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最後の6人 前編


「――チェックメイトです、チャチャゼロさん。貴方は、やり過ぎましたです」

桜咲刹那。古菲。長瀬楓。朝倉和美。綾瀬夕映。那波千鶴。
真実に到達した、最後の6人。
夕映の言葉に、残る5人も深く頷く。
それぞれの立場から到達した、1つの結論。人形とその周囲に向けられた疑いの目。
生半可なことでは許さないという、強い意志がゼロたちに叩きつけられる――


――桜咲刹那が真実を知ったのは、実にストレートな方法。つまり近衛木乃香本人から、聞いたのだ。

「お嬢様――倒れられた直前のこと、覚えてらっしゃいますか?」
「うん、覚えとるよー。で、ウチのこと『お嬢様』呼ぶんは、誰ー? お父様のトコにおった人なん?」
「……そう思って頂いて、構いません」
刹那の顔も声も忘れ、要領を得ない脱線を繰り返す木乃香。
しかし刹那は、辛抱強く話を聞いた。絶望に泣き出し叫び出したくなる自分を抑え、質問を重ねた。

「……これ、言うてええことなんかなぁ? 秘密って約束やったし……」
「心配なさらずとも、私の口の堅さは信用して貰って構いません」
「せや言うたかて、初めて会った人になぁ……まあええか。ほんまに秘密の秘密やで?
 あんな、エヴァちゃんとこで修行してた時、ゼロちゃんがな……」

そして木乃香は語り始めた。刹那を刹那と認識できないまま、その熱意に負けて語り始めた。
かの『禁呪』を使うに至った経緯。ゼロがした説明。その結果。
人の顔の見分けがつかなくなった木乃香だが、過去の記憶は壊れていない。言葉もしっかりしている。
その全ての話を聞いて、木乃香ほどにはお人よしではない刹那は、理解した。
――チャチャゼロだ。諸悪の根源は、あの邪悪な人形だ。
そして恐らく、木乃香が癒した犠牲者たちを襲ったのも、あの性格の悪い人形が――!



――長瀬楓が相談したのは、被害者の1人にして最強の1人だった。

「――そうか、茶々丸本人が、そんなことを」
「秘密を要求した本人の言葉でござる。拙者相手に、沈黙する理由はもう無いでござるよ」
楓の言葉に、漆黒のサングラスをかけた真名は静かに頷く。
鳴滝姉妹を襲った際、楓の注意を引くために、茶々丸が明かした真相の一端。
思い返せば、少し唐突な感もあった真実の暴露。そして、楓が抱いた疑いに対する、茶々丸の返事――

 『姉を疑うというのなら――私をも、疑う必要があります』

あの時点では、「茶々丸に対する信頼を、ゼロにも向けてくれ」という意味に取った。
楓も真名も、茶々丸の「人格」については信頼していた。
エヴァや超の「悪だくみ」に加担することはあっても、「邪悪な行為」に手を染めることはないと信じていた。
頭のどこかで、「真に取り返しのつかないこと」はしないだろう、と思い込んでいた。
だが、あの時の茶々丸の言葉を、別の解釈で捉えれば――

「……茶々丸を、正体不明の魔法人形同様に、疑ってかかるのならば。
 楓、確かにお前の言う通り、1つの可能性が浮かぶ。あの夜の出来事を、説明できる仮説がある。
 私としても、己の不覚と先入観を告白するようで、認めたくはない考えではあるんだが……な」

そして真名は辿り着く。五月が襲われ小太郎が命を落とした夜の真相に、到達する。
真名が楓と共に辿り着いた真実、それを彼女は、楓に託す。
純朴にして誠実な人型ロボット・茶々丸が、『悪』の手先・『悪』の奴隷になっていたという事実。
悪の黒幕が茶々丸の信用を利用して、真名と楓、2人の達人を手玉に取ってしまったという事実。
そして、その黒幕は考えるまでもない。茶々丸の姉、チャチャゼロ以外、ありえない――!



