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「ハルナ編―第二話―」(2006/08/05 (土) 22:48:33) の最新版変更点
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最初に襲われたのは亜子。続いて返り討ちにあったらしいあやか。
千雨が3番目で、4番目が五月。そして昨日の夜中に鳴滝姉妹――
一般の生徒が知る「襲撃事件」は、これが全てである。合計、6人。
全て夜中に、寮の外を歩いていた所を襲われたと見られている。
だが、明らかにおかしな「不幸な偶然の一致」が、他にもいくつもあった。
入院した人間が2人。病院の世話になったのが2人。病院にも行かなかった怪我人が3人。
「事故に遭って両足切断の怪我を負った」と説明されている美空。
「急病を発症し関係者以外面会禁止」という処分の続く木乃香。
「ライフルが暴発・破片で目に怪我を負った」と言い張る真名。
「実験中にビームに誤射されて片腕を失った」という聡美。
未だ詳しいことを語らないが、その様子から凄惨なケンカを演じたと噂される美砂、円、桜子。
以上7人の病人・けが人の上に、精神の調子を乱している者も何名もいる。
どう見ても不自然なリストカットを繰り返すようになった裕奈。
唐突に引き篭もりになり、親友の夕映やハルカさえも避けるようになったのどか。
木乃香の入院以来、そのベッドサイドに張り付いて動こうとしない刹那。
感情の起伏が以前よりも平坦になった茶々丸に、和美の目の前から姿を消したさよ。
そして、ついさっき寮で騒ぎを起こしたストリーキング・アキラ……
……ああいや、アキラの場合、露出狂というより、水恐怖症とでも言うべき精神状態だったらしいが。
何かが、狂っている。
それがどこまで同じ根と繋がるものなのかは分からないが、とにかく何かが壊れている。
そして、これらの事件も同じ犯人・同じ原因によるものだとしたら――
――今誰もが信じ、夜間外出を禁じてまで取っている対策は、一気にその意味を失うのだ。
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「ごめんねー、あんまり役に立てなくて」
ハルナがまた、自分の部屋ではない一室から出てくる。戸口まで見送り、戸を閉める村上夏美。
聡美に続いて話を聞きに行ったのは、あやかと同室の夏美と千鶴のところ。
千鶴の方はあやかのお見舞いに行っていて留守だったが、代わりに残っていた夏美から話が聞けた。
あやかが襲われた状況については、特に新たな情報もなかったのだが……
「夏美の『弟』の小太郎クンが、日曜の夜から『行方不明』、ね……」
日曜の夜、と言えば、五月が襲われ真名が視力を失った時期とほぼ一致する。
やはりコレも、偶然とは思えない。
「うーん、でも、どういう関係があるのか、イマイチ見えて来ないんだよなァ……」
廊下で腕を組んで、考え込むハルナ。
彼女が珍しく「頑張っている」のは、のどかの一件があるから。
もし全てが関係しているなら、何かのどかを回復させるきっかけみたいなものが掴めるはず。
雲を掴むような話ではあるが、何もしないでじっとして居るより、ずっといい。
早乙女ハルナは、友情に篤い女なのだ。
「……早乙女さん」
「うわっ!? びびび、びっくりしたー。いきなり声かけないでよ」
「……申し訳ありません」
背後から声をかけられて飛びあがったハルナは、振り返って相手を見る。
絡繰茶々丸。さっき聡美の部屋に居た人物だ。
いつも通りの、無表情というか真面目というか、ともかく平坦な顔と口調で、淡々と語る。
「少し、お話があります。お時間宜しいでしょうか?」
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「……つまり、ハカセについて突っ込むな、ってこと?」
「はい。一歩間違えば、ハカセの身の危険にも繋がります」
寮の裏手、非常階段の踊り場。
誰にも聞かれたくない話がある、と言ってハルナを引っ張ってきた茶々丸は、淡々と語る。
「元々、工学部に潤沢な予算が下りているのは、極めて政治的な判断によるものです。
おおっぴらにはできない兵器開発を、ここ麻帆良という閉鎖された環境でこっそり行う……
具体名は申し上げられませんが、日本のみならずいくつもの大国の思惑が絡み合っています」
「ふむ……」
「そしてハカセのあの沈黙が、これらの裏事情に起因するものであった場合。
無責任な噂のレベルであっても、そこに深く関わるハカセは、とても危険な立場に立たされます。
最悪、抹殺されることでしょう。
下手をすればハカセ1人に留まらず、工学部の優秀な人材が、根こそぎ何十人も」
多少表現を大袈裟に言ってはいるが、茶々丸の話は真実の一端を語っている。
ロボット工学の枠を大きく踏み越えた、各種兵器の開発。武装を組み込まれた茶々丸や田中さん。
これが社会的に問題にならない理由は、1つしかない――既に、根回しが済んでいるのだ。
本来それを咎め、罰すべき立場の人々が、既に知った上で黙認しているのだ。
こんな微妙な話を迂闊に突付いて変な噂でも立てば、それだけで工学部はもうおしまいである。
「…………」
「今言ったお話も、他言無用でお願いします。
貴女の良識に掛かっている命があるということ、お忘れなきよう」
そのまま、茶々丸は非常階段をトントンと降りて行き、その場を立ち去る。
思いもかけず深刻な話をされてしまったハルナは、踊り場の柵にもたれかかって。
沈み行く夕陽を、ぼんやりと眺める。
「……はぁ~、どうすっかねェ。これって、爆弾探してたら別の地雷踏んじゃったような感じ?
