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秤上に揺れる哀と愛2

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
ブシュゥッ!
「は、ああぁ・・・」
長時間に亘る一方的な責め句の果てに堕とされた、めくるめく絶頂の感覚。
生まれて初めて味わうその幸福なはずの瞬間がこんな怪物の手によるものだという空しい現実に、私はグッタリと力尽きた体を地面の上に横たえながらその両目に未だ枯れぬ涙を浮かべて荒い息を吐いていた。
グボッという音とともに膣から引き抜かれた竜の尾には溢れ出した大量の愛液が纏わりついていて、完膚なきまでに蹂躙された四肢にはもうほとんど力が入りそうにない。
そしてようやく残忍な雌竜の責めが終わりを迎えると、私はそのまま緩んだ意識を失ってしまっていた。

心行くまでその心身を弄ばれた娘が緊張に張り詰めていた意識の糸を断ち切ってしまうと、不意に遠く洞窟の外から複数の馬蹄の足音が微かに聞こえてくる。
「おやおや・・・こんなに簡単にやってきてくれるなんてねぇ・・・全く、馬鹿な人間達だよ・・・」
どうやら、待ちに待った憎き夫の仇がようやくあたしのもとへとやって来てくれたらしい。
やがてあられもない無残な姿で気を失った娘の姿をチラリと一瞥すると、あたしはいまだ傍らで燃え続けていた焚き火を踏み消してそっと洞窟から出ていった。

王から特別にと貸してもらった逞しい白馬を駆りながら、俺は黒竜の討伐に向かった時と同じ仲間とともに件の洞窟へ向けて激しくムチを振るっていた。
歩けば1時間以上もあるその長い道のりも、駿馬ならばものの10分と掛からないだろう。
やがて激しい縦揺れに耐えながら走ること数分、いよいよ深い茂みの向こうに真っ暗な巨洞が姿を現すと、俺は仲間とともに洞窟から少し離れた所で静かに馬を降りていた。
もしかしたらドラゴンの持つ優れた聴覚の前には大した意味を成さないかも知れないが、一応の警戒のためだ。
そして乗ってきた馬を近くの大木に繋ぎ、持参した松明に洞窟の外で炎を灯す。
今度の敵は、俺達が倒した雄竜のように無防備な寝姿など晒してはいないのだ。
それどころか、夫を殺された恨みを滾らせながら俺達の到着を今か今かと手ぐすね引いて待っていることだろう。

だが闇に覆われた洞窟の中に耳を澄ませると、とてもその中に巨大なドラゴンが潜んでいるとは思えなかった。
あの雄竜の時にはただの寝息でさえ洞窟の外にまで聞こえてきた程だというのに、俺達の前に口を開けている漆黒の大穴は不気味なまでの沈黙を保っている。
仮に息を潜めて俺達を待ち構えているにしても、人間1人を尾に捕らえて連れ去れる程の巨竜が果たしてここまで気配を絶つことができるものなのだろうか?
そして何時まで経っても埒の明かない暗闇との睨めっこに痺れを切らしたのか、俺の背後にくっついていた仲間の1人が不意にその重苦しい沈黙を破っていた。

「ドラゴンは、中にいるのか?」
「わからない・・・全然気配を感じないんだ。もしかしたらいないのかも知れない」
「本当に、この洞窟で間違いないんだよな?」
その問いに、俺は思わず洞窟を覗き込むのを中断して背後の仲間達を見つめていた。
確かに、彼女を攫ったという赤竜がこの洞窟を塒にしているとは限らない。
だが俺は、そんな巨大なドラゴンの気配とは別のあるものに疑問を抱いていた。
洞窟の周囲に微かにだが、何かが焦げるような臭いが漂っているのだ。
これはそう・・・丁度焚き火をした後の臭いに近いと言っていいだろう。
だが周囲をいくら見回してみても、何処にもそれらしい臭いの元は見当たらない。
ということは、洞窟の中から漂ってきているとしか考えられないのだ。

「とにかく、中に入ってみよう。もしドラゴンがいなければ、その時はその時だ」
俺はそう言うと、火のついた松明を翳しながら暗い洞窟の中へと足を踏み入れていった。
以前来た時とは明らかに異質な雰囲気が漂っているように感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
やがて慎重に闇の奥へと歩を進めていくと、その淡い明かりの中に突然妙なものが飛び込んでくる。
細長く白い煙を上げて燻っている、堆く積まれた枯れ木の山。紛れもなく焚き火の跡だ。
しかもよく見るとまだ火の付いている炭の欠片が幾つか周囲に転がっていて、火を消してからまだ間もないことを物語っている。
その上大きな足で無造作に踏み消したような跡があることから考えて、恐らくこの焚き火を消したのはドラゴンに違いない。
だが、一体何故ドラゴンが自分の住み処で焚き火を・・・?

