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それは、愛 中編」(2006/08/30 (水) 22:15:46) の最新版変更点

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** それは、愛 中編 「誰が犯人だったのか――もう、この状況そのものが、その答えのようなものです」 ネギたちが、1歩進む。まだ、間合いではない。 俯いたネギの表情は、闇の中で。 「どうしてこんなことしたのか、気にはなるけど――まずは、お仕置きが先ね」 明日菜たちが、1歩進む。まだ、間合いではない。 明日菜の顔も、闇に隠れる。 「連戦のところ、申し訳ねェが……俺っちたちも、必死なんでな」 カモたちが、1歩進む。双方にとって、ギリギリの距離。 そして、ネギが、明日菜が、カモが、一斉に顔を上げて。 「――契約執行、『神楽坂明日菜』! ラス・テル マ・スキル マギステル……」 「来たれ(アデアット)ッ!」 「いっけぇ兄貴ィッ!」 ネギたちが、一気に飛び出す。 迷いの無い目。真っ直ぐな気持ち。そして……奥底にある、怒り。 かつて吸血鬼事件の際に戦った相手。あの時勝てたのは、いくつもの偶然のお陰。 今度は手加減もないだろうし、さらにはもう1体、強敵が加わっている。 それでも彼らは突進して―― ほぼ同時に、相手側も突進を開始。戦いが、始まった。 ---- 『さて、どうするんだ、『マスター』?』 一歩ずつ近づくネギたちを目の前にしながら、エヴァが笑うような声で問いかける。 いや声ではない、声無き声である『念話』。3人の間だけで通用する声。 『僭越ながら、明日菜さんに対するのは私が最適任だと思います。  よろしければ、私が明日菜さん相手の足止めを行いますが……』 明日菜たちが、一歩近づく。茶々丸は無表情のまま現状を分析する。 マジックキャンセル能力を持つ明日菜。破魔の力を持つアーティファクト。 エヴァやゼロにとって、危険な相手だ。ゼロなど、下手をすればハリセンの一発で即死しかねない。 それは確かに、合理的かつ現実的な選択。 『…………』 『『マスター』が命令しないなら、我々なりにやらせてもらうぞ。  ぼーやの血を吸えば、麻帆良を潰すまでもなく自由になれるんだ。  抵抗されては敵わんからな、まずは精神的に屈服させる。  『マスター』にも協力してもらうぞ、いいな?』 『……アア……』 カモたちが、一歩近づく。双方にとって、ギリギリの距離。 生返事を返すゼロをよそに、エヴァも茶々丸も戦闘態勢は十分で。 ネギたちが飛び出すと同時に、エヴァも茶々丸も大地を蹴る。 エヴァの頭上のゼロも、エヴァと一緒に。それでも反射的に、ナイフを抜いて。 「リク・ラク ラ・ラック ライラック……『氷爆』!」 「戦闘開始。神楽坂明日菜を、引き離します」 「…………ケケケッ! 喰ライヤガレッ!」 ---- 双方が飛び出した、一瞬の後。 ネギと明日菜の間の空間で、凍気と爆風が吹きすさび―― その爆風に煽られ、2人の距離が離れた所に、茶々丸が飛びかかって―― 茶々丸のジェット噴射を利用した飛び蹴りに、明日菜の身体が大きく小川の向こう側に跳ばされて―― ほぼ同時に、ネギの周囲に29個の光球が浮かび―― それに呼応するように、エヴァの周囲に29個の闇の球が浮かび―― 双方互角。『魔法の射手・光の29矢』と『魔法の射手・闇の29矢』が、互いに相殺しあう。 この全てが一瞬。 茶々丸に弾かれた明日菜、その明日菜を追う茶々丸が遠ざかるのを横目に見ながら。 カモを肩に乗せたネギと、チャチャゼロを頭に乗せたエヴァが対峙する。 「……おい兄貴。今の、何か変じゃねぇか?」 「変って?」 「俺っちの目の錯覚かもしれねぇが……今、エヴァの奴、魔法2つを同時に使わなかったか?」 「……ッ!?」 それは、ありえない話。 遅延呪文や無詠唱呪文など、相手のタイミングを外す技術はいくつかある。エヴァの得意分野でもある。 それでも、「一度に発動できる呪文は1つきり」という魔法の大原則は外せないハズなのだ。 