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ゆーな編―第一話―」(2006/08/25 (金) 02:23:23) の最新版変更点

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考えない、という罪 「よーし、じゃあここはパーッと、『亜子を元気づける会』でも開こーよ!」 亜子の一件が伝えられた、その日の休み時間―― 授業が終った途端に大声を上げたのは、裕奈だった。 そのあまりに能天気な叫び声に、クラスが一瞬静まり返った後、ザワついた。 「ちょっと、ゆーな。流石にそれは……」 「元気づけてはあげたいけど、今は『パーッと騒ぐ』ような状況じゃないよね……」 「ノリだけで物を言うのはやめるです。もっと考えて発言しないと」 いくら普段は能天気な3-Aの面々でも、流石に騒いで良い時・悪い時くらいは分かっている。 呆れるような、責めるような周囲の声に、裕奈は拳を振り上げた姿勢のまま、固まってしまう。 「え? あ、そうか、えーっと……」 「クラスで何かしよう、というアイデアには賛成ですわ、明石さん」 そんな裕奈に助け船を出したのは、クラス委員長である雪広あやかだった。 いささか演技じみた哀しみの表情を浮かべ、クラスの全員に向けて提案をする。 「和泉さんが元気を取り戻されたその時には、是非盛大に退院記念パーティを開きましょう。  けれども、今の和泉さんはまだ入院中。病院に全員で押しかけても迷惑でしょうし……  数人ずつ、時間をズラしてお見舞いに行くというのはいかがでしょう?」 「そうね。あとは、クラスのみんなで千羽鶴を折るというのはどうかしら」 「お見舞いといったらお花ですー!」 「お見舞いといったらフルーツ盛り合わせー!」 「みんなで色紙に寄せ書きでもしようよ。ホラ私、ちょうど似顔絵書くために持ってるからさ♪」 あやかの提案に応え、千鶴が、鳴滝姉妹が、ハルナが、それぞれお見舞いのプランを口にする。 とりあえずの行動方針が出来たことで、一気に騒がしくなる教室内。 そんな中――完全に空振りした格好の裕奈は、振り上げたままだった拳を、ゆっくりと下ろして。 静かに、下唇を噛んだ。 ---- ……友人の不幸を、ワイワイ騒ぐ口実にしようとしたわけではない。 とにかく明るく振舞えばそれで良いのだ、と思っているわけでもない。 ただ、知らないだけだ。 明石裕奈は、他のやり方を知らないだけだ。 知らないから、思わずいつも、悪ノリして暴走してしまう。 こういう、明るいだけではどうしようもないようなとき、彼女は、無力だった。 状況を弁えない悪ノリ。誰かに止めてもらうまで、どこまでも暴走する自分。 そして明石裕奈は、本当はそんな自分が少しだけ、ほんの少しだけ、嫌いだったが…… でもその感情をどうすれば良いのか、彼女には分からなかった。それでもなお笑う他、何もできなかった。 暗い話、シリアスな話は、苦手だった。だからいつも、それ以上は考えるのを止めていた。 ……放課後。 バスケ部の練習を終えた裕奈は、夕陽に染まる亜子の病室を訪れていた。 ベッドの上には安らかな寝息を立てる、包帯でグルグル巻きの少女。その髪の色で辛うじて亜子だと分かる。 なんでも先程、また自分の傷を見て半狂乱になったので、今は鎮静剤を打って眠らせているのだとか……。 「亜子……」 裕奈が呼びかけても、彼女は応えない。 今は包帯の下に隠れ、傷痕は見えない。けれど全身に巻かれた包帯が、傷の数と大きさを物語っている。 裕奈は思い出す。亜子の背中の傷痕と、それに対する彼女のコンプレックス。 この傷をつけたという「変質者」は、そのことを知っていたのだろうか? 知らなかったのだろうか? どっちにしても……残酷な話だ。裕奈は眠り続ける亜子の顔を見ていられなくなり、視線を逸らす。 「……みんな、もう来てたんだ」 ベッドの傍には、花やらフルーツの盛り合わせやら、千羽鶴などといったプレゼントの数々。 たまたま部活の無かった級友たちが、裕奈よりも早く見舞いに来ていたのだろう。 