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アルベール・カモミール。 動物のオコジョそのままな外見と、人間並みの知性を兼ね備えた、英国出身のオコジョ妖精。 その性格は、本人に言わせれば「タフでハードボイルドなナイスガイ」だが…… 公平に言って、「憎みきれない小悪党」あたりの表現が妥当な評価だろう。 それなりに正義感や責任感が無いわけではないが、しかし嘘もつけばペテンもかける。 オコジョの癖に人間の女の子が大好きで、その性癖は完全にスケベオヤジ。 小さな身体でタバコをふかし、言葉遣いは乱暴で。 はっきり言って、あまり真っ当な性格ではない……のだが。 それでも、どこか憎めない。犯す悪事にも、愛嬌がある。 ちょっとしたことで明日菜などに怒られることは多いのだが、しかし本気の怒りを買うことはない。 善にも悪にも偏らず。自由奔放、勝手気まま。 ……そんな彼だからこそ、チャチャゼロは珍しく、心開いたのかもしれなかった。 「……ニシテモ、ラシクナイゼ、アルベール」 「へッ……へへッ……。俺っちも、そう思ったんだけどよォ。  ここでやらなきゃ、『漢(おとこ)』がすたるってもんよ。ヘヘヘッ……!」 森の中に開けた、ちょっとした広場…… ではなく、先のエヴァとの戦いで、翼を露わにした刹那が放った何発もの『雷鳴剣』の着弾跡の1つ。 木々がなぎ倒された真新しいクレーターの中、ゼロとカモは言葉を交わす。 血に濡れたナイフを片手に、ぼんやり座り込むゼロ。 そして……その白い体を、自分の流した血の海の中に横たえたカモ。 ---- エヴァのログハウスの前から、この森の中までゼロを吹き飛ばしたカモの必殺技。 最終奥義、『オコジョ流星』。 ……乱暴に言って、それは魔力を身に纏っただけの、単なる体当たりだ。 西洋魔術の『戦いの歌』と、東洋の体術『瞬動術』を組み合わせたような、体当たり。 白いオコジョの身体に光る魔力を纏い、ロケット噴射のように噴出す魔力が尾を引いて。 確かにそれは、『流星』の名に相応しい。 ただし――所詮は、戦闘力のないオコジョ妖精の技である。 『戦いの歌』ほどの効率はない。『瞬動術』ほどの速度はない。一瞬の体当たり以外、できることはない。 持てるほぼ全ての魔力を、その1回の体当たりに注ぎ込んで――そして、それだけだ。 先にこの技を『最後の手段』と記したのは、そういう意味だ。『最終奥義』とはそういう意味だ。 この技を放ってしまえば、『その次の手』は何もないのだ。 そして、いくら不意を突いたとはいえ、相手は百戦錬磨で最強最高の自動人形(オートマータ)。 うまく命中し、その身体を自分もろとろ遠くに吹き飛ばすことには成功したが…… 実質的なダメージは、ほとんどない。 十分な魔力の供給を受けた状態のゼロは、大砲の直撃にすら耐える。 小さなオコジョ妖精如きの体当たりで、どうにかなるモノではない。 そしてその訓練された身体は、カモと一緒に吹き飛びながらも反射的に反撃を加えていて。 ナイフは僅かにカモの腹に食い込んだだけだが、しかしオコジョの小さな身体には十分大きな傷。 血溜まりの中、傷口から腸をはみ出させ、自力で立ち上がることもあたわず。 そして――こうして今、カモは死のうとしている。 ゼロは無傷。このまま動けぬカモを置いてログハウス前まで舞い戻れば、全ては元通り。 今のカモにそれを止める力はなく、彼が稼ぐことのできた時間はほんの僅か。 この程度の間、ネギがエヴァと1対1になれたからとて、一体何が出来るというのか。 無意味な犠牲と言う他ない。 ---- だが……ゼロは、動けなかった。 身体的ダメージでも魔術的効果でもない何かが、ゼロの力を奪っていた。 