黙っていろと言われてもねェ……。私、我慢できるかなァ……」
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夕陽を見て、たそがれるハルナ。
彼女自身、親友のため、のどかのためにと思って動いていたのだ。
同じく「親しい人」のために忠告してきた茶々丸を、無視できるわけがない。
彼女はその場で、大きく伸びをする。凝り固まった肩と思考をほぐそうと、両手を上に挙げて伸びをする。
「んッ……。そうだね、ハカセはちょっと迂回して、別のトコから攻めますか……!」
ひゅんッ。
すぱッ。
……パシャッ。
「……へ?」
そしてハルナは、両手を頭上に伸ばした格好のまま、しばし固まる。
頭上を駆け抜けた風切り音。唐突に降り注いだ赤い液体。パラパラと降ってきた小さい「何か」。
少し遅れてじんわり来た、とてつもない痛み。
ハルナは自分の血を浴びながら、頭上を見上げる。頭上に伸ばした、自分の手を見る。
……右手の指が、綺麗に5本とも、すっぱり切り飛ばされていた。
非常階段の踊り場に、切り刻まれた「指だったもの」が散らばっている。
漫画家の命。彼女の利き腕。物語を紡ぎ絵を書き上げる、何よりも大事な自分の指。
「えっ、ちょっ、嘘っ……ええッ? い、いま私、誰に何されたの……!?」
ハルナは周囲を見回す。けれど何も見えない。誰も居ない。
見えないナイフが飛んできて、指だけを切り飛ばしていったような感覚。ハルナは混乱する。
「わた…私の指ッ!? 私の、手がぁッ!!」
「……ケケケッ。マ、コレデ暫ク、調ベ物ドコロジャネーダロ」
「…………」
エヴァの家に帰る道中。茶々丸の頭上で、ゼロは笑う。
茶々丸を使って人気のない所に呼び出す。真実の一端を明かして相手の注意を惹き付ける。
その上で、小太郎を葬ったワイヤーによる切断術。姿を隠したまま遠距離からゼロがキメる。
作戦の成功に、ゼロはご満悦だった。
自分の才能、生きる目標を理不尽に奪われて、混乱しない人間などいない。
自分のことで手一杯の状態にすれば、他人の心配をする余裕など、失われてしまうはず――
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「ケケケッ。人間ナンテ、ソンナモンサ。結局ハ テメーノコトガ一番可愛インダヨ。
覚エテオキナ、茶々丸。アンナ連中、信ジテヤッタトコロデ、最後ノ最後ニハ必ズ裏切ルノサ」
「……本当に、そうでしょうか……?」
「ナンダヨ、文句アンノカヨ」
「いえ、別に」
ゼロの殺伐とした人間観に、茶々丸は小さく抗議しかけたが。
結局反論を諦め、黙々と歩く。エヴァのログハウス目指して、静かに歩き続ける。
「……遅かったな、茶々丸、チャチャゼロ」
――ログハウスの前。
腰に手を当て待っていたのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。彼女たちの主人。
エヴァが従者たちの帰りを玄関前で待ち受けるなど、滅多にないことだった。
そしてエヴァは、不機嫌そうな表情のまま、ゼロたちに対して言い放つ。
「血の臭いがするぞ。今度は誰を襲ってきた? 誰の将来を、奪ってきた?」
「ケケケッ。何ノコトダヨ、御主人?」
「今さらとぼけるな、チャチャゼロ。私が何も気付かないと、本当に思っていたのか?
……まあ私も、茶々丸がお前の『奴隷』にされてるとは信じたくなかったがな」
静かに語るエヴァンジェリン。
その静けさが、彼女の怒りの深さを窺わせる。冷たい怒りが、その鋭い目に込められる。
真実に近づきつつあったのは、夕映や和美、ハルナだけではない。
ゼロたちの主人も、また――!
「少し調子に乗りすぎだ、このバカモノどもが。
これはちょっとばかり、手厳しいお仕置きが必要かな? 覚悟しておけよ……!?」
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