プレゼントの中には、図書館組が持ってきたらしい本の山やら、正体不明のぬいぐるみやら。 亜子をモデルにした巨大な胸像は、間違いなくいいんちょが用意した品だ。 貰っても逆に困るだろう、というモノが少なからず含まれていて、裕奈は思わずクスッと笑ってしまった。 ---- 「あれ……? あの人形って……エヴァさまの?」 プレゼントの山を眺めていた裕奈は、ふと、気がついた。 今まで存在にすら気がつかなかった自分にちょっと驚き、声に出してみてから自分の発言にも驚く。 「……あれ? 「さま」? なんでエヴァちゃんのこと、様づけで……??」 思わずこめかみに指を当て、記憶を探る裕奈。しかし考えても分かるはずもない。 封印された記憶の欠片を振り払い、彼女は再びその「人形」に目をやる。 球体関節が剥き出しの、操り人形。デフォルメの利いた3頭身ほどの体格。 見開かれた目と四角く開いた口はが作る表情からは、どこか不気味な、不穏な印象を受ける。 ゴスロリ風の、黒く可愛らしい服。背中に生えた黒い翼。頭にはメイドのような髪飾り。 間違いない。茶々丸やエヴァンジェリンが時折頭に載せていた、あの着せ替え人形だ。 これも、病床の亜子へのお見舞いの品なのだろうか? 「うーん、価値あるモノなんだろうけど……怪我人へのプレゼントとしちゃ、悪趣味だねー」 裕奈は苦笑する。 エヴァか、それともその代理としての茶々丸か。どちらだとしても、確かに意図が分からない。 裕奈は悪戯っぽい笑みを浮かべると、その「悪趣味な」人形の額を軽く小突いた。 「……じゃ、また来るからね、亜子!」 いつしか外は暗くなり、そろそろ寮に戻らないといけない時間。 眠り続ける友人に、裕奈は別れを告げて病室を出て行こうとする。 病室の出口で、一瞬だけ振り返った裕奈は……「それ」と目が合い、凍りついた。 ――さっき小突いた時は、出口の方を向いてはいなかったはず。自分も動かした覚えはない。 なのに、何故……? 人形が勝手に動いた?! まさか、そんなはずは。 黒い服着た人形の、ガラス玉のような眼球が、振り返った裕奈としっかり目を合わせて……!!  2nd TARGET  →  出席番号02番 明石裕奈 次へ[[ゆーな編―第二話―]]
**考えない、という罪 「よーし、じゃあここはパーッと、『亜子を元気づける会』でも開こーよ!」 亜子の一件が伝えられた、その日の休み時間―― 授業が終った途端に大声を上げたのは、裕奈だった。 そのあまりに能天気な叫び声に、クラスが一瞬静まり返った後、ザワついた。 「ちょっと、ゆーな。流石にそれは……」 「元気づけてはあげたいけど、今は『パーッと騒ぐ』ような状況じゃないよね……」 「ノリだけで物を言うのはやめるです。もっと考えて発言しないと」 いくら普段は能天気な3-Aの面々でも、流石に騒いで良い時・悪い時くらいは分かっている。 呆れるような、責めるような周囲の声に、裕奈は拳を振り上げた姿勢のまま、固まってしまう。 「え? あ、そうか、えーっと……」 「クラスで何かしよう、というアイデアには賛成ですわ、明石さん」 そんな裕奈に助け船を出したのは、クラス委員長である雪広あやかだった。 いささか演技じみた哀しみの表情を浮かべ、クラスの全員に向けて提案をする。 「和泉さんが元気を取り戻されたその時には、是非盛大に退院記念パーティを開きましょう。  けれども、今の和泉さんはまだ入院中。病院に全員で押しかけても迷惑でしょうし……  数人ずつ、時間をズラしてお見舞いに行くというのはいかがでしょう?」 「そうね。あとは、クラスのみんなで千羽鶴を折るというのはどうかしら」 「お見舞いといったらお花ですー!」 「お見舞いといったらフルーツ盛り合わせー!」 「みんなで色紙に寄せ書きでもしようよ。ホラ私、ちょうど似顔絵書くために持ってるからさ♪」 あやかの提案に応え、千鶴が、鳴滝姉妹が、ハルナが、それぞれお見舞いのプランを口にする。 とりあえずの行動方針が出来たことで、一気に騒がしくなる教室内。 そんな中――完全に空振りした格好の裕奈は、振り上げたままだった拳を、ゆっくりと下ろして。 静かに、下唇を噛んだ。 ---- ……友人の不幸を、ワイワイ騒ぐ口実にしようとしたわけではない。 