そこまで考えが及ぶと、俺はふと脳裏に過ぎったある予感に従って松明の炎を辺りに振り翳していた。
そのおぼろげな明かりの一端が、地面の上に投げ出されていた生白い女性の脚を一瞬だけ照らし出す。
「姫!」
半ば予想だけはしていた信じ難い光景に、俺は思わず反射的に彼女の傍らへと駆け寄っていた。
「これは・・・」
「なんて酷い・・・」
美しい体を全裸に剥かれて巨竜の成すがままに弄ばれたうら若い娘が、洞窟の冷たい地面の上に転がっている。
力無く地面に投げ出された手足には凄まじい力でドラゴンに押さえ付けられたらしい跡がくっきりと残っていて、周囲に大量に撒き散らされた彼女のものと思われる愛液がムンとした甘い匂いを辺りに振り撒いていた。
まだ辛うじて息はあるようだが、その悔しさを滲ませた顔に浮かぶ色濃い憔悴の表情が彼女の味わわされたであろう責め苦の辛さを物語っている。

とにかく、彼女は一刻も早く城に連れて帰るべきだろう。
それにしても・・・ドラゴンは何故彼女をここに放置したまま洞窟を出て行ったのだろうか?
焚き火の様子から察するに、きっとドラゴンは俺達とほとんど入れ違いに近い形で洞窟を出入りしたはずだ。
だとすれば、ここへ向かう俺達の馬の足音にも当然のように気が付いたことだろう。
だがドラゴンの目的が復讐だというのなら、俺達の接近を知って逃げ出したのだとも考えにくい。
ということは、考えられることはもう1つしかない。それは・・・

「うわあああああああ!」
「ひ、ひいいいぃぃ!」
とその時、突然俺の背後から2人の仲間の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
それに驚いて後ろを振り返ってみると、全身を赤い鱗に覆われた巨大なドラゴンがその大きな両手で1人ずつ仲間達の頭を鷲掴みにして宙に持ち上げていた。
やはり・・・こいつは獲物を決して逃がさないために敢えて洞窟を空にして俺達を中に誘い込んだんだ。
そして一旦こいつに捕まったら・・・
やがてドラゴンに捕らわれた仲間がどんな末路を辿るのかに想像がついたその瞬間、赤竜の右手で持ち上げられていた男がグシャッという音とともにその頭を粉々に握り潰されていた。

直後に聞こえてきた、ドサリという湿った肉の崩れ落ちる鈍い音。
無残な男の亡骸が雌竜の手を離れて倒れたその光景を、俺を含めた3人の人間が呆然とした表情で見つめていた。
そしてあっさりと仕留めてしまった最初の獲物をまるで虫ケラを見るかのように冷たく一瞥すると、やがてその静かな殺気を孕んだ雌竜の顔が大きな左手に捕らわれていた男の方へとゆっくり移動していく。
「ひっ!ひぃ・・・」
そんな身も凍るような怒れる竜の射抜くような視線を間近からまともに浴びせられて、死んだ男と同じように頭を掴まれた仲間の顔には激しい恐怖の表情が貼り付いていた。
「た、助け・・・助けて・・・ああ・・・」
目の前で仲間の頭が握り潰されたところを見せ付けられたあまりの恐ろしさに息をするのも辛いのか、彼が両目一杯に懇願の涙を滲ませながらハッハッと断続的な息を漏らしている。
だが雌竜は彼の目に溜まったそれをペロリと舌先で舐め取ると、不意にその顔に不気味な笑みを浮かべていた。
そして・・・

ゴオオオオオオッ!
「う、うああああああああぁっ!」
突如として雌竜が吐き出した激しい業火が、洞窟内を明るく照らし出す。
強大な竜の手に捕らわれたまま真っ赤に燃え盛る炎を浴びせられた男は耳を劈くような悲痛な叫び声を上げると、解放された後も火達磨になったままゴロゴロと洞窟の地面の上をのた打ち回った挙句に動かなくなっていた。
ブスブスと肉の焦げるような香ばしい香りが辺りに立ち込め、消し炭と化した肉塊が俺ともう1人の仲間の目に焼き付けられる。
あっという間に2人の仲間の命が雌竜の手によって奪われたというのに、俺達はまだそれぞれの武器すら構えられずに眼前の強大過ぎる敵を絶望的な面持ちで見上げているだけだった。
いや正確には、俺にも彼にももうこの巨大な竜に対する戦意が欠片も残っていなかったというべきだろう。

