魔弾と魔眼/凶刃と狂犬
……満月の下、歩く影が2つ。
片方は、バイオリンケースを片手に提げた、長身の人物。
片方は、学生服に身を包んだ、小柄な帽子の少年。
龍宮真名と、犬上小太郎だった。
片方は、バイオリンケースを片手に提げた、長身の人物。
片方は、学生服に身を包んだ、小柄な帽子の少年。
龍宮真名と、犬上小太郎だった。
「あーあ。何で2人で行動せなあかんのや。俺、1人の方が動き易いのに」
「本音を言えば私もそうだし、君も1人で大丈夫だろうとは思うがな。
依頼主の指示となれば、仕方ないさ。これも雇われの身の悲しい定めって訳でね」
ぶつくさと呟く小太郎に、真名はフッと笑みを浮かべる。
先日、美空とココネが返り討ちにあって以来、魔法先生たちの巡回はその体制を変えていた。
元々半人前の美空たちのみならず、1人でも十分な戦力となる先生たちも2人1組にしたのだ。
こうするとチーム単位の戦力は上がる一方で、巡回しきれぬ隙はさらに大きくなる。
その分を、魔法先生たちは「傭兵」たちを増強することで、フォローしようとしていた……
つまり、真名や小太郎といった「一応は部外者」の「雇われ人」たちの負担が増えることになる。
「本音を言えば私もそうだし、君も1人で大丈夫だろうとは思うがな。
依頼主の指示となれば、仕方ないさ。これも雇われの身の悲しい定めって訳でね」
ぶつくさと呟く小太郎に、真名はフッと笑みを浮かべる。
先日、美空とココネが返り討ちにあって以来、魔法先生たちの巡回はその体制を変えていた。
元々半人前の美空たちのみならず、1人でも十分な戦力となる先生たちも2人1組にしたのだ。
こうするとチーム単位の戦力は上がる一方で、巡回しきれぬ隙はさらに大きくなる。
その分を、魔法先生たちは「傭兵」たちを増強することで、フォローしようとしていた……
つまり、真名や小太郎といった「一応は部外者」の「雇われ人」たちの負担が増えることになる。
龍宮真名。学園都市内にある龍宮神社の1人娘でありながら、凄腕のスナイパーにして傭兵。
「報酬さえ貰えれば何でもするし誰にでもつく」と公言し、魔法先生たちに雇われることも多い。
犬上小太郎。今でこそ千鶴たちの部屋に「飼われている」身だが、元々は裏の世界の人間。
その幼さに見合わぬ豊富な実戦経験を持つ、優れた戦士だった。
「報酬さえ貰えれば何でもするし誰にでもつく」と公言し、魔法先生たちに雇われることも多い。
犬上小太郎。今でこそ千鶴たちの部屋に「飼われている」身だが、元々は裏の世界の人間。
その幼さに見合わぬ豊富な実戦経験を持つ、優れた戦士だった。
2人はこの状況下において、貴重な戦力としてカウントされていた。
自身は魔法こそ使えぬものの、しかし戦い方次第では生半可な魔法先生よりも強いこの2人。
ある意味、最強のタッグと言ってもいい。果たしてこの2人に勝てる者が、どれほど居るだろうか。
自身は魔法こそ使えぬものの、しかし戦い方次第では生半可な魔法先生よりも強いこの2人。
ある意味、最強のタッグと言ってもいい。果たしてこの2人に勝てる者が、どれほど居るだろうか。
月の下、2人は並んで歩く。
人気がほとんど無い他は、実に穏やかな月の夜。満月にうっすらと雲がかかる。
「しかし、やっぱ西洋魔術師はダメやな~。いくら見習い言うたかて、あんなあっさり……」
小太郎がバカにしたように言うのは、美空とココネの2人のこと。
流石に真名も、眉を寄せる。
「そういう言い方は良くないぞ? むしろ敵の方をこそ手強いと見るべきところだ、そこは」
「せやけどな……」
「?!」「!!」
人気がほとんど無い他は、実に穏やかな月の夜。満月にうっすらと雲がかかる。
「しかし、やっぱ西洋魔術師はダメやな~。いくら見習い言うたかて、あんなあっさり……」
小太郎がバカにしたように言うのは、美空とココネの2人のこと。
流石に真名も、眉を寄せる。
「そういう言い方は良くないぞ? むしろ敵の方をこそ手強いと見るべきところだ、そこは」
「せやけどな……」
「?!」「!!」
突然、会話の途中で、2人の顔は強張る。一瞬で仕事モードの顔つきになり、視線を前方に向ける。
いつの間にいたのか――そこには、1つの人影の姿。
黒いマントに身を包んだ、長身の人物――
「敵か!?」
「いや、あれは……」
身構える小太郎、相手を見極めようとする真名。
そんな2人の緊張にも構わず、その黒マントの人物は、ゆっくりと歩み寄って……
ハラリと、顔を隠すフードを外した。
「あれ、アンタは……!?」
「お仕事ご苦労様です。龍宮真名さん、犬上小太郎さん」
なにやら長い鞄を担ぎ、丁寧に2人に対してお辞儀をしたのは。
真名の同級生にして、エヴァンジェリンの従者の1人。
絡繰茶々丸だった。
