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――まあ、一言で言えば、「かなり善戦した」と言ってやってよいだろう。

満月に照らされた、『別荘』の闘技場。
あちこち石の柱が崩れ床にも亀裂が入り、ピクリとも動かぬ人影が無数に散らばる。
チャチャゼロと茶々丸に倒された、エヴァの『人形』たち。
壊され散らばるその数は、優に30体を超えるが――

肝心のゼロは今、エヴァの目の前で『人形』4体がかりで押さえ込まれ。
茶々丸は、少し離れた所で、身体全体を魔法の氷の中に捉えられていた。
ゼロを見下ろすエヴァンジェリンは、服が破けて、半裸を晒している。しかし『再生』する身体に、傷はない。

「――15分、いや16分といったところか。思ったより、頑張ったな」
「グ、ギギギ……!」
「さっき見せた、人形繰りの糸で相手を切断する技は面白いな。アレがお前の『切り札』だったのかな?
 ……まあ、何にしても、もう終ったようなものだ」
エヴァンジェリンの予想を超えた奮闘を見せた、反逆の従者2人。
けれども、倒しても倒しても補充が現れる『人形』たちの前に。
触媒薬や増幅用アイテムを惜しげもなくつぎ込んだエヴァの魔法の前に。
こうして、叩きのめされてしまった。

「さて――もう反撃の手段は残されておるまい。さっさと素直になって、敗北を認め、謝罪しろ」
「……ケケケッ。『謝罪』ト キタカ」
絶体絶命、もはや状況は覆せぬ状態で、しかしチャチャゼロはなおも笑う。
押さえ込まれ動けぬ体で、首だけ上げて、エヴァンジェリンの顔を見る。
「ソノ様子ダト、俺ガナンデコンナコトシタカ、未ダニ分カッチャイネーヨーダナ。
 15年前ノコトニツイテモ――」
「じゅうごねん……まえ?」



――15年前。
サウザンドマスターに破れ、『登校地獄』の呪いを受け、麻帆良学園に捕らわれたエヴァ。
学校に通わねばならないことに、愚痴をこぼす主人の姿に、ゼロは、行動を起こした。
ゼロ自身の判断で。『悪の魔法使い』の従者らしい方法で。

夜の闇に乗じて、生徒を襲う。
魔力を封じられた主人、それに応じて大きく低下したゼロの身体能力。
著しく不利な状況の中、それでもゼロは生徒を襲い続けた。
罠を張り、策を巡らし、麻帆良学園女子中等部の生徒たちを、襲い続けた。

……それは、生徒を襲い始めてから、どれくらい経った頃だったろうか。
ある日、エヴァンジェリンは学園長の所から帰ってきた後、魔法の道具類を漁り始めた。
何やら大掛かりな、儀式魔法の準備を始めた。
『オイ御主人、何ヤッテンダヨ?』
『このところ妙な事件が多いからな。
 じじいに頼まれて、学園全体に監視用の『結界』を張ることになった』
『ソンナモン、出来ネーッテ言ッテ逃ゲレバイイダロ? 真面目ニ相手スンナヨ』
『そうもいかん。私が卒業するまで、この学園に消えてもらっては困るのだ。
 ナギのバカが、卒業する頃には帰ってくる、と言ったからにはな』
『…………』
『お前も――無茶はやめておけ。いくつかはお前の仕業だろうとは思うが、もうやめろ。
 現時点はともかく、いずれ私もフォローできなくなるからな。いいキリだろう』

その日以来、ゼロは生徒を襲うのを、やめた。バカらしくなって、やめた。
エヴァが、外敵侵入察知用の『結界』を完成させたから、ではない。
エヴァ自身が、麻帆良学園の存続を望んでいる、と知ってしまったからだ。
敗北し、望まずして縛られたはずのこの学園に、留まる気でいると知ったからだ。



「15年前ハヨ……俺ハ、コノ下ラネェ学園ヲ ブッ潰スツモリダッタンダヨ」
「…………!!」
押さえ込まれ動けぬ身体のまま、ゼロは語る。
15年前の連続暴行事件、『笑う人形』伝説、その真実を明かして、そして笑う。

「アノ頃ノ俺ニハ、手ッ取リ早ク生徒ヲ皆殺シニスルダケノぱわーハ ナカッタカラナ。
 シカシ、怪事件ヲ連発サセテ、『生徒モ守レナイ学校』トノ評判ガ立テバ……
 麻帆良カラ生徒ガ逃ゲ出シ、先生モ逃ゲ出シ、ソノウチ潰レルト思ッタノサ。
 ソウナレバ、御主人ハ自由ダ。縛ラレル学校ガナクナレバ、『登校地獄』ハ自然ト消エル」
「き、貴様……! そこまで……!」

エヴァンジェリンにかけられた、『登校地獄』の呪い。
その呪いの中には、術をかける段階で既に、登校を強いる学校名が組み込まれていた。
いくつもの学校をその懐に抱える麻帆良学園都市。中学校だけでもいくつも存在する。
それなのに、エヴァが毎年毎年飽きもせず、麻帆良学園中等部に通っていたのは。
学園都市内の別の学校に転校することもなく、何度も何度も通い続けたのは。
かけられた呪いが、『麻帆良』という学校名を指名していたからだ。
学園都市内にある『別の名前の学校』では、呪いの条件が満たされないからだ。

