シグ1

    

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朝っぱらからインターホンを鳴らしまくる無礼な訪問者に、俺は心底ご機嫌斜めだった。何たって朝の4時である。
普通なら1回鳴らすだけでもはばかられるような時間なのに、こいつは毎秒2回、正確無比なリズムできっちりと鳴らしやがる。
22回目のドアベルが鳴ったときに、堪忍袋の緒が切れた。
場合によっては本気でぶん殴るつもりで、玄関のドアを開けた。チェーンを外してしまったのは、不用心だったかもしれない。
「てめぇ、今何時だと思って………」
扉を開けた瞬間、玄関に飛び込んでくる青い物体。かわす暇もなく俺は突き飛ばされてしまった。

重い。さっきの青いのが俺の上に乗っているようだ。視界がふさがって何も見えなかったが、青いのが俺の上でもぞもぞしているのだけは判った。
ドアが閉まる音、チェーンもかけられたようだ。
「……あっ」
子供っぽい声。青いのが急に軽くなった。いや、軽くなったというか、空中に浮いたのだ。
突然の出来事にあっけに取られる俺の顔を、青いのが覗き込んでいた。

体の長さは2メートルぐらいで細長い。体の色は灰色がかった水色で、くりくりした目は金色。
全体としては中国の龍とイルカと犬を足して2で割った感じ。そんな正体不明の生き物が、俺の目の前でふよふよと浮いていた。
「えへへ……」
えへへ、じゃねーよな。おまえ誰だよ? 思ったことを口に出そうと思ったそのとき、ドアが激しくノックされた。
青いのの表情が一変し、そわそわと落ち着かない様子になる。
「ゴメン、やり過ごして」
「はぁ?」
「いいから。頼むね」
言い終わるか言い終わらないかのうちに、青いのは俺の寝室に飛び込んで、つっとふすまを閉めた。
で、ノックの音は明らかに苛立ちを覚え始めている。このままドアを破られると面倒なので、応対する事にする。今回はチェーンをつけたままだ。

「はい?」
ドアの隙間から見えたのは明らかに怪しい黒服サングラス。しかもガタイがゴツい。
「朝早くから失礼。警察の者です」
「はあ。警察ですか」
この人は警察官を見た事がないに違いない。この風貌は完璧にシークレットサービス。
「最近この辺りで、新手の着ぐるみ強盗が出没してましてね」
「はあ」
「龍みたいな、水色の着ぐるみなんですが、ご存知ないですか?」
「ご存知ないですね」
「そうですか? ここら辺で見た気がするんですがね」
「ご存知ないです。眠いから帰ってもらえますか?」
食い下がる黒服に「あっち行け」のジェスチャーをして、俺はドアを閉めた。ドアの向こうの足跡が遠ざかっていったので、もう大丈夫だろう。

「ふわあぁぁぁ」
訳のわからないことが続いたので、あくびをするのを忘れていた。二酸化炭素を吐き出して、代わりに眠気を吸い込んだ。
ふすまを開けると、さっきの青いのは俺のタオルケットを勝手にかぶって震えている。
「もう行ったよ」
その一言を聞いて、青いのは尻尾でタオルケットをずらした。かぶってる意味あるのか?
「お前、着ぐるみ強盗なの?」
「まさか!」
考えてみれば着ぐるみが空中に浮くわけがない。しかしそうなるとこいつの正体がますます腑に落ちない。
「……新手の巨大生物か!」
「バカにしてる?」
布団にべったりと張り付いていた青いのは、その場でとぐろを巻こうとして、自分の体が少し短すぎるのに気づく。
残念そうな顔をしてさっきみたいに空中に浮き上がった。
「僕の名前はシグ。シグ=シグルド=ドラグアクエリオ。水のドラゴンだよ」
俺は中の人がいる事を切に願った。何でこんな訳のわからんものが俺の部屋にいるんだ。
こういう意味不明な事態に遭遇した場合、俺みたいな常識人には二つの選択肢がある。

1.吹っ切れて現実を受け入れる。
2.何も見なかった事にする。

というわけで、何も見てない俺は、寝る事にする。
「おやすみ………」
青いの改めシグからタオルケットをむしり取って、布団の上に倒れ込む。布団がじっとりと濡れているのに気づいた。
「おねしょか?」
「またバカにしたー!」
臭いは気にならない。早朝の眠気も手伝って、俺はすぐに深い眠りに墜ちていった。