死にたくない・・・!
そんな本能的な生存欲求が頭の中を目まぐるしく駆け回り、却って生き残るために必要な思考を塗り潰していく。
しかし一旦パニックに陥ったら、その人間はもう最悪の行動しか選択できないように運命付けられてしまうのだ。
そしてその越えてはならない一線を先に越えてしまったのは、目を覆いたくなるような虐殺の一部始終を俺の後ろで見ていたはずの仲間の方だった。
「く、くそぉ!こんな奴に殺されてたまるか!」
「ま、待て!」
そんな俺の制止も空しく、彼が大声で叫びながら引き抜いた長い剣を雌竜の腹に目掛けて思い切り投げ付ける。
カキィン!
だが流石に正面切ってそんな安直な攻撃が成功するはずもなく、回転しながら飛んでいった細身の剣は雌竜の腕に生えた堅い鱗であっさりと弾き返されてしまっていた。
それを見て、彼が一か八か雌竜の脇を擦り抜けようと全力で走り出す。
そして首尾よく作戦が成功したかに見えたその瞬間、ズドッという重々しい音が洞内を震わせていた。

「う・・・が・・・」
何とか雌竜をやり過ごしたと思った彼の腹に、硬い鱗を纏った太い尾が深々と食い込んでいる。
鳩尾にあんな痛打を食らってしまっては、しばらくの間ロクに呼吸することもままならないだろう。
恐怖に負けて無謀な賭けに走ってしまった彼も、今ここに命運尽きたのだ。
「おやおや・・・そんなことで、このあたしから逃げられるとでも思ったのかい・・・?」
やがて雌竜はそんな愚かな獲物の姿を見ながらねっとりとしたしわがれ声で楽しげに呟くと、呼吸困難の苦しみに悶える彼の体にゆっくりとその長い尾を巻き付けていった。
暴れる力も尽きて無抵抗になった鼠を大蛇がそっと抱擁するように、ムチムチと張り詰めた極太の筋肉の鞭が力無く呻く彼の体を静かに絡め取っていく。
「う・・・かふ・・・やめ・・・た、たす・・・」
「フフフ・・・何だい?よく聞こえないよ・・・言いたいことがあるのならもっと大声で言うんだねぇ」
だがそう言いながらもギリギリと彼の胸を締め上げて声を封じようとしている雌竜の残酷さを目の当たりにして、俺は気絶した王女の傍らにへたり込んだままただひたすらにブルブルと震え上がっていた。

「う・・・あが・・・」
ミシミシという嫌な音を立ててジワジワと締め上げられては声も上げられぬ程の息苦しさに喘ぐ男の顔を、雌竜がニヤニヤとした嗜虐的な笑みを浮かべながらじっとりと眺めている。
そして一頻り獲物が苦悶する様子を楽しむと、雌竜が不意にその赤いとぐろを俺の眼前にそっと差し出してきた。
「あぅ・・・た、頼む・・・苦し・・・」
やがて霞む視界の中に俺の顔を見つけたのか、彼が必死にか細い声を絞り出して助けを求める。
だが、今の俺にはどうしてやることもできなかった。
恐怖に竦んだ体はまるで金縛りにでも遭ってしまったかのようにその動きを止め、強大な悪魔の手に握られた哀れな仲間の顔を無力感に苛まれながら見つめるばかり。
そんな俺の姿を見て勝利を確信したのか、雌竜が彼を絡め取った尾を思い切り引き絞っていた。

メシ・・・メシメキメキ・・・ボギッ・・・ベキベキベキィ・・・
「ぁ・・・っ・・・が・・・・・・!」
その身に纏っているはずの鉄の鎧の存在などまるでなかったことのように男の体が小さく圧縮され、鎧とともに全身の骨が砕けた鈍い破壊音が潰れた肺から押し出された掠れ声とともに俺の耳に届いてくる。
彼のその激しい苦痛に歪んだ顔は真っ赤に紅潮し、口の端からは紅い泡を吹いて白目を剥いていた。
ドサッ・・・
そして無残に締め殺された男の体が俺の眼前に打ち捨てられると、いよいよ今度は自分の番だという絶望感が弛緩した手足を更に蝕んでいく。
「あ、あぁ・・・」
後退さる気力も体力も既に枯れ果てて、俺はゆっくりと焦らすように肉薄してくる雌竜にひたすらに怯えていた。

