恐妻家

    

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「キャウッ、キャウキャウ・・・」
「キュウ・・・キュッキュキュウ・・・」
外に逃げ出せないように地面を深くくりぬいた穴の中で、子供達が甲高い声を上げながら跳ね回っていた。
その元気な幼子達の様子を眺めながら、深い溜息をつく。
「ふう・・・全く、なぜワシがこやつらの面倒を見ていなければならんのだ・・・?」
本来子供達の面倒を見るのは妻の役目のはずなのだが、当の妻はワシに一言言い残すと今日も上機嫌で洞窟を出ていった。
「獲物を獲ってくるから、その間子供達をお願いね」
・・・それはワシの役目だというのに。
確かに、妻は夕方頃になると森の獣達を狩って帰ってくる。
だが、朝早くからでかけていく割には決して収穫の量は多くなかった。
恐らく、昼の間はどこかでゆっくりと羽を伸ばしておるのだろう。ワシに面倒な役目を押し付けて。
「むうぅ・・・退屈だ・・・」
穴の底で飛び跳ねる5匹の小さなドラゴン達。その体は妻に似て、みな赤紫色の短毛に覆われていた。
濃紺の体毛を生やしたワシの遺伝子などどこへ吹き飛んだのやら・・・
もしかしたら、妻はこの間にもどこかで他の雄ドラゴンといかがわしい関係でも持っているのかも知れぬ。

だがワシは妻に対してどんなに疑惑や不満を持とうとも、それを直接ぶつけるようなことはしなかった。
いや、ワシにその勇気がなかったといっていいだろう。
なにしろ妻ときたら、雌のくせにワシよりも2回りも3回りも大きな体をしているのだ。
その上普段は温厚だが、1度怒り出すと手がつけられないほどの乱暴者でもあった。
ついこの間獲物が見つからずに小鹿を1頭しか狩ってこれなかったときなどは無理矢理ワシの手から獲物を奪い取って一呑みにしてしまった挙句、腹が減ったと一晩中ワシの首をその太い尻尾で締めつけて・・・うう、思い出しただけでも寒気がする。
「少し、外の風に当たってくるとしよう・・・」
どうせ妻は日が落ちるまで帰っては来ぬし、子供達も別に見ていなくとも問題はなかろう。
これまでだって何度居眠りをして帰ってきた妻に叩き起こされたことかわからないが、子供達に異常があったことは1度としてなかったのだ。

サクッサクッという短い草を踏むワシの足音が、静かな森の中に響いていた。
せめて子供達の面倒を代わりに見てくれる者でもいれば、ワシも昼の間は安心して出歩けるというものなのだが・・・
そんなことを考えながら木々の間を掻き分けるように歩いていくと、突然フワリと変わった臭いが鼻をついた。
「む・・・人間の臭いがするな・・・」
さわさわと葉を揺する微風に乗ってくるその臭いの元に視線を向けてみると、山を登る途中と見られる人間が1人、よたよたと重い荷物にふらつきながらこちらにやってくるのが見えた。
「むぅ・・・ふふふ、よいことを思いついたぞ」
ワシはその人間の若者を見て一計を案じると、そばにあった一際大きな大木の陰にスッと身を隠した。

「ふぅ・・・ふぅ・・・」
なだらかとは言え決して平らではない地面を少しずつ登坂しながら、俺は荒い息をついていた。
少し、荷物を多く持ってきすぎたのかもしれない。まあ大部分が食料だから、いずれは軽くなるのだろうけど。
春先の柔らかな陽光を浴びながら細い道を進んでいくと、奥の方に太い大木が見えてきた。
少し、あの辺りで休んでいく方がいいかもしれない。
俺は大木の元へと辿りつくと、重い荷物を地面にドサリと置いてしゃがみ込んだ。
「はあ~~~・・・疲れた・・・」
その時、乾いた地面をじっと見つめながら疲れた体を休めていた俺の視界の端で何かが動いた。
「え?」
何とはなしにその方向へと顔を向け、俺は思わずその場に凍りついた。
日除けにしていた大木の陰から、大きな濃紺の毛に覆われたドラゴンがヌッと顔を出していたのだ。
「うわっ!うわあああ!」
こちらを見ながら何やらニヤニヤと笑っているドラゴンの顔に本能的な恐怖を覚え、俺は疲れも忘れて弾かれたようにその場から駆け出していた。

