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最後の6人」(2006/08/30 (水) 21:58:38) の最新版変更点

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**最後の6人 前編 「――チェックメイトです、チャチャゼロさん。貴方は、やり過ぎましたです」 桜咲刹那。古菲。長瀬楓。朝倉和美。綾瀬夕映。那波千鶴。 真実に到達した、最後の6人。 夕映の言葉に、残る5人も深く頷く。 それぞれの立場から到達した、1つの結論。人形とその周囲に向けられた疑いの目。 生半可なことでは許さないという、強い意志がゼロたちに叩きつけられる―― ――桜咲刹那が真実を知ったのは、実にストレートな方法。つまり近衛木乃香本人から、聞いたのだ。 「お嬢様――倒れられた直前のこと、覚えてらっしゃいますか?」 「うん、覚えとるよー。で、ウチのこと『お嬢様』呼ぶんは、誰ー? お父様のトコにおった人なん?」 「……そう思って頂いて、構いません」 刹那の顔も声も忘れ、要領を得ない脱線を繰り返す木乃香。 しかし刹那は、辛抱強く話を聞いた。絶望に泣き出し叫び出したくなる自分を抑え、質問を重ねた。 「……これ、言うてええことなんかなぁ? 秘密って約束やったし……」 「心配なさらずとも、私の口の堅さは信用して貰って構いません」 「せや言うたかて、初めて会った人になぁ……まあええか。ほんまに秘密の秘密やで?  あんな、エヴァちゃんとこで修行してた時、ゼロちゃんがな……」 そして木乃香は語り始めた。刹那を刹那と認識できないまま、その熱意に負けて語り始めた。 かの『禁呪』を使うに至った経緯。ゼロがした説明。その結果。 人の顔の見分けがつかなくなった木乃香だが、過去の記憶は壊れていない。言葉もしっかりしている。 その全ての話を聞いて、木乃香ほどにはお人よしではない刹那は、理解した。 ――チャチャゼロだ。諸悪の根源は、あの邪悪な人形だ。 そして恐らく、木乃香が癒した犠牲者たちを襲ったのも、あの性格の悪い人形が――! ---- ――長瀬楓が相談したのは、被害者の1人にして最強の1人だった。 「――そうか、茶々丸本人が、そんなことを」 「秘密を要求した本人の言葉でござる。拙者相手に、沈黙する理由はもう無いでござるよ」 楓の言葉に、漆黒のサングラスをかけた真名は静かに頷く。 鳴滝姉妹を襲った際、楓の注意を引くために、茶々丸が明かした真相の一端。 思い返せば、少し唐突な感もあった真実の暴露。そして、楓が抱いた疑いに対する、茶々丸の返事――  『姉を疑うというのなら――私をも、疑う必要があります』 あの時点では、「茶々丸に対する信頼を、ゼロにも向けてくれ」という意味に取った。 楓も真名も、茶々丸の「人格」については信頼していた。 エヴァや超の「悪だくみ」に加担することはあっても、「邪悪な行為」に手を染めることはないと信じていた。 頭のどこかで、「真に取り返しのつかないこと」はしないだろう、と思い込んでいた。 だが、あの時の茶々丸の言葉を、別の解釈で捉えれば―― 「……茶々丸を、正体不明の魔法人形同様に、疑ってかかるのならば。  楓、確かにお前の言う通り、1つの可能性が浮かぶ。あの夜の出来事を、説明できる仮説がある。  私としても、己の不覚と先入観を告白するようで、認めたくはない考えではあるんだが……な」 そして真名は辿り着く。五月が襲われ小太郎が命を落とした夜の真相に、到達する。 真名が楓と共に辿り着いた真実、それを彼女は、楓に託す。 純朴にして誠実な人型ロボット・茶々丸が、『悪』の手先・『悪』の奴隷になっていたという事実。 