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「ソンナ顔スンナヨ。オ前ノタメダ、ッテ言ッタロ?」
「私のため、ですか?」
「アア。ココナラ、周囲ノ巻キ添エヲ考エズ、武器ヲ使エルゼ。みさいるモびーむモ、何デモアリサ。
 アッチノ屋根ノ下ニハ、オ前ノ換装用パーツモ揃エテオイタ。好キニ使イナ」
「…………!?」
「モットモ――コノ空間マデハ、御主人ノ呪イモ届カナインデナ。
 俺モ、全盛期ノパワーガ使エルワケダ。全力デ行カセテモラウゼ!」
茶々丸の見たことのない、チャチャゼロの「全盛期」。
彼女の知るゼロは、既に魔力を封じられたエヴァの下、不自由な体で軽口を叩くだけの存在。
『別荘』の中では自在に動いていたが、それでもこんな風に空を飛べたりはしない。
呪いの効果が無いというのなら、強敵なのは確かだった。

しかし――茶々丸の方にも、勝機は十分以上にある。そう思える。
無制限に許された兵器の使用。完璧に揃った換装用パーツの数々。見れば銃などの武器もある。
そしてコレが仮想現実ならば、「やりすぎても」ゼロを殺す心配はない。手加減をする必要がない。
言ってみれば、茶々丸もまた、自身も知らぬ「本当に本気の」戦闘ができるということだ。
現実世界では油断して一本取られてしまったが……今度こそ、負ける気がしない。

「……賭ケヨウゼ。
 コノ戦イ、勝ッタ方ガ『エヴァンジェリン・A・K・マグダウェル』ノ『第1の従者』ダ。上位ノ従者ダ。
 負ケタ方ハ、勝ッタ方ニ絶対服従。ドンナ命令ダロウト、必ズ従ウコト。イイナ?」
「……いいでしょう。
 私が勝ったら、貴方にはマスターとネギ先生の前で、洗いざらい全てを喋って貰います」
負けるハズがはい。勝てるハズだ。
数百年前のカビの生えた魔法生物如きに、最新科学の結晶たる自分が負けるハズがない――!
淡々とした、しかし決意と自信を感じさせる茶々丸の言葉に、ゼロは気味の悪い笑みを浮かべる。

「ケケケケッ。確カニ聞イタゼ。 デハ――イザ尋常ニ、勝負!」


――満月の下。幻想空間の中のエヴァの『別荘』は、酷い有様になっていた。
ミサイルの流れ弾で破壊されたオベリスク。巨大な刃ですっぱり切られたような『門』への橋。
巨塔はその上部が半分ほど崩れ去り、眼下の砂の小島はもはや跡形もない。
まるで戦争に巻き込まれたような有様。とてもたった2人の「姉妹喧嘩」の痕とは思えない。
そんな中、未だ収まり切らぬ硝煙と土煙の中、相手を見下ろしていたのは――

「……シミュレーション・プログラムに細工でもしたのでしょうか。納得できません」
「イイヤ、残念ダガナ。幻術ッテヤツデモ、ソコマデ器用ナコトハ出来ネーンダヨ。
 コイツハ正真正銘、俺トオ前ノ実力ヲ反映シタ、結果ナノサ」
崩れた塔の頂上。瓦礫に半ば埋もれるような状態の茶々丸。それを見下ろすチャチャゼロ。
ゼロの服には光学兵器に焼かれたのか破けた痕があったが、しかし身体の方は無傷。
一方の茶々丸は、実に酷い有様だった。
手も足も、それぞれ違う形で失われている。凍りついた右腕など、一体ゼロに何をされたのか。
矢尽きて刀折れ、いやミサイル尽きて手足折れ、もはや茶々丸に戦闘力は残っていない。
「今デコソ、妙ニ丸クナッチマッタガナ。
 アノ『闇の福音』ガ、役立タズノ人形ヲ従者ニシ続ケルハズガナイダロ。
 御主人ニ出来ル事ハ、俺ニモ出来ル。……『魔力』ガアレバ、ダガナ」

