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「な――!」
唐突に大地に飲み込まれて消えた小太郎に、ライフルを構えていた真名も息を飲む。
真名の位置からは、何が起こったのかよく分からない。藪と下草に隠され、直接は見えない。
ただすぐに直感したのは、この場所が既に敵の掌中にあるということ。
「そういえば五月の荷物も足跡もなかった……迂闊ッ!」
真名は己の判断ミスを呪う。呪いの言葉を吐きながら、狙撃体勢を解いて周囲を見回す。
森の中にぽっかり開いた小広場、そこに倒れていた五月。
しかし考えてみれば、五月がこんな場所に来る理由はない。襲われたにしては持ち物もない。
他の場所で襲われ、無力化され、ここに運ばれてきたと見るのが妥当だ。
……何のために? 決まっている。真名や小太郎のような巡回中の「誰か」を惹きつけるためだ。
罠に誘う、餌とするためだ。
準備万端整えて誘い込み、巡回の者たちを返り討ちにするためなのだ。
ここに居続けるというのは、どう考えてもマズい。真名の顔が、蒼ざめる。

「一旦引くぞ、茶々ま――!」
撤退を叫びかけた真名は、そして咄嗟にその場を飛びのく。
一瞬遅れて飛来する、幾本もの銀色の光。真名の身体を掠める刃。
黒いボロ布に身を隠す「敵」が、閃光のように投げナイフを放ったのだ。
様々なナイフを自在に使い分けるゼロにとって、スローイングナイフもまた持ち技の1つ。
何本ものナイフが真名を捉え損ね、ドスドスと地面に突き刺さる。そしてその内の1本は……
「……しまったッ!」
バチバチと音を立てる、細長い鞄。結界弾ライフルに突き刺さる、小さなナイフ。本命の1本。
引き金を引けば暴発必至の危険な銃は、そして、その場で爆発を起こした。
真名の視界が、閃光に真っ白に染まる。一時的にではあるが、閃光に視力を奪われる。

何も見えない世界の中、悪意の気配が接近する。――ということは、茶々丸も倒されたのか?
慌てて拳銃を抜く真名、しかし何も見えぬ今の状態では、間に合わない。
薙ぎ払われた凶刃が真名の顔を捉え――白一色の世界は、闇に閉ざされた。
永遠の、闇の中に。


……満月の下。
横たわり気絶したままの五月。ようやく口からの出血は止まったようだ。
大の字に横たわり、天を見上げるような姿勢の真名。こちらもピクリとも動かない。
そんな広場に、茶々丸がゆっくりと近づいてくる。

「ターゲットの逃走を確認。単独での追撃は不可能と判断。我々の、完敗です」
「……茶々丸は無事なのか? コタローは?」
「私も片腕を失いました。出血しない自分の姿に、混乱した模様です。
 小太郎さんは…………死亡を、確認。落とし穴の中で、全身バラバラにされていました」

淡々と茶々丸は報告する。見れば確かに茶々丸の左手は途中からない。
途中からないが……しかしそれは実は、ロケットパンチのワイヤーを切って外しただけ。
ダメージなどと呼べるような怪我ではない。なんともおざなりなダメージの偽装。
しかし今の真名には、それすら確認できはしない。なぜなら、真名の傷は……
「そうか……。コタロー君には悪いことをしたな。彼こそ生き残るべきだったのに」
真名は諦めきった態度で、溜息をつく。
無防備な大の字で寝ていたのも、「殺したいならさっさと殺せ」という「敵」へのメッセージ。
にも関わらず、「敵」は真名にトドメを刺さずに立ち去った。
見逃してくれたのか、それとも生かしておいた方が残酷だと思ったのか。

真名の両目は、横一直線に走る刀傷によって、2つとも潰されていた。
結界弾ライフルの爆発に乗じて接近したゼロの、横薙ぎのナイフの一閃。
鋭い視力は、スナイパーの命。真名の最大の武器・『魔眼』の力の源でもある。
もう、彼女は再起不能だろう。高位の治癒術師だろうと、『魔眼』までは治せまい。
危険な仕事をあえて続けていた以上、いつかはこうなる可能性も覚悟の上だったが……
「……『彼』の顔をもう見れないことだけが、心残りだな」
真名は、胸元のペンダントを握り締める。その中の失われた顔を、思い浮かべる。
満月の下、龍宮真名は、己の敗北を、自分たちの完敗を受け入れる――