「………ねぇ」
体が揺さぶられる。
「…………起きてよ………ねぇ」
なんだか焦げ臭い。
「…………起きてってば………」
執拗に俺を眠りから引き戻す声。さっきは夢を見ていたのだろうか? いや、この臭いは………。
飛び起きた俺の目の前に見えたのは、部屋の外から流れ込んでくる煙。
「どうしよう? 殺されちゃうよ」
目の前にはさっきの青いの。くそっ、夢じゃなかったのかよ!
ふすまを開けると、玄関の鉄のドアが凄まじい火花を上げている。焼き切られているのだ。
「おい、どういう事だよ!」
「さっきの奴が来たんだよ! 早く逃げないと殺されちゃう!」
寝る前に見たのとは違う、怯えきった瞳。こんなに怯えきった瞳は今まで見た事もない。
「この部屋、勝手口とかないの?」
「マンションだぞ? あるわけないだろ」
バチバチという細かい破裂音が止んだ。ものすごい音を立てて金属のドアが倒れる。煙の向こうに立っていたのはさっきの黒服。
消音器付きの自動小銃を脇に構えている。
「どういうつもりだ! 俺ん家だぞ!」
黒服の返事は銃声だった。フローリングの床板がめくれ上がり宙を舞う。
「邪魔しなければ危害は加えない。シグを出してもらおう」
黒光りする銃身。さっきの2発の硝煙もまだ消えていない。この金属の威圧感に逆らえる人間がいるだろうか?
正直言えば、さっさと……シグを差し出して、そして普通の生活に戻ってしまいたい。銃を向けられたり、ドアを焼き切られたりしない生活に。

………だが。
「断る」
シグの怯えきった瞳が脳裏をよぎった。事情はどうあれ、あんな目をした奴を見捨てるのは、男としてどうなんだろうか。
返事を聞くやいなや、黒服が銃を構え直した。ちょっと後悔。
「あぁっ、やっぱ、ちょっ、おま」
時間がゆっくり流れるという感覚を、俺は初めて体感した。ピス、ピスという鋭い音が聞こえるのにあわせて、腹の内側を衝撃がはしる。
刺すような痛みはすぐに凄まじい熱に変わる。自然と体が後ろにのけぞった。

「うわあぁぁぁぁぁっ!」
薄れていく意識の中でシグの声がする。水飛沫が顔にかかるのを感じた。
俺の背中が床にぶつかるのと同時に、俺の意識は闇の底へと潜っていった。

ぴちゃ ぴちゃっ
「ぐすっ………ねぇ、起きてよぉ」
冷たい痛みが、ヘソ下と右胸からわき出してくる。その上に覆い被さるように、柔らかな温もりが押しつけられる。何度も何度も。
「起きてよ………僕を一人にしないでよ………」
くすぐったさに思わず息を吸い込もうとすると、気管の途中で支えるような感じ。痛みがじわりと広がっていく。
温もりは痛みの源から染み渡るように広がっていき、やがてそれに呼応して体が軽くなっていく。
すぐ下から聞こえてくる息遣い。俺は目を開けた。

久方ぶりの光と共に、感覚がリアルになっていく。舌の感触、銃創の痛み、シグの嗚咽。そうか、俺は………。
「撃たれ………っ」
声に合わせて傷が疼く。初めて上げたか細い声にシグが気づいた。
「無理しちゃダメだよ。まだ傷が塞がってない」
顔を上げたシグの声は上ずっている。嗚咽を堪えながら喋るときのあれだ。仰向けに寝ている俺の上に覆い被さっているのに、
体の重さは全く感じない。ただ俺の腕を掴むシグの掌が、こいつの存在に現実味を帯びさせていた。
「ホントに……ぐすっ…よかっ……ひぐっ…よかった………ずびっ」
俺の胸に顔を埋めて泣きじゃくるシグ。顔が鼻水と俺の血でぐちゃぐちゃになっている。ちょっとばっちい。
口の周りの汚れ方を見るに、銃で撃たれた傷をずっと舐めていたらしい。そのせいか痛みは前よりずっと大人しくなっている。
「舐めてて………くれたのか」
手が自然にシグの頭を撫でる。鬣(たてがみ)に連なるクリーム色の毛はしっとりと濡れていて、指の腹に吸い付くような錯覚を起こさせる。
くるるる、とシグが喉を鳴らした。
「うん………ドラゴンの体液には色々効能があるから。もう命に関わるって事はないと思う」
「そっか」
「君が死んじゃったら、僕のせいだから。君の家に押し入ったから………」
自分の言葉に、納まっていた涙がぶり返したようだった。腕を握る力が強くなる。
「うっ………ううっ………」
それからは言葉を発する事もなく、4畳半の寝室にシグの嗚咽だけが響いた。俺はシグの首筋に手を添えて、天井のシミを見つめていた。
「何で俺がお前を匿ったと思う?」
シグは答えない。
「目だよ。お前の目を見て、匿ってやろうと思ったんだ」
長い沈黙。
「だからなぁ」
両手でシグの頬を撫でる。皮膚の感触は冷たいが、温もりはダイレクトに伝わってくる。親指の腹で目尻の涙を払ってやった。
「もう泣くな。俺は自分の意志でお前を助けたんだ」
「んぐっ………えぐっ………ありがと………ホント、にっ………ずびびびっ」
「さすがに、撃たれたときはちょっと後悔したがな」
引きつる口元を無理に持ち上げて、シグが笑った。頬にはっきりと涙の跡が見える。どうでもいいが鼻は噛んでほしい。
自分がパンツ一丁で寝かされている事に、今更ながら気づいた。

