神竜の村

    

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知らない土地に旅をするというのは、知らない文化や習慣に触れられるという点では非常によいものだ。
聞き慣れない言語、見慣れない芸術、耳慣れない音楽。
だが、場合によってはそれらを知らずに未知の土地へと足を踏み入れることが命取りになる場合もある。
大勢の人間が、霧の深い山道を行進していく。
その人の列の真ん中で、1人の男が両手足を麻縄できつく縛り上げられたまま担ぎ上げられている。
まるでイモムシのように全身を縛り上げられたその男の顔には、恐怖と不安の色がありありと浮かんでいた。

ほんの2時間前、俺は世界中を巡る旅行の最後の目的地へと到着した。
1年中深い霧に包まれた山脈に、グルリと囲まれるようにして静かに佇む小さな村。
この村は、一風変わった宗教を信仰しているということで世界的にも割と有名な村だった。
まあ、民族の数だけ宗教があり、神と崇められるものがあるのだから、そんな村があっても不思議はない。
多くの場合、神とされるものには3つの種類がある。
1つは、過去に実在した人間を神として奉るもの。
2つ目は、人間が作った造形物や自然に作り出された無機的なものを崇める偶像崇拝。
そして3つ目は、実在の動植物など人間以外の生物を守護神とするものだ。
結論から言えば、この村の宗教形態は3つ目に当たる。
だが、俺は村人達が一体どんなものを神聖視しているのか皆目見当がつかなかった。
端から見れば、この村はどこにでもある平凡な農村と変わらないのだ。
年に1度、神への感謝と敬意を表するために盛大な祭が開かれるということだったが、その内容についてはどういうわけかどんな旅行のパンフレットにも載ってはいなかった。
つまるところ、部外者の一切入り込む余地のない秘密の祭なのだ。村人達だけがその真相を知っている。
それは、旅行者の俺にとってみれば実に神秘的で興味深いことだった。
村に到着した俺は、まず村長の所へと挨拶に行った。
勝手によそ者にうろつかれては迷惑だろうという、俺なりの配慮のつもりだった。
だが、それがまさかこんなことになるとは・・・

しわがれた声に呼ばれ、俺は老齢の村長に快く迎え入れられた。
「温かい歓迎、感謝します」
「ほほ、なに、ゆっくりしていくといい。何せ、最近は旅行者も大分減ってしまったからのう」
開け放たれた戸の外を眺めながら、村長が昔を懐かしむように続ける。
「あの山々を見なされ。いつもいつも深い霧がかかっていて、これまで1度も晴れたことはありませなんだ」
「へえ・・・不思議な山ですね」
「さよう・・・あれは山に棲む巨大な竜様が、己の身を隠すために吐き出しておるのじゃよ」
その村長の言葉に、俺は耳を疑った。
「竜様・・・竜、ですって?はは、これはまた面白いご冗談を」
旅人を楽しませる村長の話に、俺は軽い気持ちで相槌をうった。
「はて、冗談とな・・・?そなた、竜様の存在は信じませなんだか?」
「あはは、本当にいるわけないでしょう、竜なんて」
その一言に、今まで温和だった村長の顔が突然豹変する。
「おお・・・なんと罰当たりな・・・これ皆の衆、この者は異端者じゃ。早々に捕えよ!」
誰にともなく発せられたその言葉に、辺りの死角からぞろぞろと大勢の村人達が姿を現した。
「え・・・?そ、村長・・・これは一体・・・」
「この者は竜様の存在を否定した。村にこのような者を入れてしまったことを、我らは竜様に詫びねばならぬ」
俺を取り囲んだ村人達はその言葉の意味をよく知っているといった感じで、いきなり俺に乱暴に掴みかかった。
抵抗しようにも数人がかりで床に押さえつけられ、強引に後ろ手に縛り上げられる。
「お、おい!俺を一体どうするつもりだ!?」
突然激変した事態に恐怖を覚え、俺は必死に叫んだ。
だが、村長を始めとする村人達はみな一様に俺を忌避の目で見つめたまま、じっと押し黙っているだけだった。

村人達は終始無言のまま俺の足も固く縛り付けると、数人で俺の体を担ぎ上げた。
まるで狩られた獲物のように、成す術もなく山道へと運び込まれていく。
一体・・・俺はどうなるんだ・・・?
怪しげな儀式でも行うかのように長い行列を組んだ村人達の目は、どこか恐怖に怯えているようにも見える。
急な坂道をしばらく進んでいくと、辺りに突然深い霧がかかり始めた。
1度も晴れたことがないという、重くのしかかるような妖しい霧。
ほんの少し先を歩く村人の背中が薄く霞んでいる。
こうして大人数で歩いていなければ正しい道を進んでいるのかわからなくなるのだろう。
別段道が険しいわけでもなく、濃霧だけがこの山を登る人間を牽制していた。
その自然の作り出した障壁の中を、村人達は決して急がず、しかし着実にある目標に向かって歩き続けていた。