「……機械の腕、か。流石はハカセだな」
「まあ、そういう研究もしてましたからー。丁度いい機会かな、って……って、あれ?」
「そのサイボーグ技術、腕以外もあるのかな? だとしたら――」

――月曜日の朝。
ロボットの腕を装着して登校してきた聡美に、声をかけたのは。
両目を覆うように包帯を巻いた姿の、龍宮真名だった。
何も見えないであろうその状態で、しかし机などにもぶつかることなく、ごく自然に歩いてくる。
「だとしたら、『目』とかも作れるのかな。急に必要になってしまったわけだが」
「た、龍宮さん! それ、どうしたの!?」
「仕事で少し、ヘマしてしまってね。結局、両眼球摘出だよ。
 医者は入院しろとうるさかったんだが、出てきてしまったよ。クスリだけ貰ってね」
なんてことないかのように、微笑んでみせる真名。周囲のクラスメイトたちは、しかし言葉もない。
一方の聡美は、機械の腕を顎に当てて考え込む。
「ん~。実は感覚器って難しいんですよねー。生身の神経に伝える部分の変換が面倒で……。
 例えば茶々丸みたいにー、全部機械だったら簡単に常人以上の視力作れるんですけどー。
 特に目については、空間的余裕もないですし、脳神経に直接接続しなきゃなりませんし。
 今のところまるで目途立ってない状態ですー。今後の課題ですねー」
「そうか……まあ、どうせ『魔眼』は戻らんしな」
聡美の説明に、あっさり諦めてしまう真名。
彼女くらいの達人になると、周囲の「気配」を察知することで、日常生活くらいは苦もなくこなせる。
せいぜい、黒板や教科書が読めずに授業で困るくらいか。
これにしたって、クラスメイトの助けを得ればなんとでもなる……。
裏の社会の仕事人・龍宮真名は『死んだ』が、3-Aの一員としての真名は、普段のままだ。

「あー、みんな聞いてー!
 1限目のネギ君の授業、休みだってさー! 何か、緊急の職員会議があるとかで」
「えー!? ネギ君だけが今日は学校に来る楽しみだったのにー!」

日直の円が伝えた急な自習の知らせに、まき絵が不満げな声をあげる。
もうちょっと大騒ぎになってもいいこのニュースに、しかしクラスの反応は鈍い。

亜子は全身包帯グルグル巻きの格好で、自分の席に黙って座っている。
裕奈は何があったかまたも手首を切ろうとして、アキラに羽交い絞めにされて暴れている。
事件の被害者であるあやかと千雨は、未だ入院中。まだ退院の目途も立たない。
入院患者のリストには、美空と木乃香、五月が加わっている。いずれも詳しい説明はまだされていない。
のどかは今日もサボリ。カーテンを閉ざした暗い部屋に、引き篭もっている。
刹那は木乃香の病室にずっと泊まり込んだまま、授業にも出てこない。
それぞれ顔に傷を負ったチアの3人は、未だに冷戦状態が続いていて。険悪な空気を漂わせている。
千鶴と夏美の2人は入院中のあやかに加え、昨夜から「行方不明」の小太郎が心配で仕方ない様子。
そして、片腕がメカと化した聡美と、両目を失った真名。
エヴァは例によってサボリだろうか。にしては、茶々丸は人形を頭に乗せ教室に残っているが。

31人のクラスのうち、欠席8名。何らかの傷を負っている者7名。間接的影響もかなり大きい。
週末の土日の間に、倍ほども増えてしまったゼロの犠牲者。
一週間の間に豹変してしまったクラスの雰囲気に、和美は眉を寄せる。
ジャーナリストとしての直感が、「何かがおかしい」と彼女に告げる。
このクラスだけに、これだけ不幸が集中するのは、明らかにおかしい。絶対に偶然ではない。
……と、そんな和美の隣で小さな呟きが上がる。

『……なんか、この雰囲気、覚えがあるような気がします。前にも見た気がします』
「さよちゃん?」
『いつだったかな……昔、ずいぶん昔、同じようなことが、あったような気が…………』
それは、3-Aの教室にずっと存在し続けた、最古参の生徒の呟き。
幽霊・相坂さよは、そして遠い目のまま、額に手を当てる。彼女の輪郭が、少しだけ揺らぐ――

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