とにかく明るく振舞えばそれで良いのだ、と思っているわけでもない。 ただ、知らないだけだ。 明石裕奈は、他のやり方を知らないだけだ。 知らないから、思わずいつも、悪ノリして暴走してしまう。 こういう、明るいだけではどうしようもないようなとき、彼女は、無力だった。 状況を弁えない悪ノリ。誰かに止めてもらうまで、どこまでも暴走する自分。 そして明石裕奈は、本当はそんな自分が少しだけ、ほんの少しだけ、嫌いだったが…… でもその感情をどうすれば良いのか、彼女には分からなかった。それでもなお笑う他、何もできなかった。 暗い話、シリアスな話は、苦手だった。だからいつも、それ以上は考えるのを止めていた。 ……放課後。 バスケ部の練習を終えた裕奈は、夕陽に染まる亜子の病室を訪れていた。 ベッドの上には安らかな寝息を立てる、包帯でグルグル巻きの少女。その髪の色で辛うじて亜子だと分かる。 なんでも先程、また自分の傷を見て半狂乱になったので、今は鎮静剤を打って眠らせているのだとか……。 「亜子……」 裕奈が呼びかけても、彼女は応えない。 今は包帯の下に隠れ、傷痕は見えない。けれど全身に巻かれた包帯が、傷の数と大きさを物語っている。 裕奈は思い出す。亜子の背中の傷痕と、それに対する彼女のコンプレックス。 この傷をつけたという「変質者」は、そのことを知っていたのだろうか? 知らなかったのだろうか? どっちにしても……残酷な話だ。裕奈は眠り続ける亜子の顔を見ていられなくなり、視線を逸らす。 「……みんな、もう来てたんだ」 ベッドの傍には、花やらフルーツの盛り合わせやら、千羽鶴などといったプレゼントの数々。 たまたま部活の無かった級友たちが、裕奈よりも早く見舞いに来ていたのだろう。 プレゼントの中には、図書館組が持ってきたらしい本の山やら、正体不明のぬいぐるみやら。 亜子をモデルにした巨大な胸像は、間違いなくいいんちょが用意した品だ。 貰っても逆に困るだろう、というモノが少なからず含まれていて、裕奈は思わずクスッと笑ってしまった。 ---- 「あれ……? あの人形って……エヴァさまの?」 プレゼントの山を眺めていた裕奈は、ふと、気がついた。 今まで存在にすら気がつかなかった自分にちょっと驚き、声に出してみてから自分の発言にも驚く。 「……あれ? 「さま」? なんでエヴァちゃんのこと、様づけで……??」 思わずこめかみに指を当て、記憶を探る裕奈。しかし考えても分かるはずもない。 封印された記憶の欠片を振り払い、彼女は再びその「人形」に目をやる。 球体関節が剥き出しの、操り人形。デフォルメの利いた3頭身ほどの体格。 見開かれた目と四角く開いた口はが作る表情からは、どこか不気味な、不穏な印象を受ける。 ゴスロリ風の、黒く可愛らしい服。背中に生えた黒い翼。頭にはメイドのような髪飾り。 間違いない。茶々丸やエヴァンジェリンが時折頭に載せていた、あの着せ替え人形だ。 これも、病床の亜子へのお見舞いの品なのだろうか? 「うーん、価値あるモノなんだろうけど……怪我人へのプレゼントとしちゃ、悪趣味だねー」 裕奈は苦笑する。 エヴァか、それともその代理としての茶々丸か。どちらだとしても、確かに意図が分からない。 裕奈は悪戯っぽい笑みを浮かべると、その「悪趣味な」人形の額を軽く小突いた。 「……じゃ、また来るからね、亜子!」 いつしか外は暗くなり、そろそろ寮に戻らないといけない時間。 眠り続ける友人に、裕奈は別れを告げて病室を出て行こうとする。 病室の出口で、一瞬だけ振り返った裕奈は……「それ」と目が合い、凍りついた。 ――さっき小突いた時は、出口の方を向いてはいなかったはず。自分も動かした覚えはない。 なのに、何故……? 人形が勝手に動いた?! まさか、そんなはずは。 黒い服着た人形の、ガラス玉のような眼球が、振り返った裕奈としっかり目を合わせて……!!  2nd TARGET  →  出席番号02番 明石裕奈 次へ[[ゆーな編―第二話―]]

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