「でさ」
献身的な看護(といっても舐めるだけだが)を続けていたシグが顔を上げる。あれから3時間以上舐め続けていたせいか、
傷もほとんど塞がっている。ドラゴンってのは不思議な生き物だ。
「何だよ」
「何か当たってるんだよね」
当たってるのはわかっていた。というか目が覚めてからずっとこの調子だ。
「何がだよ? 言ってみろよ」
悪戯心が頭をもたげる。話し方から察するに、シグの精神年齢は思春期程度。この手の話題には興味があっても手が出しにくい年齢だ。
痛みも引いて、精神的に余裕が出てきたので、からかってみる事にした。
「その………あの………」
3組の指を組み合わせ、親指をくるくると回す。手の指が一本少ない。
「………オチンチン」
「ん? 何て言った?」
「もーっ! バカにしてるでしょ!」
顔を真っ赤にして憤慨するシグ。なかなかどうして可愛いもんだ。尻尾の先がべちべちと畳を打った。
面白いので、もう少し遊んでみる事にする。
「これも『効能』ってやつかね?」
テントを指さす俺。
「ち、ちがっ、そんなんじゃ………」
ますます顔を赤くするシグ。
「それじゃあ、こいつを鎮めてくれないか? 体液の『効能』ってやつで」
「なっ……! そんなの……」
俺の意味している事は大体わかっているようだ。もちろんシグが嫌がればそれ以上の事を無理強いするつもりはない。
ただ少なくとも、シグの目は嫌がってるようには見えなかった。ほぼ確認めいた含みを込めて、俺はシグに訊いた。
「嫌か?」
シグは軽く俯くと、首を横に振った。
「ううん………。する」

「んぐ………ん」
銃の傷を癒したときのように、丁寧に、力強く俺のものを舐め回すシグ。触れた瞬間の感触はやはり冷たいが、その後じわっと広がっていく熱。
龍の唾液のせいか、先ほどまでの極限状態のせいか、持久力も感度もいつもとは比べものにならない。
「上手い……じゃねーか」
腰が浮いてしまうので、声も途切れ途切れになってしまう。シグの舌は執拗に、しかしまんべんなく俺の逸物の上を這い回り、
透明な唾液でそれをコートしていく。
「んっぷぁ………」
尻尾を俺の頭の方に向けるようリクエストしたので、シグの顔を直接見る事はかなわない。でも興奮しているのはわかる。
「ガチガチだな」
尻尾の付け根の割れ目から顔を出すピンク色の肉の竿。先端を指でくりくりとなで回し、指の腹と銀の橋を交換する。反応はきわめて良好だった。
指を嗅ぐと、強烈な雄の臭いが脳を揺さぶる。
「イカ臭ぇな」
「んむっ………ぷぁっ………言わないでよぉ」
「スケベドラゴンめ」
スケベドラゴン、という言葉に反応したのか、大きく脈打つ暴れん棒から大量に先走りが溢れる。絞り出すように尿道に沿って指を這わせると、
舌の動きが激しさを増した。舐め取るような動きから、顎や歯も絡めたコンビネーションへ。俺も負けてはいられない。
尻尾を抱きかかえるようにして胴を顔の方に引き寄せると、ビートを刻む肉茎の根本にしゃぶり付く。
「ひゃあふぁぁっ! らめぇっ、いふ、いふううぅぅぅっ!」
水圧を感じるほどの激しい射精。みぞおちの辺りに熱い液体がぶちまけられる。シグが口に含んでいたモノを思い切り吸い上げる。
その一撃で、俺も限界を迎えた。腰を突き上げて、迸りをシグの喉に送り込む。
「んぐむっ! んっ………げほっ、げほっ」
「はあっ、はぁっ、えがった………」
「けほっ、口の中に出すなんて酷いよー」
酷い、とは言いながらも楽しそうな目。心から笑っているシグの瞳を、俺は初めて見た。
「それで、さ………」
空中で身を捻り、俺の顔をのぞき込むシグ。まっすぐに俺を見る目に期待が渦巻いている。
俺の精液で汚れたシグの顔はあまりに妖艶で、拒みようのない魅力を秘めている。
「どうする? 続き、する?」
「………」
遊ばれていたのは、俺の方だったかもしれない。シグは目を細めて俺を抱き寄せた。
俺の舌を蹂躙する、長くてしなやかなシグの舌。金属味を帯びた塩味が広がっていく。
再び解放された二人の舌を、卑猥な糸が繋ぐ。
「じゃあ、しよ?」
「シグ、俺………」
「うん。わかってるよ。トードー」

