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亜子編―第二話―」(2006/06/07 (水) 22:32:21) の最新版変更点

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すっかり陽も落ちた麻帆良学園都市の中。 人気のない道を、体操服姿の亜子が急いでいた。 「アカン……もう暗くなってもうた。はよ帰らな……!」 亜子はサッカー部のマネージャーをやっている。女子中等部のではない、学園都市内の別の学校のだ。 だからその練習場所は、女子中等部の校舎からは少し遠いグラウンドになる。 定時に終わってくれれば、ちょっと遠回りして運動部の友人たちと合流し、一緒に帰れるのだが…… 今日のように練習が長引いたりすると、1人で帰らねばならなくなってしまう。 そして、広すぎる学園には、時間帯によっては真空地帯のように不気味な無人の闇が広がる…… 「……!?」 それは、鬱蒼と繁った林の中。両側から木々が覆い被さってくるような道を歩いていた時のこと。 亜子は急に嫌な悪寒を感じ、足を止めた。 誰かに、見られている。どこかから、見られている。 けれど、街灯も乏しいこんな道では。月にも分厚い雲がかかるこんな夜には。 周囲を見回しても、何も見えない。ただ木々の枝が風に揺れるばかり。 「……き、気のせいやったんかな。ハハ、ハハハ……」 亜子は引き攣った笑顔を浮かべる。気休めの独り言を大きく口に出して、自分を奮い立たせようとする。 ――だが。 「ケケケッ。気ノセイジャネェヨ」 「ヒッ!?」 どこかから嘲るような声が聞こえたかと思うと、小さな黒い影がつむじ風のように駆け抜ける。 歪な頭身の小さな影。ガラス玉のように光る2つの目。悪魔のような黒い翼が、背中に揺れる。 しかし何よりも目を引くのは、その両手にそれぞれぶら下げられた、身長よりも長い凶悪なナイフ―― 黒い影は、亜子の回りをグルグルと高速で回転する。あまりに速すぎて、その姿はマトモに確認できない。 「サア――遊ボウゼ!」 ナイフが煌く。肌に刃が触れるか否かというところで、体操服が切り刻まれ、ボロボロにされていく。 執拗に服を狙った攻撃に、背中の傷痕が、小さな悪魔の目の前に晒される――! ---- ……雲が晴れ、半月に照らされた夜道の真ん中で。 和泉亜子は、気を失って倒れていた。 見れば、傷とも呼べぬような小さな傷が、鎖骨のあたりに1筋。僅かに血を滲ませている。 その頭上には、凶悪なナイフを持った人形がユラユラと揺れて。 「……情ケナイ奴ダナ。コレカラガ本番ダッテノニ、コノ程度デ気絶シヤガッテ」 不満そうに呟くチャチャゼロ。見ればゼロは、頭上に張り出した木の枝から、極細の繰り糸で吊るされている。 エヴァの魔力が最大になる満月ならともかく、こんな月齢ではゼロの能力も限られていた。 空など飛べるはずもない。目にも留まらぬ高速運動など、できるはずがない。 上から吊るされ、グルグルと一点を回るだけ……しかしそれでも上手く催眠術と併用すれば、素人相手なら。 「……マァイイヤ。悲鳴ガ聞ケネェノハ ツマンネーガ……ソノ分、身体デ補ッテ貰ワネートナ」 チャチャゼロは呟くと、自らを吊るしていたワイヤーを解き、地面に降り立つ。 自分の血を見て気を失った亜子。 抵抗力を失った彼女の上に、ゼロはゆっくりと巨大な刃を振り上げて――! ---- ……彼女は、ぼんやりと目を開いた。 白い天井。馴染みのない清潔なベッド。静寂と薬品の匂いに包まれた空間。 明るくはあるが、あの悪夢の続きのように現実味のない光景。 意識がはっきりしない。ここは一体、どこだろう? 女子寮の部屋でないことだけは分かるが……。 