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切り裂かれた友情 謎の暴漢による、2人目の犠牲者。 それも武道の心得のある雪広あやかが、完膚なきまでに壊された―― 衝撃は、関係者の間をたちまち駆け巡った。 「もうッ、絶対許さないんだからっ! いいんちょまで襲うなんて!」 深夜の病院の廊下、収容されたあやかの病室の前。 集まっていた人々の中、分かり易く怒りを露わにしていたのは神楽坂明日菜。 この場に居るはずもない犯人を叩きのめさんとばかりに、ハリセンを振り回して怒る。 「俺のせいや……! 俺があんなこと言うたから、あやか姉ちゃんは……!」 拳を壁に叩き付け、怒りに震えるのは犬上小太郎。その彼を、長瀬楓が優しく抱きしめる。 「小太郎殿のせいではござらぬよ。そんなに自分を責めても仕方ないでござる」 「なあ、いいんちょの怪我って、ウチのまほーで治せへんの? 亜子ちゃんの傷も……」 恐る恐る言い出したのは、近衛木乃香。問いかけられた桜咲刹那は、難しい表情で。 「お嬢様のアーティファクトは、3分以内という制限がありますから。治癒魔術の方は……」 「ちと面倒な話になるんだがなー、傷痕消すのも関節治すのも簡単じゃねぇんだ、こりゃ」 刹那の説明を引き継いだのは、オコジョ妖精のアルベール・カモミール。 「そもそもヒーリング系ってのはな、実は2つの系統の魔法が合わさったモンなんだ。  対象の持つ自然治癒力を増強して、怪我とか病気とかを治しちまう系列と。  対象にかけられた一種の『呪い』を解いて、石化とか凍結とかを治す系列と。  で――傷を受けた直後に術をかければ、大抵は痕も残さず治せるんだけどよ。  『傷痕』になっちまうと、こりゃもう自然治癒力が発揮された後だ。増強しても仕方ねぇ。  一方、関節はな。ほら、骨折とか、ギプスしないと曲がってくっついちまうことあるだろ?  アレと一緒でよ、下手に術かけると間違った形で繋がっちまうんだ。シャレにならねぇ」 「ウチの魔力でも足りひんの~?」 「この場合必要なのは魔力(パワー)でなくて、複雑高度な術式(テクニック)だからなァ。  このか姉さんの場合パワーは桁違いだけど、技術はまだまだ見習いレベルだしよォ」 ---- カモの説明に、うな垂れる木乃香。暗くなる面々。 ここにいる誰もが、木乃香の力があれば怪我をしても大丈夫、と思っていた節があった。 どんな傷でも治せる2つのアーティファクトと、膨大な魔力に裏づけされた治癒魔術。 確かにどちらも、生死の縁にある人間をこの世に引き戻すには有効な能力だ。 けれど、今回の2人の犠牲者は。 命に別状はないものの、しかし取り返しのつかぬ傷を負わされた亜子とあやか。 膨大な魔力より、繊細な技術を要する種類の負傷。 まるで木乃香の能力の弱点を、悪意をもって狙い撃ちしたかのような―― 「…………くッ!」 「あ、ちょっとネギ!? どこ行くの!?」 黙り込んでいた彼女たちの担任、子供先生のネギ・スプリングフィールドが、身を翻す。 「……パトロールに行ってきます。ひょっとしたら、まだ犯人が現場近くにいるかも」 「でもそれって、他の魔法先生とか龍宮さんとかがもうやってるんでしょ?  アンタも休まないと倒れちゃうよ?! ちょっと、ネギってば……!」 制止も聞かず、俯いたまま足早に立ち去るネギ。その背を追って一緒に消える明日菜。 病院の廊下に残された人々は、大きく溜息をついた。 責任感の強いネギが動かずにはいられないその気持ち。痛いほど良く分かったからだ。 「ちょっとネギ、どうする気よ! ……ああもう、私も付き合ってやるから、待ちなさいって!」 暗い病院の廊下を駆ける、ネギと明日菜。 急ぐ2人はT字路の廊下を直進し、横道の陰にいた人影に気付かない。 宮崎のどか。先ほどの廊下での会話も、あらかた聞いていた彼女。 病院に駆けつけるのが遅れて、話の輪に加わるタイミングを失っていたのだが…… 「……そうなんだ。まほーでも傷は治せなくて、まだ犯人も分からないんだ……」 彼女は考える。