悪の黒幕が茶々丸の信用を利用して、真名と楓、2人の達人を手玉に取ってしまったという事実。 そして、その黒幕は考えるまでもない。茶々丸の姉、チャチャゼロ以外、ありえない――! ---- ――古菲は、友からその事実を聞かされた……というより、「読まされた」。 「……はぁ!? 茶々丸アルか?」  私も、信じたくなかったのですが。一瞬見えたあの顔は、間違いありません。 ベッドの上で、サラサラとペンを走らせ筆談していたのは、入院中の四葉五月。 その「証言」内容に、見舞いに訪れていた古菲は、素っ頓狂な声を上げる。 料理人の命とでも言うべき舌を切り取られ、味を感じることもマトモに喋ることもできなくなった彼女。 しかし丸一日が経過し、五月は自分の見たものを「証言」できるほどに回復していた。 己の最も大事なモノを理不尽に奪われ、それでも決して、安易に狂気に逃げたりしない強靭な精神。 戦闘の技術も魔法の心得も無い彼女だったが、この種の「強さ」では、3-Aでも最強なのかもしれない。 現実に足をつけ、苦しみさえも真正面から受け止め、落ち着いて自分のやるべきことを把握している。 フード付きのマントで身を隠した茶々丸に急襲され、手刀の一撃でKOされてしまった五月。 しかし、意識を失うその瞬間、彼女は確かに見ていたのだ。襲撃者を恐れることなく、目で追っていたのだ。 フードの陰に隠れていた、その顔を。猛スピードで迫り来る、その顔を。 お客さんの顔なら、たとえ一度きりの来店であろうと決して忘れぬ五月である。 そんな彼女が、一緒に『超包子』の屋台をやっていた仲間の顔を見間違えるハズがない。 仕掛けた側は、暗い環境・顔を隠すフード・視認困難な速度、で誤魔化せると思っていたのだが……。  ただ、私にもこれが茶々丸さん自身の意志だとは思えません。  きっと、彼女にソレを強要した『誰か』がいるはずです。 「だ、誰アルか?!」  分かりません。ただ、超さんやハカセではないでしょう。エヴァさんでもないと思います。  恐らく、その『誰か』が、刃物を使って私の舌を切り取ったのではないでしょうか。 刃物を使って戦ったことはなかった茶々丸。なのに「切り取られていた」舌。 そこから導き出される、当然の帰結。 そして古菲は思い至る。エヴァの身内。茶々丸の身内。常に刃物を持ち歩く、小さな影の存在に――! ---- ――那波千鶴は、病院にて真実の断片に遭遇した。それも、別々の2人の人物から。 相変わらず精神的なダメージが深く、ロクな会話のできぬあやか。 入院当初はクラスメイト全員が押しかける勢いだったが、一週間もすれば訪問客も減る。 それでも、毎日欠かさず1日3回、朝・昼・夕と通っていたのが、千鶴だった。 ただ、あやかの身の回りの世話を続ける。ただ、あやかの心身の回復を横から助ける。 ただ、ブツブツと漏れ出す要領を得ない言葉に、静かに耳を傾ける。 そして千鶴は、その根気強さで、あやかを襲った『犯人』について、多くのことを把握していた。  犯人は、子供よりなお小さな体格でしかなかったこと。  犯人は、あやかの師範よりなお優れた、合気柔術の達人であったこと。  犯人は、人間とは思えぬ、耳障りな声と笑い声を持っていたこと―― いずれも強いて聞き出したものではない。断片でしかない言葉を掻き集め、少しずつ見えてきた事実。 急いて事実のみを求めんとする者には、決して到達することはできなかっただろう。 千鶴だから、到達できた事実なのだ。 「これって……『あの時』みたいなことが、起きてるのかしら?  あのコタロー君が来た夜、『伯爵』とか名乗っていた人のような……?」 千鶴は、魔法の実在を知らない。