ドッ・・・ズシィ・・・
「うぁ・・・は・・・」
やがて成すがままに地面の上へと押し倒された俺の体の上へ、巨大なドラゴンが容赦なく圧し掛かってくる。
自分は一体どんな最期を迎えることになるのかという先の見えぬ不安に、俺はカチカチと鳴る歯の根を噛み合わせることができなかった。
「ほぉら・・・お前はそうして震えているだけなのかい?早く逃げないと命が無いっていうのにねぇ・・・?」
そう言いながら、雌竜が俺の首筋にぬらりと舌を這い回らせる。
だが仮にこの体が動いたところで、ズッシリと預けられた巨竜の体重を撥ね退けることなどできるはずがない。
どう足掻いても逃げられないことを知っていながら、こいつは俺に叶わぬ命乞いをさせようと迫っているのだ。
「ど、どうせ・・・逃がす気なんかないんだろ・・・?それに、助けてくれる気も・・・」
「フフフフ・・・よぉく知っているじゃないか」
なおも味見をするかのように顔の周りを舐め回しながら、雌竜が俺の言葉にクスクスと小さな笑いを漏らす。

「さて・・・お前は夫を殺した人間どもの最後の1人・・・一体どうやって料理してやろうか悩んじまうよ」
雌竜はそう言って俺の顔の横へまだ最初の仲間の血がこびりついている右手を翳すと、淡い光に鈍く輝く鱗へフーッと小さな赤い炎を吹き掛けた。
「好みの火加減はこのくらいかい・・・?それとも・・・」
その直後、ゴオオオッという音とともに凄まじい炎が俺の頬をチリチリと掠めていく。
「こっちの方が美味しく焼き上がるかねぇ・・・?」
「う、うあぁ・・・ま、待ってくれ・・・頼む・・・」
「ほっ・・・何だい?最期の言葉なら、特別に聞いてやるよ」
そしてまるで心を見透かそうとするかのように細められた竜眼を恐る恐る見つめ返すと、俺はゴクリと大きく息を呑んでから今にも消え入りそうな声を喉の奥から押し出していた。

「あ、あんたの夫を殺しちまったことは謝るよ・・・済まなかった・・・で、でも、許してくれとは言わない」
罪を認めたことへの制裁なのか、そう言った途端に雌竜から預けられる体重が心なしか増したような気がする。
だがまだ先を続けることを許してくれそうな雰囲気に、俺はなおも震える言葉を紡いでいた。
「俺はただ王女と結婚したかっただけなのに・・・王の命令で、あの黒竜を殺して来いと言われたんだ」
不意に何かを思い出したように雌竜が顔を向けた洞窟の壁際に、巨大な黒竜の亡骸が静かに佇んでいる。
「だから、俺を殺して気が済むのならそれでも構わない。でも彼女だけは・・・無事に城へ帰してやって欲しい」
「フン・・・お前はそんなにこの小娘の命が大事なのかい・・・?」
そしてその言葉とともに、長い竜の尾が傍に倒れていた彼女の体を手元へと引き寄せていた。

「あ、ああ・・・もし彼女を助けてくれるっていうんなら、俺のことなんてどうしてくれても構わない」
「ふぅん・・・言うじゃないか・・・本当に、お前をあたしの好きにしちまってもいいんだろうね・・・?」
改めてそう念を押されると、しっかりと固めたはずの決死の覚悟が微かな揺らぎを見せてしまう。
とは言うものの、こいつがそう訊いてきたということは俺が頷きさえすれば彼女は助けてもらえるはずなのだ。
悲惨な死に様を遂げた仲間達の屍に囲まれながら首を縦に振るのには相当な覚悟が必要だったものの、俺はグッと歯を食い縛ると目を閉じてコクリと小さく頷いていた。
一体何をされるのか・・・そんな不安とともに真っ暗な闇の中で雌竜の息遣いだけが聞こえ、時を置くにつれて1度は鎮めたはずの鼓動がまた少しずつ唸りを上げ始める。
だが何時終わるとも知れないその沈黙につい目を開けてしまいそうになったその瞬間、雌竜が突然その大きな顎で俺の口をすっぽりと塞いでいた。