いつの間にいたのか――そこには、1つの人影の姿。
黒いマントに身を包んだ、長身の人物――
「敵か!?」
「いや、あれは……」
身構える小太郎、相手を見極めようとする真名。
そんな2人の緊張にも構わず、その黒マントの人物は、ゆっくりと歩み寄って……
ハラリと、顔を隠すフードを外した。
「あれ、アンタは……!?」
「お仕事ご苦労様です。龍宮真名さん、犬上小太郎さん」
なにやら長い鞄を担ぎ、丁寧に2人に対してお辞儀をしたのは。
真名の同級生にして、エヴァンジェリンの従者の1人。
絡繰茶々丸だった。
「……追加の任務、だと?」
「はい。魔法先生たちの依頼に加えて、私からお2人に依頼をしたいのです」
満月の光の中、茶々丸の唐突な申し出に、真名と小太郎は顔を見合わせる。
2人の困惑をよそに、茶々丸は淡々と説明を続けていく。
「はい。魔法先生たちの依頼に加えて、私からお2人に依頼をしたいのです」
満月の光の中、茶々丸の唐突な申し出に、真名と小太郎は顔を見合わせる。
2人の困惑をよそに、茶々丸は淡々と説明を続けていく。
曰く――
どうやら魔法先生の一部が、エヴァンジェリンに嫌疑を抱いているらしい。
魔法先生の一部が、学園長の許しを得ずに動く可能性すらある。
この事態は、エヴァンジェリンの従者である茶々丸としては看過できない。
そこで、茶々丸もまた、独自の判断で犯人を追うことにした。
真犯人を捕まえ、その正体を暴くことで、エヴァの嫌疑を晴らしたい。
しかし、相手は只者でないことははっきりしている。茶々丸1人では困難が予想される。
ならば、誰かと協力すればいい。それもできれば、元々犯人と事を構える覚悟のある連中がいい。
巡回に参加し、しかしエヴァへの先入観のない、雇われ人2人ならなおのこといい―ー
どうやら魔法先生の一部が、エヴァンジェリンに嫌疑を抱いているらしい。
魔法先生の一部が、学園長の許しを得ずに動く可能性すらある。
この事態は、エヴァンジェリンの従者である茶々丸としては看過できない。
そこで、茶々丸もまた、独自の判断で犯人を追うことにした。
真犯人を捕まえ、その正体を暴くことで、エヴァの嫌疑を晴らしたい。
しかし、相手は只者でないことははっきりしている。茶々丸1人では困難が予想される。
ならば、誰かと協力すればいい。それもできれば、元々犯人と事を構える覚悟のある連中がいい。
巡回に参加し、しかしエヴァへの先入観のない、雇われ人2人ならなおのこといい―ー
「ただ――私の関与が知れると、せっかくの『犯人』も納得してもらえない恐れがあります。
疑い深い魔法先生たちは、我々がニセの犯人を用意する可能性すら考えるでしょう。
無駄に話が拗れる原因は、作りたくありません」
「……そりゃ、ちと考えすぎと違うか?」
「かもしれませんが、根拠のない話でもありません。
実例を挙げるのは控えさせて頂きますが、過去にも何度か似たようなトラブルがありましたし」
「ふむ。つまり――茶々丸に協力して貰っても、そのことを誰にも話すな、と?
成功しようが失敗しようが、お前とは最初から遭遇すらしなかったことにしろ、と?」
「龍宮さんは理解が早くて助かります」
疑い深い魔法先生たちは、我々がニセの犯人を用意する可能性すら考えるでしょう。
無駄に話が拗れる原因は、作りたくありません」
「……そりゃ、ちと考えすぎと違うか?」
「かもしれませんが、根拠のない話でもありません。
実例を挙げるのは控えさせて頂きますが、過去にも何度か似たようなトラブルがありましたし」
「ふむ。つまり――茶々丸に協力して貰っても、そのことを誰にも話すな、と?
成功しようが失敗しようが、お前とは最初から遭遇すらしなかったことにしろ、と?」
「龍宮さんは理解が早くて助かります」
つまり、茶々丸の「お願い」とは、こういうことだ。
今後、真名と小太郎の巡回チームに、茶々丸自身も加えて欲しい。
そして、茶々丸が関与したことについては、決して口外しないで欲しい――
今後、真名と小太郎の巡回チームに、茶々丸自身も加えて欲しい。
そして、茶々丸が関与したことについては、決して口外しないで欲しい――
「お支払いするお金は、依頼料というより、口止め料ということになるのでしょうか。
実際に犯人の捕縛に成功すれば、成功報酬も払わせて頂きます」
「こちらとしては戦力が増えた上に、収入も増えるというわけか――どう思う、コタロー君?」
「なんか複雑に考えすぎやと思うけどなー。でもま、金も援軍も、あればあるだけ助かるしな」
実際に犯人の捕縛に成功すれば、成功報酬も払わせて頂きます」
「こちらとしては戦力が増えた上に、収入も増えるというわけか――どう思う、コタロー君?」
「なんか複雑に考えすぎやと思うけどなー。でもま、金も援軍も、あればあるだけ助かるしな」