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たしかに超がいるのだが、超はさっきから自分の目を塞いで、体を丸くしてガタガタと震えている。
なにが超に恐怖を与えているのかはわからない。
ただ超がこんな様子では、まともに動く事すら出来ないだろう。
美空を叩き起こして援護させるという手もあるがどうせまた逃げるに決まっている。
それに補助に周ればそれなりにリスクは高い。
相当勇気がなければ出来ない事である。
そんな中、千雨が右手を背後に回してなにかやっている。
千雨の手には携帯電話。SOS通信でも送るつもりなのか。
しかしどうやら電話をするわけでもメールをするわけでもないらしい。
折畳み携帯電話は閉じられている。
彼女は誰にも気付かれないように自分の鞄から小さい鏡を取り出すと、それを後ろに回し、携帯電話のライトで光を反射し始めた。
光は窓を通り抜け、廊下の天井を照らしだす。とは言っても昼なので微かにしか見えないが、それでも十分である。
彼女は先ほど美空が校庭側のガラス窓に思いっきりぶつかったのを覚えている。
なぜあんなに勢いよくガラス窓にぶつかっておいてガラス窓は割れなかったのか。
原理などは全く分らないが自分の力では脱出不可能なのはこれではっきりとした。



そのために千雨が考えたのはモールス信号である。
確率はかなり低い。光が薄いうえに今は授業中。
だいたいモールス信号なんて読めるやつなんてほとんどいないだろう。
確率は2%。しかしなにも出来ない以上、その2%にしか縋るものはなかった。

「くっ…」
ナイフが右手の甲を掠る。
段々と古菲の防御地域が狭くなっていく。
いまでは頭と胸(臓)を守るだけで精一杯だ。
「か、楓!どうしたアルか!なんでこんなこと…」
反応はない。古菲の目の前にいるのは楓の格好をした殺人人形なのか?
違う。あれは楓だ。
いつも笑ってて、のんびりしてて、やさしい。先ほどまでそこにいた楓。
古菲は今、大切な友と殺し会いをさせられている。
生きるか死ぬか
弱肉強食
強い者が生き、弱い者は死んでいく自然の摂理。
古菲が今まで嫌と言うほど己に聞かせてきたものだ。
格闘家たる者、情けをかければそれ即ち死を意味する。
小さな兎にも全力をもって狩りをする虎のように格闘家も全力で相手に挑まなければならない。
しかし…。しかし足が前に進んでいかない。
手から段々と力が抜けていく。
古菲の体は知らず知らずのうちに悲鳴をあげていた。



「(…情けをかけちゃ駄目アル。動け…。なんで動かないアルか!)」
体の限界に気がつかない古菲。
しかも限界を情けをかけいるせいだと思い込み、明らかに苛立っていた。
もちろん楓も例外ではない。
ナイフを持つ両手の指からは出血し、楓の目の前では床が紅い水玉模様をつくっていた。
心理を追い込まれ、体力の限界にも気付かない古菲。
もう勝負は見えていたのかもしれない。


………ドクッ………
………ドクッ………ん?……
…ドクッ……生きている…ドクッ………

気がつくと自分は机の上でうなだれていた。
首が動かない。何かが首に刺さっていて動かすと強烈な痛みが走る。
首に刃物が刺さってて生きているのが奇跡だ。
おそらく傷が浅かったのだろう。
だが死ぬ。自分でもわかる。自分はあと30分もしないうちに地獄に墜ちる事になるだろう。
怖くはない。死ぬ事よりも怖い事など生きてるうちに何度もあった。
ただ悔いがある。自分はまだしなければならないことがある。
まだ…

古菲の手からカーテンが落ちていく。
古菲の息は明らかにあがっていた。
「(そんな…、体が動かない…。)」


肉体、精神ともどももう限界のようだ。
古菲の指はもうカーテンを拾う力もなくなっていた。
「(………)」
もう自分への怒りしか沸かない。
担任の教師の師匠などと偉そうな事を言っといて、簡単に丸め込まれ、弟子を裏切ってしまった。
弟子は師匠の前から姿を消し、行方不明。
師匠も自分を師匠、いや格闘家と名乗るのをやめた。
それがせめてでも消えた弟子に謝罪となるのなら。
だがその結果、彼女は壊れた友を止めることも、一発殴ることさえも出来ないほどふ抜けになってしまっていた。
少女の明るい太陽は黒く荒んでいく。
あの頃の馬鹿だけどいつも明るく笑っていた彼女はもうそこにはいない。

心が抜けた古菲に対し、一方の楓はナイフが切れたのかこちらも攻撃が止まっている。
古菲のことをじっと見つめ、出方を伺っているようだ。

一人の少女、いや女性が古菲のもとへ歩んでいく。
もちろん女性は戦闘員でなければ武器も持っていない。
攻防が止んでいるとはいえ、丸腰で古菲に飛び込む事がなにを意味するのかこの女性はわかっているのか?
女性は古菲の前に立ち、屈んで古菲の顔を見る。
古菲の目には女性の姿など見えてはいない。

そこにあるのは自分への怒り。
弟子を裏切った自分への…、格闘家として恥ずべき事をした自分への…
怒り

バチンッ!

頬に走る強烈な痛み。そこには千鶴が透き通ったような目をしてこっちをじっと見つめていた。
「古菲、自分を責めちゃダメ!あなたは何も悪くない!」
千鶴の目が古菲の黒く荒んだ心に深く突き刺さる。

「「え?」」
クラス全員が己の目を疑った。
そこに立っていたはずの人形はいつの間にか消えていて、古菲の背後に亡霊のように立ちすくんでいた。
右手にはくない。
楓は右手を振り上げ、古菲の首筋めがけ、くないを振り落とす。
「キャアアア!!」
ブシッ…
血が飛び散り楓が紅く染まる。
くないは千鶴の背中を一閃してした。
古菲の目に映る紅い血。
なにかが壊れた音がした。

「千鶴!!」
「イヤァァァァァ!」
古菲の体からずれ落ちるように倒れていく千鶴。
目は空ろで危険な状態なのは一目でわかる。
千鶴は守ったのだ。自分を犠牲にしてクラスの最後の希望を。
それでも楓の攻撃は止まらない。
古菲の首を絶とうと横に一閃しようとする。
しかし古菲はこれを避けることはしない。
なぜなら結果はすでにわかっていたから