「う、うぐ・・・」
そして何が起こったのか理解する間もなく、雌竜の口内から聞こえたガリッという音とともに何かドロリとした熱い液体が俺の口の中へと注ぎ込まれてくる。
何だこれは・・・?飲め、ということなのだろうか・・・?
微かな甘みを感じるそれがこの雌竜の血であろうことは薄々想像がついたものの、俺は今更吐き出すわけにもいかずにその禁断の滴をゴクリと飲み干していた。
「ぐ・・・ゲホ・・・ゴホゴホ・・・」
何時まで経っても冷える様子のない不思議な熱さが咽た喉元をゆっくりと通り過ぎ、腹の中でグルグルと渦巻きながら奇妙な存在感を発し始める。
「な、何を飲ませたんだ・・・?」
「フフフ・・・なぁに、お前の言った言葉が本当かどうか、ちょいと試してみたくなっただけさ」

そう呟きながら、雌竜が長らくその巨体の下敷きにしていた俺の体をそっと解放してくれる。
「もしお前がその娘を潔く諦められるというなら、命だけは助けてやるよ」
「え・・・?」
「でも万が一それができなければ、夫を殺した罪はお前自身の身で償ってもらうことになるからねぇ・・・?」
一体こいつは何を言っているんだろうかという解けぬ疑問が、頭の中で激しく暴れ回っていた。
そしてそんな雌竜の言葉が終わりを迎えると、突然体内に走ったドクンという衝撃に意識が薄れていく。
あ、あれ・・・俺・・・一体どうして・・・まさかさっき飲まされたのは・・・毒・・・?
だがそこまで考えが及んだところで、俺はそのままフッと意識を失ってしまっていた。

竜の血を飲んだ人間からグッタリと力が抜け切ったのを確かめると、あたしは先程傍らに引き寄せた娘の方へと視線を向けていた。
巨竜に力尽くで犯されて弄ばれた激しい疲労はそう簡単に抜けるものではなかったらしく、あれから大分時間が経ったというのにまだしばらく娘が目を覚ますような気配はない。
だが絶体絶命だというのにもかかわらず他人の命乞いができる男に深く愛されたこの娘は、恐らくこれから堕ちていく永久の眠りからも無事に目を覚ますことになるだろう。
あたしは気絶した娘の体を仰向けに横たえると、指の爪先で慎重にその両の瞼をめくっていた。
そして見開かれた虚ろな両目をじっと覗き込み、契約の引き金となる深い思念を送り込んでやる。
「さて・・・と・・・後は、ゆっくりと気長に待たせてもらうことにするかねぇ・・・フフフ・・・」
やがて誰にともなく小声でそう呟くと、あたしは地面に転がった2人の人間を両腕に抱えて洞窟を出ていった。

「う・・・・・・こ、ここは・・・」
取り戻した意識の中で閉じられた瞼越しに突き刺さる、夕焼けがもたらす橙色の光。
俺は何だか妙な倦怠感の感じられる体を静かに引き起こすと、ゆっくりと首を巡らせて辺りを見回した。
ここは・・・森の中だろうか・・・?
視界を埋め尽くす程に立ち並んだ無数の木々の背景が、朱に染まった空に淡く焼き尽くされている。
そして突然背後に感じた小さな水音と誰かの気配にゆっくり後ろを振り向いてみると、力無く地面の上に横たわった彼女の顔を俺の乗ってきた白馬がペロペロと舐めているところだった。

「ああ・・・ひ、姫!」
全く予想だにしていなかったその光景に、俺は咄嗟にそう叫びながら倒れている王女の傍へ駆け寄ると馬を退けて彼女の容態を確かめていた。
脈はある。呼吸もしている。それに、体の何処にも特に怪我を負っている様子はない。
そして取り敢えずは彼女が無事であることを確認すると、俺は大きく安堵の息をついていた。
あの残虐極まりないドラゴンが、俺と彼女をここまで運んでくれたとでもいうのだろうか?
番の夫を殺されたことであれ程人間を、殊に俺達を憎んでいたはずなのに、一体何故・・・?
だが到底信じ難いその予想を裏付けるものが、俺のすぐ傍にある大木に残されていた。

