MAGISTER NEGI MAGI from Hell

サプライズ

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negiijime2

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のどかは自分の代わりに大量の飲酒を強要され、その途中で倒れてしまった刹那を介抱していた。
最初はただ、辛そうにしていた刹那だったが、暫くすると様子がおかしくなる
「せつなさん・・・・!!大丈夫!?」
のどかが呼びかけても返事はなく、代わりにうわごとのように「寒い、寒い」と刹那はつぶやく。
店から毛布を借りて、羽織らせようとその体に触れると激しい心臓の鼓動が伝わって来た。呼吸も異常に早い。
急性アルコール中毒がどんな症状であるか、詳しい知識のないのどかだが、この状態が危ない事だけは理解できた。
「だ、誰か救急車呼んで!!このままじゃせつなさんが・・・!!」
彼女はすぐさま周りに呼びかける。

「ちょwww救急車はヤバイですよ。そんなの呼ばれたら僕クビになっちゃうじゃないですか」
ネギが飲んでいた梅酒を噴出し、料理を取ろうと体を目の前に乗り出していたアスナにぶっかけた。
「・・・って、ネギ君いたの?存在感なさすぎなんだけどw」
そう言ったのは美空であったが、周囲には突っ込んですらもらえない。
その反面、のどかには再び心ない言葉が浴びせられる。
「・・・・救急車とか大げさじゃない?せっかく楽しんでるのに冷めるんですけど」
「っていうかさっきからあんた、自分が飲みたくないから桜咲さん気遣ってるフリしてんだろ?」
「自分を庇おてくれたせっちゃんをダシに使うなんて酷いなー」
絶句するのどか。
(なんで・・・・みんな・・・こんなの絶対おかしいよ・・・・どうしたらいいの・・・?)
しかし、のどかは不安と怒りと困惑をなんとか抑え、そして決意を込めて口を開いた。

「・・・・わかりました。じゃあ、貴女たちが満足するまで飲みます!そのかわり、それが済んだらすぐ、救急車を呼ばせてください」
のどかが力強い口調でそう言うと、彼女の予想だにしなかったその言葉に『おお~!』と
ジーコ監督から巻の名前が出た時のようなサプライズの声が全体から漏れた。
「いや、だから救急車呼ぶこと自体マズいんですって。僕の立場を考えてくださいよ」
「ネギくんはちょっと黙っとき」
「はい、スイマセンでした」



強い口調でああ言えば、みんなわかってくれるかもしれない。
そう少しだけ期待していたのどかだったが現実は非情であり、彼女はドレミファイッキをやらされる事になった。
これは音階に見立てた8杯の量の異なるコップに注いだ酒を飲ませる、非常にハードなコールで
ビール1杯すらまともに飲めない少女にやらせるにはあまりにも過酷で無慈悲なものと言えた。
(こ・・・こんなの絶対ムリだよ・・・なんであんなバカな事言っちゃったんだろう・・・・
ううん!やるしかないんだ。せつなさんだって・・・私のためにあんなに飲んだんだから・・・)
のどかは自分のために死にかけているクラスメイトを救うため、勇気を振り絞り最初のグラスを手にする。
「ド~はドンドンイッキして~♪」
ビール、モスコミュール、ジントニック・・・
どれも比較的弱い酒だが、のどかにはどれもとてつもなく不味く感じる。
それでも気力で飲み続けるが、肉体は正直に拒否反応を示した。
視界が霞む激しい頭痛。飲めば飲むほど眼球と脳の血管がぷちぷちと切れているのではないかと思えてくる。
横隔膜がせりあがり、体内に入ってきた液体を胃液ごと押し戻そうとしてくる。それをなんとか自分の意思で押さえ込んむが
それにより、みぞおちを思い切り殴られたような激痛が襲う。
「ソ~は底までイッキして~♪」
次はいきなり20度を超える芋焼酎が出てきた。先ほどは口に入れた瞬間吐き出してしまった酒を、のどかは口にした。
(ううぅっ・・・・!苦しい・・・!でも・・・・飲まなきゃ・・・」
まるで溶けた鉄を飲み込むような気持ちでどかはそれを飲み続む。
彼女の顔は普段の地味ながら美少女と呼べる容貌は見る影もなく、顔中の穴から体液を垂れ流した無残なものだった。
最後に40度を超えるウイスキーを飲もうとした時、彼女はとうとう限界を向かえ、
口と鼻からウイスキーを噴水のように逆流させながら後ろ向きに倒れた。
「今の倒れ方やばくね・・・・?あの子自分が救急車乗るんじゃない?」
「うぅ・・・(ゲロが)もるです」



