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「あ・・・あぁ・・・・」
血まみれで床に横たわる刹那と、それを見下ろすエヴァ。
「おい、いつまで寝ている気だ、さっさと立て」
そう言われても刹那は起き上がらなかった。いや、起き上がれなかった。
そもそもエヴァの言葉が耳に入っているかどうかもわからない。
「茶々丸。立たせろ」
「ハイ・・・マスター」
刹那を抱きかかえるようにして彼女を無理矢理立たせる茶々丸。
左顔面の額から瞼の上を通り頬まで走る、刹那の痛々しい裂傷に一瞬眉を歪めるが、同時に冷酷とも言える言葉を発する。
「刹那さん、しっかり立ってください」
しかし、刹那の足には全く力が入っていない。手を離されればその瞬間崩れ落ちるのは明白だった。
(痛い、苦しい、辛い・・・もう立てない・・・どうせ立ったってまた痛い目に逢うだけだ・・・・)
「チッ」
ビシィィィ!
エヴァは舌打ちをすると鞭で床を激しく叩く。そして、そのすぐ側にこのかの顔があった。
「んんっ!(ひぃっ)」
このかが猿轡の下でうめき声を上げる。
鞭の音にはもはや無反応だった刹那。しかし、このかの声だけは決して聞きのがさなかった。
「やっ・・・やめてください・・・お嬢様だけは、お嬢様だけは・・・」
呆けたような表情をしていた彼女の目に再び宿る光。
「ならばどうすればいいかはわかるな?いいか。面倒くさいから二度言わせるなよ。
貴様は私が少しでも満足するように精一杯機嫌をとるんだ。今度は当てるぞ」
ビシィッ!
再び、このかの眼前に鞭を振り下ろす。
「わかりました・・・わかりましたからぁ・・・」
茶々丸の腕を振り払うかのように、刹那は自分の足で立った。
(うぅ・・・このちゃん・・・ウチ負けないから・・・つよおなるって決めたから・・・)
全身を痛みだけではなく、凄まじい疲労感が襲う。あのまま寝ていられればどれだけ楽だっただろう。
しかし、今の刹那にそれは許されなかった。


自分の足で立ってこそいるものの、よろめき、今にも倒れそうな刹那。
「立っているのもやっと・・・と言った所か。今更また鞭で打ってもあまり楽しめそうにないな・・・・よし」
エヴァがそう言って人差し指を立てると、そこから噴水の様に水が飛び出てきた。
エヴァの意図がわからず、不安の目を向ける刹那とこのか。
「これはただの水ではないぞ?強い酸性を示す水だ。
とは言っても、普段なら肌にかかってもせいぜいヒリヒリする程度だろうが・・・今の貴様ならどうなるか想像はつくな?」
「ひっ・・・そんなのいやぁ!や、やめて!」
「むぐぅ~!!(やめてぇ~)」
そんなものを今の傷だらけの体にかけられたらどれほどの痛みが襲ってくるのか考えるまでも無い。
刹那は青ざめ、首を左右に振って拒絶する。このかも泣きながら、必死に『やめて』と訴えた。
「せいぜい逃げ回って私を楽しませろ」
砂時計が茶々丸の手で逆さまにされ、上に溜まった砂が再び落ち始める。
そして、エヴァの指先から水鉄砲のように、水が噴出された。
「ひっ!」
慌てて横に飛ぶ刹那。
「ほう、まだまだ動けるではないか」
愉快そうに笑い、刹那を狙って水を飛ばすエヴァ。
「やっ・・・!やめ・・・こ・・・怖いぃ・・・・」
あの水が傷口にかかれば恐ろしく痛い。という事は容易に想像がつくが、
その痛みが具体的にどれほどのものなのかは想像出来る範囲を超えていた。
先程、爪を剥がされた指を茶々丸に消毒された時の痛みが、既にこの世のものとは思えない、発狂しかねない痛みだったが
さらに刺激性の強そうな酸性の水を、指先のみならず全身くまなくつけられた傷に染み込まされたらどうなってしまうのか。
想像のつかない痛みには『覚悟』すら出来ず。その事は激しい恐怖となって刹那を襲った。

ぴちゃぴちゃっ!
「きゃああああっ!!」
刹那がかわした水が床に跳ね返り、数滴の飛沫が彼女の肌にかかる。
強酸性の水が傷口に染み込み、容赦なく刺激される痛覚神経。
(まともに・・・・浴びたら・・・し・・・死んじゃう・・・・!!)
刹那は苦痛と恐怖からますます顔を引きつらせた。
「う・・・・うぐぅ・・・・・!!」
傷口にレモン汁のような水が染み込む痛みは、徐々に強烈になる。
降りかかった瞬間の痛みも相当なものだが、その後の激痛はそれの比ではない。
「辛いか?私も吸血鬼らしい弱点のあった頃にはよく人間どもに聖水をかけられた。あれは痛かったぞ・・・・」
自嘲気味に笑った後、エヴァはさらに刹那に向けて放水を続けた。