他の仲間達が乗ってきた3頭の馬達を繋いでいたはずの太いロープが、木にその結び目を残したまま途中からまるで鋭利な刃物で切断されたかのようにプッツリと途切れている。
恐らく他の馬達は、あの巨竜の餌食にされてしまったのだろう。
俺達が城へ帰るためにと1頭だけ残されたこの白馬が懸命に彼女を起こそうと顔を舐めていたのは、間近で身の竦むような捕食の光景を見せ付けられた恐怖を和らげようとしてのことだったのかも知れない。
とにかく、俺も彼女も無事にあの洞窟から出てくることができたのだ。
あの雌竜から悲惨な目には遭わされてしまったかも知れないが、取り敢えずは彼女を城に連れ帰ることができる。

やがて眠った彼女を起こそうと、俺はその華奢な体を静かに揺すりながらそっと小さな声を掛けていた。
「姫・・・起きてください。城へ帰りましょう」
だが、何時まで経っても彼女が目を覚ます気配がない。
すっかりと弛緩し切ったその手足は持ち上げてみても何の反応も示さず、まるで魂の無い人形か何かのようだ。
「ひ、姫・・・?」
なかなか起きようとしない王女の様子を眺めながら、胸の内に奇妙な不安が湧き上がってくる。
その脳裏に、あの雌竜が最後に言った言葉が思い出されてきた。

彼女を潔く諦められれば、俺の命は助ける・・・あの雌竜は確かにそう言ったのだ。
ということは、彼女が一向に目を覚まそうとしないのはあの雌竜の仕業なのに違いない。
しかしそれと同時に、黒竜を殺した罪を俺の身で償えば彼女を助けられるようなことも言っていた。
あれは一体、どういう意味なのだろうか・・・?
だがとにかく、あれこれ考えるのは後にしよう。
もうすぐ日も暮れてしまうだろうし、夜の森は大層冷え込むのだ。
全く服を着ていない裸の彼女をこのままにしていたら、きっと凍えてしまうに違いない。
俺はそう思い立って両腕で彼女を持ち上げると、その身を大きな馬の背へそっとうつ伏せに乗せていた。
次いで俺自身も馬の背に跨ると、纏っていた鎧を脱ぎ棄てて中に着ていた服を彼女の上に掛けてやる。
こんなはしたない王女の姿を、間違っても町の人々に見せるわけにはいかないだろう。
「さあ・・・もう大丈夫だ・・・走ってくれ」
そしていまだ怯え続けている白馬を安心させるようにその首筋を摩ってやると、俺は昼間の騒ぎも多少は収まっていて欲しいと願いながら城に向けて全速で駆け出していた。

「何!?あの男が、娘を取り戻してきただと!そ、それで、娘は無事なのか?」
「は、はい。ですが、まるで人目を避けるように城の裏門から入ってきております」
「何故人目を避ける必要がある?竜に攫われた王女を取り戻したとなれば、町の者からは英雄扱いであろうに」
だがワシがそう言うと、報告にやってきた大臣は少し言い難そうに視線を落としていた。
「それが姫様は・・・どうも竜から凌辱を受けたそうで・・・それに、どうしても意識が戻らないそうなのです」
「うぬぅ・・・と、とにかく、早く娘のもとへ案内するのだ」
「は、はい」
終始落ち着かない様子の大臣について娘の寝室へ行くと、そこには思ったよりも大勢の人々が集まってきていた。
娘を連れ帰った若者、城付きの医者、娘の世話役の召使い達、それに部屋を護っていた数人の衛兵までもが、大きなベッドの上に寝かせられた愛しい娘を必死に看病している。
だがそんな彼らも部屋に入っていったワシの姿を認めると、そっと頭を垂れて左右に道を開けてくれていた。

「おお・・・」
白いシーツの敷かれたベッドの上で、軽い下着だけを身に着けた娘が静かに横たえられている。
その生白い肌に包まれた華奢な手足には恐ろしい竜の手の跡がくっきりと残っていて、ワシは身の震えるような怒りとともに悲惨な憂き目に遭った娘の身を憐れんでいた。
深い眠りに落ちたまま娘が一向に目を開けようとせぬのは、恐らく巨竜に捕らわれて心身に負った傷や痛みのせいだけではないのだろう。
やがて凛々しく整った娘の顔をそっと片手で撫で上げてやると、ワシは周囲に居並んだ者達に努めて平静を装った声を掛けていた。
「何とか・・・娘の目を覚ましてやってくれ」
誰もその重大な責任を負うだけの勇気がないのか、そんなワシの言葉にも返事が返ってくる様子はない。

