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チャチャゼロ残酷編12  後編

「……龍宮さんを狙うのですか?」
「アア。今ノウチニ潰シテオカネート、厄介ダカラナ」

――聡美の腕を奪った、その後。工学部棟の一角で。
サイボーグ手術のために運ばれていく聡美を見送った2人は、今夜の作戦を練っていた。
「今夜ハ満月。俺モ最大ノぱわーガ出セルガ……明日カラハ、ドンドン弱ル一方ダ。
 今ヲ逃セバ、倒スノハ難シクナルカラナ」
「……しかし、何故、龍宮さんを」
「神鳴流剣士ハ御嬢様ガ壊レテ一緒ニ壊レタヨウナモンダシ、巨乳忍者ハ留守ダシナ。
 ぼーやニツイテハ、後回シニスルトシテ……
 確実ニ敵ニナル奴ラノ中デ、アノすないぱーガ一番危険ナンダヨ。
 魔法先生タチニモ、毎晩雇ワレテルヨウダシナ」

月の満ち欠けに応じて上下するエヴァの魔力。その影響をモロに受けるチャチャゼロ。
最大の能力が出せる今夜、厄介な、そして確実に敵対する相手を沈めにかかる。
ゼロはあくまで、冷静だ。
残虐を楽しみつつ殺人を楽しみつつ、なお、冷静な判断力を失っていない。

「幾ツカ準備ヲシテオクゼ。トリアエズ、アノ銃ヲ失敬シテイコウ」
「姉さん、あれは明らかに不良品だと思われますが。危険です」
「イインダヨ。不良品ダカラ、イインダヨ。コノ場合ハナ」
ゼロが指差した先は、聡美が開発中だった新型結界弾ライフル。
威力を上げようとしたら暴発が頻発するようになってしまった、危険過ぎる欠陥品……!

――満月に照らされた、森の中の小広場。
木々の向こうに見えた「敵」らしき影。逃げ出す素振りを見せる「影」に、3人は瞬時に動き始める。

茶々丸が駆ける。先頭きって駆ける。大地を蹴り、ジェット噴射で突進する。
小太郎も駆ける。木々の枝を蹴りながら空中を駆ける。駆けながら、手の中に「気」を溜める。
真名は、その場を動かない。素早く武器を取り出す。茶々丸から渡された鞄を開きかけて……
「……いや、やめておこう」
一瞬の躊躇の後、細長い鞄を脇に置き自前のバイオリンケースを開け、愛用のライフルを構える。
その場に片膝をつき、茶々丸たちの肩越しに標的を狙う。
スコープの向こうに、黒いボロ布のような影が見える。逃げ出そうとしているのが見える。
身に纏っているボロ布のために、身体の輪郭もそのサイズもはっきりしない。
はっきりしないが、しかし動き回るソイツに狙いを定め、引き金を引くタイミングを計る。

「狗神・疾空黒狼牙!」
距離を詰める小太郎の手元から、闇が生まれる。闇のように黒い獣たちが飛び出していく。
10匹ほどの『狗神』が、円弧を描いて「敵」に襲い掛かる。進路を遮るように襲い掛かる。
手数が多い割に、直撃はない。咄嗟に動きを止めた「敵」の周囲に、次々と着弾。
――それで、構わなかった。中距離担当の小太郎の狙いは、最初っから足止め。その間に……
「ターゲット捕捉。攻撃を開始します」
茶々丸が一気に間合いを詰める。拳を握り締める。
小太郎が止める。茶々丸が殴る。そしてその後のフォローは、真名のライフル。
受け持ち距離を決めただけで、ほとんど作戦らしい作戦を決めてなかった3人ではあるが。
しかし熟練の3人は阿吽の呼吸で最善の手を選んでいた。最高の連携を決めていた。
――仲間の1人が、実は最初っから裏切っていたことさえ除外すれば。

「……プランA失敗」
「見リャ分カル」
茶々丸の拳が「敵」を捉える一瞬、交わされる短い会話。後ろの2人には聞こえぬ声。
そのまま殴り飛ばされる「敵」。あまりに軽く、遠くに飛ばされた以外、違和感は何もない。