刹那は必死に水を避け続ける。激しい動きのせいで、血が固まり、わずかにだけふさがりかけた傷が開かれ、
再び血が溢れてきた。当然苦痛はあったが、もはや気にならない。
傷口を焼こうとする水によってもたらされる苦痛と恐怖がそれをはるか上回っていたからである。
「ほらほら、逃げろ。足を滑らすなよ?下は水で濡れて大変な事になっているぞククク」
「ひっ・・・・うわぁっ・・・・・!」
幾度となく飛沫を浴び。苦痛の悲鳴を上げながらもなんとか直撃を避けてきた刹那。時計の砂も半分ほどなくなっていた。
なんとか逃げ切れるかもしれない・・・・そう思い始めた時、彼女を再び悲劇が襲う。
ドン・・・
「しまっ・・・・た・・・」
後ろの壁に退路を阻まれる刹那。その事は当然考慮していた彼女だったが、恐怖感からどうしても無意識のうちに
エヴァの水から少しでも多く距離を空ける形となり、それがこの結果を招いた。
咄嗟に横に飛び、なんとか水の直撃は避けるが、壁に当たった水は跳弾のように、
今までよりもさらに激しく刹那の体に降りかかる。
刹那の表情に絶望が浮かんだ。


「・・・!!!ぎゃああああ!!!・・・・!!!」
ワンテンポ遅れてじわじわと襲ってくる激痛。刃物を全身に突き刺され、体内でかき回されたかのような痛み。
反射的に肩を抱くようにうずくまってしまう刹那。そんな彼女にエヴァは容赦せず、次の一撃をお見舞いした。
びしゃびしゃっ・・・・
「・・・・・・・!!!」
刹那の全身に水が浴びせかけられ、激痛で思考力を失われていた刹那はその瞬間我に返った。
自分の身にとんでもない事が起こったのを理解したからである。
(え!?・・・・そん・・な・・・)
今でも痛い。死んでしまいそうに痛い。しかし、おそらく後一秒もすれば今を遥か上回る、
文字通り死ぬほどの痛みが自分を襲う事を理解した。

その一秒が長かった。こんな経験は以前にもあった。
今年の修学旅行をはじめ、これまでの彼女の人生で幾度かあった真剣勝負の死闘や命の危機。
その際、相手の太刀筋や、激しく動く自分の視界がスローモーションの様に展開され、
一秒の何分の一にも満たないであろう時間が異様に長く感じられたのだ。
この短い時間の中で刹那の意識に、今までの彼女の生涯が。そう長くはないがいろんな出来事があったその人生が。
これまで出会ってきた人々の記憶がフラッシュバックしてきた。
(お嬢様、ネギ先生、アスナさん・・・・・このちゃん・・・・!!)
楽しい事よりは辛い事の方が多かったかもしれない。でも幸せだった。そう、今の彼女は幸せだったのだ
(嫌だ、嫌だ、嫌だ、死にたくない、死にたくない、死にたくない・・・・・!!)
そして彼女にとっては長く感じられた時間が終わり、「それ」がやってきた。
「・・・・・あ・・・・・ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!」
もう何がなんだかわからなかった。全身の皮を剥がれたような。自分の全身が溶けていくような。
自分の肉体と精神が同時に消滅していくような。そんな苦しみ。


びしゃびしゃびしゃ・・・・
水は刹那の全身に浴びせかけられ続ける。刹那はのた打ち回り、結果、ますます全身の傷口に水は染み込む。
「ぐうお・・・・ごおおおおおお・・・・・・!!!」
もはや獣すらあげないであろう、悲鳴ともうめき声とも形容のできない、搾り出すかのような声。
「ハハハ、まるでジャミラだな」
残酷に笑いながら、刹那に水をかけるエヴァ。
「うがあああああ・・・・・!!ごぼおっ!!」
刹那は胃液を逆流させ、口と鼻からそれを吐いた。
瞼の上に走った傷のせいで閉じられていた左目が目一杯開かれ血涙を流した。
殆ど空なはずの膀胱からは再び尿が漏れていた。直腸が空でなければ脱糞も間違いなくしていただろう。
程なくして、刹那は白目を剥き。完全に動かなくなった。

「気を失ったか・・・、それとも死んだか?」
「いえマスター・・・生体反応はあります」
「そうか、どっちにしろ汚いから片付けておけよ、そのボロクズを」
エヴァは刹那に非常な言葉を浴びせ、部屋を出る。
(・・・死なないさ、『人間』ならおそらく死んでいる痛みだろうが、人外の貴様はそう簡単には死ねん。
私もそうだった。炭になるまで焼かれようと心臓を串刺しにされようと死ななかった。死ねなかった。
      • もっとも貴様は流石にそこまでされれば死ぬだろうがな・・・・)

目の前の光景にもはや、このかは怒りや悲しみを通り越した衝撃を受けていた。
(どうしよう・・・もう一日くらい待ったほうがええかもしれんけど・・・このままじゃ・・・・
せっちゃんが殺されてまうえ・・・・それに、せっちゃんだけやなく・・・)
もう一刻の猶予もないと感じたこのかは、賭けとなる行動に出ることを決心する。