1時間ほど不気味な無言の行進を続けていると、霧が少し晴れてきた。
と同時に、村人達の足がピタリと止まる。どこかに着いたらしい。
自由の効かぬ体を巡らせて前を見ると、ぽっかりと空いた広場のような場所の真ん中に、見るからに不自然な石の台座が設置されていた。
縦横2メートル弱、高さ1.3メートルのそれは、明らかに人間を・・・
つまり俺を寝かせておくための台座だった。
数人の村人に持ち上げられ、俺は予想通り石の台座の上に乗せられた。
石の四方から突き出た突起に両手足を縛り付けられ、イモムシのような体勢から大の字のように体を広げられる。
「お、おいあんたら!一体どういうつもりで俺をこんな・・・」
「黙れ。我らの神を侮辱した罪は重いぞ」
「神・・・り、竜があんたらの神なのか?」
俺の問いかけに、村長を始めをとした村人一同が一斉に頷いた。
くそ・・・俺はどうかしていたのだ。よくよく注意深く村長の話を聞いていれば、彼らが竜を神聖視しているのだということはわかったはずだ。
だがそんなことにも気付かず、あまつさえそれを冗談などと言ってしまうとは・・・
「そ、それは悪かったよ・・・冗談なんて言っちまって・・・。で、でもこれはやりすぎなんじゃないか?」
「我らの村に、竜様を信じぬものは入れてはならぬしきたりなのだ。万が一そのような不埒者がいた時は・・・」
「い、いた時は・・・?」
俺はすでに恐ろしい状況に追い込まれていたが、村長の言葉がそれにさらに追い打ちをかける。
「我らはその不手際を竜様に詫びるとともに、竜様の存在を思い知らせるべくその者を生け贄に捧げるのだ」
「生け・・・贄?」
「真夜中になれば、竜様が姿を現される。その時が、そなたの最期の時だ」
それは、死刑宣告だった。真夜中になれば、俺は姿を現した竜に殺されるらしい。
あまりに突拍子もない話に唖然としている俺をその場に残し、村人達は村長に従って山を下り始めた。
「お、おい!待て、置いて行かないでくれ!」
必死の叫びも空しく、最後の村人が霧の中に姿を消す。
「そ、そんな・・・誰か・・・誰か助けてくれぇぇ!」
だが、いくら助けを呼んでみてもそこは村人達しか知らぬ秘密の祭壇。
叫ぶのを諦めると、俺は死の台座にポツンと1人取り残されたまま徐々に暗くなり始めた空を見つめて震えていた。

運命の真夜中を迎え、急に辺りがしんと静まり返った。全くと言っていいほど生物の気配が感じられない。
時間が止まっているかのように、小鳥の鳴き声も、獣の足音も、木々の葉が擦れ合う音までもが息を潜めている。
空を覆った霧が星の光を遮り、祭壇の周りはすでに漆黒の闇に包まれていた。

ドオン・・・ドオン・・・
突然、どこからともなく巨大な何かが地に打ちつけられるような音と振動が伝わってきた。
「な、何だ・・・?」
不安に駆られて辺りを見回すが、どこを見ても真っ暗な闇のカーテンが降ろされているばかりで何も見えない。
「まさか・・・」
いや、竜なんているわけがない。きっとあの村人達が、俺を脅かすためにやっているに違いないんだ。
明日の朝になれば、何事もなかったように迎えにきてくれるはず・・・
だが、次第に近づいてくる音に否応なく鼓動が早まる。
足音・・・もしこれが足音だとしたら、相手は想像も絶するほどに大きい存在に違いない。
そして、もしそれが本当に竜だとしたら・・・

ややあって、これが村人達のいたずらであるという俺の儚い希望は粉々に打ち砕かれた。
「あ・・・あ・・・そんな・・・う、嘘だろ・・・?」
霧の中からのそりと姿を現した巨大な黒いドラゴンが、遥か頭上から台座に縛り付けられた俺を見下ろしていた。
地を這っているというのに、体の高さは優に10メートルはある。
もし立ち上がったら、一体どれほどの大きさなのか・・・
「ククク・・・久し振りに人間の匂いがすると思えば・・・なかなか美味そうではないか・・・」
「ひ・・・あ・・・」
その圧倒的な巨躯と睨んだ獲物を竦ませる血のように真っ赤な眼に、俺は息が詰まった。
こんな恐ろしい生物に睨みつけられては、たとえこの身が自由であったとしても腰が抜けてしまうだろう。
ドラゴンは俺の体をじろじろと見回すと、静かに口を開いた。
「貴様・・・村の者ではないな?」
「お、俺はた、ただの旅行者だよ・・・」
「クク・・・そうか・・・大方、ワシの存在を否定して村の者どもを怒らせたのであろう?」
そういいながら、ドラゴンがニヤリと笑う。
「どうしてそれを・・・?」
「フン、決まっておろうが。ワシに生け贄として捧げられるのはそんな者ばかりなのだからな」
それはつまり、過去にも俺と同じようにしてここに縛りつけられた人達がいたということだった。
その彼らがどうなったのかは、俺がこれから身をもって体験することになるのだろう。
「お、俺を食うつもりなのか?」
「そうだ。だが安心しろ、ワシはこれでも寛大なのだ。村の者でないのなら、貴様に助かるチャンスをやろう」
そう言いながら、ドラゴンが俺を台座に縛り付けていた麻縄をあっさりと引き千切る。
「夜明けまでにワシを満足させることができたら生かして帰してやる」
「ま、満足って・・・?」
「これだ・・・」
ドラゴンはそう言うと、俺を跨ぎ越すようにして台座の真上にその股間を晒した。
眼前にドラゴンの股間から生えている人間の胴回りよりも太い巨大な肉棒を突きつけられ、言葉を失う。
あまりのことに唖然とする俺の顔を覗き込みながら、ドラゴンがククッと含み笑いを漏らしていた。

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