何でこんなところにドラゴンが・・・とにかく・・・捕まったら殺される!
だが木の陰からバッと飛び出したドラゴンはその巨体を躍らせると、素早い鹿をも捕える瞬発力で一足飛びに俺に追いついてきた。
そして背後から体当たりを食らい、恐ろしいドラゴンに地面の上に押し倒される。
「う、うわあああ!た、助けて・・・助け・・・ひっ!」
恐怖に叫んだ刹那、ナイフのように鋭いドラゴンの鉤爪が背後から俺の喉元に突きつけられていた。
そして、薄皮を切るようにそっと4本の刃物が首の上をなぞっていく。
地面の上にうつ伏せに組み敷かれ、俺は絶体絶命の窮地に陥っていた。
「ひ、ひぃぃぃぃ・・・」
俺を押し潰さないように加減はしているようだったが、ズッシリと背中に預けられたドラゴンの体重は到底人の力で押し退けられるようなものではなかった。
「ふふふ・・・このワシから逃げ切れるとでも思ったか?」
ドラゴンがそう言いながら、ヒタヒタと冷たい爪を俺の首筋に触れさせる。
「た、助けてくれぇ・・・」
「生憎ワシは今かなり腹が減っていてな・・・折角捕らえた獲物を逃してやる気にはなれんのだ」
「う、うぅ・・・そんな・・・」
情け容赦ないドラゴンの宣告に、目から涙が溢れてくる。
「ふふふふ・・・だが、ワシの頼みを聞いてくれるというのなら、他の獲物を探してやってもよいぞ」
「ほ、本当に?な、なんでもするよ!」
助かる希望があるのならと、俺はドラゴンの言葉にほとんど反射的に答えていた。
「そうか・・・ならば、今食い殺すのは我慢してやろう」
その返事に満足したのか、ドラゴンは俺の上からどくと柔らかくも筋肉の引き締まった尻尾で腕を巻き取り、俺の体をグイッと引き起こした。
そして、俺の片腕を尻尾で捕まえたままどこかへ向かって歩き出す。
俺・・・これから一体どうなるんだろう・・・
半ば引きずられるようにしてドラゴンの後をついていきながら、俺は徐々に湧き上がってくる不安に胸を締めつけられていた。

俺が思っていたよりもずっと早く、ドラゴンの目的地である深い洞窟が見えてきた。
その奥の方から、何やら甲高い鳴き声がキャッキャと漏れ聞こえてくる。
「ほ、本当に助けてくれるのか?」
いざ洞窟の中に足を踏み入れる段階になって、俺はその暗い穴に恐怖を覚えてドラゴンの尻尾を引っ張った。
だが俺の力ではドラゴンの歩みは全く止まることもなく、そのままズルズルと洞窟の中に引き込まれてしまう。
「少なくとも、ワシは助けてやる。ワシはな・・・」
意味深な言葉を返しながら、ドラゴンがグイッと俺の腕を引っ張る。
「わっ」
唐突に引き寄せられ、俺はバランスを失ってドサッと地面に手をついた。
そして、目の前に広がっていた光景にポッカリと口を開けたまま固まる。
深さ2m近くはあろうかという縦穴の底で、赤紫色に染まった5匹の小さなドラゴン達が飛び跳ねていたのだ。
「こ、これは?」
「ワシが出かけている間、お前がこの子供達の面倒を見るのだ」
「お、俺が?」
予想外の一言に、驚きの表情を浮かべてドラゴンの方を振り返る。
だが、ドラゴンは何も言わずに俺の体にグルリと尻尾を巻きつけると、ゆっくりと仔竜達の巣穴の底へと俺を降ろした。
「ふふふ・・・わかっているとは思うが、もし子供達に何かあったときは・・・命がないと思え」
「ま、待ってくれ!」
慌てて上に登ろうと穴の縁に手をかけた俺を、ドラゴンが首を伸ばして覗き込んでくる。
「黙って言うことを聞いておれ・・・この牙の餌食にはなりたくなかろう?」
そう言って、ドラゴンが唾液に濡れ光る凶器を口の端から覗かせる。
「う、うぅ・・・」
その恐ろしさに力が抜け、俺はドサッと穴の底にへたり込んだ。
「もし逃げ出したりすれば臭いでわかるのだからな。ふふふふ・・・では、頼んだぞ」
「そ、そんな・・・」

