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後編―2―」(2006/08/30 (水) 22:07:27) の最新版変更点

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――それは、突然だった。 「神鳴流奥義、雷こ――!?」 木々をなぎ倒しエヴァを追い掛け回し、惜しみなく大技を放ち続けてきた刹那。 森の中を飛び回りながら、いつしかログハウスの近くにまで戻ってきていた2人。 楓たちとは建物を挟んで反対側、エヴァの家の裏手で刀を振り上げた刹那は。 空中で、目に見えぬ何かに絡め取られる。急に、手足と翼の自由を失う。 「だから『力み過ぎだ』と言ったんだ。ガラにもなく猪のように突進しおって」 空中で翼をバタつかせて暴れる刹那に、エヴァは溜息をつく。 よくよく見れば、夜の闇の中。視認も困難なほど細い糸が、まるで蜘蛛の巣のように空中に張られている。 人形使いの糸だ。エヴァが逃げ続け回りながらも、こっそり巡らせ準備していた罠だ。 白い翼の刹那は、まさに蜘蛛の巣にかかった蝶のような状態。 「これで終わりだ――  リク・ラク ラ・ラック ライラック 来たれ氷精 闇の精……!」 見事に刹那を罠に誘い込んだエヴァンジェリンは、彼女の眼前にホバリングしながら、片手を掲げる。 ゆっくりと呪文の詠唱を開始する。現状のエヴァが扱える、事実上最強クラスの攻撃呪文。 それを目の前にして、刹那は―― 「……この程度で私を押さえられるとお思いかッ、エヴァンジェリンッ!!」 その手足に、『気』の力が漲る。半妖ならではの強烈なパワーを漲らせ、手足と翼を大きく振るう。 たちまち蜘蛛の巣状の『糸』が引き千切られ、刹那は自由を取り戻す。 エヴァは未だ長い呪文詠唱の途中。今更止められない。西洋魔術師の最大の弱点を晒した格好。 刹那は歪んだ壮絶な笑みを浮かべ、自由になったその場で愛刀の『夕凪』を振り上げる。 「ッ!! 闇を従え 吹雪け 常夜の…… 「遅いッ! 神鳴流決戦奥義、真・雷光け――」 ---- ――それは、突然だった。 ログハウスの中、茶々丸の動きを見切り、反撃に移ろうとした古菲。 しかし突然何の前触れもなく、茶々丸は大きく距離を開ける。 古菲への攻撃を急に止め、大きくジャンプして窓際に跳ぶ。 「な、何のつもりアル――!?」 閃光。 古菲の疑問に答えることなく、その目からビームを放った茶々丸。 ただしその対象は、目の前の古菲ではない。 窓の外――正確には、窓の外に浮かぶ、白い翼を広げた刹那。 最大級の奥義をエヴァに向けて放たんと、空中に留まり刀を構えていた刹那。 最大出力で放たれた茶々丸のビームは、窓を破り真っ直ぐ直進し、見事に刹那の翼を貫いて―― 窓の外、刹那はフラフラと落下して―― 「刹那ッ!?」 「――吹雪け 常夜の氷雪 『闇の吹雪』!!」 古菲が叫ぶ間も、あらばこそ。 壁を突き破り、恐るべき威力の攻撃魔法が古菲を襲う。室内に吹き荒れる、黒い吹雪。 建物の外、エヴァンジェリンが唱えていた強力な攻撃魔法。確かに壁を破って余りある威力を持つ。 しかし、エヴァの位置からは直接見えない位置に居たはずの古菲を、どうやって狙ったのだ――!? 疑問を抱く間もなく、古菲の意識は極低温の闇の吹雪の中に飲み込まれた。 ログハウスの裏手。壁にブチ空けられた巨大な穴の前。 翼の根元を撃ち抜かれ、墜落の衝撃で片足を骨折し。地に這いつくばり苦しむ刹那。 混乱する刹那の前に、ゆっくりとエヴァが舞い降りてくる。 「ぐ、がッ……! い、一体、何がッ……!」 「……本当は、正面からの力比べもしてみたかったのだがな。  確実に仕留めろ、との『マスター』の命令だ。悪く思うなよ、刹那、古菲。  