウスの内部に場所を移していた。
1階のリビング。障害物の多い部屋の中。
2人は無数のぬいぐるみに囲まれて、テーブルを挟んで対峙する。
明かりに乏しい夜の闇、建物の中はさらに暗く、可愛らしいはずのぬいぐるみもどこか不気味な影を落とす。

「サツキは茶々丸のコト、心配してたアルよ。悪いヤツラにそそのかされてるんだ、ってネ」
「無意味な感傷です。私には意味のないことです」
「……つれないアルね」

五月の想いに対し、そっけない言葉を返す茶々丸。
しかし古菲の方も、本音を言えば五月の想いのみでない、胸の奥から湧き上がるモノを感じていた。
茶々丸相手に本気で「戦える」この機会に、ワクワクしてしまう自分を自覚していた。

ネギのエヴァへの弟子入りを賭けた、茶々丸との試合。
あの時点でネギに授けることのできた技は、古菲自身も満足の行くレベルではなかったのだが……
あの戦いを見て、どうしても考えてしまうのだ。1つの考えが、いつまで経っても頭から離れないのだ。

もし、あの時茶々丸と戦っていたのが古菲自信だったなら、一体どういう結末になっていたのか、と。



人間離れしたスピードとパワー、そして正確さを併せ持つ茶々丸。
ジェット推進で加速される拳。人間を超えた間接の可動域を活かした、独特の体術。
ネギとの試合と、今の数合の手合わせ。まだまだ茶々丸の「底」はこんなものではないはず。
果たして自分の技が通用するのか。どんな戦いができるのか。
武人としての血が、騒ぐ。
背負った想いを抜きにしても、純粋に、茶々丸と戦いたい。
そして茶々丸の性格まで考慮すれば、彼女が本気を出してくれるこんな機会は、二度とありえない――

「――こうしてバラけたのは、逆に幸いアルかもね。邪魔される心配は、ないアル」
「…………」
「いざ尋常に――勝負ッ!」

古菲は、どこか嬉々とした叫びと共に、茶々丸に向かって飛びかかって――
第三の死闘が、始まった。


ログハウス前の、楓とチャチャゼロ。
ログハウス脇の森の中の、刹那とエヴァンジェリン。
ログハウスの中の、古菲と茶々丸。
3箇所に分かれて始まった死闘、その結末は、果たして――?