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毎日新聞 2013年05月02日 02時31分

 日本人の心のよりどころともいえる富士山が6月に世界文化遺産に登録される見通しになった。環境の改善に奮闘し、この霊峰を大切にし続けてきた地元の人々や自治体、ボランティアの地道な努力が実ったものであり、共に喜びたい。

 富士山は古来、信仰の対象であり、芸術の源泉になり続けてきた。それは日本人の自然に対する態度を代表的に示している。山や岩、巨樹そのものを神としてあがめる思想で、自然は征服するものではなく、畏怖(いふ)し、敬う存在だという考え方だ。

 世界遺産登録は海外にこの自然との共生の思想を知ってもらうきっかけになるだけでなく、それを忘れがちな現代の日本人にも、示唆するものが大きい。それは東日本大震災後を生きる知恵にもなるだろう。

 しかし、残された課題はいくつもある。今回、富士山を登録するように国連教育科学文化機関(ユネスコ)に勧告をした国際記念物遺跡会議(イコモス)も、国指定名勝「三保松原(みほのまつばら)」(静岡市)を除いたのをはじめ、いくつかの条件を付けている。

 それも踏まえて課題を列挙すれば、まず、年間30万人を数える登山客をどう抑制するのかという問題がある。登録でさらに増えることが予想される。静岡、山梨両県では入山料制度の導入を検討しているが、この動きを見守りたい。

 膨大な量のごみをどう減らすのか、今後の観光開発をどう管理するのかも重要な課題だ。もちろん、登山道の整備や流土の防止など、公共工事のあり方も検討が必要だ。

 また、神社や登山道、池や湖など、各構成資産をどのように結び付けて、巡礼(芸術)の道として示せるのかも今後取り組まないといけない問題だ。個々の構成資産は合わさって一つの大きな絵のような存在になるべきであり、それは訪れた人々に簡単に理解されないといけない。

 このような課題に対して、2016年までに保全状況報告書を提出することが求められている。

 こういったことを考えると、富士山全体を一律的に管理する行政の仕組みが必要なのではないか。地元自治体や政府、各種団体が一体になって、統括的に富士山を管理するのが望ましい。

 毎日新聞は00年から富士山再生キャンペーン事務局を設置し、清掃や音楽祭に取り組んできた。また、NPO法人富士山クラブと全面協力している。同クラブは昨年度だけで74回の清掃活動をし、75トンのごみを撤去した。外来植物の駆除や子供たちへの環境教育、植樹や間伐作業も盛んに実施している。私たちはさらにこの活動を深め、世界遺産にふさわしい、美しい富士山を百年後、千年後の未来に伝えたい。


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最終更新:2013年05月02日 12:16