――古菲は、友からその事実を聞かされた……というより、「読まされた」。

「……はぁ!? 茶々丸アルか?」
 私も、信じたくなかったのですが。一瞬見えたあの顔は、間違いありません。
ベッドの上で、サラサラとペンを走らせ筆談していたのは、入院中の四葉五月。
その「証言」内容に、見舞いに訪れていた古菲は、素っ頓狂な声を上げる。

料理人の命とでも言うべき舌を切り取られ、味を感じることもマトモに喋ることもできなくなった彼女。
しかし丸一日が経過し、五月は自分の見たものを「証言」できるほどに回復していた。
己の最も大事なモノを理不尽に奪われ、それでも決して、安易に狂気に逃げたりしない強靭な精神。
戦闘の技術も魔法の心得も無い彼女だったが、この種の「強さ」では、3-Aでも最強なのかもしれない。
現実に足をつけ、苦しみさえも真正面から受け止め、落ち着いて自分のやるべきことを把握している。

フード付きのマントで身を隠した茶々丸に急襲され、手刀の一撃でKOされてしまった五月。
しかし、意識を失うその瞬間、彼女は確かに見ていたのだ。襲撃者を恐れることなく、目で追っていたのだ。
フードの陰に隠れていた、その顔を。猛スピードで迫り来る、その顔を。
お客さんの顔なら、たとえ一度きりの来店であろうと決して忘れぬ五月である。
そんな彼女が、一緒に『超包子』の屋台をやっていた仲間の顔を見間違えるハズがない。
仕掛けた側は、暗い環境・顔を隠すフード・視認困難な速度、で誤魔化せると思っていたのだが……。

 ただ、私にもこれが茶々丸さん自身の意志だとは思えません。
 きっと、彼女にソレを強要した『誰か』がいるはずです。
「だ、誰アルか?!」
 分かりません。ただ、超さんやハカセではないでしょう。エヴァさんでもないと思います。
 恐らく、その『誰か』が、刃物を使って私の舌を切り取ったのではないでしょうか。

刃物を使って戦ったことはなかった茶々丸。なのに「切り取られていた」舌。
そこから導き出される、当然の帰結。
そして古菲は思い至る。エヴァの身内。茶々丸の身内。常に刃物を持ち歩く、小さな影の存在に――!



――那波千鶴は、病院にて真実の断片に遭遇した。それも、別々の2人の人物から。

相変わらず精神的なダメージが深く、ロクな会話のできぬあやか。
入院当初はクラスメイト全員が押しかける勢いだったが、一週間もすれば訪問客も減る。
それでも、毎日欠かさず1日3回、朝・昼・夕と通っていたのが、千鶴だった。
ただ、あやかの身の回りの世話を続ける。ただ、あやかの心身の回復を横から助ける。
ただ、ブツブツと漏れ出す要領を得ない言葉に、静かに耳を傾ける。

そして千鶴は、その根気強さで、あやかを襲った『犯人』について、多くのことを把握していた。
 犯人は、子供よりなお小さな体格でしかなかったこと。
 犯人は、あやかの師範よりなお優れた、合気柔術の達人であったこと。
 犯人は、人間とは思えぬ、耳障りな声と笑い声を持っていたこと――
いずれも強いて聞き出したものではない。断片でしかない言葉を掻き集め、少しずつ見えてきた事実。
急いて事実のみを求めんとする者には、決して到達することはできなかっただろう。
千鶴だから、到達できた事実なのだ。

「これって……『あの時』みたいなことが、起きてるのかしら?
 あのコタロー君が来た夜、『伯爵』とか名乗っていた人のような……?」

千鶴は、魔法の実在を知らない。知らないが、「何か不思議な裏の世界」があることは勘付いている。
そこに安易に踏み込むべきでないことも。関係者たちが、その事実を知られたがっていないことも。
どうやら今回の一連の事件も、同じ根を持っているらしい……と、千鶴は直感的に、確信する。
彼女は悩む。覚悟を決めて踏み込むべきか。それとも、もう少し様子を見守るべきか。