………あれ? どうしてこいつ、俺の名前を知ってるんだ?

冷房の効いてない畳部屋。西日差し込む廊下の熱気がするすると部屋に潜り込んでくる。
「涼しくていいな。こうやって抱いてると」
俺の全身に染み渡るような冷たさ。その向こうにある温もりも確かに感じる。
「抱き合ってるだけじゃ、つまんないよ」
とろんとした瞳で青い竜が呟く。背中に回していた右手を放して、シグの硬いものを弄ぶ。残っていた滴りをありったけ指に絡ませると、後ろの固く閉じたスリットに手を伸ばす。
「ふ………うんっ………」
中指の関節が一つ潜り込んでいくたびにシグが短い息を漏らす。背筋を舐めるような感覚が、震えとなって俺の体にも伝わってきた。
「痛いか?」
痛がっているようには見えないが、一応確認。それが優しさってやつです。
「ううん、へーき」
母親に抱かれているときのような、柔らかい笑顔。今シグは自分の体の全てを俺に委ねている。そういえばさっきよりちょっと重い。
残った左手でぎゅっとシグを抱き寄せ、右手中指にスイッチを入れる。内壁をひっかくように、奥深く挿し入れては引き戻しをくり返す。
シグの荒い息が耳を撫でた。
「ふきゅっ………んっく………ひゃう……」
指の動きに合わせたシグの呼吸。深くて激しい息遣いにシグのあえぎが味付けをする。
指と肉壁の間で泡だったシグの白濁が、スリットからあふれ出してはぷちゅっ、ぷちゅっと卑猥な音を奏でた。
「んあぅ………おっ、おしりっ………すごっ」
「そんな凄いの?」
「すっ、すっごいよぉ………トードーの、指ぃっ……エロすぎだよぉ」
正直お尻が凄いのかどうかは、経験のない俺には全く分からない。前立腺があるとおぼしき場所で指を曲げてはいるが、刺激できているかは甚だ疑問。
そしてそれ以上に、こいつが何で俺の名前を知っているのかが疑問。これについては興が冷めるのでしばらく考えない事にする。
「そんなに凄いなら、もう一本増量だ」
泡だった精液でぬるぬるになった人差し指を中指と合わせて挿入する。入り口の辺りがきゅっと締まった。
さっきと様子が変わって、目を見開くシグ。入れるのがちょっと早かったか?
浅く息をするシグの舌先から粘ついた雫が垂れた。
「キツい?」
中で指を広げようとすると、反抗するように締め付けてくるシグの中。湿ったスリットから大音量の水音がリズミカルに流れる。
羞恥と快感で真っ赤に上気した顔が何ともいやらしい。
「んあっ……へーき。ね、入れよ? 早く入れよ?」
喉の奥から絞り出した声に合わせて二本の指がきゅっきゅっと締め付けられる。正直指二本で準備完了なんて言われるのは癪に障るが、俺もこれ以上我慢は続きそうにない。
桜色に色づいたスリットから指を引き出す。名残惜しそうな音がそそられた。

