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既に振るわれし刃


『いつだったかな……昔、ずいぶん昔、同じようなことが、あったような気が……』
「……さよちゃん?!」

月曜日の朝。
学園に呪縛された地縛霊・さよは、その身を震わせる。
相次いでクラスメイトに降りかかる事件。傷ついていく身体と才能――
さよは、額に手を当てる。その顔が、僅かに歪む。
『頭が、痛い……』
「はあッ!? ちょっ、さよちゃん、頭が痛いって……!?」
さよの漏らした呻き声に、和美は思わず聞き返す。
幽霊のさよが、痛みを訴える? そんなことが、果たしてあるのだろうか?
クラスで唯一さよと常時コンタクトの取れる和美でも、さよが「頭痛に苦しむ」姿など初めて見る。
さよの輪郭が、わずかにブレる。襲い来る激しい頭痛に、とうとう両手で頭を抱え込む。

思い出してはいけない。思い出してはいけない。思い出しては、いけない。
さよの心の中で、何かが叫ぶ。
得体の知れない恐怖を覚えながら、しかしさよには、記憶が溢れ出るのを止められない――


……相坂さよは、何十年もその席に座っていた。
新たなクラスメイトが入学し、成長し、卒業していくのを、何度も何度も繰り返し見守ってきた。
幽霊である彼女は、全ての人に見えるわけでもない。全ての人に声が届くわけでもない。
それでも、30人も生徒が居れば、霊感の強い少女の1人や2人はまず居るものである。
どの時代においても、彼女は誰かしら「友達」を見つけ、そして仲良く学園生活を送ってきた。
当初の相坂さよは、決して「誰にも見えない幽霊」などではなかったのだ。
――そんな彼女の目の前で、ある年、事件が起こる。

麻帆良学園は、実は不思議なほどに事件がない。
これだけの巨大学園だ、普通ならばある程度の事件・事故は起こって当然。
ケンカやイジメ、そこから発展する陰惨な事件や自殺なども、普通にあってしかるべきだ。
けれども――不思議と、麻帆良にはそれらがない。
学園祭で、その規模とバカ騒ぎの割に深刻なケガ人や死者が決して出ないように。
麻帆良学園はその日常においても、深刻なケガ人や死者は、ほとんど出ないのだ。

出ない、のだが……
その年には、その年に限って、実に不可解な、そして明らかに悪意に満ちた事件が起きていた。

女子生徒が、日の暮れた学園内で襲われる事件が頻発したのである。
金や持ち物が奪われることはなかったし、性的な暴行も受けていない。
犯人の動機は、さっぱり分からない。まるで生徒を襲い、ケガを負わせること自体が目的のような。
そして、狙われたのは何故か決まって麻帆良学園女子中等部の生徒だけ――
なお、この年の事件においては、別に特定のクラスが狙い打ちされるようなことはなかったのだが。

それでも、相坂さよが憑いている3-Aのクラスでも、被害者は続々と出ていた。
まるで生徒の特技を狙い撃ちしたような、悪質な被害が相次いでいた。
例えば――
油絵で数々の賞を取っていた絵描きの少女は、両目を潰された無残な姿で発見された。
演劇部をいくつも掛け持ちし常に主役を張っていた花形女優は、その顔を切り刻まれた。
天才と呼ばれたピアニストの少女は、その10本の指を全て切り落とされていた。
「遠当て」の秘技を使いこなす空手家少女は、返り討ちにあい両手両足をへし折られた。
学園でも有名な歌手だった女の子は、首を絞められ喉を潰され、その美声を奪われた。
ソフトボール部期待のエースは、ピッチャーの命である右腕を、折られ捻られ徹底的に破壊された。
さらにはこれと同時期に、急に行方不明となり、説明もなく姿を消した生徒が2名。急な転校が1名。
クラスの雰囲気は、一気に沈鬱なものとなっていた。

『私が犯人を捜してきましょうか……? 私が犯人を見て、皆さんが先生とかに伝えれば』
さよがそう言ったのは、自分にも何かできることがないかと思ったから。
その年、クラスに2人居た霊感少女たちは、しかしそんなさよを引き止めた。
それはちょっと危ないよ、と。もし襲われても、さよちゃんじゃ助けも求められないじゃん、と。
親友たちの気遣いに、しかしさよは笑った。
『でも、私もう死んでますから。そもそも触られることもないですし、私の姿も見えないかと……』

その日は、満月の夜だった。
親友たちには笑って答えた彼女だったが、夜の闇を1人で歩くのはやっぱり怖い。
ビクビク震えながら、彼女はそれでも勇気を振り絞って夜の道を歩く。
たまに暗がりで足元がよく見えなくて、すっ転んだりもしたりしたが。
相坂さよは、事件の犯人と遭遇できることを期待して、学園の中を歩き回る。

そんなさよの耳に――ふと、悲鳴が聞こえた気がした。
誰かが助けを求める声が、聞こえたような気がした。
さよは走る。さよは飛ぶ。木々の間を抜け、犯人を、犠牲者を見極めんと――
そして、彼女はたどり着く。そして、彼女は見てしまう。

月に照らされた、丘の上の噴水公園。不思議なほどに人の気配がない広場。
そこに力なく横たわる、血まみれの少女の姿。赤く染まった、麻帆良学園中等部の制服。
そしてその少女の背の上、巨大なナイフを担いだ、歪な体型の小さな影――
思わず息を飲んださよの方を、その小さな影はゆっくりと振り向き、そして笑う。
ガラス玉のような2つの眼球が、霊能力者にしか見えぬはずのさよの姿を、しっかりと捉える。

「……ケケケッ。今夜ハ大漁ダナァ。飛ンデ火ニ入ル夏ノ幽霊、ッテカ? キャハハッ!!」

15年前の、ある満月の夜のことだった。

 13th TARGET  →  出席番号01番 相坂さよ