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桜子の言う通り、柿崎は駅の改札口の前で監視カメラのように歩いていく人々を観察していた。
他の連中がいないのは、おそらく途中で逃げたか面倒くさくなったのか。まぁそんなところだろう。
のどかは改札口の横で寂しく立っている柿崎に苦笑しながらも、行動を開始した。
のどかはまずわざと見つかるような場所に立ち、見つかった途端柿崎をおびき寄せるためわざと自分の後を追いかけさせたのだ。
おそらく逃げる弱者を追いかけ回し、捕まえてボコボコにするというシチュエーションに酔っているのか。柿崎は満面の笑みでのどかの後をつけている。
そんな柿崎を確認しながら、のどかはいつも人通りの少ない自転車駐輪所へと逃げ込んでいく。
この駐輪所はなんで造られたんだ?とみなが首をかしげるほど利用者が少なく、今では不良たちも近付かない危険な洞穴と化している。
中ではいけなきお薬が売買されている。指名手配犯がここで影を潜めて生活している。などという意味不明な噂がたつほどの場所だ。
(もちろん嘘だが)
こんな所に喜んで利用する人なんていないのだ。



わざと追い詰められるように逃げていくのどか。
さすがに体力の限界がきたのか、本気で息を切らして立ち止まってしまった。
後ろからニタニタと笑いながら歩いてくる柿崎。
まるでターミ〇ータ3だ。

「私から逃げるなんていい度胸じゃん。」
柿崎はジリジリとのどかを壁に追い詰めていく。
「アデアット」
「あ?」
のどかの手にはいつの間にか広辞苑のような本が開かれていた。
こうしてのどかは口を開く。

「柿崎さん、そういえば今朝先生が言っていたスリの犯人。誰だと思います?」
その瞬間、柿崎は明らかに動揺していた。
「実は私、その犯人知ってるんですよ。」
「ふーん、その犯人を私って言いたいんだ。」
動揺から一変、柿崎は勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
「でも証拠がない。私がやったっていう。」
私の勝ちだ!柿崎はきっとそう思っただろう。しかし
「証拠なんてありませんよ。」
「え?」
「私はただこれを周りに言いふらすだけですから。」



のどかはニッコリと微笑んだ。
「はぁ?ふざけんな!名誉棄損で訴えるぞ!」
普通ならそういう流れになるだろう。しかしのどかには自信があった。
「今度は脅しですか?別に怖くないですよ。」
「あ!?」
「それにあなたは訴える事は出来ませんよ。では。」
のどかはそれだけ言うと、そのまま背を向け帰ろうとする
「あ、てめー、オイ待て!」
しかし柿崎はそれ以上のどかを追う事はしなかった。
まるで心を読んでいるように自分の弱みに正確にナイフを刺して来るのどかに恐怖さえ感じてしまった柿崎美砂。
柿崎はのどかが消えてくれて正直ほっとしていたのだ。
「なんだよあいつ…。」
後にはのどかへの恐怖しか残らなかった。


その夜
研究所には超が独りでキーボードを叩いていた。
テーブルには写真が無造作に散らばり、パソコンの周りにはドリンク剤の茶瓶が転がっている。
プルルルル~♪プルルルル~♪
超はキーボードを打つ手を止め、電話を手に取った。
「ハイ、…決まったカ。…すまないネ。で、いつ来てくれるカ…。分かったヨ。これで安心して眠る事が出来るヨ。じゃあヨロシクヨー♪」
電話を置くと不敵な笑みを浮かべ、またキーボードを叩き始める超。



「フフフ…。これでエヴァさんも終わりネ…。」
この日、研究所のキーボードの音が止むことはなかったという。

θθθθθθθθθθθθθθ

コンコン…
「どうぞ…。」
ドアの向こうから力のない優しい声が聞こえてくる。
「失礼するよ。」
高畑はドアノブに手をかけ、ドアを開いた。
そこには机に向かってノートを広げて勉強している五月の姿があった。
「高畑先生…。」
思わぬ訪問者に驚く五月。
「君に大切な話がある。」
高畑は真剣な表情でそう告げた。
「…大事な…話…ですか?」
「そうだ。単刀直入に言おう。君のクラスメートのほとんどが殺された。」
「え?」
最初は冗談だろうと思っていたが、高畑の真剣な顔がそう思わせてくれなかった。
「生存者は君と木乃香君、あやか君、美砂君。行方不明が楓君とサジ君。そしてハルナ君だ。」
「え?じゃあ超さんも古さんも葉加瀬さんも…。」
「それだけじゃない。先ほどエヴァ君と茶々丸君の死亡も確認された。まぁこの二人を殺ったのは違う人物だろうけどね…。」
「そんな…。」
五月の目には涙が流れていない。
吐き気だけが五月を襲う。
急にクラスメートが死んだと言われて全てを一瞬で理解し整理するのは難しい。



「君には辛い話かもしれない。だが、私は知りたいんだ。何故君は学校へ行かないんだ?何故いつも君が大事そうに持っていた中華包丁の黒いケースがこの部屋にはないんだい?」
「え?なんでそんな事を…。」
「悪いとは思ったが、少し魔法を使わせてもらった。すまない。」
よく見ると部屋に置いてある物が所々移動していて、高畑の手には五月の学校鞄が握られていた。
「僕は知りたいんだ。この事件の始まりを…。」
手に持っていた鞄を床に降ろし、深々と頭を下げる高畑。
無礼の詫びと願いを込めて…

「なんで私は料理人になったかわかりますか?」
突然振られた五月からの問い。
高畑はしばらく考え、こう言った。
「僕は世界中を旅した事があるんだが、その時知り合った料理人はこう言ったよ。『食べるだけならそこらへんに植えてある大根を洗ってかじればいい。料理は人にその時だけの至福を与えるためにある。』
彼はわざわざ危険な戦地に飛び込んで、現地人のために沢山の料理を作ってきた。まぁそんなこと考えて料理作ってるヤツなんてほんの一握りだろうけど、君も彼と同じだろ?」
黙って聞いていた五月は高畑の顔を見て
「当たりです。」
とだけ呟いた。
「私は人の笑顔が見たくて今まで包丁を振ってきました。私の料理を食べる度においしいと言ってくれれば、それだけで私は満足です。ですから代金も材料費しか貰っていませんし、お客さんに不味いと言われたら、そのお客さんが今度は美味いと言ってくれるように、寝ずに努力しました。
でも、私の包丁が原因であんな事が起こって…私は私の包丁で人々を幸せに出来ないのなら、いっそのこと料理人なんて辞めてやろうと思いました。だから包丁も棄てました。あれを止められなかった私には料理人を名乗る資格なんてないですから…。」
こうして五月は語り始めた。
全ての始まりを…