形勢逆転。シグが下、俺が上。シグが上だと浮いてるせいで俺がピストンしにくいというのが一つ。もう一つは、この方がシグの体がよく見えるから。
入り口に俺の怒張を押し当てると、シグがぎゅっと目を瞑った。
「硬くなんなよ」
「自分のは硬くしてるくせに」
軽口を叩く余裕があるみたいなので、腰を落として一気に突き入れた。
「ひぅっ!」
シグのぷにぷにとした肌が波打つ。中は狭くてきつい。体温が低いせいか、少し冷たく感じられた。
俺もシグも十分に滑りがいいので、最初から飛ばす。何度もぶつかる腰と腰。体を倒して全身にシグを感じる。呼吸と鼓動と快感が同調して渦を巻く。
「あふあぁっ! トードー、トードぉ! ひぐっ! ひぐっ!」
シグが嬉しいのか悲しいのかよく分からない顔をしている。涙に濡れた瞳が愛しくて、俺はシグの唇を奪った。
密着した腹にぬめぬめとした感触が広がり、雄の臭いが鼻腔を刺激し始める。
風俗以上の女性経験が俺にはないので断言はし難いが、これ以上の快楽はこの世にはないのではないか。
考えてみれば、ほんの十数時間前まで俺はこんな生き物がいる事すら知らなかった。シグが突然家に転がり込んできて、俺が撃たれて………。
そして今、こうして体を、唇を重ねている。出会って十数時間しか経っていない雄のドラゴンに、まるで何年も付き合ってきた恋人のように。
あのインターホンに出なければ、出会う事すらなかったであろうシグと俺。もう一度夢か現実かを確かめようとすると、上り詰めるようなあの感覚に釘付けにされた。
もう何秒ももつまい。
「ぐっ、シグっ! 出す、出すぞっ!」
「うああ、トードー! トードー!! 僕も、僕っも……」
一滴も逃すまいとするシグの内壁の蠕動。絞り出されるように精を放つ。密着した体の間にシグの精液が広がって、たぎるような熱さを感じた。
「トードー、好き………」
ぐったりとシグの上にのしかかる俺に、息も絶え絶えにシグが耳打ちする。俺は返事をする気力も残ってはいないが。

一気に開かれるふすま。かちゃかちゃと金属のぶつかり合う音。
興奮さめやらぬピロートークに興じる俺に、再び銃が突きつけられた。国家権力の象徴、ニューナンブってやつだ。
「藤堂スキマ! 殺人の現行犯で逮捕する!」
「え? え?」
殺人? まさか。玄関でバイオレンスな状態になっているであろう黒服の姿が浮かんだ。
「シグ、お前、やっちゃったのか!」
シグが曲がりなりにも水のドラゴンであるという事を忘れていた。
「てへへ………」
小さな声で照れ笑いをするシグ。
「ぬいぐるみ相手に何をぶつぶつ言っている! 立て! 貴様を署まで連行する!」
「いや、これはその、俺じゃなくて」
必死に言い訳をする俺の手首に、冷たく光る手錠がはめられた。裸に手錠というのは、何とも間抜けな姿だが。
「あqsfふじこ」
自分でももはや何を言っているのか分からなくなってきた。手錠のもう片方を警官が自分の腕にはめると、遠慮なくずかずかと玄関に向かって歩き出す。
せめてパンツぐらいは穿かせてほしい。親の泣き顔が脳裏をよぎった。

一週間後、相変わらずセミの合唱が続く路地を、俺は自宅に向けて歩いていた。逮捕されて五日目に突然俺の容疑が晴れたのだ。
名目上は証拠不十分による不起訴という事になっているが、誰の差し金かは大体わかった気がした。
ポケットの中の携帯が震えた。証拠品として押収されていて、一週間触る事のなかった携帯だ。電池マークはあと一つになっている。
開いてみると、メールが一通だけ届いていた。

差出人:sri.ac.jp
件名:(なし)
本文:釈放おめでとう。我々はシグの捜索を断念する。彼の処分は君に任せる。

俺はメールを削除した。断念しようがするまいが、俺はもうシグを連中に返す気は毛頭ない。
久しぶりに歩いた家路は妙に短く感じられ、気が付くと俺は自分の部屋のドアの前に立っていた。ドアもしっかり直っている。
一週間ぶりの主を迎えた玄関には、少しだけ埃が積もっている。その玄関先でふよふよと浮かぶ青いドラゴン。
「おかえりなさい」
夢でも現実でもどうでもいい。俺はこいつが好きだ。

「ただいま」


第一部完


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