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「思ッタヨリ、効果ガ出ルマデ時間カカッチマッタケドナ。
 ソレマデニ、茶々丸ガ壊サレタラドウシヨウカ、ト心配ダッタンダガナ。
 シカシ結果ハ、俺タチノ、勝チダ」

――『別荘』内。
茶々丸は、もはや指1本自分の意志では動かせなくなったゼロを拾い上げ、頭に乗せる。
エヴァへの魔力供給が滞れば、自然とゼロの動きも鈍くなる。
もうゼロ自身には、軽口を叩く以上のことはできない。できないが……しかし、ゼロには茶々丸がいる。
魔力で動く『人形』たちを失い、掛け値なしに10歳の少女でしかなくなったエヴァは、ジリジリと下がる。
エヴァの額には、脂汗。もうこうなってしまえば、エヴァの側には勝ち目はない。
まさか、ゼロ自身も動けなくなってしまうような、こんな捨て身の策を打ってくるとは――!
さっきベラベラと喋っていた15年前の話も、単なる昔話などではなかったのだ。
この結果を見据えての、勝算あっての『時間稼ぎ』だったのだ。

「――何故だ?」
「アアン?」
「何故、ここまでする?! 何が気に喰わないんだ、貴様はッ!」
過去3度あった、支配権を賭けての『決闘』。真剣ではあったが、ゼロはここまでの策を練ってはいない。
こんな必死な、一歩間違えば自滅が確定しかねない策など、使ったことはない。
もし万が一にも茶々丸が壊されていれば、動けぬゼロを生身のエヴァが小突いて終わりになっていたのだ。
エヴァはゼロの想いの深さを実感する。しかし理解できるのは想いの根深さだけで、その内容が分からない。
何がゼロをそこまで駆りたてるのか。問いかけるエヴァに、ゼロは答えず。
「……ヤレ、茶々丸」
「はい、姉さん」
「!!」
茶々丸が、エヴァンジェリンに飛びかかる。人間を遥かに超えた速度で、襲い掛かる。
反射的に合気柔術の技で受け流し投げ飛ばそうとするが――遅い。
魔力をほぼ完全に失った身体では、スピード・パワー共に足り無すぎる。
成人男性並みとまで行かずとも、せめて、中学生程度の身体能力があったなら――



「ぐッ!?」
人間の反射神経の限界を超えた速度で繰り出された、茶々丸の足払いに、エヴァは転倒。
その上に素早く覆い被さる茶々丸。文句なしのマウントポジション。大の大人でも脱出困難な体勢。
そのまま、茶々丸は拳を振り上げる。茶々丸の拳に、ゼロの叫びが乗せられる。
十数年の間、胸の内に溜め込んできた叫び。愛を知らぬ呪いの人形の、怒りの叫び。

「――何故ダト? 何ガ気ニ喰ワナイダト?!
 『サウザンドマスター』ト出会ッテカラ 今マデノ、オ前ノ全テガ許セネーンダヨ!」


――ナギへの執着も、エヴァが本気で彼を『下僕』にするつもりだったなら、ゼロも許したろう。
奴を襲い、奴の血を吸い、血族に加え真祖の『下僕』にしたのなら。
たとえ第一の従者の地位を譲ることになったとしても、ゼロは許しただろう。
けれど、エヴァはそうしなかった。口ではそれに近いことを言いながら、そんな真似はしなかった。
しまいには、真正面から決闘を挑み、逆に罠にハメられ、極東の島国の学園に縛られて……

それでも、ゼロは待った。主人が目を覚ますのを待った。ナギに愛想をつかすのを待った。
麻帆良学園転覆計画を途中で放棄して、長い待ちに入った。

3年待った。約束に反して、ナギは呪いを解きに戻ってはこなかった。
しばらくエヴァは荒れたが、だがそれだけだった。文句を言いながら、なお学校に通い続けた。

5年待った。風の噂で、サウザンドマスターの死を知った。
しばらくエヴァは荒れ、泣き、悲しんだが……それだけだった。
呪いの研究を始め、『登校地獄』を解呪する素振りを少しだけ見せたが……じきにやめてしまった。

とうとう15年、待った。ゼロは待ち続けた。エヴァがこの学園に愛想をつかし、動き出すのを待った。
しかしエヴァは学校に通い続けた。動かなかった。何かを待ち続けるように、動かなかった。

