「教【きょうし】」(2006/06/10 (土) 00:20:33) の最新版変更点
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「ふーっ、しんどい。わしもそろそろ引退かのぉ。」
学園長は持っていた判子を適当に放り投げ、イスの背にどっぷりともたれかかった。
机の上には書類のビルが築かれ、書類全てに判子が押してあるようだ。
コンコン
「ん?だれか来たのかの?どうぞ。」
「失礼します。」
扉が開かれ、そこに立っていたのは怪人 脳噛ネウロ。
「失礼します。」
ネウロはオリジナルな笑顔で学園長の前に歩み寄ると、礼儀よく頭を下げた。
「ふむ、見かけぬ顔じゃな。で、なんのご用件で?」
「はい、実は私を教員として、雇って頂けないでしょうか?」
「んー…、困ったのぉ…。実は今、わが学園では教員を募集していないのじゃ。すまんがお引取りを…」
「あのー、実はネギ先生からこれを頂いたのですが…。」
ネウロはまるで予測していたように、ポケットから一枚の封筒を差し出す。
学園長が封筒を開けるとそこにはネギのサインが綴られた、一枚の推薦状が出てきたのだ。
「ほぅ…、なるほど。わかりました。一応考えておきましょう。結果は後日、ネギ先生のほうから伝えよう。」
それを聞くとネウロは、
「ありがとうごさいます。」
と、一言だけ言って、部屋を去ろうとし振り返る。が、「ところで…、おぬしは何者かのぉ。返答次第ではただでは返さんぞい。」
ドアの前にはいつの間にか学園長が立ち塞がっていた。
「ほう…、人間のなかにも我が輩の正体に気付く輩がいるとはな…。」
ネウロの顔が怪しい笑みを浮かべる。
「では、まずは聞こう。この推薦状はどうやって手に入れた。」
学園長の声の圧力がビシビシとネウロに突き刺さる。
「ふん、我が輩をナメるな。そんな物、一目見れば簡単に書くことができる。」
しかし、そんな重圧にも、ネウロは全く顔色を変えない。
「では、おぬしの目的は何じゃ。」
今度は学園長の眉毛に隠れた眼が鋭くなっていく
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「我が脳髄を満たす『謎』を喰らいつくすためだ。」
学園長の顔がゆがむ。
「まじめに答えい!」
「ふん、真面目もクソもない。真実だ。」
「…」
どうやら腑に落ちないようで、学園長は不満そうに顔をしかめた。
まあ、当たり前と言えば当たり前だが…
「(ふむ…、どうやら嘘は無いようじゃが…。)」
嘘をついている者は、あまり相手に目を合わせようとはしない。
なぜなら動揺して目が泳いでしまうのを見られたくないからだ。
学園長は今までずっとネウロの目を見ていたが、逸らすどころか、それを嘲り笑うかのようにニヤニヤと嫌な笑みをうかべている。
「…では、『謎』とは何じゃ。」
「『謎』は『謎』だ。貴様は阿呆か?」
話が全くかみ合わない。
「ふーっ…、困ったのぉ。話が全くかみ合わん。」
「もういい加減諦めて、我が輩を教員とやらに採用しろ。」
ネウロもいい加減飽きたらしく、学園長の机の上に腰をおいている。
「ならん!おぬしは魔物じゃ。そう易々と教員にさせてしまったら上からなんと言われるか…。」
学園長もネウロが机の上に座ったのを見計らい、その場で腰を落とした。
するとネウロは、隣にあった書類の塔に目をつけると、その塔を平手で思いっきり倒した。
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「な…。」
書類が宙を舞う。
しかし、書類はそのまま地面には落ちず、あろう事か書類はジグソーパズルのように散らばり、学園長の周りに桜吹雪を巻き起こしている。
「いいことを教えてやろう。貴様の孫 近衛木乃香は神楽坂明日菜によって殺された。」
「な!?」
「そしてまた殺人事件が起こる。貴様らは無能だ。無能が何人集まろうが、事件解決には一歩も近づかん。」
学園長の顔がみるみる青ざめていった。
魔法教員が解けなかったトリックを、目の前の魔物はあっさりと解き、しかもその犯人が木乃香の親友。
しかも、この怪物はまた殺人が起こると予言する。
「な…、何を根拠にそんな事を…。」
「ふん、『謎』の気配を感じたからだ。」
「…」
学園長は自分なりにこの怪物を分析することにした。
まず『謎』とは、事件のトリックを示す。
そして、この脳噛ネウロという魔物は、トリックを解くことで自らの腹を満たす、言うなれば魔物の変種。
この怪物の眼には、普通の魔物のような闇が宿ってはいるが
、恐怖や狂気など人に害を及すような色はしていない。
逆にこの怪物の眼は複雑で、見ているだけで頭が爆発しそうになるほど入り組んだ迷路の眼。
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恐らくこの怪物には『謎』以外の物は全て興味が無いのだろう。
そして、この男はこの学園で起ころうとしている『謎』を喰うためにここにいる。
「ふむ、わかった。おぬしを教員として採用しよう。ただし、見張りをつける。それでいいな?」
学園長は腑に落ちないながらも、仕方なく了承してしまった。
「見張りか…。まあいい、誰が我が輩を見張ろうと、我が輩は『謎』さえ喰えればそれでいい。」
ネウロは手を勢いよく叩いた。
すると学園長を軸にして舞っていた紙吹雪が一斉に地に落ちる。
「それと、その見張りに言っておけ。我が輩の食事の邪魔をしてみろ。八つ裂きにしてやるとな。」
そう言い残し、ネウロは部屋を去った。
「まったく、たいした奴が来たもんじゃ。」
学園長は立ち上がり、自分の椅子に腰をかけた。
学園長の目の前に広がるのは、一面切傷だらけの壁と床に散らばった書類の残骸。
紙がコンクリートを傷つけるなんて事は聞いたことがない。
物質の強度を変えるなど出鱈目もいいところだ。
「わしもとんでもない爆弾をかかえてしまったようじゃ。」
老人は誰もいない部屋で独り溜め息をついた。
斜陽が学園長を淋しく照らす。
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