MAGISTER NEGI MAGI from Hell

真名編―第一話―2

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2人は頷く。
実際、茶々丸の示した報酬の額は、2人にとっても無視できない金額。
これなら多少面倒な守秘義務がついても構わない、そう思える。
「もっとも、我々は既に結んだ契約のせいで、規定の巡回コースからあまり離れられない。
 犯人に遭遇せずに終る可能性の方が、高いかもしれない――それでもいいな?」
「はい。私としても、駄目で元々と思っていますから。それで構いません」
契約、成立。仕事人である真名たちが約束した以上、生半可なことでは裏切ることはない。

「では――この武器を、龍宮さんに預けておこうと思います」
「何だ、これは?」
「特殊な銃です。私が使うつもりで持ってきたものですが」
茶々丸は肩から提げた細長い鞄を差し出しながら、淡々と語る。
言われるままに、真名は鞄の中を確認する。出てきたのは、長大なライフルのような銃。
「工学部の開発した、最新の結界弾ライフルです。これで『犯人』を拘束するつもりでした」
「へえ。コレってアレか? スクナに使ってた、アレの改良品か?」
「はい。非魔法的な処理によって出力を増し、標的の脱出を困難にしてあります」
「かなり重いな。私になら使えないこともないが。……しかし、何故お前自身が使わない?」
「チームで行動するのなら、私は前衛に回った方が適切だと判断しました。
 私の身体なら、絞首紐も関節技もほぼ無効です。斬撃に大しても強い強度を持ちます。
 そして万が一壊されても、私の身体ならば取替えが効きます。修理できます。
 ならば、この銃は龍宮さんに預け、狙撃に専念してもらうべきかと」
「なんとも冷静な判断だな――お前が味方で、本当に良かったよ」

かくしてチーム内の役割分担が決まる。
犯人と疑わしき相手と遭遇した場合、最前衛は茶々丸。最後衛は真名。
茶々丸が相手の攻撃を全て受け、あるいは押さえ込み、真名が結界弾を叩き込む。
小太郎は臨機応変に距離を変え、2人をそれぞれフォローする役割だ。


「それにしても……お前は味方としても『やりにくい』奴だな、茶々丸」
「どういう意味でしょう?」
「人間と気配が根本的に違うんだ。緊張や感情が、表情や気配からはまるで分からない」
「あー、それはあるなー」
「申し訳ありません。戦闘時には表情などの感情表現を抑え、容量を節約しているもので」
3人は巡回を続ける。森の中の道を歩きながら、話題はチームの新入り・茶々丸自身に及ぶ。
真名の言うことは実際一理あった。達人クラスともなれば、敵味方の「気配」が重要な要素になる。
しかしその中で、茶々丸1人が「異質」なのだ。ヒトの生理的な数々の反射を起こさぬその身体。
真名の「魔眼」をもってしても、茶々丸の真意が見抜けない。味方と分かっていても、その意図が読めない。
「まあ、コイツが『いい奴』であることは、よく知ってるがな……」
茶々丸の横顔をチラリと見ながら、真名は自分に言い聞かせる。
僅かな迷いが、戦場では命取りにもなりうるのだ――

「!?」
「どうした、コタロー君? 何か異常でも?」
「……血の匂いがする」
突如、足を止める小太郎。周囲を探るように鼻をヒクつかせる。
狗族とのハーフである彼は、並の人間よりは遥かに鼻が利く。その嗅覚が、異変を捉える。
クンクンと周囲を見回した後、顔を向けたのは、森の中。
「……あっちの方や。血の匂い以外、あまり何も感じへんけど……」
「――急ごう。既に犠牲者が出てしまったかもしれん」
真名の言葉に、頷く2人。まばらに藪が生える中、しかし何の苦もなく3人は森を駆けた。

――森の中。
ぽっかりと木々の開けた空間の中、その少女は倒れていた。
意識は無い。意識は無いまま、口から血を溢れさせていた。他に外傷らしい外傷はない。
時折、ゴフゴフと咳き込む様子を見せる。少し太めの身体が、ピクピクと震えている。

「な――」
「出席番号30番、四葉五月さんと確認。どうやら口腔内に何らかの損傷を受けている模様」
「ともかくうつ伏せにしてやろう。このままでは、自分の血に『溺れて』死ぬぞ」
驚く小太郎、淡々と対処に入る2人。
茶々丸が五月の身体を腹ばいに横たえ、血が自然に口の外に流れ出る姿勢にする。
真名が五月の口の中を覗き込み、眉を寄せる。
「……舌が、無い」
「はぁ!?」
「鋭利な刃物で切断されたようだな。
 抵抗の跡がないのを見ると、意識を奪ってからわざわざ舌を切り取ったようだ」
「ひ、ひでぇ……てか、そんなんして何が面白いん!?
 あやか姉ちゃんもそうやったけど――抵抗できん奴痛めつけて、何が楽しいんや!?」
裏の世界で色々と酷いモノを見てきたはずの小太郎が、怒りの声を上げる。
真名の表情も険しい。ただ1人、茶々丸だけが相変わらずの無表情。
舌を喪った五月、それはこの若き天才料理人にとって、才能の死を意味していた。

「――誰か居ます」
茶々丸が、淡々と告げる。森の奥、深い闇の中を見据えて、「それ」の存在を告げる。
はッと顔を上げる2人。こんな場所に居る「誰か」、それはもう決まっているようなものだ。
小太郎の鼻が、再び血の匂いを感じ取る。深い闇の向こうに、微かな匂いを感じ取る。
真名の魔眼が、深い闇を射抜いて標的の影を捉える。ボロ布のような装束を纏った、小さな影。

それは間違いない、五月の舌を切り取った犯人。連続暴行・殺人事件の、犯人の姿――!
それを見る茶々丸の表情は、全くの無表情だ。


 12th TARGET  →  出席番号18番 龍宮真名   犬上小太郎

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