知らないが、「何か不思議な裏の世界」があることは勘付いている。 そこに安易に踏み込むべきでないことも。関係者たちが、その事実を知られたがっていないことも。 どうやら今回の一連の事件も、同じ根を持っているらしい……と、千鶴は直感的に、確信する。 彼女は悩む。覚悟を決めて踏み込むべきか。それとも、もう少し様子を見守るべきか。 そして……その日、あやかの病室から帰ろうとした彼女は。 病院の入り口で、その日その時点での、最新の犠牲者とばったり遭遇する。偶然出くわす。 救急車で運ばれてきた、早乙女ハルナ。ストレッチャーで運ばれる、意識を保ったままの被害者。 「は……ハルナさん?! あらまぁ、大変!」 「えへへ……ヘマ打っちゃった。なんか、私のコトが邪魔だった奴が、いるみたいでさァ……!」 ---- そしてハルナは語りだした。部分麻酔を受け、右手の緊急手術を受けながら、語りだした。 痛みより治療より、「自分の掴んだ真実を誰かに伝えること」を優先した。医師に怒られても曲げなかった。 そう――ゼロの予想より、遥かに早乙女ハルナは「強かった」のだ。 千鶴は悲惨な様子にも目を逸らすことなく、ずっとハルナの脇に付き添い、その想いを受け止めた。 ハルナは語った。聡美の研究の裏事情については、流石に伏せたが…… それ以外の全てを語った。自分の調べていたこと、自分の抱いた疑い。 そして何より、部屋を訪れた時の聡美の様子……とりわけ、茶々丸や「人形」の方をチラチラ窺う様子を。 茶々丸に呼び出され、取り残された踊り場で、「茶々丸以外の第三者」に襲われた自分の状況を。 ……ここまで情報が出揃えば、魔法を知らぬ千鶴にも、全てが見える。全てが分かる。 那波千鶴は、覚悟を決めた。あやかとハルナ、そしてクラスのみんなのために、覚悟を決めた。 ――朝倉和美と綾瀬夕映は、違う道を辿って同じ所に到達した2人である。 和美はさよから。夕映は千雨から。それぞれ獲得した、「笑う人形」「15年前の事件」というキーワード。 そして和美も夕映も、さよや千雨の知らぬ事実を知っている。 直接・間接に、聞いて見て会って、知っている。 エヴァンジェリンの従者、生きた人形・チャチャゼロの存在と性格。 そして、エヴァンジェリンの大まかな過去、彼女が麻帆良にやってきた時期についての情報。 ゼロの存在や人格を知る者にとって、「笑う人形」「人を襲う殺人人形」と言えば、ゼロのこととしか思えない。 エヴァが麻帆良に来た時期を知る者にとって、「15年前」という時期の一致は大きな意味を持つ。 そして、1つならば偶然の一致もありうるだろう。情報ソースが単一なら、疑いの余地もあるだろう。 しかし複数のキーワードが、全く別の所から出てきた情報によって、一致してしまえば……。 和美と夕映は、確信する。 アイツだ。エヴァンジェリンの所にいた、笑う人形。15年前に麻帆良に入り込んだ異物。 誰もが涙無しには聞けなかったネギの過去の話に、ただただ笑っていたサディスト。歪んだ感性の持ち主。 間違いない。都市伝説の伝える通り、次々と生徒を襲っていった犯人は――! ---- 奇跡のように、あるいはユングの唱えたシンクロニティのように。 異なる経路・異なる理由によって、しかしほぼ同時に真実に到達した6人。 いや――『シンクロニティ』と呼ぶならば、真実を知った後に彼女らが取った行動こそが、ソレであろう。 「――で、何でアンタたち、揃いも揃って私の部屋に押しかけてくるわけ?!」 続々と寮の部屋を尋ねてきた6人に、明日菜は困惑を隠せない。 急な停電に、パニックに陥る学園。機能を停止した暗い寮。 そんな闇に覆われた混乱の中――刹那が、楓が、古菲が千鶴が和美が夕映が。 次々に戸を叩き、自分の到達した『真実』を語る。