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姉妹間戦争


……少し、時間を遡る。

土曜の夜、美空たちが「破滅」と遭遇してしまっていた、ちょうどその頃。
暗い話題の続く麻帆良学園女子中等部の女子寮に、久しぶりに明るいニュースが飛び込んだ。

「亜子ちゃんが退院するですー!」
「明日の朝、寮に帰ってくるんだってー!」
騒ぎながら廊下を駆けてゆく小柄な姉妹。双子の鳴滝風香と、鳴滝史伽だ。
いつも陽気で、噂話も大好きな2人。この「明るいニュース」をみんなに伝えんと走り回る。

「あらあら、良かったわねぇ。あやかも早く元気になってくれればいいんだけど」
「……すまん、連日の『仕事』で疲れてるんだ。後にしてくれないか?」
「ふーん。良かったじゃん。亜子とはまたバンドやりたいな、美砂や桜子以外のメンバー探して」
「退院ネ……でも、西洋医学で何できるかネ? 匙投げただけと違うカ?」
「へー。ってことは亜子、月曜から学校に復帰するんだ。久々に明るい記事が書けるね~」
千鶴が、龍宮が、円が、超が、和美が、話を聞いてそれぞれに答えて。
風香はちょっとだけ顔をしかめる。
なんだか、みんなの反応がちょっと鈍い気がする。普段ならもっと、底抜けに明るい反応が来るのに。
「ふふふ……私が亜子のこと待っていれば、そもそも入院なんて……」
「わーッ! ちょっ、ゆーな、手首切るのはやめー!」
裕奈は話を聞いた途端にその場でリストカットを敢行、史伽は大慌て。
他にも刹那は心ここに在らずといった風、桜子は不機嫌、ザジは相変わらず無言無表情。
史伽が話しかけた相手は、ことごとくこんな調子。せっかくのニュースにも全然明るくならない。

それでも、双子は挫けなかった。それでもこの一言を添えるのを、忘れなかった。
「明日の朝、寮に戻ってくる時間に退院記念パーティ開くからねー! ちゃんと来てよー!」

和泉亜子退院記念パーティ。
それは、委員長の雪広あやかが、自身が入院するよりも前に提案していた企画。
双子以外の誰もが、すっかりそのことを忘れていた。相次ぐ事件に、すっかり忘れていた。
覚えていたとしても、仕切り役のあやかの入院で「なかったこと」になったと思っていた。
しかし……
「寮の中庭の使用許可、貰ってきたよー!」
「さっちゃん、お料理お願いするですー! 予算はこれくらいでー、立食形式でー、」
案外きっちりと段取りを進めていく2人。細かい手配まで含め、そつがない。
あやかの片腕として、これまでも宴会やパーティの準備などをサポートしてきた2人だ。
お祭り好きの姉と、片付け大好きな妹。2人が揃えば、あやか抜きでも十分に。
「欠席確定なのが~、いいんちょと、千雨ちゃんと~、あと何でか知らないけど本屋ちゃん」
「連絡取れない人、結構いるです~。このかさんと美空ちゃんの2人、どっか出かけたままですし~」
……この日この時点では、一般生徒には木乃香の件も美空の件も明かされていない。
だから彼女たちの認識では、この2人は「入院中」でなく「行方不明」。
だがともかくにも、彼女たちは連絡のつく限り、全てのクラスメイトに計画を伝えて……。

翌朝。
朝早くから、寮の玄関にはクラスの仲間たちが集まっていた。
のどかは部屋に引き篭もっていたしエヴァはサボっているようだし、楓は修行中で連絡不能。
刹那などは木乃香の病室に泊まり込んだきり、寮に帰ってこない。
けれどそれ以外は、入院中の4名を除けば全員出てきていた。
どこか暗い表情のネギ先生も、エヴァの家から来た茶々丸もいる。茶々丸の頭上には、例の人形。
みんなで『亜子、退院おめでとう!』との横断幕を手に持ち、みんなでクラッカーを用意して。

「あ、来たよ来たよ!」
「寮の中に入ったところで、みんなで飛び出してクラッカー鳴らすです~!」
病院まで迎えに行ったまき絵、その彼女と共にやってくる人影を見つけ、双子が指示を飛ばす。
待ち構える21人のクラスメイトと1人の子供担任。そして……