そして今年。『先生』として赴任してきた彼の息子、ネギ・スプリングフィールドに、エヴァは……



「馴レ合ッテンジャ、ネェヨ! 何ガ、『弟子』ダヨ!? 何ダヨ、アノ生温イ決闘ハヨ!?」
ドガッ。
ゼロの叫びと共に、エヴァの小さな身体に茶々丸の鉄拳が叩き込まれる。
魔力障壁さえ展開できない今のエヴァに、その衝撃はストレートに伝わる。
肋骨が折れる。鎖骨が折れる。見る見る頬が、腫れ上がってゆく。
「何度モ裏切ラレ! 何度モ絶望シ! 何度モ世界ヲ呪イ!
 ……コッチカラ聞キタイゼ! 何デアイツラト、仲良クヤッテルンダヨ?!」
ドガッ。ゴキッ。メキッ。
茶々丸は無表情なまま、拳を振るい続ける。やがて血が散る。折れた歯が飛ぶ。
15年前の、エヴァの自由を図っての学園転覆計画と違い、今回の一連の事件は、単なる憎悪によるもの。
エヴァが親しい3-Aの生徒への憎悪。エヴァが入れ込むネギへの憎悪。エヴァ自身への憎悪。
「オ前ノ味方ハ、俺ダケダ! ドコマデ行ッテモ、俺ダケダ!
 オ前ガソウヤッテ、俺ヲ作ッタンダ! オ前ガ誓ッタンダ! 裏切ッタノハ、オ前ノ方ダ!」
ゴスッ。グチャッ。ドグッ。
嫌な音を立てて、エヴァの身体が軋む。拳の形に、凹んでいく。
エヴァの死は、ゼロ自身の死をも意味する。なのにゼロは攻撃を止めない。止めさせない。
泣き出しそうな声で、しかし泣くこともできぬ人形の身体。
機械的に規則的に叩き込まれる、茶々丸の拳。ガードしようとするエヴァの両腕は、とっくに折れている。
ヒューヒューと、危険な息を吐くエヴァ。
流石に生命の危険を察知した茶々丸が、攻撃を止める。
『再生』もままならない現状では、本気でエヴァも死にかねないのだ。だが、そんな茶々丸に、ゼロは。
「勝手ニ止メルンジャネェ。足リネェヨ、コンナモンジャ」
「しかし、姉さん、これ以上は……」
「ふ……ふはは……ハハハハ……」
揉め始めた姉妹の前で、攻撃の手を止められたエヴァは、やがて笑い始める。
思わず注視した姉妹の身体の下で、歯が折れ鼻も折れ片目も潰れた無惨な顔で、それでもエヴァは笑う。
虚ろに、笑う。聞き取りにくい声で、自嘲する。
「ハハハ! わ……私は、『過去の私』に殴られているのか……!
 ふふふ……ハハハッ! こいつは傑作だ、アハハハッ!
 参った! こいつハ参った! ハハハハ! ゲフッ、ごほッ、あは、あはは、アハハハハハッ!」



満月の照らす『別荘』の上。
周囲に散らばる『人形』の残骸の中、エヴァンジェリンは笑う。泣きながら笑う。
因果応報。人を呪わば穴2つ。
遥かな過去、理解者なき己の身を呪って作った『絶対に裏切らない相棒』、チャチャゼロ。
それが今こうして、エヴァを責めている。
当時の想いを忘れ、人々と交わり、『未来』へと進もうとするエヴァを、過去に引き戻さんとしている。
――全てはエヴァが望んだこと。彼女が過去に、望んだこと。
エヴァは笑う。もうこれは笑うしかない。己の愚かさを、笑うしかない。
あの時、孤独に耐えかねチャチャゼロを「作った」のが悪かったのか。
それとも、己の分も弁えず、サウザンドマスターに恋してしまったのが悪かったのか。
エヴァには分からない。分からないながら、笑い続ける。
己の失敗と敗北、全て受け入れるしかなくって、ただ、笑い続ける――!


――エヴァのログハウスの地下に、光が灯る。
転送の門を通り外界に出現した3人。エヴァンジェリン、茶々丸、そして、チャチャゼロ。
「停電ハ終ッテイルヨウダナ?」
「はい、姉さん。システムの回復を確認。どうやら侵入などの事実はまだバレていないようです」
「エヴァンジェリン、身体ノ調子ハドウダ? 問題ナイナ?」
「……ああ、ゼロ。『再生』は全て完了している。何の問題もない」
ドカッ。
傷ひとつない綺麗な顔に戻り、不機嫌そうに答えたエヴァンジェリンを。
チャチャゼロは飛びあがって、殴り飛ばす。手にした巨大なナイフの腹で、思いっきりぶっ叩く。
無様に床を転がるエヴァの身体。チャチャゼロはナイフを担いで、エヴァを見下ろした。
「俺ノコトハ、『マスター』ト呼ベ、コノ阿呆ガ。身分ヲ弁エロ。言葉遣イヲ考エロ」
「…………」
「何ダヨ? 文句アンノカヨ? 貴様ナンゾ、俺様ノ『魔力タンク』デシカネェンダヨ!
 ソレモ、無能デ呪イニ捕マッタ、全然使エネー『魔力タンク』サ!」
「…………」
「分カッタカ? 分カッタラ返事ヲシロ」
「……分かりました、『マスター』。今後は注意します……」



「あの」エヴァンジェリンが、苦々しげな表情を残しつつ、ゼロの前で膝をついて頭を下げる。
逆転した主従。新たな呪縛に、強烈に捕らわれたエヴァ。
今の彼女は、もはやチャチャゼロの主人などではない。
チャチャゼロに魔力を供給し続けるための『魔力タンク』。チャチャゼロに使える従者の1人。
未だ『登校地獄』の呪いにより学校に通わねばならぬ身だが……しかしそれもそう長くはないだろう。
ゼロはすぐにでも、麻帆良を潰しにかかるつもりだった。学園を潰し、今度こそ自由を手に入れるのだ。

「魔力封印ノ結界モ、自由ニ弄レルヨウニナッタ。御主人モ茶々丸モ、支配シタ。
 モウ怖イモンナンカネーゼ! ケケケッ! ケケケケケッ! キャハッ、キャハハハハッ!」

エヴァンジェリンの頭の上、笑うチャチャゼロ。黙って従う従者2人。
地下室から階段を上がり、ログハウスの玄関の戸を開け、外に出て――

「――ナンダ、オ前ラ?」
エヴァンジェリンの家の前。ゼロたちを待ち構えていたのは――6人の人影。
真実に辿り着いた最後の6人。
 袴姿で刀を提げた、桜咲刹那。
 拳法着に身を包み構えを取る、古菲。
 忍び装束で巨大手裏剣を担いだ、長瀬楓。
 制服姿の3名。朝倉和美。綾瀬夕映。那波千鶴。
停電から復旧し、街灯の明かりに照らされた家の前。
彼女たち6人は、揃って鋭い視線でエヴァたちを、そしてチャチャゼロを睨みつけている――

「――チェックメイトです、チャチャゼロさん。貴方は、やり過ぎましたです」


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