だが言葉にできぬ失意を胸に秘めたまま娘の寝室を後にしようとした時、不意に娘を連れ帰ってくれたあの若者の声がワシの背を叩いた。
「俺が必ず、姫を助けてみせます」
それに驚いて背後を振り向いてみると、彼が凛とした表情を浮かべながらワシの顔をじっと見つめている。
不思議なものだ。
つい1週間程前まではこの男がワシから娘を掠め取ろうとしている盗人か何かのように見えていたというのに、今となってはまるで尊い救世主のようにさえ感じられてしまう。
「うむ・・・頼んだぞ」
だが他の者達の手前そんな感情を安易に表に出すわけにもいかず、ワシは一言だけ残して娘の部屋を後にした。

その日から、俺は来る日も来る日も眠れる王女のもとへと足を運び続けてた。
1週間、2週間と日数が経つ毎に城を取り巻く暗澹とした雰囲気は濃くなっていったものの、肝心の彼女は飲まず食わずのはずだというのに全く痩せ細ることもなくその美しい姿を保ち続けている。
これは恐らく、あの性悪な雌竜が仕掛けた何かの呪いなのだ。
そしてあいつの言った最後の言葉から察するに、この俺だけが彼女の呪いを解くことができるのに違いない。
もしそれが仮にこの命を代償にすることだったとしても、俺は何としても彼女を助けたかったのだ。
だが日がな1日眠れる姫の顔を飽きもせず見つめ続けるだけの日々に、当初は絶対に彼女を助けると意気込んでいた気力が少しずつ衰えていく。
決して自分の命惜しさではないのだが、どうしてよいのかわからないというまるで深い迷宮に迷い込んだかのような懊悩が俺の気概を削り取っていったのだ。

そんな思考の旅から不意に現実に引き戻されると、窓の外に見える空は薄紅色の夕焼けに悲しく燃えていた。
今日はもう帰ろう。
変わり果てた姫が城に戻ってきてから今日で1ヶ月・・・
これまで一心に彼女に傾け続けてきたこの愛と熱意も無為に過ぎていく苦悩の日々に細々しく擦り減ってしまい、今や俺の男としての意地が辛うじてその礎を支え続けているだけに過ぎないと言ってもいいだろう。
「姫・・・また明日来ます」
そしていつものように一時の別れの言葉を呟くと、俺はふと周囲の様子を窺っていた。
もう付き添いの俺が帰る頃だというのに、今日の彼女の部屋には誰もいない。
いつもなら世話役の召使いの1人くらいは部屋に残っているものなのだが、最早誰もが彼女を救うことを諦めてしまったのだろうか・・・?

だが、誰も彼らを冷たい人間だと罵ることはできないだろう。
かく言うこの俺も、時折平和を望む悪魔の囁きに耳を貸してしまいそうになることがあるくらいなのだ。
1ヶ月前、無事に何事もなく彼女との結婚が成立していたなら、今頃はお互いに幸せな暮らしを満喫できていたことだろう。
結婚・・・か・・・そう言えば、俺はまだ彼女と口付けすらしていなかったんだな・・・
やがてその視線が、ベッドの上で静かに寝息を立てている彼女へと向けられる。
そしてまるで吸い寄せられるようにその小振りな顔をじっと覗き込むと、俺はもう1度誰も見ていないことを確かめてそっとその眠れる王女に自らの唇を重ねていた。

つ・・・
暖かい唇が彼女に触れ、微かに感じるその吐息がスッと胸の中へと入り込んでくる。
だがふと奇妙な視線に気が付いたその瞬間、信じられないことが起こっていた。
「う・・・ん・・・あ、あなたは・・・?」
遠い遠い昔に聞いたような、懐かしくも泉のように透き通った王女の声。
俺はハッとして彼女から口を離すと、ドタバタと慌てながらベッドの端まで跳ね退いていた。
そんな俺の慌てた様子を、永い眠りから目覚めた彼女がクスクスと笑いながら見つめている。
「ひ、姫・・・目を、覚まされたんですね・・・!」
1ヶ月以上もの間眠り続けた彼女が目を覚ました・・・
その驚きの事実に、何とも言葉では言い表せないような歓喜の感情が湧き上がってくる。
だがようやっと笑いを堪えた彼女とじっと目が合ったその瞬間、俺は雌竜の洞窟でも味わったあのドクンという激しい衝撃に胸を貫かれていた。