絶望の表情で穴の上を見上げる俺をその場に残すと、ドラゴンはクルリと背を向けて再び洞窟の外へと出ていった。
ふと横を見ると、突然穴の中に入ってきた巨大な侵入者を警戒するように5匹の仔竜達が身を寄せ合うようにして俺を睨みつけている。
とにかく・・・彼らが怪我をしないように見ていればいいのだろうか?
仔竜達はみな体長50センチほどのずんぐりした体で、短いながらもフサフサと鮮やかな赤紫色の毛を生やしていた。
一見するとまるで変わった色の犬か何かに見えるが、細長く伸びた顎と頭頂から生えた小さな黒い角が、それが紛れもなくドラゴンの子であることを示している。
巣穴は直径4mほどのいびつな円形で、あの親のドラゴンがこの子供達のために掘ったものなのだろう。
「な、なぁお前達・・・仲良くしような?」
とりあえず彼らの警戒を解こうと、俺はできる限り自然な笑みを浮かべて怯える仔竜達ににじり寄った。
「キュ・・・キュウウ・・・」
「キャッ!キャキャッ」
俺が近づくにつれて壁に体を押し付けるように小さく体を丸める者もいれば、まるで威嚇するかのように甲高い声を上げて小さな両手と口を広げる者もいる。
その口の中にも、小さいながら尖った牙の断片がいくつも見て取れた。
あれに思い切り噛まれたら・・・指の1、2本は食い千切られてしまうんじゃないだろうか・・・?
内心ビクビクしながらも更に接近を試みた次の瞬間、今まで壁の隅で固まっていた仔竜達がパッと散り、一気に俺に向かって飛びかかってきた。
「わ、わあああっ!」
小さなドラゴン達の突然の反撃に、俺は思わず情けない悲鳴を上げていた。

1匹の仔竜が、驚いて後ろによろけた俺の腹にボスッと体当たりした。
その衝撃で固い地面の上にドサッと尻餅をついてしまう。
さらに残った4匹の仔竜達が一斉に俺の上へとのしかかってきた。
「わわわっ」
小柄とはいえ40kg以上もある子供達の圧迫に耐えかね、慌てて彼らを跳ねのけて地面にうつ伏せになる。
だが仔竜達はそれにもお構いなしに背中の上へとよじ登ると、俺の髪の毛を引っ掴んで上に引っ張った。
「キュキュッ!」
「キャウ、キャウ!」
「ぐあっ」
甲高い声を上げながらはしゃぐ仔竜に思い切り首を仰け反らされ、俺は髪を引っ張られる痛みと圧迫された首の苦しさに呻き声を上げた。
多分、彼らは遊んでいるだけなのだろう。
その証拠に、抵抗を封じられた俺の横で数匹の仔竜達が楽しそうに騒いでいる。
ようやく背中に乗った暴れん坊が掴んでいた髪を離し、俺はそのままグッタリと地面に横たわった。
とりあえず、遊び相手としては認められたということなのだろうか。
まださほど尖ってもいない鉤爪で俺の服をあちこち引っ掻き回す仔竜達の暴挙に耐えながら、俺は少しだけ気持ちが落ちついたような気がした。