大体、1対1の決闘なのだと思い込んだお前たちも迂闊なんだ。  ゼロの性格を知っていれば、『正々堂々』などあり得ぬことくらい、容易に想像できるだろうに」 ---- 気付くべきでは、あった。少なくとも刹那は気付けるだけの知識と情報を持っていた。 最初の攻撃。停電と同時に繰り出された、3人の息の合った攻撃。 あの時、ゼロたち3人には相談する時間も素振りもなかったはずなのに。 そもそもこの6人が押しかけてくることなど、想像すらできなかったはずなのに。 あまりにピッタリ息の合った連携行動。狙ったように持ち込まれた、3組の1対1の戦い。 あんな行動、『声を掛け合って』でなければ、到底できるものではない。 つまりは3人は、『声を掛け合って』いたのだ。常人には聞こえぬ方法で。敵には分からぬ方法で。 ――そう、『念話』である。 派手な攻撃魔法にばかり目が行きがちだが、なかなかどうして、エヴァは『念話』も得意。 修学旅行の戦いの折には、麻帆良学園に居ながらにして京都のネギたちに語りかけ。 京都に到着してからも、茶々丸に指示を飛ばし、千草を捕らえたゼロの報告を受け取っている。 ……そう、ロボットである茶々丸もまた、エヴァの念話を聞き、また返すことができるのだ。 人間そっくりであれば人間同様に効果を発揮するという、『魔法』の基本理論の延長である。 今回の戦いでも、ゼロたちの側では『念話』が重要な役目を果たしていた。 ゼロの指示に従い、3人はそれぞれ相手を選び、それぞれにタイミングを計り。 エヴァと茶々丸でタイミングを合わせ、互いの敵の位置を教えあい。 最後の一撃は、互いの敵を交換して攻撃を放ち合った。1対1の戦いだ、と思い込んだ敵の隙を突いた。 「バラけたから邪魔される心配がない」と言った古菲は、根本的な勘違いをしていたのだ。 エヴァの策を「蜘蛛の巣で絡め取るだけ」と思った刹那は、その罠の位置の意味を考えてなかったのだ。 「――こっちは、こんな所か。さて、『マスター』の方はどうなったかな?  楓が『マスター』を、チャチャゼロを倒してしまえば、私も自由になれるんだが……  『マスター』は『手出し無用』と言ってくれたわけだし、な」 ---- ――4対1。それは楓にとってもキツい状況だった。 操り人形にされて、盾にされているのは、楓が守りたい人たちだ。戦闘に関しては、一般人だ。 それが苦しみの表情を浮かべたまま、ゼロを狙った攻撃の進路に割り込んでくる。 分身を出して回り込もうにも、3人も『壁役』がいれば死角がない。 先ほどまでとは一転し、ゼロの側が楓を圧倒する状況。 操り人形の3人はそれぞれにナイフを握らされており、これらによる攻撃もなかなか厳しい。 「ケケケッ! サッキマデノ威勢ハドウシタヨ!?」 「くッ……しかし、何か隙があるはずッ……!」 楓は一旦距離を置き、身構える。 と――。悩む楓は、盾にされているうちの1人と目があう。 那波千鶴。魔法の存在も超人たちの技術も知らぬ彼女が、しかし気丈な表情で楓を見る。 楓の顔を見つめたまま、声を出さずに唇を動かす。千鶴の背後に居るゼロは、それに気付かない。 「……! なるほど! あい分かった、その策、乗らせてもらうでござるッ……!」 自分の身体が勝手に動き、仲間を妨害するこの状況。 常人なら怯えて混乱するところだろう。気の弱いものなら発狂してもおかしくない。 けれど、千鶴は冷静に、己のできることを考え、そして実行しようとしていた。 その覚悟を、楓は真正面から受け止める。 「おそらくコレは、拙者たちの最後の勝機……いざッ!」 楓は大地を蹴る。突進しながら出現するのは、楓にとっても最高の16分身。 一瞬ゼロの動きが止まる。流石にその全てに攻撃はできなくて、本体がどれか見極めんと目を凝らす。 