遅延呪文で詠唱を溜めておいたり、無詠唱呪文で詠唱を省いたりすることはできるが…… 同じ瞬間に、右手と左手で別々の呪文を『発動』させることは不可能だ。 持続時間のある魔法を維持しつつ、別の呪文を発動させることなら普通の技術なのだが。 「ふふふ……。そこの小動物はよく見ているな。  以前ぼーやと戦った時、なぜ私がゼロを連れてこなかったか、教えてやろうか?」 対するエヴァは――そのネギとカモのやりとりに、不敵に笑う。 自信たっぷりに、問いかける。 「それは、あまりに一方的な展開になるのが見え見えで、つまらなかったからさ。  私の出来ることはほぼ全て、ゼロにも行うことが出来る――魔力さえあれば。  いわば私は、呪文を唱える口を2つ持った『魔法使い』なのさ」 ---- ――明日菜と茶々丸は、エヴァのログハウスの近く、流れる小川の向こう側にて向かい合っていた。 明日菜の手には、巨大な大剣。アーティファクト『ハマノツルギ』完全版。 対する茶々丸も、追加装備こそ無いものの、全武装リミッター解除済み。 対戦カードこそ吸血鬼騒動の時と同じだが、双方の持つ殺傷力は本物で。 「……ねぇ、茶々丸さん。1度だけ言うけど……邪魔しないわけには、いかないの?」 「申し訳ありません、明日菜さん。姉さんの意志には、逆らえませんので」 無表情のまま、口だけで謝ると、茶々丸は拳を固める。 「何故か魔法に対して強力な打ち消し能力を持つ明日菜さん……。  姉さんやエヴァンジェリンにとって、貴女は脅威です」 「まあ、そうだろうね」 「それに対し、私はロボットです。動力以外は全て科学の力で作られた身体。  不安が無いわけではありませんが……貴女は私が相手するのが最適でしょう」 茶々丸は淡々と語る。 心情的には明日菜に倒して貰いたい茶々丸。しかし一切手を抜くことのできないプログラム。 彼女にできることは、これくらいのものだ。あとは明日菜が、気付くか否か。 「では――行きます」 茶々丸は短く断りを入れて、大地を蹴って――ハイスピードな戦闘が、始まった。 「ラス・テル マ・スキル マギステル、『魔法の射手・連弾・雷の49矢』ッ……!」 「クククッ。リク・ラク ラ・ラック ライラック 『魔法の射手・連弾・氷の27矢』」 「ケケケッ。リク・ラク ラ・ラック ライラック 『魔法の射手・連弾・氷の27矢』」 「ちょっ、お前ら、ズルいぜそりゃッ……!」 ログハウスの前。ゼロたちに破れ、倒れ伏した者たちの眼前で。 相互に放たれた魔法が、次々に相殺されていく中。 エヴァたちの放った魔法だけが、一方的にネギを傷つけていく。 ---- 唱える口が、2つある―― 実にこれは魔法使い同士の果し合いにおいて、とんでもないアドバンテージなのだった。 魔法の矢の撃ち合いも、普通に唱えてもネギと同じ本数を放つのは簡単だろうに。 エヴァとゼロは、ネギよりも少し遅れて唱え始め、本数は少なめで。 だけども2人分の矢を足せばネギより勝るから、相殺してなお余った矢がネギを傷つける。 迎撃し損ねた5本の氷の矢が、ネギの身体を掠めスーツを裂き、血を滲ませる。 直撃はないが、じわじわとダメージが蓄積する。 さりとて、中国拳法の接近戦に活路を見出そうとしても…… エヴァは合気柔術の達人、ゼロはナイフ格闘術の達人。 片方が余裕をもってネギの攻撃を受け止め、その間にもう1人が呪文を唱えている。 ネギがエヴァを狙おうとゼロを狙おうと同じこと。片方に出来ることは、もう片方にも出来る。 結果、エヴァたちはどう見ても「遊んで」いるのに、ネギの方は手も足も出ない。 エヴァの側の手加減と、ネギの『風盾』とでなんとか凌いでこれたものの。 エヴァの頭の上にゼロが乗る、今のこの格好。普段からよく見られていた体勢。 だがプライドの高いエヴァが、他者を己の頭の上に乗せる、というのは、よくよく考えると少し不自然。 今でこそ主従逆転しているが、元々はゼロは従者に過ぎない存在なのだ。 決してエヴァの「上に立つ」存在ではない。なのに何故、エヴァはゼロを平気で乗せていたのか。 ……実はこれ、この2人にとって最強の戦闘態勢でもあるのだった。 ほぼ同じ所から同時に放たれる2つの呪文。4本の腕。