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ハカセ編―第一話―」(2006/08/25 (金) 02:32:37) の最新版変更点

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チャチャゼロ残酷編10   ヒトの手に余りしモノ ……広い空間。 どこかの建物の中なのか、ちょっとした体育館ほどもあろうかという四角い空間。 白い壁に囲まれ、明るい照明に照らされた中で……筋骨隆々たる1人の男が、銃を構えていた。 2mを越す長身目を隠すサングラス。腰のあたりからは、何故か太いコード類が壁に伸びて。 これもまた長大なライフルで狙うのは、なんと男と瓜二つの姿形をした人物。 逃げようともしない双子のような敵、しかし男は、何の感動もなく何の躊躇もなく、引き金を引いて…… 室内に、爆発音が響いた。 爆発したのは、しかし銃で狙われていた方ではない。 なんと、ライフルを構えていた方が爆炎に包まれている。 ライフルの横腹から上がる白煙。銃を構えた姿勢のまま、吹き飛んで消滅した男の頭部。 銃の暴発。哀れ、鏡映しの兄弟を撃とうとした男は、自らの銃により、その短い命を―― 「あー。またやっちゃいましたねー。どーにも安定しないですねー、これー」 なんとも呑気な声を上げたのは、白衣に身を包んだメガネとお下げの少女。 白衣のはだけた隙間からは、アインシュタインの顔のTシャツがおどけた表情で舌を見せる。 彼女の名は、葉加瀬聡美。 中学生でありながら、麻帆良大学工学部で数々の研究をリードする天才。 「やっぱり『結界弾』ってのは難しいですねー。どーも魔法ってのはブレが大きくて困りますー。  出力はアップしてるハズなんですけど……今度エヴァンジェリンさんに相談してみましょうかー」 白煙を上げ続ける男性型ロボット・T-ANK-α3(通称・田中さん)を見上げ、聡美は溜息をつく。 彼女の最近の研究テーマは、『魔法の工学的応用』。 今、「田中さん」2体を使って実験しているのも、魔法技術を応用した結界弾の改良の一環であった。 ---- 「ん~。ライフル側の破損状況を見るに、打ち出す時に魔力が暴走してるんですねー。  この口径だとこのパワーは無理なんでしょうか……でも口径上げると今度は……  もうライフルの形は諦めてバズーカにする手も……ああしかし今度は弾数と射程が……」 壊れて沈黙する「田中さん」の前で、ボードを抱えブツブツと呟く聡美。 こうなると彼女は完全に「自分の世界」に入ってしまう。自分の思考に没入する。 背後から忍び寄る悪意の存在にも、まるで気付かない…… 「ナカナカ派手ニヤッテルナ、相変ワラズヨー。ドンダケ予算アルンダヨ、オ前ラ」 「ハカセ、それ以上の実験は無意味に『田中さん』を消耗するだけかと思われます」 「……うわッ!? い、いつの間に?!」 嘲るような笑い声と、淡々とした忠告。思わず聡美は飛びあがる。 見ればこの、兵器評価用の耐爆実験室に、チャチャゼロを乗せた茶々丸が入ってきていた。 まあ、真後ろに立たれ声をかけられるまで気付かなかったのだから、どう考えても聡美が悪い。 「ロボ研の皆さんに尋ねたら、ハカセはこちらだろうと言われましたので」 「結界弾ノ実験カ? 面白イコトシテヤガンナー。非魔法的ナ方法デ威力増大サセヨウッテカ。  構ワネーカラ、モウチョット出力アゲテミナ? 今度ハ確実ニ暴発スルカラヨ。 ケケケッ!」 「もー、ゼロさん酷いですー。私、一生懸命頑張ってるんですよー?」 聡美は頬を膨らませる。恐るべき超兵器の開発をしていながら、その仕草は可愛いものだ。 天才の切れ味と、ちょっと抜けた性格。高速で回転する頭脳と、のんびりした口調。 危険極まりない実験の数々と、危機感なき態度。 相反するこれらの性質を矛盾無く持ち合わせたのが、葉加瀬聡美という人物であった。 彼女は信仰している。疑うことなく、信仰している。 科学は、ヒトを幸せにするモノだと。 科学の発達は、必ずや人間社会をより良いモノにするのだ、と。 そして科学は、常に発達し続けていかねばならないモノだ、と。 そのためなら――多少、問題のあるコトをしても、許されるハズだ。 後の歴史が、許してくれるハズだ。そう、信じている。 ---- 「……で、何の用ですかー? 