パン! パパパン!
「亜子、お帰り~!」「おめでと~!」「大変だったね~~!」
一斉に鳴るクラッカー。口々に語りかける面々。物陰から飛び出して、亜子を取り囲む。
みんな、笑っている。みんな、喜んでいる。みんなで、亜子が帰ってきたことを祝福する。
だが――当の亜子は。

「……見んといて。ウチのこと、そんなに、見んといて……!」

包帯の下から漏れる、か細い呟き。
クラスメイト総出の盛大な歓迎に、全身包帯だらけのミイラのような姿の少女は、身を強張らせ。
そのまま人の輪をくぐり抜け、自室に向けて走り出す。
みんなの視線の集中に耐えられぬとばかりに、逃げ出してしまう。
病院から亜子の荷物を抱えてきたまき絵は、クラスのみんなに申し訳なさそうな表情で。
「ごめんねー、みんなー。なんか亜子、パーティとかやるの嫌だ、とか言ってて……
 ……あ、待って亜子ー! 亜子ってばー!」
逃げ出した親友を追い、走り去るまき絵。
主役の早々の退場に、残されたクラスメイトたちは、しばし呆然。

「え~っと……これ、どうしよう? プレゼントとか、会場とか」
「……あれじゃ、無理言うわけには行かないねぇ」
 元気づけようと、お料理沢山作ったんですが。無駄になってしまいましたね。
「久しぶりに、明るい記事書けると思ったんだけどなー。こりゃボツだわ」
「誰よ、退院記念パーティなんて言い出したの……」
「ああっ、またゆーなが手首切ったー!」

暗いニュースが相次ぐ中、頑張って無理やり盛り上げたクラスの気分。
しかしその想いはすっかり裏目に出て。
双子は揃って、ショボンと黙り込む。
どこか遠くから、誰かが「ケケケッ」と嘲笑う声が聞こえてくる――

――結局、退院記念パーティは、そのままお流れとなった。
みんなで楽しんだ後ならともかく、こんなモノの後片付けは誰もやりたいものではない。
やりたくはないが――しかし、誰かがやらねばならない。
グズグズと泣きながら、たった1人で片づけをする史伽。
いや、食べ物関係は五月も手伝っていたが、しかし彼女の持ち場は主に厨房。
史伽は小さな身体をせいいっぱい伸ばし、1人で中庭に用意されていた飾りつけを外していく。
「う、うーん、と、届かないですー」
「…………私が取りましょうか、史伽さん」
唐突に背後から声をかけたのは、絡繰茶々丸。
頭の上に人形を乗せたまま、無表情でヒョイと手を伸ばし、史伽の取ろうとしていた飾りを取る。
「……片付け、お手伝いします。1人でやるより2人でやった方が早く終りますから」
「あ……ありがとうございますー。お姉ちゃんも逃げちゃって、ホントどうしようかと思ってましたー。
 ひどいんですよー、お姉ちゃんってばー。いっつも片付け私に押し付けてー!」
ウルウルと目を潤ませ、感謝を全身で表現する史伽。微かに微笑む茶々丸。
2人は手際よく仕事を分担し、気の進まぬ後始末を手際よく終らせて――。
――つまらないのは、茶々丸の頭上に居る、「もう1人」だった。

「何、余計ナコトシテンダヨ? サッサト帰ッチマエバ良カッタノニサ」
「そういうわけにも行きません。大事なクラスのイベント、大切なクラスメイトなのですから」
「ケケッ。クソ真面目ダヨナー、オ前。ツマンネー奴ダゼ。
 マァ、色々ト面白ェモン見レタカラ良カッタケドヨ。アノ亜子トカイウ奴トカ、裕奈トカイウ奴トカナ」
パーティの後始末を終え、寮から出た茶々丸の頭上で、チャチャゼロは笑う。
このところ茶々丸と行動を共にすることの多いチャチャゼロ。
そんなゼロの笑い声に、茶々丸はしばし、歩みを止める。
何かを思案するように、立ち止まる。
「……ン? ドウシタヨ?」
「……少し、お時間宜しいでしょうか? お話が、あります」