「…………??」 ベッドの上に起き上がった彼女は、何か違和感に気づいて首を傾げる。自らの身体を触れる。 見覚えのないパジャマの下、胸にも腹にも腕にも足にも頭にまで、全身に固く固く包帯が巻かれている―― 「……なに、これ?」 彼女は静かな混乱のまま、立ち上がる。幸か不幸か、看護師は席を外していて、彼女の覚醒に気付かない。 学園都市内の病院、その病棟の個室。その片隅にある洗面台の前に立ち、ゆっくりと包帯をほどいていく。 鏡の向こう、包帯を解く少女の姿。 顔にまで包帯が巻かれているので、誰の姿なのかいまいち実感がない。 やがて包帯の下、次々と現れる傷。背中の傷にも匹敵する、救いようのないおぞましい傷痕の数々。 白く滑らかな腹部を、斜めに横切るように。 小さいけれども形の良い乳房を、縦に切り裂くように。 腕にも。足にも。お尻にも。 全身のありとあらゆる部分に、偏執的な執拗さでつけられた無数の刀傷。 いずれも命に別状はない傷。皮一枚切り裂いて、僅かにその下の肉にも到達している傷。 決して後遺症は残さないが、しかし痕を残さず治ることもありえない、計算されつくした邪悪な達人技。 そして、決して美人ではないが誰からも好かれるその顔にも、トドメとばかりに何本もの刀傷が……! ---- ……彼女は、ぼんやりと目を開いた。 白い天井。馴染みのない清潔なベッド。静寂と薬品の匂いに包まれた空間。 明るくはあるが、あの悪夢の続きのように現実味のない光景。 意識がはっきりしない。ここは一体、どこだろう? 女子寮の部屋でないことだけは分かるが……。 「…………??」 ベッドの上に起き上がった彼女は、何か違和感に気づいて首を傾げる。自らの身体を触れる。 見覚えのないパジャマの下、胸にも腹にも腕にも足にも頭にまで、全身に固く固く包帯が巻かれている―― 「……なに、これ?」 彼女は静かな混乱のまま、立ち上がる。幸か不幸か、看護師は席を外していて、彼女の覚醒に気付かない。 学園都市内の病院、その病棟の個室。その片隅にある洗面台の前に立ち、ゆっくりと包帯をほどいていく。 鏡の向こう、包帯を解く少女の姿。 顔にまで包帯が巻かれているので、誰の姿なのかいまいち実感がない。 やがて包帯の下、次々と現れる傷。背中の傷にも匹敵する、救いようのないおぞましい傷痕の数々。 白く滑らかな腹部を、斜めに横切るように。 小さいけれども形の良い乳房を、縦に切り裂くように。 腕にも。足にも。お尻にも。 全身のありとあらゆる部分に、偏執的な執拗さでつけられた無数の刀傷。 いずれも命に別状はない傷。皮一枚切り裂いて、僅かにその下の肉にも到達している傷。 決して後遺症は残さないが、しかし痕を残さず治ることもありえない、計算されつくした邪悪な達人技。 そして、決して美人ではないが誰からも好かれるその顔にも、トドメとばかりに何本もの刀傷が……! ---- 「……ということで、和泉さんは今日から暫くお休みだそうです。  身体の方の怪我は大したことないそうですが、精神的に強いショックを受けられたらしくて……  今は精神科病棟の方に移されているそうです。皆さんも、暗い夜道には気をつけるようにと……」 3-Aの教室で、ネギが沈痛な表情で事件を報告する。 朝、血まみれで転がっていたところを発見され、病院に収容された亜子。 「変質者に襲われたらしい」とされたこの事件。能天気なクラスの面々にも、流石に笑顔はない。 小さな声でヒソヒソと、お見舞いの相談を始める彼女たち。思わず涙ぐむ生徒もいる。 そんな中、1人だけ小さな笑い声を上げたのは。 茶々丸の頭の上に乗った、小さくも邪悪な呪いの人形―― ゼロは暗い空気に包まれたクラスを見渡し、主人にも茶々丸にも聞こえぬ小さな声で、楽しげに呟いた。 「次ハ、誰ヲヤルカナ。今度ハ シッカリ悲鳴ヲ聞キタイモンダゼ……!」 NEXT TARGET →明石ゆーな