日が西に傾きかけた頃、ワシは大きめの鹿と猪を狩って洞窟へと戻ってきた。
これだけの食料があれば、たとえ妻が何も獲物を獲ってこなかったとしてもあの人間にまでは手を出さぬだろう。
まあ、当面の問題はどうやってあの人間の存在を妻に認めさせるかの方なのだが。
洞窟の中に入ると、ワシは獲物を地面に置いて子供達の巣穴の中を覗き込んだ。
予想通りというのか、人間は酷く疲れた様子で穴の壁に背中を預けて座り込んでいて、子供達がその周りでスヤスヤと小さな寝息を立てて眠っている。
彼らに噛みつかれたのかそれとも引っ掻かれたのか、人間の着ていた服はすでにあちこちに穴が空いてボロボロになっていた。
「帰ったぞ」
ワシの声に、人間がゆっくりと顔を上げた。
顔の所々に赤く爪の跡がついていて、彼がこの数時間子供達の相手をするのにどれ程苦労したのかが見て取れる。
「あ、ああ・・・」
ロクに返事を返す気力もないのか、人間はそれだけ呟くと再び蹲ってウトウトと首を振り始めた。
この様子を妻が見たら一体何と言うだろう?
なぜここに人間がいるのかとワシを問い詰めた後、疲れ切ったあの人間をペロリと食ってしまうのだろうか?
それとも、別に構わないとワシにも自由な時間を許してくれるのだろうか?
考えてみれば、この人間には酷なことをしたものだ。
妻がどういう態度を取るにしろ、恐らく彼はもう生きてここから出て行くことはできないだろう。
ただ妻に食われるのがいつになるかというだけの違いなのだ。

ドス・・・ドス・・・
「む?」
突然聞こえてきた大きな足音に後ろを振り向くと、夕闇の中から赤紫色の大きな塊が洞窟の中に入ってくるのが見えた。
いよいよこの人間と、そしてワシの運命が決まる時間がやってきたのだ。

「帰ったわよ」
「う、うむ・・・」
毒々しいと言っても差し支えないような赤紫色の毛に覆われた妻は、巨大な体をユサユサと揺らして背に乗せていた2頭の鹿を地面に振るい落とした。
ワシの頭ですら一呑みにできそうな大きな顎に、一体どういう肉付けをすればこのような美しさになるというのだろう。
見上げるような高さにある妻の顔は、今日も獲物を探すような妖しくも危険な眼差しを辺りに振りまきながら輝いていた。
「あら、何か言いたそうね」
心の動揺を見透かされたのか、妻の方が先に口を開く。
ええい、怖気づくな・・・ワシの自由のためだ、なんとしてでも妻にあの人間が子守りをすることを認めさせなければ・・・
「いや・・・その、実はな・・・」
むう・・・だめだ・・・情けないことだがとても面と向かってはこの妻に強く物言いすることができぬ。
ワシは仕方なく、黙って巣穴を覆い隠していた体を寄せて妻に子供達の様子を覗かせた。
気持ちよさそうに眠る子供達の横でグッタリしている人間を一瞥し、妻がワシの方にギラリと問い詰めるような視線を向ける。
「なんで子供達と一緒に人間がいるのよ?」
さすがに、子守りをサボりたいがための代わりをとは口が裂けても言えぬ。
何か適当な理由が必要だろう。
「こ、子供達が退屈そうだったのでな・・・人間を遊び相手につけたのだ」
「ふ~ん・・・」
いかにも疑わしそうな目でワシと人間を交互にじろじろと眺めた後、妻は地面に置いた獲物の方へクルッと向きを変えて言った。
「別にいいわよ、子供達に危険がないなら」
その言葉に、恐る恐る我々の会話を聞いていた人間以上にワシもホッと胸を撫で下ろす。
だがその直後、妻が首だけをこちらに振り向けてボソリと一言呟いた。
「それに、いざというときは非常食にもなるしね・・・うふふ・・・」