自分にできることは何か、彼女なりに考える。 傷は治せない。パトロールに参加しても足手まとい。そんなのどかにもできること、それは。 「来たれ(アデアット)――! いいんちょ……雪広あやかさん。  すいませんけどー、ちょっと心を読ませてもらいますー。犯人について教えて下さい――」 ---- ――翌朝。日が昇ると同時に、あやかの一件は学園全体に伝えられた。 魔法関係者のみならず、一般人にも知れ渡ったこの事件。 3-Aの教室にも、激震が走った。特に衝撃を受けたのは―― 「……ちょっと待ってよ。いいんちょが襲われたのは、私のせいだって言うの!?」 「だってそーじゃん。なんかあの後、いいんちょちょっとおかしかったし」 「だからって!」 「落ち着きなって、美砂。桜子もいい加減に……」 「外野のクギミーは黙ってて!」 「でもくぎみんだってそう思うでしょ?」 「クギミーとかくぎみんとか言うなッ! 何度言えば分かるんだよッ、このバカどもっ!?」 「何ムキになってんのさ、この釘男さんは?」 「釘男でもねぇッ!!」 険悪なムードになっていたのは、いつも仲が良いはずのチアリーディング3人組。 視線を合わさず嫌味っぽい口調の桜子。青筋立てて今にも掴みかからんばかりの美砂。 そして、2人の間で宥め役に回っていたはずが、いつの間にか一番怒っている円。 あやかが亜子に贈った銅像についての、美砂の文句。それを本人に聞かれたこと。 桜子の硬い態度も、その時の猫砂の一件があるからか。 3人のケンカは、実はこれが初めてでもない。仲良しグループといってもケンカくらいする。 だが、今回のケンカはかなり拗れてしまって。 こういう時に仲裁してくれる委員長は入院中。3人の間の険悪な空気は、尾を引いた。 授業が淡々と進む。2人のクラスメイトを欠いたまま、学園生活はしかし普通に進んでいく。 暗い顔でブツブツ呟いている裕奈。徹夜のパトロールと早朝バイトで疲れ切った明日菜。 冷戦状態が続くチア3人組。無力感に苛まれる木乃香。木乃香を心配そうに窺う刹那。 エヴァは屋上でサボリ。その空いた机の上には、今日も茶々丸と一緒に来たゼロの姿。 そのゼロの方を時折チラチラ窺うのは、宮崎のどか。胸に抱きかかえた分厚い本。 不穏の種を孕んだまま、1日の授業が過ぎて―― ---- ――その日、チアリーディングの練習が無かったのは、幸いだったのか不幸だったのか。 いつも一緒の3人がバラバラに寮に帰ってきた時、その事件は発覚した。 「居ない……! クッキとビッケがどこにも居ない……!」 悲鳴を上げる桜子。クッキとビッケ、それは彼女が可愛がっているペットの猫たちの名。 普段なら帰ってきた桜子を部屋で迎えるはずの2匹が、消えていた。 「2人とも、何か知らない?」 「そーいや、あの子らいなかったねぇ。私が帰ってきた時にはもう」 「きっと桜子が嫌になって逃げだしたんじゃない?」 「うーっ……!」 今だわだかまりの解けない円と美砂は、気のない、嫌味交じりの返事をしたが。 目の端に涙を溜めた桜子の表情に、流石に態度を軟化させる。 「……仕方ないな~。一緒に探してあげりゃいーんでしょ」 「ホント、迷惑だけどねー。あたしらのせいにでもされたら、もっと面倒だし」 2人はブツブツ文句を言いつつも、桜子と共に2匹の猫の捜索を開始して―― ――女子寮が、夕陽に染め上げられる。 血のように赤い光に満たされた寮の裏庭で、「それ」は見つかった。 見覚えのある2つの首輪。地面に突き立てられた、巨大で凶悪なナイフ。 そしてその回りには、「かつて猫だったモノ」の肉片が2体分、切り刻まれて散らばって―― 桜子は、その前にがっくりと膝をつく。美砂も円も、流石にかける言葉が見つからない。 いつもは陽気な桜子が、震える声で背後の2人に問う。 「……これって、どういうこと?  ねえ2人とも。これって、いくら何でも、あんまりじゃない……?」  4th TARGET  →  07番 柿崎美砂 11番 釘宮円 17番 椎名桜子-[[後編へ>チア3人組後編]]