そして……その日、あやかの病室から帰ろうとした彼女は。
病院の入り口で、その日その時点での、最新の犠牲者とばったり遭遇する。偶然出くわす。
救急車で運ばれてきた、早乙女ハルナ。ストレッチャーで運ばれる、意識を保ったままの被害者。
「は……ハルナさん?! あらまぁ、大変!」
「えへへ……ヘマ打っちゃった。なんか、私のコトが邪魔だった奴が、いるみたいでさァ……!」



そしてハルナは語りだした。部分麻酔を受け、右手の緊急手術を受けながら、語りだした。
痛みより治療より、「自分の掴んだ真実を誰かに伝えること」を優先した。医師に怒られても曲げなかった。
そう――ゼロの予想より、遥かに早乙女ハルナは「強かった」のだ。
千鶴は悲惨な様子にも目を逸らすことなく、ずっとハルナの脇に付き添い、その想いを受け止めた。
ハルナは語った。聡美の研究の裏事情については、流石に伏せたが……
それ以外の全てを語った。自分の調べていたこと、自分の抱いた疑い。
そして何より、部屋を訪れた時の聡美の様子……とりわけ、茶々丸や「人形」の方をチラチラ窺う様子を。
茶々丸に呼び出され、取り残された踊り場で、「茶々丸以外の第三者」に襲われた自分の状況を。
……ここまで情報が出揃えば、魔法を知らぬ千鶴にも、全てが見える。全てが分かる。
那波千鶴は、覚悟を決めた。あやかとハルナ、そしてクラスのみんなのために、覚悟を決めた。


――朝倉和美と綾瀬夕映は、違う道を辿って同じ所に到達した2人である。

和美はさよから。夕映は千雨から。それぞれ獲得した、「笑う人形」「15年前の事件」というキーワード。
そして和美も夕映も、さよや千雨の知らぬ事実を知っている。
直接・間接に、聞いて見て会って、知っている。
エヴァンジェリンの従者、生きた人形・チャチャゼロの存在と性格。
そして、エヴァンジェリンの大まかな過去、彼女が麻帆良にやってきた時期についての情報。

ゼロの存在や人格を知る者にとって、「笑う人形」「人を襲う殺人人形」と言えば、ゼロのこととしか思えない。
エヴァが麻帆良に来た時期を知る者にとって、「15年前」という時期の一致は大きな意味を持つ。
そして、1つならば偶然の一致もありうるだろう。情報ソースが単一なら、疑いの余地もあるだろう。
しかし複数のキーワードが、全く別の所から出てきた情報によって、一致してしまえば……。

和美と夕映は、確信する。
アイツだ。エヴァンジェリンの所にいた、笑う人形。15年前に麻帆良に入り込んだ異物。
誰もが涙無しには聞けなかったネギの過去の話に、ただただ笑っていたサディスト。歪んだ感性の持ち主。
間違いない。都市伝説の伝える通り、次々と生徒を襲っていった犯人は――!



奇跡のように、あるいはユングの唱えたシンクロニティのように。
異なる経路・異なる理由によって、しかしほぼ同時に真実に到達した6人。
いや――『シンクロニティ』と呼ぶならば、真実を知った後に彼女らが取った行動こそが、ソレであろう。

「――で、何でアンタたち、揃いも揃って私の部屋に押しかけてくるわけ?!」
続々と寮の部屋を尋ねてきた6人に、明日菜は困惑を隠せない。
急な停電に、パニックに陥る学園。機能を停止した暗い寮。
そんな闇に覆われた混乱の中――刹那が、楓が、古菲が千鶴が和美が夕映が。
次々に戸を叩き、自分の到達した『真実』を語る。1人が語り終えるより先に、訪れるもう1人。
そして6人が6人とも、表現や内容こそ違えども、同じ結論。同じ犯人。
他の人の話を聞き、互いに大いに驚いた彼女たちだが……同時に彼女たちは、ますます確信を深めて。
互いに顔を見合わせ、頷き合う。