ひ、非常食?それって、やっぱり俺を食うってことなのか・・・?
穴の上で交わされるドラゴン達の会話に聞き耳を立てながら、俺は非常食という言葉に心臓の鼓動が跳ね上がったのを感じた。
バリッムシャッグシャッ・・・
「な、何だ・・・?」
唐突に何かを咀嚼するような大きな音が聞こえ、俺はゆっくりと起き上がると穴の上に手をかけてそろそろと顔を上に突き出した。
「ひ・・・」
そして目の前で繰り広げられていた光景に恐怖を覚え、ずるずると再び穴の底へと滑り落ちる。
あの雄のドラゴンなどより何倍も大きな恐ろしい赤紫色のドラゴンが、こちらに背を向けたまま両手に掴んだ猪と鹿をバリバリと貪り食っていたのだ。
グシッモグッボリッボリッ
美味そうに太い尻尾を左右に揺らしながら、口の端からポタポタと憐れな獲物達の血を滴らせている。
「う・・・ううぅ・・・」
その光景に、俺は自分もいずれああなるのかと穴の底でブルブルと震えていた。

ゴクンという洞窟中に響き渡るような嚥下の音とともに2頭の鹿と猪を平らげると、妻は残った鹿をワシの前に放り出して広い寝床の上で眠りについてしまった。
結局のところ、妻はあまり子供達のことなど気にかけていないのだろう。
人間を代わりにつけてまで子供の面倒を見ようとしているワシが馬鹿らしく思えてくる。
ワシはおとなしく残された鹿をムシャムシャと頬張ると、怯えた目でガタガタと震えていた人間に声をかけた。
「心配するな・・・ワシも昼間は狩りに出て獲物を獲ってこよう。そうすれば、お前も妻に食われずに済む」
そして人間が無言でコクコクと頷いたのを確認すると、ワシは膨れた腹を抱えて寝床の上に蹲った。
やれやれ・・・これからどうなることやら・・・

しばらくして闇に包まれた洞窟内が静かになると、俺はようやく人心地ついてゴツゴツした岩の地面に横たわった。
「はあ・・・なんでこんなことに・・・」
そして仔竜達に引っ掻かれてボロボロになった自分の服を見ながら、深く溜息をつく。
ドラゴン達が眠りについたとしても、俺にはもう逃げ出そうなどという気力は残されていなかった。
なにしろ、俺はドラゴンの食事の光景を見てしまったのだ。
もし逃げようとしてドラゴンに捕まったらどうなるのかをこれ以上ないほどはっきりと見せつけられ、彼らに歯向かう気概などとうの昔に砕け散っている。
やがて子守りの疲労と死の恐怖に消耗して、俺は無造作に地面に転がったままの格好で眠りについた。

シュル・・・シュルシュル・・・シュッ
「むぐっ!?」
だがその時、突然穴の底で眠っていた俺の体になにか暖かく柔らかいものが巻きつけられた。
声を上げようとした俺の口にもその何物かが巻きつけられ、口を封じられたまま穴の上へゆっくりと引き上げられてしまう。
そして闇の中に浮かんだ2つの妖しい輝きを目の当たりにして、俺はあの雌ドラゴンの尻尾が巻きつけられているのだと悟っていた。
「む・・・むぐ!むぐぅ~!」
恐怖に駆られて辺りを見回すが、頼りになりそうな雄のドラゴンはゴオオッと空気を震わせるような鼾をかきながら寝床の上で眠っている。
やがて恐怖でパニックに陥る俺の様子を楽しむように、黄色く光るトカゲのようなドラゴンの眼が細められた。
「ん~!ん~~!」
誰か!誰か助けてくれ!このままでは食われてしまう!
だが必死で声を上げようとしても、きつく口を締めつける尻尾の猿轡が外れることは決してなかった。
成す術もなく地面の上に体を広げられ、両手を巨大なドラゴンの腕で地面に押しつけられてしまう。
「んぐ~~~!む~~~~~~~!」
どんなに激しく暴れてみても、口と腰を巻き取ったドラゴンの尻尾がその抵抗を無力化してしまう。
俺が万策尽きたのを確認すると、ドラゴンは口の端から突き出た巨大な牙を振りかざしてすでに穴だらけになっていた俺の服をビリビリと破り始めた。
ドラゴンから逃れようと弱々しく首を振る間に、あっという間に服を全て引き千切られて裸にされてしまう。
そして、べろぉっと分厚い舌が俺の胸板を舐め上げてきた。
ひいいぃぃ・・・いやだ、いやだあああ・・・
胸を擦り上げる舌の感触と背筋を駆け上がってくる寒気に、ビリビリと体が震えてしまう。
もう食われるしかないという絶望感に、俺は口を塞がれたまま涙を流して喘いでいた。