茶々丸の定期整備なら、昨日やったばかりですけどー」 無事だった方の「田中さん」に、壊れたもう1体の片付けを命じて、聡美は2人に向き直る。 ゼロが聡美を訪ねる理由は、ちょっと考えられない。用事があるとしたら茶々丸の方だ。 このようにアポ無しで訪れる時というのは、何かトラブルでも起きたか、それとも。 「私自身の身体に、現時点では特に問題はありません。しかし……」 「茶々丸ノ戦闘力ヲ上ゲル相談ガシタクテナ。コイツ、弱クテチョット使エネーカラヨ」 「茶々丸のぱわーあっぷ……ですかぁ?」 ゼロの言葉に、聡美は首を傾げる。 実のところ、茶々丸という存在は、既に相当「完成された」代物だ。簡単に強化はできない。 外付けの追加換装パーツのプランはいくつかあるが、しかしそれにも限界がある。 「将来的に付けたいパーツはいくつもありますけどー、まだ信頼性低いんですよねー。  何か必要なオプションパーツがあるなら、すぐに作っちゃいますけどー……」 「イヤ、ソウジャナクテナ……。俺ガ指摘シタイノハ、コイツノ頭ノ中ノコトサ」 ゼロは、自分が乗っている茶々丸の頭をコンコンと叩いてみせる。無表情な茶々丸。 「こんぴゅーたートカ、俺ニハ良ク分カンネーンダケドヨ。  オ前ラ、コイツニ何カ変ナ『抑制』カケテルダロ?  禁止命令ナノカ、『呪い』ナノカ知ラネーガ。不自然ニ攻撃ニぶれーきヲカケル、何カヲヨ」 「ああ、そうですねー。強制力の強いコマンドとして、人命に関わるような攻撃を禁じてますー。  今の茶々丸の成長した自我プログラムなら、これ無しでも問題起きないとは思うんですけど」 かの「ロボット3原則」ほど単純ではないが、茶々丸の思考や行動には様々な制限がある。 この人命尊重のルールは、人間相手に深刻なダメージを与えることを禁じていた。 勢い、その攻撃は常に手加減の入ったものになる。 聡美の言葉に、そしてゼロは笑う。望み通りの展開に、もっともらしい言葉で誘導していく。 「ナラ――チョット試シニ、外シテミテクレネーカ?  何ダカヨ、戦闘訓練ノ時ニヨ、一瞬妙ナ動キスル時ガアルンダ。  実戦ジャ、コンマ1秒ノ躊躇ガ命ニ関ワルカラナ。――ケケケッ!」  10th TARGET  →  出席番号24番 葉加瀬聡美 -[[ハカセ編―第二話―]]へ
**ヒトの手に余りしモノ ……広い空間。 どこかの建物の中なのか、ちょっとした体育館ほどもあろうかという四角い空間。 白い壁に囲まれ、明るい照明に照らされた中で……筋骨隆々たる1人の男が、銃を構えていた。 2mを越す長身目を隠すサングラス。腰のあたりからは、何故か太いコード類が壁に伸びて。 これもまた長大なライフルで狙うのは、なんと男と瓜二つの姿形をした人物。 逃げようともしない双子のような敵、しかし男は、何の感動もなく何の躊躇もなく、引き金を引いて…… 室内に、爆発音が響いた。 爆発したのは、しかし銃で狙われていた方ではない。 なんと、ライフルを構えていた方が爆炎に包まれている。 ライフルの横腹から上がる白煙。銃を構えた姿勢のまま、吹き飛んで消滅した男の頭部。 銃の暴発。哀れ、鏡映しの兄弟を撃とうとした男は、自らの銃により、その短い命を―― 「あー。またやっちゃいましたねー。どーにも安定しないですねー、これー」 なんとも呑気な声を上げたのは、白衣に身を包んだメガネとお下げの少女。 白衣のはだけた隙間からは、アインシュタインの顔のTシャツがおどけた表情で舌を見せる。 彼女の名は、葉加瀬聡美。 中学生でありながら、麻帆良大学工学部で数々の研究をリードする天才。 「やっぱり『結界弾』ってのは難しいですねー。どーも魔法ってのはブレが大きくて困りますー。  出力はアップしてるハズなんですけど……今度エヴァンジェリンさんに相談してみましょうかー」 白煙を上げ続ける男性型ロボット・T-ANK-α3(通称・田中さん)を見上げ、聡美は溜息をつく。 彼女の最近の研究テーマは、『魔法の工学的応用』。 今、「田中さん」2体を使って実験しているのも、魔法技術を応用した結界弾の改良の一環であった。 ---- 「ん~。ライフル側の破損状況を見るに、打ち出す時に魔力が暴走してるんですねー。  この口径だとこのパワーは無理なんでしょうか……でも口径上げると今度は……  もうライフルの形は諦めてバズーカにする手も……ああしかし今度は弾数と射程が……」 壊れて沈黙する「田中さん」の前で、ボードを抱えブツブツと呟く聡美。 