**切り裂かれた友情 謎の暴漢による、2人目の犠牲者。 それも武道の心得のある雪広あやかが、完膚なきまでに壊された―― 衝撃は、関係者の間をたちまち駆け巡った。 「もうッ、絶対許さないんだからっ! いいんちょまで襲うなんて!」 深夜の病院の廊下、収容されたあやかの病室の前。 集まっていた人々の中、分かり易く怒りを露わにしていたのは神楽坂明日菜。 この場に居るはずもない犯人を叩きのめさんとばかりに、ハリセンを振り回して怒る。 「俺のせいや……! 俺があんなこと言うたから、あやか姉ちゃんは……!」 拳を壁に叩き付け、怒りに震えるのは犬上小太郎。その彼を、長瀬楓が優しく抱きしめる。 「小太郎殿のせいではござらぬよ。そんなに自分を責めても仕方ないでござる」 「なあ、いいんちょの怪我って、ウチのまほーで治せへんの? 亜子ちゃんの傷も……」 恐る恐る言い出したのは、近衛木乃香。問いかけられた桜咲刹那は、難しい表情で。 「お嬢様のアーティファクトは、3分以内という制限がありますから。治癒魔術の方は……」 「ちと面倒な話になるんだがなー、傷痕消すのも関節治すのも簡単じゃねぇんだ、こりゃ」 刹那の説明を引き継いだのは、オコジョ妖精のアルベール・カモミール。 「そもそもヒーリング系ってのはな、実は2つの系統の魔法が合わさったモンなんだ。  対象の持つ自然治癒力を増強して、怪我とか病気とかを治しちまう系列と。  対象にかけられた一種の『呪い』を解いて、石化とか凍結とかを治す系列と。  で――傷を受けた直後に術をかければ、大抵は痕も残さず治せるんだけどよ。  『傷痕』になっちまうと、こりゃもう自然治癒力が発揮された後だ。増強しても仕方ねぇ。  一方、関節はな。ほら、骨折とか、ギプスしないと曲がってくっついちまうことあるだろ?  アレと一緒でよ、下手に術かけると間違った形で繋がっちまうんだ。シャレにならねぇ」 「ウチの魔力でも足りひんの~?」 「この場合必要なのは魔力(パワー)でなくて、複雑高度な術式(テクニック)だからなァ。  このか姉さんの場合パワーは桁違いだけど、技術はまだまだ見習いレベルだしよォ」 ---- カモの説明に、うな垂れる木乃香。暗くなる面々。 ここにいる誰もが、木乃香の力があれば怪我をしても大丈夫、と思っていた節があった。 どんな傷でも治せる2つのアーティファクトと、膨大な魔力に裏づけされた治癒魔術。 確かにどちらも、生死の縁にある人間をこの世に引き戻すには有効な能力だ。 けれど、今回の2人の犠牲者は。 命に別状はないものの、しかし取り返しのつかぬ傷を負わされた亜子とあやか。 膨大な魔力より、繊細な技術を要する種類の負傷。 まるで木乃香の能力の弱点を、悪意をもって狙い撃ちしたかのような―― 「…………くッ!」 「あ、ちょっとネギ!? どこ行くの!?」 黙り込んでいた彼女たちの担任、子供先生のネギ・スプリングフィールドが、身を翻す。 「……パトロールに行ってきます。ひょっとしたら、まだ犯人が現場近くにいるかも」 「でもそれって、他の魔法先生とか龍宮さんとかがもうやってるんでしょ?  アンタも休まないと倒れちゃうよ?! ちょっと、ネギってば……!」 制止も聞かず、俯いたまま足早に立ち去るネギ。その背を追って一緒に消える明日菜。 病院の廊下に残された人々は、大きく溜息をついた。 責任感の強いネギが動かずにはいられないその気持ち。痛いほど良く分かったからだ。 「ちょっとネギ、どうする気よ! ……ああもう、私も付き合ってやるから、待ちなさいって!」 暗い病院の廊下を駆ける、ネギと明日菜。 急ぐ2人はT字路の廊下を直進し、横道の陰にいた人影に気付かない。 宮崎のどか。先ほどの廊下での会話も、あらかた聞いていた彼女。 病院に駆けつけるのが遅れて、話の輪に加わるタイミングを失っていたのだが…… 「……そうなんだ。まほーでも傷は治せなくて、まだ犯人も分からないんだ……」 彼女は考える。自分にできることは何か、彼女なりに考える。 傷は治せない。パトロールに参加しても足手まとい。