ペロッレロレロッ
なおも執拗に、ドラゴンが露出した俺の体を舐め回していた。
生暖かい吐息と唾液が冷えた体の上をなぞる度に、ぞわぞわと耐え難い恐怖が湧き上がってくる。
そして一通り俺の体を舐め尽くすと、ドラゴンは俺の耳元に巨大な口を近づけて囁いた。
「うふふふ・・・なかなかおいしそうね・・・」
恐ろしさにきつく閉じられた目から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出す。
ペロンと俺の顎を掬い上げるように最後の一舐めをした後、黄色い眼が俺の眼前でユラユラと揺れた。
「そんなに恐がらなくてもいいわよ。まだ誰もあなたを食べるなんて言ってないでしょ?」
そう言いながら、ドラゴンが俺の口を塞いでいた尻尾を緩める。
だが口がきけるようになっても、俺にはすでに叫ぶ力も勇気も残されてはいなかった。
涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにして、しゃっくりをあげながらドラゴンに問い返す。
「あう・・・う・・・ほ、ほんとに・・・?」
「ちょっと私の暇潰しにつき合ってくれると嬉しいんだけど・・・どう?」
ドラゴンは相変わらずどこか安心できない目つきで俺の顔を眺めると、ニヤリと笑った。
「ひ、暇潰しって?」
「あら、みんな寝静まった後じゃなきゃできないことっていったら、1つしかないじゃないの」
そう言って、ドラゴンがクスクスと笑い声をあげる。
なんとなくその答えに予想はついたものの、俺は敢えて黙っていた。

「鈍い人間ね。これに決まってるでしょ?」
俺が黙っていたせいか体に巻きつけられていた尻尾が解かれ、無防備な姿を曝け出していたペニスの裏側を肌触りのよいフサフサの尻尾でスリッと擦り上げられる。
「はうっ・・・ま、待ってくれよ、何で俺が・・・」
唐突に与えられた快感にビクンと体を跳ねさせながら、俺はか細い声を絞り出した。
「あら、嫌なの?・・・ふーん・・・別にいいけど」
「え・・・?」
やけにあっさりと諦めるドラゴンの様子に、嫌な予感が募る。
「あー、なんか急にお腹が空いてきちゃったわ。今から獲物を探しにいくのも面倒だし・・・」
ま、まさか・・・
「うふふ・・・どこかに何か食べられるものでも転がってないかしら・・・ね?」
独り言のようにそう呟きながら、ドラゴンが最後にジロッと俺を見下ろす。
「あ、ああ・・・そんな・・・」
「あら、そういえばちょうどよさそうなのがここにいたわね・・・うふふふふ・・・」
「く、食わないって言ったじゃないかぁ・・・」
だがそんな抗議も空しく、鋭い牙を生やしたドラゴンの凶悪な顎が俺の顔に突きつけられる。

「あなた、本当は子供達の遊び相手なんかじゃなくて、代わりに面倒みてくれって言われたんじゃないの?」
「うう・・・どうしてそれを・・・」
「ほらやっぱり。でも夫はともかく私の役に立ってくれないのなら・・・あなたを生かしておく理由はないわね」
ドラゴンはそれだけ言うと、俺の体など一口で飲み込んでしまえそうな巨大な口をガバッと開いた。
「わああ!わかった、つき合う!つき合うから食わないでくれぇ!うぐっ」
恐怖に駆られて叫んだ直後、雄のドラゴンなどとは比較にならないほど大きい鎌のような鉤爪を生やした手が、俺の口をグッと塞ぐ。
「ほら、騒いじゃだめよ。夫が起きちゃうじゃないの」
「あうぅ・・・」
俺が観念したのに満足したのか、ドラゴンは含み笑いを漏らしながら黄色い眼をさらに輝かせていた。

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