1人が語り終えるより先に、訪れるもう1人。 そして6人が6人とも、表現や内容こそ違えども、同じ結論。同じ犯人。 他の人の話を聞き、互いに大いに驚いた彼女たちだが……同時に彼女たちは、ますます確信を深めて。 互いに顔を見合わせ、頷き合う。 「何故と言われても……理由は1つでござるよ、なぁ?」 「そうねぇ。みんな同じことを考えているようだしねぇ」 「確かに、明日菜にも知っていて欲しいってのはあったんだ。でも、それだけじゃなくて……」 「明日菜さんに、お願いがあります。恐らくこれは、我々6人、全員の願いでしょう」 「これから私は――いや私たちは、エヴァの家に行くアルね。あの人形、ボコボコにして吊るし上げるアルね」 「けれど、出来ることなら……その場に、ネギ先生にも居て欲しいのです。  ネギ先生の前で、チャチャゼロさんに土下座させてやりたいのです。謝らせてやりたいのです」 事件の初期から今までずっと、守れなかった生徒たちのことを悔やみ続けていたネギ。 無理を重ね、空回りを続け、調子を崩し、とうとう隔離までされてしまったネギ。 この一連の事件の終幕に、彼の存在は無くてはならない。このまま蚊帳の外で終ってしまうべきではない。 そう思うから、彼女たちは明日菜の所に立ち寄ったのだ。ネギの住んでいた部屋に来たのだ。 「明日菜なら、緊急用の連絡先か何か、聞かされてるだろ? 何か連絡取る方法、持ってるだろ?  ネギ君を連れて、一緒にエヴァちゃんの家まで来てよ。みんなで、全部終わりにしちゃおうぜ――!」 ---- ――エヴァンジェリンのログハウスの前。停電から回復した街灯の明かりの中。 待ち受ける6人の前に、堂々と出てきたエヴァ、茶々丸、チャチャゼロの3人。 6人は鋭い目でゼロを睨みつつ、小さな声で囁きあう。 「こちらから動くのはネギ坊主の到着を待ってから、という話ではなかったでござるか?!」 「向こうから出てきてしまったんだ、仕方ないだろう。よもやこの場で見過ごすわけにも行くまい」 片目を開き、隣の刹那に囁く楓。硬い表情で返す刹那。 同じ所に辿り着いたとはいえ、実は6人の認識や目標が完全に一致していたわけでもない。 木乃香の信頼を裏切ったゼロへの怒りに燃える刹那は、やる気十分。すぐにでも斬りかかる構え。 対する楓は、双子の仇、とも思いつつも、冷静な戦力分析を欠かさない。 向こうは3人、こちらも戦えるのは3人――果たして真正面から戦っていいものかどうか。 他にも、犯人に一言文句を言ってやりたいと思っている千鶴。 一体さよに何をしたのかと小一時間問い詰めたい和美。 コソコソと隠れて襲っていた以上、犯人看破の事実を突きつけるだけで十分折れる、と推理した夕映。 古菲に至っては、バカイエローの名に恥じず「何も考えていない」。ただ怒りに握り締めた拳があるのみ。 ゼロが犯人だ、と見抜いた6人。ゼロを糾弾するつもりで押しかけた6人。 けれども、その考えの細部は、必ずしも噛み合ってはいなくて……。 そんな彼女たちを前に、ゼロは笑う。実に楽しそうに、嬉しそうに笑う。 「ケケケッ。オ前ラ、遅過ギルゼ。アト半日モ早ケレバ、全然状況モ違ッタノニヨ――  イイダロウ。遊ンデヤル。思イッキリ、ヤッテヤルヨ!」  18th TARGET  →  出席番号03番 朝倉和美  出席番号04番 綾瀬夕映                 出席番号12番 古菲  出席番号15番 桜咲刹那                 出席番号20番 長瀬楓 出席番号21番 那波千鶴 [[次のページ>最後の6人 中編]]

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