茶々丸は目撃していないが、実は最近一度だけ、チャチャゼロはこの力を発揮している。
修学旅行の戦い。
学園長の『尊い犠牲』により、一時的に学園から解き放たれたエヴァンジェリンと従者2人。
ゼロはその際、逃走した主犯格の天ヶ崎千草を、たった1人で捕縛している。
あの桜咲刹那も苦戦した、一流の呪符使い・千草。それをあまりにあっさりと、まるで子ども扱い。
相当な実力差でもなければ、ああは行かない。相当な実力者でもなければ――。

「……何故なのです?」
茶々丸が、敗北の確定した身体でゼロに問いかける。
トドメとばかりに振り上げられた巨大な刃が、一瞬止まる。
「何ガダヨ?」
「何故、あなたはマスターを裏切られたのです?
 この戦いに『第1の従者』の地位を賭けるあなたが、何故マスターを裏切りこんなことを?」
「……裏切リ? 裏切リダト?!」

  ……それは、原初の記憶。何百年もの昔、生まれた瞬間の記憶。
  暗がりの中、そして聞いた。綺麗な、しかし寂しげな、少女の必死な声。
  『目を開けてくれ、『チャチャ』。私の人形。
   ……ダメなのか? やはり失敗なのか? どこか術を、間違えたのか?!
   頼む、目を開けてくれ、チャチャ! 私にはもう、他に誰も――!』
  無機質の肌に落ちる、熱い雫。
  少女の感情がたっぷり詰まった、一滴の液体。頬を伝って、人形の口に入って……
  そして、小さな悪魔は産声を上げる。魂を篭められ、自我を得る。
  赤ん坊のような、騒々しくも心温まる泣き声ではない。まるで正反対の、嘲るような笑い声――

「先ニ裏切ッタノハ――『アイツ』ノ方サ!」
幻想空間の中。満月の下。
チャチャゼロの刃が、振り下ろされる。身動きできない、半壊状態の茶々丸に振り下ろされる。
血を吐くような、叫びと共に――!


……幻術が解ければ、そこは朝の光が遠くから差す、女子寮の裏庭。
刃を担ぎニヤニヤと笑うチャチャゼロの前に、茶々丸は、ゆっくりと膝をついて。
最大限の礼をもって、頭を下げた。


「……魔法先生たちも、本格的に動き出したようですね。
 あのガンドルフィーニ先生の動きは、組織的なモノとは思われませんが……。
 これからどうしますか、姉さん?」
「ソウダナ……。コリャ、オチオチ遊ンデバカリモ居ランネーナァ。
 御主人ノコトモ有ルシナ……!」

寮の裏庭で行われた、静かながらも激しい姉妹の戦いの後。さらに一箇所寄り道した後。
古い時計台の上、エヴァとガンドルフィーニの戦闘を見届けた2人は、作戦を練る。
ここまで場当たり的に起こしてきた、チャチャゼロの凶悪な悪戯。
しかし流石にそろそろ、ゼロの方にも作戦が必要になってくる。
ゼロの方にも、準備やら何やらが必要になってくる。

「フム……。トリアエズ、オ前ガドノ程度『使える』ノカ、見セテ貰オウカ。
 イザッテ時ニ使エネート、マジデ命ニ関ワルシナァ」
「……あれでも、まだ試し足りないのですか、姉さん……」
茶々丸の言葉が、少し震える。
仮面のように無表情な顔のまま、目からレンズ洗浄液がつぃっ、と溢れる。
固く握り締められ、微かに震える茶々丸の拳は――未だ乾かぬ血に、汚れていた。

人間の血ではない。血と共に付着するのは、茶・白・黒と、色とりどりの短い毛。
ネコの血液だった。茶々丸が餌付けし可愛がっていた、野良猫たちの血。つい十分前の惨劇。
あろうことかゼロは茶々丸の「忠誠」を試す踏み絵として、猫たちの命を要求したのだった――
そして、逆らうこと叶わぬ茶々丸は。

「ケケケケッ。野良猫ブチ殺サセタ程度ジャ、マダワカンネーカラナ。
 次ハモウチョット厳シイ『踏み絵』ニ行クゼ? 一石二鳥ダシナ。ケケケケッ!」

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