カモの血で濡れた、自分の身長ほどもある巨大なナイフを手に、カモを眺めながら座り込んでいた。 「……ナア、聞イテイイカ?」 「なん……だい? 質問、は……手短に頼むぜッ……」 苦しい息の下、ゼロの方を見上げるカモ。 ゼロは、目を見開き口を開けたいつもの表情で。淡々と、問いかける。 「ナンデ オ前、俺ニ近ヅキヤガッタンダ? 何ガ、目的ダッタ?」 ――かつてその長い生の中、ゼロと「親しくなろう」とした者は他にもいた。 けれどもそのほとんどが、功利的理由による打算によるもの。 エヴァに近づくためにゼロを利用しようとしたり、エヴァの弱点などの情報を聞きだそうとしたり。 結局のところ、彼らは「エヴァの従者」「エヴァの使い魔」としてしか、見ていなかった。 まれにそういう打算なしにゼロと付き合おうとする者がいたとしても…… 今度は、エヴァやゼロの過去の「犯罪」の数々を知った途端に逃げ出した。あるいは拒絶した。 ゼロはそういう相手の裏の思惑や打算、あるいは「善良さ」を弄び、そのやり取りをも楽しんだものだが……。 しかし、カモは。 彼女たちの前科を知ってなお、打算もなしにゼロに接した。ただの友人として接した。 少なくとも、何か裏の思惑があるようには思えなかった。 酒を酌み交わし、アルコールで彼の防御を切り崩しても、何も聞き出せなかった。 ゼロはエヴァの毒見役として、物を食べ味を判別する能力を与えられてはいたが…… しかし、酒に酔えるような身体ではないのだ。カモとの酒宴にも、当然ながら裏の意味がある。 鼓動のない虚ろな胸の内にもやもやと湧き上がる不快な感情を持て余し。 アルベール・カモミールの命の火が消えんとする中、ゼロが最後に思わず口にしたのは、この問いだった。 ---- 「なんで、って、言われても、よ……。だってお前、寂しそうだったからよォ」 「寂シ……イ? 俺ガ?」 「見てりゃ、分かるぜ……。孤独で、寂しくて、それで、みんなを哂っていたんだろ。  エヴァンジェリンが好きで、大好きで、でもアイツはお前のこと見なくて、それで……。  お前の攻撃性は、寂しさの裏返しよ。違うか?」 人の好意を測ることのできるオコジョ妖精の能力。その延長として感知した、ゼロの無意識の願望。 創られた存在は、その時点での主人に似る。 永遠の孤独に耐えかね、「自意識持つ自動人形」を創ったエヴァンジェリン。 そんなエヴァの感情を色濃く反映して生まれた、自動人形チャチャシリーズのゼロ番目、チャチャゼロ。 ゼロの心の奥底には、生まれた時から決して満たされることなき孤独がある。 愛に飢えた心を嘲笑に変え、助けを求める声をも嘲笑に変え。 ゼロは周囲を欺き、自らをも欺き続けてきたのだ。 「ウ……ア……!」 「まァ、同情だけじゃねぇがな……。  そーゆーの抜きにしても、俺っちは、ゼロのこと、好きだったからよ……」 「好……キ……」 カモの言葉に、ゼロはようやく理解する。自分でも気づかなかった真実に、打ちのめされる。 何故こんなに心乱れるのか。呼吸も無用な身体なのに、何故こんなに息苦しく感じるのか。 何故、血を流し死にゆくカモの姿に、こんなに心乱されるのか。  好きだったからだ。チャチャゼロもまた、アルベール・カモミールのことが。 冗談で口にする愛の言葉ではない。 本気で、この取るに足らない、ロクな力もなく10年も生きてない、このオコジョ妖精のことが。 永遠に満たされることのない孤独を、それでも僅かに癒してくれる、この『漢』のことが。 ---- [[次のページ>後編2]]へ

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