――ゼロの立てた作戦は、お粗末な……いやシンプルなものだった。
「銃ヲ暴発サセルンダヨ。イヤ、暴発スル銃ヲ渡シテオク、ッテ言ッタ方ガイイカ」
ライフルに限らず、銃という武器が抱える根本的なリスクが、暴発である。
確率的には極めて低くはあるが、しかしどこまで行ってもゼロにはなりえないその危険。
ましてや、その銃が最初から欠陥品だったなら。
「見タ感ジ、コイツノ出力上ゲテヤレバ、ホボ100%暴発スルヨウニナルゼ。
 アノ眼鏡ハ暴発サセナイ方法デ苦労シテタケドヨ、逆ニ スルヨウニ仕込ムノハ簡単サ」
「しかし、どうやってこの銃を彼女に持たせるのでしょう。容易ではないと思われますが」
「ソコハ オ前ノ仕事ダロ。オ前ハ俺ト違ッテ、信用アルシナー」

そうして用意された、「必ず暴発する」結界弾ライフル。
もうほとんど爆弾のようなものだ。引き金を引かずとも、ちょっとした衝撃で破裂しかねない。
そんな代物を涼しい顔をして渡したのだから、茶々丸の演技力も大したものだ。

いや、この場合「演技力」という言い方は適切ではあるまい。
真名が指摘したように、茶々丸が人間とは根本的に異なる存在だからこそ、成功した詐術。
たとえ緊張しても、人間のように汗が滲むわけでもない。視線が泳ぐわけでもない。
戦闘モードで表情表現を省略した状態では、とてもその嘘に気付くことなどできない。
普段の茶々丸の生真面目さも、この場合幸いした。

……だがしかし、真名はその死のライフルを手に取らなかった。愛用のライフルの方を構えた。
別に茶々丸を疑ったからではない。結界弾ライフルを信用しなかったからでもない。
ただ単に、新しく手にしたライフルを試射する暇もなかったというだけだ。
どんな銃にも避けようもなく備わっている、銃ごとの「クセ」を把握してないことを嫌った彼女。
あるいは真名1人だけだったなら、連射しながら着弾のブレを確認し、修正を図ったかもしれない。
が、仲間と戦いを共にするこの場においては、一発の無駄が前衛の命に関わる。
威力よりも何よりも、信頼性と命中精度の方が大事、と判断したのだ。


小太郎の『狗神』で足止めされ、茶々丸の拳を受け、吹き飛ばされた「敵」。
自ら飛んだから実質のダメージはないが、しかし空中では自由が利かない。
偽装のボロ布が、風にはためく。そんな影に向け、真名のライフルが容赦ない追撃をかける。
飛来する弾丸を、辛うじて空中で弾く。構えたナイフと弾丸がぶつかり合い、火花が散る。
「へッ、やるやないか! せやけど……その状態でコレは避けられんやろ!」
空中で身体が泳いだ「謎の敵」に対し、今度は小太郎が突進する。
木々の間をジグザグに、『瞬動』の連続で距離を詰めながら、両の掌を向かい合わせる。
両手に『気』と『狗神』を溜めてゼロ距離で炸裂させる必殺技、『我流犬上流・狼牙双掌打』の構え。
臨機応変にやれと言われていても、やはり小太郎の本分は接近戦。迷うことなく距離を詰める。
「あやか姉ちゃんの、仇ッ……!」
森の中、地面に墜落した「敵」に向け、小太郎は逆巻く『気』の塊を渾身の気合と共に叩き付け――

――ようとして、唐突に姿勢を崩した。
「なッ!?」
崩れる足元。落ちていく身体。単純ながらも完全に予想外の罠に、小太郎は成す術もない。
落とし穴。かつてサウザンドマスターに痛い目に合わされた、ゼロたちにとっては因縁の罠。
その気になれば子供でも作れる簡単な罠だが、使い方次第では達人さえも手玉に取れる。
いくら小太郎が経験豊富でも、まさかこんな所にこんな仕掛けがあるとは思わない。
茶々丸と「敵」が実はグルで、わざと落とし穴の直前に向け殴り飛ばしたなど、分かるはずもない。
「うおッ!!」
そして穴の底に待ち受けていたのは、ネギやニンニクの海などではなく、命を奪う凶悪な――!

乱暴に言ってしまえば、犬上小太郎の存在が、ゼロたちの計画を狂わせたと言っていい。
巡回体制が変わったために加わった、予想外の戦力。想定外の存在。
小太郎が血の匂いに気付かなければ、もう少し五月の発見も遅れただろう。
発見が遅れれば、真名は結界弾ライフルの試射くらいしていたかもしれない。
試射し、暴発し、そこで決着がついていたかもしれない。小太郎の存在は、実は大きい。
……しかしその彼も、ゼロが「念のために」「第二の策として」用意しておいた罠に飲み込まれる。
ゼロの準備が、用意周到さが、小太郎の存在を上回ったのだ。