「何故と言われても……理由は1つでござるよ、なぁ?」
「そうねぇ。みんな同じことを考えているようだしねぇ」
「確かに、明日菜にも知っていて欲しいってのはあったんだ。でも、それだけじゃなくて……」
「明日菜さんに、お願いがあります。恐らくこれは、我々6人、全員の願いでしょう」
「これから私は――いや私たちは、エヴァの家に行くアルね。あの人形、ボコボコにして吊るし上げるアルね」
「けれど、出来ることなら……その場に、ネギ先生にも居て欲しいのです。
 ネギ先生の前で、チャチャゼロさんに土下座させてやりたいのです。謝らせてやりたいのです」

事件の初期から今までずっと、守れなかった生徒たちのことを悔やみ続けていたネギ。
無理を重ね、空回りを続け、調子を崩し、とうとう隔離までされてしまったネギ。
この一連の事件の終幕に、彼の存在は無くてはならない。このまま蚊帳の外で終ってしまうべきではない。
そう思うから、彼女たちは明日菜の所に立ち寄ったのだ。ネギの住んでいた部屋に来たのだ。

「明日菜なら、緊急用の連絡先か何か、聞かされてるだろ? 何か連絡取る方法、持ってるだろ?
 ネギ君を連れて、一緒にエヴァちゃんの家まで来てよ。みんなで、全部終わりにしちゃおうぜ――!」



――エヴァンジェリンのログハウスの前。停電から回復した街灯の明かりの中。
待ち受ける6人の前に、堂々と出てきたエヴァ、茶々丸、チャチャゼロの3人。
6人は鋭い目でゼロを睨みつつ、小さな声で囁きあう。

「こちらから動くのはネギ坊主の到着を待ってから、という話ではなかったでござるか?!」
「向こうから出てきてしまったんだ、仕方ないだろう。よもやこの場で見過ごすわけにも行くまい」
片目を開き、隣の刹那に囁く楓。硬い表情で返す刹那。
同じ所に辿り着いたとはいえ、実は6人の認識や目標が完全に一致していたわけでもない。
木乃香の信頼を裏切ったゼロへの怒りに燃える刹那は、やる気十分。すぐにでも斬りかかる構え。
対する楓は、双子の仇、とも思いつつも、冷静な戦力分析を欠かさない。
向こうは3人、こちらも戦えるのは3人――果たして真正面から戦っていいものかどうか。

他にも、犯人に一言文句を言ってやりたいと思っている千鶴。
一体さよに何をしたのかと小一時間問い詰めたい和美。
コソコソと隠れて襲っていた以上、犯人看破の事実を突きつけるだけで十分折れる、と推理した夕映。
古菲に至っては、バカイエローの名に恥じず「何も考えていない」。ただ怒りに握り締めた拳があるのみ。

ゼロが犯人だ、と見抜いた6人。ゼロを糾弾するつもりで押しかけた6人。
けれども、その考えの細部は、必ずしも噛み合ってはいなくて……。
そんな彼女たちを前に、ゼロは笑う。実に楽しそうに、嬉しそうに笑う。

「ケケケッ。オ前ラ、遅過ギルゼ。アト半日モ早ケレバ、全然状況モ違ッタノニヨ――
 イイダロウ。遊ンデヤル。思イッキリ、ヤッテヤルヨ!」


 18th TARGET  →  出席番号03番 朝倉和美  出席番号04番 綾瀬夕映
                出席番号12番 古菲  出席番号15番 桜咲刹那
                出席番号20番 長瀬楓 出席番号21番 那波千鶴