こうなると彼女は完全に「自分の世界」に入ってしまう。自分の思考に没入する。 背後から忍び寄る悪意の存在にも、まるで気付かない…… 「ナカナカ派手ニヤッテルナ、相変ワラズヨー。ドンダケ予算アルンダヨ、オ前ラ」 「ハカセ、それ以上の実験は無意味に『田中さん』を消耗するだけかと思われます」 「……うわッ!? い、いつの間に?!」 嘲るような笑い声と、淡々とした忠告。思わず聡美は飛びあがる。 見ればこの、兵器評価用の耐爆実験室に、チャチャゼロを乗せた茶々丸が入ってきていた。 まあ、真後ろに立たれ声をかけられるまで気付かなかったのだから、どう考えても聡美が悪い。 「ロボ研の皆さんに尋ねたら、ハカセはこちらだろうと言われましたので」 「結界弾ノ実験カ? 面白イコトシテヤガンナー。非魔法的ナ方法デ威力増大サセヨウッテカ。  構ワネーカラ、モウチョット出力アゲテミナ? 今度ハ確実ニ暴発スルカラヨ。 ケケケッ!」 「もー、ゼロさん酷いですー。私、一生懸命頑張ってるんですよー?」 聡美は頬を膨らませる。恐るべき超兵器の開発をしていながら、その仕草は可愛いものだ。 天才の切れ味と、ちょっと抜けた性格。高速で回転する頭脳と、のんびりした口調。 危険極まりない実験の数々と、危機感なき態度。 相反するこれらの性質を矛盾無く持ち合わせたのが、葉加瀬聡美という人物であった。 彼女は信仰している。疑うことなく、信仰している。 科学は、ヒトを幸せにするモノだと。 科学の発達は、必ずや人間社会をより良いモノにするのだ、と。 そして科学は、常に発達し続けていかねばならないモノだ、と。 そのためなら――多少、問題のあるコトをしても、許されるハズだ。 後の歴史が、許してくれるハズだ。そう、信じている。 ---- 「……で、何の用ですかー? 茶々丸の定期整備なら、昨日やったばかりですけどー」 無事だった方の「田中さん」に、壊れたもう1体の片付けを命じて、聡美は2人に向き直る。 ゼロが聡美を訪ねる理由は、ちょっと考えられない。用事があるとしたら茶々丸の方だ。 このようにアポ無しで訪れる時というのは、何かトラブルでも起きたか、それとも。 「私自身の身体に、現時点では特に問題はありません。しかし……」 「茶々丸ノ戦闘力ヲ上ゲル相談ガシタクテナ。コイツ、弱クテチョット使エネーカラヨ」 「茶々丸のぱわーあっぷ……ですかぁ?」 ゼロの言葉に、聡美は首を傾げる。 実のところ、茶々丸という存在は、既に相当「完成された」代物だ。簡単に強化はできない。 外付けの追加換装パーツのプランはいくつかあるが、しかしそれにも限界がある。 「将来的に付けたいパーツはいくつもありますけどー、まだ信頼性低いんですよねー。  何か必要なオプションパーツがあるなら、すぐに作っちゃいますけどー……」 「イヤ、ソウジャナクテナ……。俺ガ指摘シタイノハ、コイツノ頭ノ中ノコトサ」 ゼロは、自分が乗っている茶々丸の頭をコンコンと叩いてみせる。無表情な茶々丸。 「こんぴゅーたートカ、俺ニハ良ク分カンネーンダケドヨ。  オ前ラ、コイツニ何カ変ナ『抑制』カケテルダロ?  禁止命令ナノカ、『呪い』ナノカ知ラネーガ。不自然ニ攻撃ニぶれーきヲカケル、何カヲヨ」 「ああ、そうですねー。強制力の強いコマンドとして、人命に関わるような攻撃を禁じてますー。  今の茶々丸の成長した自我プログラムなら、これ無しでも問題起きないとは思うんですけど」 かの「ロボット3原則」ほど単純ではないが、茶々丸の思考や行動には様々な制限がある。 この人命尊重のルールは、人間相手に深刻なダメージを与えることを禁じていた。 勢い、その攻撃は常に手加減の入ったものになる。 聡美の言葉に、そしてゼロは笑う。望み通りの展開に、もっともらしい言葉で誘導していく。 「ナラ――チョット試シニ、外シテミテクレネーカ?  何ダカヨ、戦闘訓練ノ時ニヨ、一瞬妙ナ動キスル時ガアルンダ。  実戦ジャ、コンマ1秒ノ躊躇ガ命ニ関ワルカラナ。――ケケケッ!」  10th TARGET  →  出席番号24番 葉加瀬聡美 -[[ハカセ編―第二話―]]へ

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