すっかり陽も落ちた麻帆良学園都市の中。 人気のない道を、体操服姿の亜子が急いでいた。 「アカン……もう暗くなってもうた。はよ帰らな……!」 亜子はサッカー部のマネージャーをやっている。女子中等部のではない、学園都市内の別の学校のだ。 だからその練習場所は、女子中等部の校舎からは少し遠いグラウンドになる。 定時に終わってくれれば、ちょっと遠回りして運動部の友人たちと合流し、一緒に帰れるのだが…… 今日のように練習が長引いたりすると、1人で帰らねばならなくなってしまう。 そして、広すぎる学園には、時間帯によっては真空地帯のように不気味な無人の闇が広がる…… 「……!?」 それは、鬱蒼と繁った林の中。両側から木々が覆い被さってくるような道を歩いていた時のこと。 亜子は急に嫌な悪寒を感じ、足を止めた。 誰かに、見られている。どこかから、見られている。 けれど、街灯も乏しいこんな道では。月にも分厚い雲がかかるこんな夜には。 周囲を見回しても、何も見えない。ただ木々の枝が風に揺れるばかり。 「……き、気のせいやったんかな。ハハ、ハハハ……」 亜子は引き攣った笑顔を浮かべる。気休めの独り言を大きく口に出して、自分を奮い立たせようとする。 ――だが。 「ケケケッ。気ノセイジャネェヨ」 「ヒッ!?」 どこかから嘲るような声が聞こえたかと思うと、小さな黒い影がつむじ風のように駆け抜ける。 歪な頭身の小さな影。ガラス玉のように光る2つの目。悪魔のような黒い翼が、背中に揺れる。 しかし何よりも目を引くのは、その両手にそれぞれぶら下げられた、身長よりも長い凶悪なナイフ―― 黒い影は、亜子の回りをグルグルと高速で回転する。あまりに速すぎて、その姿はマトモに確認できない。 「サア――遊ボウゼ!」 ナイフが煌く。肌に刃が触れるか否かというところで、体操服が切り刻まれ、ボロボロにされていく。 執拗に服を狙った攻撃に、背中の傷痕が、小さな悪魔の目の前に晒される――! ---- ……雲が晴れ、半月に照らされた夜道の真ん中で。 和泉亜子は、気を失って倒れていた。 見れば、傷とも呼べぬような小さな傷が、鎖骨のあたりに1筋。僅かに血を滲ませている。 その頭上には、凶悪なナイフを持った人形がユラユラと揺れて。 「……情ケナイ奴ダナ。コレカラガ本番ダッテノニ、コノ程度デ気絶シヤガッテ」 不満そうに呟くチャチャゼロ。見ればゼロは、頭上に張り出した木の枝から、極細の繰り糸で吊るされている。 エヴァの魔力が最大になる満月ならともかく、こんな月齢ではゼロの能力も限られていた。 空など飛べるはずもない。目にも留まらぬ高速運動など、できるはずがない。 上から吊るされ、グルグルと一点を回るだけ……しかしそれでも上手く催眠術と併用すれば、素人相手なら。 「……マァイイヤ。悲鳴ガ聞ケネェノハ ツマンネーガ……ソノ分、身体デ補ッテ貰ワネートナ」 チャチャゼロは呟くと、自らを吊るしていたワイヤーを解き、地面に降り立つ。 自分の血を見て気を失った亜子。 抵抗力を失った彼女の上に、ゼロはゆっくりと巨大な刃を振り上げて――! ---- ……彼女は、ぼんやりと目を開いた。 白い天井。馴染みのない清潔なベッド。静寂と薬品の匂いに包まれた空間。 明るくはあるが、あの悪夢の続きのように現実味のない光景。 意識がはっきりしない。ここは一体、どこだろう? 女子寮の部屋でないことだけは分かるが……。 「…………??」 ベッドの上に起き上がった彼女は、何か違和感に気づいて首を傾げる。自らの身体を触れる。 見覚えのないパジャマの下、胸にも腹にも腕にも足にも頭にまで、全身に固く固く包帯が巻かれている―― 「……なに、これ?」 