MAGISTER NEGI MAGI from Hell

真名編―第一話―

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魔弾と魔眼/凶刃と狂犬


……満月の下、歩く影が2つ。
片方は、バイオリンケースを片手に提げた、長身の人物。
片方は、学生服に身を包んだ、小柄な帽子の少年。
龍宮真名と、犬上小太郎だった。

「あーあ。何で2人で行動せなあかんのや。俺、1人の方が動き易いのに」
「本音を言えば私もそうだし、君も1人で大丈夫だろうとは思うがな。
 依頼主の指示となれば、仕方ないさ。これも雇われの身の悲しい定めって訳でね」
ぶつくさと呟く小太郎に、真名はフッと笑みを浮かべる。
先日、美空とココネが返り討ちにあって以来、魔法先生たちの巡回はその体制を変えていた。
元々半人前の美空たちのみならず、1人でも十分な戦力となる先生たちも2人1組にしたのだ。
こうするとチーム単位の戦力は上がる一方で、巡回しきれぬ隙はさらに大きくなる。
その分を、魔法先生たちは「傭兵」たちを増強することで、フォローしようとしていた……
つまり、真名や小太郎といった「一応は部外者」の「雇われ人」たちの負担が増えることになる。

龍宮真名。学園都市内にある龍宮神社の1人娘でありながら、凄腕のスナイパーにして傭兵。
「報酬さえ貰えれば何でもするし誰にでもつく」と公言し、魔法先生たちに雇われることも多い。
犬上小太郎。今でこそ千鶴たちの部屋に「飼われている」身だが、元々は裏の世界の人間。
その幼さに見合わぬ豊富な実戦経験を持つ、優れた戦士だった。

2人はこの状況下において、貴重な戦力としてカウントされていた。
自身は魔法こそ使えぬものの、しかし戦い方次第では生半可な魔法先生よりも強いこの2人。
ある意味、最強のタッグと言ってもいい。果たしてこの2人に勝てる者が、どれほど居るだろうか。

月の下、2人は並んで歩く。
人気がほとんど無い他は、実に穏やかな月の夜。満月にうっすらと雲がかかる。
「しかし、やっぱ西洋魔術師はダメやな~。いくら見習い言うたかて、あんなあっさり……」
小太郎がバカにしたように言うのは、美空とココネの2人のこと。
流石に真名も、眉を寄せる。
「そういう言い方は良くないぞ? むしろ敵の方をこそ手強いと見るべきところだ、そこは」
「せやけどな……」
「?!」「!!」

突然、会話の途中で、2人の顔は強張る。一瞬で仕事モードの顔つきになり、視線を前方に向ける。
いつの間にいたのか――そこには、1つの人影の姿。
黒いマントに身を包んだ、長身の人物――
「敵か!?」
「いや、あれは……」
身構える小太郎、相手を見極めようとする真名。
そんな2人の緊張にも構わず、その黒マントの人物は、ゆっくりと歩み寄って……
ハラリと、顔を隠すフードを外した。
「あれ、アンタは……!?」
「お仕事ご苦労様です。龍宮真名さん、犬上小太郎さん」
なにやら長い鞄を担ぎ、丁寧に2人に対してお辞儀をしたのは。
真名の同級生にして、エヴァンジェリンの従者の1人。
絡繰茶々丸だった。


「……追加の任務、だと?」
「はい。魔法先生たちの依頼に加えて、私からお2人に依頼をしたいのです」
満月の光の中、茶々丸の唐突な申し出に、真名と小太郎は顔を見合わせる。
2人の困惑をよそに、茶々丸は淡々と説明を続けていく。


曰く――
どうやら魔法先生の一部が、エヴァンジェリンに嫌疑を抱いているらしい。
魔法先生の一部が、学園長の許しを得ずに動く可能性すらある。
この事態は、エヴァンジェリンの従者である茶々丸としては看過できない。
そこで、茶々丸もまた、独自の判断で犯人を追うことにした。
真犯人を捕まえ、その正体を暴くことで、エヴァの嫌疑を晴らしたい。
しかし、相手は只者でないことははっきりしている。茶々丸1人では困難が予想される。
ならば、誰かと協力すればいい。それもできれば、元々犯人と事を構える覚悟のある連中がいい。
巡回に参加し、しかしエヴァへの先入観のない、雇われ人2人ならなおのこといい―ー

「ただ――私の関与が知れると、せっかくの『犯人』も納得してもらえない恐れがあります。
 疑い深い魔法先生たちは、我々がニセの犯人を用意する可能性すら考えるでしょう。
 無駄に話が拗れる原因は、作りたくありません」
「……そりゃ、ちと考えすぎと違うか?」
「かもしれませんが、根拠のない話でもありません。
 実例を挙げるのは控えさせて頂きますが、過去にも何度か似たようなトラブルがありましたし」
「ふむ。つまり――茶々丸に協力して貰っても、そのことを誰にも話すな、と?
 成功しようが失敗しようが、お前とは最初から遭遇すらしなかったことにしろ、と?」
「龍宮さんは理解が早くて助かります」

つまり、茶々丸の「お願い」とは、こういうことだ。
今後、真名と小太郎の巡回チームに、茶々丸自身も加えて欲しい。
そして、茶々丸が関与したことについては、決して口外しないで欲しい――

「お支払いするお金は、依頼料というより、口止め料ということになるのでしょうか。
 実際に犯人の捕縛に成功すれば、成功報酬も払わせて頂きます」
「こちらとしては戦力が増えた上に、収入も増えるというわけか――どう思う、コタロー君?」
「なんか複雑に考えすぎやと思うけどなー。でもま、金も援軍も、あればあるだけ助かるしな」

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