そして、この手の『何らかの行動を強いる呪い』というのは――
何らかの理由で実行が完全に不可能な状況になれば、自然と解けてしまう。
呪いの犠牲者本人は、それを意図した行動を取ることも封じられているが……しかし、従者なら。
主人とは独立した意志と判断、そして仮初めとはいえ独立した魂を持つ、チャチャゼロなら。

怪事件を起こし、生徒を傷つけ、逃げ出させて……最終的には、麻帆良学園の閉鎖にまで追い込む。
そして麻帆良学園そのものを消滅させることで、エヴァを呪いから『自由』にする。『解放』する。
――それが、15年前のチャチャゼロが描いたシナリオだった。



「……で、またお前はこの学園をひっくり返そうとしたのか?」
「…………」
エヴァはゼロを見下ろす。
足でチャチャゼロの頭部を踏みつけ、グリグリとなぶる。
「私が本当に、そんなことを望むとでも思ったのか?
 そんなことが、本当に私のためになるとでも思っていたのか?」
「……ギギギッ」
「答えろ。答えないと言うなら……このままその頭、踏み割ってやろうか?」
笑うゼロの頭を踏むエヴァの足に、力が篭る。ゼロの笑い声が、いびつに歪む。
今現在、エヴァンジェリンの体力は何もせずとも成人男性並み。
ましてや、意識して足に魔力を込めたりすれば……これはもう、象に踏まれているようなものだ。
チャチャゼロの頭が、メキメキ、と嫌な音を立てる。ゆっくりと、歪んでいく。
虚ろな目をした茶々丸は、魔法の氷の中。ゼロを押さえ込む『人形』たちも、主人の行為を止めようとしない。
このままゼロの頭が、クシャリと踏み潰される、と思った、その時――

――突然、エヴァの全身から、力が抜けた。

「――え?」
何の予兆もなかった、急な脱力。思わずバランスを崩し、その場に尻餅をつくエヴァ。
ゼロを押さえ込んでいた『人形』たちも、文字通り糸が切れた操り人形のように、その場に崩れ落ちる。
ゼロ自身も、動かない。ピクリとも動かない。いや、動けない。
「これは――『魔力』が、なくなったのか?!」
エヴァはそして、理解する。その鋭敏な魔法的感覚で、すぐさま感じ取る。
『別荘』の中では自由に使えるはずの『魔力』が、急に失われていた。
外界において、最も魔力が無い時期とほぼ同等の状態。ただの10歳の少女と同等の身体。
そして、魔力を失ったエヴァの目の前で……
茶々丸を覆い、捕らえていた魔法の氷が、砕け散る。
維持できなくなった『氷の棺』を内側から砕き割り、冷酷な戦闘マシーンが戦線に復帰する。
尻餅をついたエヴァと、ピクリとも動かないゼロの前で、茶々丸は感情のない声で呟いた。
「……『学園結界』へのシステム介入成功。マスターへの魔力封印の強化を確認。
 マスター、この戦い――我々の、勝ちです」



これと『同時刻』――『別荘』外。
学園都市は、唐突に発生した停電に、パニックになっていた。

「な、何が起こってるんだ?!」
「ブレーカーが落ちた?」
「だーッ! 作りかけのレポート、保存してねーのにパソコンの電源がーッ!」
「誰か来てー! エレベーターの中に、閉じ込められた人がー!」
……こんな騒ぎが、学園のあらゆる所で起こっているのである。
年に2回の学園都市メンテの際の停電のような、備えや予告あってのものではない。
学園の関係者は、すぐにその原因を探したが……調べても首を捻るばかり。
「なんか、電力が学園の『表』の方に回らず、別のところに回されてるようだが……?」
「これ、俺らには触れる権限ないじゃん。学園長に相談しないと」
非・魔法使いの関係者には、触れることのできないブラックボックス。
魔法先生たちでも、事情を知りコレを弄れる人間はほんの一握り。
しかし学園長は入院中、相互に連絡を取るための手段も停電によって著しく制限を受けて……

……茶々丸がやったことは、言葉にすれば簡単だ。
一連の吸血鬼騒動、最後のネギとの決戦。『魔力封印の結界』にハッキングを仕掛け、無効化した茶々丸。
あの時の、『逆』をやったのだ。
大量の電力を消費する『封印結界』に、さらに電力を注ぎ込み、結界を強化する。
エヴァンジェリンの魔力を封じる2つの呪いの片方を倍化し、『別荘』内でさえ魔法の使えぬ身体にする。
その電力を確保するため、麻帆良学園の『表』の方から電気を拝借、大停電を引き起こしていたが……
それによる混乱は学園関係者の動きを妨害し、回復までの時間稼ぎにもなる。
学園で10分も停電が続けば、それは『別荘』内では4時間にもなるのだ。ケリをつけるには、十分な時間。
葉加瀬聡美を使い、茶々丸に細工をしていたのも、全てはこのための準備。
下準備をさせ、いざとなれば茶々丸のアンテナを通し、無線で全ての仕掛けを発動できるようにしたのだ。
そして――『別荘』に入る直前に、起動。効果が発揮するまで、約1分弱。