彼女は静かな混乱のまま、立ち上がる。幸か不幸か、看護師は席を外していて、彼女の覚醒に気付かない。 学園都市内の病院、その病棟の個室。その片隅にある洗面台の前に立ち、ゆっくりと包帯をほどいていく。 鏡の向こう、包帯を解く少女の姿。 顔にまで包帯が巻かれているので、誰の姿なのかいまいち実感がない。 やがて包帯の下、次々と現れる傷。背中の傷にも匹敵する、救いようのないおぞましい傷痕の数々。 白く滑らかな腹部を、斜めに横切るように。 小さいけれども形の良い乳房を、縦に切り裂くように。 腕にも。足にも。お尻にも。 全身のありとあらゆる部分に、偏執的な執拗さでつけられた無数の刀傷。 いずれも命に別状はない傷。皮一枚切り裂いて、僅かにその下の肉にも到達している傷。 決して後遺症は残さないが、しかし痕を残さず治ることもありえない、計算されつくした邪悪な達人技。 そして、決して美人ではないが誰からも好かれるその顔にも、トドメとばかりに何本もの刀傷が……! ---- ……彼女は、ぼんやりと目を開いた。 白い天井。馴染みのない清潔なベッド。静寂と薬品の匂いに包まれた空間。 明るくはあるが、あの悪夢の続きのように現実味のない光景。 意識がはっきりしない。ここは一体、どこだろう? 女子寮の部屋でないことだけは分かるが……。 「…………??」 ベッドの上に起き上がった彼女は、何か違和感に気づいて首を傾げる。自らの身体を触れる。 見覚えのないパジャマの下、胸にも腹にも腕にも足にも頭にまで、全身に固く固く包帯が巻かれている―― 「……なに、これ?」 彼女は静かな混乱のまま、立ち上がる。幸か不幸か、看護師は席を外していて、彼女の覚醒に気付かない。 学園都市内の病院、その病棟の個室。その片隅にある洗面台の前に立ち、ゆっくりと包帯をほどいていく。 鏡の向こう、包帯を解く少女の姿。 顔にまで包帯が巻かれているので、誰の姿なのかいまいち実感がない。 やがて包帯の下、次々と現れる傷。背中の傷にも匹敵する、救いようのないおぞましい傷痕の数々。 白く滑らかな腹部を、斜めに横切るように。 小さいけれども形の良い乳房を、縦に切り裂くように。 腕にも。足にも。お尻にも。 全身のありとあらゆる部分に、偏執的な執拗さでつけられた無数の刀傷。 いずれも命に別状はない傷。皮一枚切り裂いて、僅かにその下の肉にも到達している傷。 決して後遺症は残さないが、しかし痕を残さず治ることもありえない、計算されつくした邪悪な達人技。 そして、決して美人ではないが誰からも好かれるその顔にも、トドメとばかりに何本もの刀傷が……! ---- 「……ということで、和泉さんは今日から暫くお休みだそうです。  身体の方の怪我は大したことないそうですが、精神的に強いショックを受けられたらしくて……  今は精神科病棟の方に移されているそうです。皆さんも、暗い夜道には気をつけるようにと……」 3-Aの教室で、ネギが沈痛な表情で事件を報告する。 朝、血まみれで転がっていたところを発見され、病院に収容された亜子。 「変質者に襲われたらしい」とされたこの事件。能天気なクラスの面々にも、流石に笑顔はない。 小さな声でヒソヒソと、お見舞いの相談を始める彼女たち。思わず涙ぐむ生徒もいる。 そんな中、1人だけ小さな笑い声を上げたのは。 茶々丸の頭の上に乗った、小さくも邪悪な呪いの人形―― ゼロは暗い空気に包まれたクラスを見渡し、主人にも茶々丸にも聞こえぬ小さな声で、楽しげに呟いた。 「次ハ、誰ヲヤルカナ。今度ハ シッカリ悲鳴ヲ聞キタイモンダゼ……!」 NEXT TARGET →-[[明石ゆーな>ゆーな編―第一話―]]

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