ただでさえ強力な魔法が、およそ2倍。 他の数々の異名に並んで、しかし一見するとスキルを示す言葉でしかない『人形使い(ドールマスター)』。 だがこの名が恐怖と共に呼ばれていたのは、まさにゼロという人形の存在による。 ちなみにこれは、余談だが。 この物語の中で、ゼロが呪文を使ったのは、実は2回目である。 1回目は、茶々丸との決闘の際。幻想空間の中で、茶々丸の腕を凍結し粉砕している。 エヴァから供給される魔力が限られていた時には、事実上不可能な技。 学園の魔力封印結界を無効化した今だからこそ、現実世界でも使えるのだ。 ---- 「くッ……!」 「どうしたぼーや。私を倒さない限り、ゼロは止められないぞ?  ゼロが私の主人となった今。もしゼロが壊れても、契約により私はすぐに直さねばならん。  だが一方で、私が滅びれば、魔力の供給源を失ったゼロもまた滅びる。  つまり私を倒さない限り、この事件は終らないということだ!」 エヴァは笑う。実に楽しそうに笑う。 何かを期待するかのように、懇切丁寧に説明しながら笑う。 期待。そう、それは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが、何百年も望んで止まない……! 一方、ネギたちは。 片膝をつき、頬の血を拭うネギの肩の上で。 「兄貴」 「何?」 「一瞬でいい、エヴァとゼロの間を引き離せるような、そんな魔法か何かねぇか?」 「……1つだけ、ある。上手く行くかどうか、自信はないけど」 エヴァとゼロが一緒になっているからこそ、手強いのだ。この2人の間を裂くことができれば、あるいは。 不安そうに問い返したネギに、カモは不敵に笑って。 「よし。じゃあ兄貴、ソレ、やってみてくれ。そしたら、俺っちが……」 「……!!」 「ソロソロ、遊ビハ終ワリニシヨウゼ。本気デ行ケヨ」 「……ふん、もう少しでぼーやを屈服させられるというのに。『マスター』はつまらんな……!?」 じれたゼロの命令に、エヴァが皮肉っぽい返事を返しかけた、その時。 2人はハッとネギの方を向く。 「来たれ虚空の雷 薙ぎ払え……『雷の斧』ッ!」 満身創痍のネギが、おもむろに何の前置きもなしに放った、雷系の上位古代語魔法。 振るわれる光の刃、しかしこんな大技、小技からの連携でもなければ当たりはしない。 エヴァの頭を斜めに横切るようなその軌道。 それに対し、ゼロはエヴァの頭を蹴って飛び離れ、エヴァは僅かに身を屈め。 それぞれ余裕を持って回避を―― ---- 「――オコジョ魔法最終奥義、『オコジョ流星』!」 大技『雷の斧』を捨て技に、相手の連携を絶つネギ独自の戦術――それは見事にハマっていた。 回避のために、ゼロがエヴァの頭の上から少しだけ離れた、その瞬間。 白い流星が、宙に浮いた殺人人形の身体に、真正面から突進する。 それは、本来戦闘向きではないオコジョ妖精の、最後の手段。 持てる魔力のありったけを、ロケット推進のように噴出し推力とする、決死の体当たり。 「――ッ!? ア、アルベールッ!? 何ヲッ!?」 「ちょっとばかし俺っちに付き合ってもらうぜ、ゼロッ!!  兄貴――後は任せたぜぇぇぇぇッ!!」 百戦錬磨のゼロたちにとっても、これは意外だった。 この瞬間まで、戦力としてはカウントされていなかったカモという存在。 流星はそのままゼロの身体を捕らえ、人形もろとも、ログハウスを囲む深い森の中に飛んでいって…… そして、見えなくなった。 明日菜 対 茶々丸。ネギ 対 エヴァ。カモ 対 ゼロ。 再び3組の1対1の構図になった戦い、しかし今度はゼロたちの側の仕掛けではない。 停電続く闇の中、戦いは――! ……1人の少女が、片手で自分の頭を押さえながら、闇の中を駆けている。 ……1人の少女が、暗い森の中、大木の梢に佇んでいる。 ……1人の少女が、暗い学園の中、モニターを前にニヤリと笑う。 異なる場所、異なるタイミング、異なる動機で動き出した彼女たちは、それぞれに―― [[つぎのページへ>それは、愛 後編]]

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