しかし、普段なら『最後の策』である16分身も、今回に限ってはフェイク。真の狙いを隠すダミー。 そのゼロの視界を遮るように、大きく目の前に広がったのは…… 「……!! コイツハッ!?」 「楓さんッ!」 「応ッ!」 首から上しか自由のない千鶴、その首が獅子舞のように大きく振り回され。 その長い髪が、ゼロの視界を遮る。 カーテンのように視界を遮る髪に、真名に託されたデザートイーグルを突っ込むようにして突き出して。 無数の分身を囮にした楓の『本体』が、引き金を――! ---- ――ドンッ。 千鶴のすぐ耳元で、銃声が響く。 視界を遮る髪のカーテンを貫き、銃弾がゼロの頭目掛けて直進する。 頭部に迫る銃弾、避けるにも弾くにも、もう距離がない。 ハンマーに殴られたように、ゼロの小さな身体が大きく弾け跳んで―― 力を失ったゼロの身体が、地面を転がる。操り人形にされていた3人の身体が、その場に崩れ落ちる。 2回転、3回転……まさに壊れた人形の如く転がったゼロの身体が、動きを止めて。 ログハウスの前に、沈黙が戻る。 「や……やったでござる、か?」 「上手く行ったのかしら……?」 千鶴が考え、声を出さずに口にした策。読唇術の要領でそれを読み取った楓。 流石の殺人人形も、頭部に銃弾の直撃を喰らえば、オシマイだろう。 小口径のチャチな拳銃ではないのだ、最強のハンドガンに術を施した銃弾のオマケつきなのだ。 魔法で創られた存在でも、防ぎきれるものではあるまい。 至近距離での銃声に眩暈を起こした千鶴をその場に横たえ、楓はゼロに歩み寄る。 成果を確認し、まだ息があるようなら(?)トドメを刺すべく―― ピクッ。僅かに動く、人形の指。 「……いぎッ! い、いけないッ……!」 「!? どうしたでござるか、千鶴殿ッ!?」 トドメを刺すべくゼロに近づく楓の背後で、急に千鶴の悲鳴が上がる。次の瞬間―― ドスッ。 楓の背中に、一本のナイフが突き刺さっていた。 その柄を握っているのは、ありえぬ形に曲がった千鶴の右手。 肩の関節も肘の関節も手首の関節も外れ、人間には本来不可能な角度で突き出された腕。 それが、楓を刺していた。ゼロに握らされたナイフを使って、楓を刺していた。 ---- 「こ……これ、はッ……」 「ケケケッ。ケケケッ。」 楓の背に突き刺さったナイフ。脊椎の隙間を貫き脊髄を傷つける刃。 下半身に力が入らなくなり、どうしようもなく崩れ落ちてしまった楓の前で、耳障りな笑い声が響く。 ピクリとも動かなかった人形が、その上体をガバッと起こす。 ……その口に、耳障りな笑い声を上げ続けるその口に、しっかりと銃弾が咥え込まれていた。 回避も防御も間に合わない、その一瞬。 ゼロは、自分の頭目掛けて放たれたその銃弾を、がっちりとその歯(?)で挟み込んでいたのだ。 激しい摩擦と衝撃に、ゼロの口元からうっすら煙が上がっている。 表情に乏しい……というより、顔をほとんど動かせない人形の身体。 その両目だって、その仮初めの命を得てからは開かれっぱなし。まばたきさえしたことがない。 そんな彼女が唯一自由に動かせるのが、その口だった。 魔力が無く身動きも取れぬ時にも減らず口を叩き続ける、その口だった。 エヴァの魔力が復活し、スピード・パワー共に取り戻したゼロなればこそ可能な、超人技。 プッと銃弾を吐き捨て、ゼロは笑う。 「ケケケッ。コンナ危険ナ方法、二度トちゃれんじシタクネェガ……惜シカッタナ、オ前ラ。  ソレニシテモ、ソッチノ女、ナカナカヤルナァ。おっぱい潰シタ程度ジャ、全然メゲナイカ。  エヴァンジェリンノ奴ハ、こんぷれっくすナノカ何ナノカ、ヤケニおっぱいニ拘ルカラナ。  幻術デ作ッタ大人ノ姿モ、必要以上ニ胸デカイシナ~。ケケケッ!」 非戦闘要員に対する、最初の攻撃。 『死なない程度に、精神的にダメージあるような攻撃を加えておけ』と命じたゼロ。 