そんなのどかにもできること、それは。 「来たれ(アデアット)――! いいんちょ……雪広あやかさん。  すいませんけどー、ちょっと心を読ませてもらいますー。犯人について教えて下さい――」 ---- ――翌朝。日が昇ると同時に、あやかの一件は学園全体に伝えられた。 魔法関係者のみならず、一般人にも知れ渡ったこの事件。 3-Aの教室にも、激震が走った。特に衝撃を受けたのは―― 「……ちょっと待ってよ。いいんちょが襲われたのは、私のせいだって言うの!?」 「だってそーじゃん。なんかあの後、いいんちょちょっとおかしかったし」 「だからって!」 「落ち着きなって、美砂。桜子もいい加減に……」 「外野のクギミーは黙ってて!」 「でもくぎみんだってそう思うでしょ?」 「クギミーとかくぎみんとか言うなッ! 何度言えば分かるんだよッ、このバカどもっ!?」 「何ムキになってんのさ、この釘男さんは?」 「釘男でもねぇッ!!」 険悪なムードになっていたのは、いつも仲が良いはずのチアリーディング3人組。 視線を合わさず嫌味っぽい口調の桜子。青筋立てて今にも掴みかからんばかりの美砂。 そして、2人の間で宥め役に回っていたはずが、いつの間にか一番怒っている円。 あやかが亜子に贈った銅像についての、美砂の文句。それを本人に聞かれたこと。 桜子の硬い態度も、その時の猫砂の一件があるからか。 3人のケンカは、実はこれが初めてでもない。仲良しグループといってもケンカくらいする。 だが、今回のケンカはかなり拗れてしまって。 こういう時に仲裁してくれる委員長は入院中。3人の間の険悪な空気は、尾を引いた。 授業が淡々と進む。2人のクラスメイトを欠いたまま、学園生活はしかし普通に進んでいく。 暗い顔でブツブツ呟いている裕奈。徹夜のパトロールと早朝バイトで疲れ切った明日菜。 冷戦状態が続くチア3人組。無力感に苛まれる木乃香。木乃香を心配そうに窺う刹那。 エヴァは屋上でサボリ。その空いた机の上には、今日も茶々丸と一緒に来たゼロの姿。 そのゼロの方を時折チラチラ窺うのは、宮崎のどか。胸に抱きかかえた分厚い本。 不穏の種を孕んだまま、1日の授業が過ぎて―― ---- ――その日、チアリーディングの練習が無かったのは、幸いだったのか不幸だったのか。 いつも一緒の3人がバラバラに寮に帰ってきた時、その事件は発覚した。 「居ない……! クッキとビッケがどこにも居ない……!」 悲鳴を上げる桜子。クッキとビッケ、それは彼女が可愛がっているペットの猫たちの名。 普段なら帰ってきた桜子を部屋で迎えるはずの2匹が、消えていた。 「2人とも、何か知らない?」 「そーいや、あの子らいなかったねぇ。私が帰ってきた時にはもう」 「きっと桜子が嫌になって逃げだしたんじゃない?」 「うーっ……!」 今だわだかまりの解けない円と美砂は、気のない、嫌味交じりの返事をしたが。 目の端に涙を溜めた桜子の表情に、流石に態度を軟化させる。 「……仕方ないな~。一緒に探してあげりゃいーんでしょ」 「ホント、迷惑だけどねー。あたしらのせいにでもされたら、もっと面倒だし」 2人はブツブツ文句を言いつつも、桜子と共に2匹の猫の捜索を開始して―― ――女子寮が、夕陽に染め上げられる。 血のように赤い光に満たされた寮の裏庭で、「それ」は見つかった。 見覚えのある2つの首輪。地面に突き立てられた、巨大で凶悪なナイフ。 そしてその回りには、「かつて猫だったモノ」の肉片が2体分、切り刻まれて散らばって―― 桜子は、その前にがっくりと膝をつく。美砂も円も、流石にかける言葉が見つからない。 いつもは陽気な桜子が、震える声で背後の2人に問う。 「……これって、どういうこと?  ねえ2人とも。これって、いくら何でも、あんまりじゃない……?」  4th TARGET  →  07番 柿崎美砂 11番 釘宮円 17番 椎名桜子-[[後編へ>チア3人組後編]]

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