異常なまでのハイペースで進む飲みは刹那やのどかの他にも多くの脱落者を出していた。
トイレは男用も含め3-Aの生徒が便器を占拠し。中には店の厨房の流しに向かう者までいる。
「んー、なんか人が減ってきたなー?飲み残しだらけやん。みんなで協力して飲まんと別途料金請求されてしまうえー」
あくまでマイペースに他人に酒を飲ませ続けるこのか。
しかし、そんな彼女にその場に残った誰からともなく批判の声があがった。
「っつーか、アンタ人にばっか飲ませてないで自分も飲んだら?」
「そうそう、さっきから見てると大して飲んでなくね?」
クラスを裏で支配しているこのかに対して普段から不満、反感を抱いているものは少なくない。
彼女にはクラスメイト全員が過去なんらかの形で最低一回は酷い目にあわされていたのだ。
このかの護衛係が倒れた事と酒の勢いも相まってここぞとばかりに非難が集中する。
      • しかし、このかは全く動じない。立ち上がり、手始めに自分のグラスの酒を飲み干すと周りに『注げ』とアピールした。
(ドアホが・・・ウチとあんたら凡人を一緒にすんじゃないえ?)
その後このかは注がれ、手渡される酒をことごとくクリアしていった。
このかの飲み方は常軌を逸している。周りが何も言わなくなっても、手当たり次第に残った酒を飲み続けた。
ビールをピッチャーでイッキする。ウイスキーボトルを空にする。一升瓶の日本酒を飲み干す。
クラスメイトは驚嘆と畏怖の視線を無言で彼女に送るしかなかった。
(やれやれやね・・・ウチがちょい本気見したら、どいつもこいつも怖気づいて、案の定盛り下がったわー
こうなるってわかっとっから抑えて、飲ませる方にまわってたんに。それにしても、今日はひさびさに飲んだなー。
ま、ウチはどんな飲もうと平気やけど・・・ね・・・)
その直後、このかの思考能力は急激に低下し、彼女はいつの間にか意識を失っていた。



「すみません・・・お時間ラストオーダーになりますが・・・・・」
店の従業員が泣きそうな顔で訪ねてきた。
「えっと・・・・みんな。まだ飲みたいものある・・・・・・?」
従業員の近くにいたハルナが周りにそう訪ねるが、
他の生徒達は首を振るか「水」と答えた。
「もう結構です。・・・代わりにみんなに水をください・・・・」
従業員の安堵のため息が聞こえてくる。
「このかももういいよね・・・・・?って、このか!?」

そこには、死体のように蒼白な顔でまったく動きのなくなったこのかがいた。

酒に強い人間、というのは基本的にアルコールの分解速度が早いからである。
それゆえ、血液中のアルコール濃度を抑えることが出来るため、大量のアルコールを摂取しても激しく酔わずにすむのだ。
しかし、大量に一気飲みなどをした時は、その代謝が追いつかなくなってしまう。
同じ量のアルコールでも摂取に30分かけるか30秒しかかけないかで違うのだ。
自分は酒に強く、どんなに飲んでも平気だ。そう考えている人間がこの落とし穴にはまる。
このかもその例外ではなかった。
彼女が飲んだ量は本人の経験上はセーフティラインだったのだが、極めて短時間で飲んだ今回は違う。


「や、ヤバイ・・・・息してないよ・・・・」
「救急車!救急車!」
「今から呼んで間に合うの!?この時間混んでるっしょ!?」
今更ながらパニックに陥る生徒達。しかし、その時。
実際に世話になった事はなくとも、誰にでも聞き覚えのある音が近づいてきた。
「えっ・・・?救急車・・・・?ここじゃ・・・ないよね?」



その音は店のごく近くまで来た・・・という所で止まった。
「こっちです・・・早くしてください」
救急隊員を誘導する声。綾瀬ゆえのものである。
救急車は彼女によって30分程前に既に呼ばれていたのだ。
「ゆえっちが呼んだの・・・?それも二台・・・」
ゆえは黙ってうなずく。一台は刹那の、もう一台はのどかのために呼んだつもりだった。
しかし結局、二台の救急車は緊急を要した刹那とこのかをそれぞれ乗せて、病院へと向かう事となった。

のどかの手を握り、ゆえは泣いている。
「のどか・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさいです・・・」
とりあえず命の危険はない、二人を搬送した後念のため戻ってくる。と救急隊員に言われたが今なお苦しそうに呼吸をしているのどか。
(私にはこんな事しかできませんでした。同じ、図書館探検部なのに、私はのどかを助ける事もこのかを止める事もできませんでした。
何が友情イッキですか・・・・ばかです。私達は。・・・・最低です。私は)


「・・・・これはもう、間違いなく僕のクビ飛んじゃいましたね」

~fin ~
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