そしてエヴァンジェリンは千鶴の胸を狙ったわけだが。 ゼロは笑う。エヴァンジェリンの屈折した劣等感を笑いながら、千鶴の両腕を破壊していく。 千鶴たちを操り人形にしていた糸をそのまま用い、可動範囲を超えた動きを強要する。 「がッ……! ひッ……!」 ---- 千鶴の腕が曲がる。ありえぬ方向に曲がる。 本来は、子供たちを優しく抱き寄せ慈しむはずの、千鶴の両腕。 それが楓を傷つける凶器にされた上に、徹底的に破壊される。肩が、肘が、手首が。 腱が千切れる。関節が軋みを上げる。関節包が破け、取り返しのつかない状態になる―― 「……やれやれ、随分と『お楽しみ』のようだな、『マスター』。悪趣味極まりないぞ」 「姉さん、こちらの戦闘は終了しました。我々2名のダメージはほぼゼロ。完全勝利です」 千鶴をいたぶり続けるゼロの前に、2人の影が舞い降りる。 ログハウスの反対側で死闘を繰り広げていた、エヴァンジェリンと茶々丸。 茶々丸がその両肩に担いでいた2人の人物を、ゼロの目の前にほうり捨てる。 全身に氷が付着し、ぐったりした古菲。エヴァの凍結魔法を受けたその手足の末端は危険な色になっている。 重度の凍傷だった。下手すれば手足の一部を切断せねばならなくなるかもしれない。 肩甲骨の辺りに大きな傷を負った「翼の無い」刹那。……いや、茶々丸の怪力で、強引にもぎ取られたのだ。 両の翼を引き千切られ、烏族の力を失い、こちらも意識を失っている。 脊髄を損傷し下半身不随となった楓。既に痛めつけられた和美と夕映。両腕を破壊された千鶴。 ゼロはエヴァの頭に飛び乗ると、痛々しい犠牲者たちを見下ろしながら、命令を下す。 「サテ……マトメテ トドメ刺シテオクカナ。  エヴァンジェリン。『命令』ダ。コイツラヲ、殺セ」 「…………。殺す必要はないのではないか? もう、勝負はついたろう?」 ゼロの命令に、不審な声を上げるエヴァ。 先ほどまでの戦いにしても、「殺す必要はない」と念話で言ったのはゼロなのだ。 それにエヴァは、抵抗力のない女子供を殺す趣味はない。弱った相手を痛めつける趣味もない。 だが、ゼロは邪悪な笑みを浮かべたまま、言い放つ。 ---- 「ダカラ、ダヨ。意味ガネーカラ、イインダ。勢イトカ、正当防衛トカジャナイカラ、イインダ」 「…………」 「コレハ『儀式』サ。エヴァンジェリン、オ前ガ生マレ変ワリ、以前ノオ前ヲ取リ戻スタメノ、ナ。  俺ヲ『作った』頃ノオ前ナラ、コンナ連中ト馴レ合ウコトモナカッタハズダ」 「…………」 「モウ1度ダケ言ウ、『命令』ダ。コイツラヲ殺セ。コイツラヲ殺シテ、馴レ合ッテタ過去ニ訣別シロ」 「……。リク・ラク ラ・ラック ライラック……」 ゼロの強制力ある命令の前に、とうとう呪文の詠唱を開始せざるを得ないエヴァ。 苦々しい表情を浮かべた彼女の手に、魔力が集まる。 今の彼女の魔法でも、動けぬ6人をまとめて死の淵に追いやるだけの威力は、十分にあるだろう。 真実に辿り着いた最後の6人も倒れ、ゼロたちを止められる者は、もうどこにも―― 「――待ちなさいよッ! あんたたちッ!」 「――そこまでです、師匠、茶々丸さん、それに……ゼロさん」 「おいおい……ゼロよぉ、いくら何でもこりゃあんまりだぜ。俺ッちもフォローできねぇよ、こりゃあ」 ――まだ、居た。 6人の集結に間に合わず、ほとんど全てが終ってからの到着になってしまったが―― まだ、ゼロたちの前に立とうとする意志が、ここに。 ログハウスの前、傷つき呻く仲間たちが待ち望んでいた、最後の希望。 大剣を手にした、神楽坂明日菜。 杖を手にした、ネギ・スプリングフィールド。 ネギの肩に乗る、アルベール・カモミール――! 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