「がっ・・・あ・・・うああっ・・・!」
突如として、全身に凄まじい激痛が跳ね回る。
目の前の景色が何もかもまるで真紅のカーテン越しに見ているかのように紅く染まり、手足の血肉が弾け飛ぶような痛みと衝撃が俺の心と体を容赦なく打ちのめしていった。
「ど、どうしましたの・・・!?」
俺の体に起こった突然の異変に、やがて慌てふためいた彼女の声が微かに届いてくる。
その視界の端で、体中の皮膚という皮膚がボロボロと崩れ落ちていく様子が目に入った。
その上手足の爪は指の付け根からポロリポロリと剥がれ落ち、あちこちの骨や筋肉がボキッとかバリッなどという音を立てて粉々に砕け散っていく。
「う・・・く・・・ぐあああああああっ!」
俺は・・・死ぬのだろうか・・・?
雌竜の警告を無視して彼女を助けたから・・・彼女を諦めきれなかったから・・・
あの黒竜を殺した罪を、こんな悲惨な死で償えというのだろうか・・・?

だが無残に破壊され崩れゆく我が身の惨状とは裏腹に、あれ程酷かった苦痛は何時の間にか感じなくなっていた。
紅に塗り潰されていた視界は元の色合い豊かな王女の部屋の光景を映し出し、それまで柔らかな皮膚に覆われていたはずの全身が橙色の夕日に煌く大きな黒色の鱗を纏っている。
更に抜け落ちたはずの手足の爪は太く長く生え伸び、腹の下からスラリとした長い尾が背後に垂れていく。
そしてそんな劇的な変化が一応の終息を迎えたかに見えたその直後、両肩の辺りからズバッという音を立てながら腹の被膜と同じ白い翼膜を張った1対の翼が競り出していた。
「ああ・・・そんな・・・」
「あ・・・うぅ・・・こ、これは・・・?」
ようやく明瞭な音を拾い始めた俺の耳に、酷く狼狽えた彼女の声が届いてくる。
やがて一体何が起こったのかと傍にあった大きな姿見に己の姿を映してみた瞬間、そこに映っていたモノが深い絶望の表情を浮かべていた。

姿見の中に映った生き物・・・それは、1匹の黒竜の姿だった。
誰がどう見ても、もうそこに人間だったかつての俺の面影は微塵も残っていない。
まるで・・・前にあの洞窟で殺した黒竜が俺に乗り移ったかのようだ。
「だ、誰か!誰か!」
だが呆然と変わり果てた己の姿を見つめていると、不意に彼女が大声で人を呼ぶ声が聞こえていた。
まずい・・・彼女が一体どういうつもりなのかはわからないが、いずれにしろこんな姿で彼女の部屋にいるところを見つかったら良い方に誤解する人間はまずいないに違いない。
そう考えてベッドの上で怯えている彼女に静かな別れの視線を投げかけると、俺は部屋の扉を破るバンッという音とともに城の通路へと飛び出していた。
「な、何だあいつは!?」
「また姫を襲いに来たのか!ドラゴンめ!」
彼女の声を聞き付けた数人の衛兵達が、たちまち手にした長い槍を構えながら駆け付けてくる。
仕方ない・・・こうなってしまった以上、もうここにいることはできないだろう。
俺は胸の内でそう呟くと、3階の通路に並んでいた大きな窓からバッと勢いよくその巨体を投げ出していた。

色取り取りの草木が植えられた城の庭園が、不意に開けた俺の視界を埋め尽くす。
だが落下の途中で本能的に広げた両翼がその激しい風圧を受け止めると、竜の巨体が驚く程簡単に宙へと舞い上がっていた。
飛べる・・・!
やがてそんな予感とともに1度だけ大きく翼を羽ばたいてみた次の瞬間、早くも眼前にまで迫ってきていた土の地面がグゥンと唸りを上げて遠ざかっていく。
そして耳に心地よいバサッバサッという断続的な羽ばたき音を聞きながら、俺は城の遥か上空へと舞い上がって眼下に広がる町の様子を眺め下ろした。

他の人々はまだ俺に気付いていないようだが、慌しい兵士達の群れが城から飛び出していく様子から察するにこの町が再び竜の出現を巡って大きな喧騒に包まれるであろうことは目に見えている。
いずれにしても、早くこの町は離れた方がいいだろう。
もうすぐ日没を迎える空が、西から東へと物悲しいグラデーションを描きながら燃え上っていた。
その朱と薄紫の混じり合うおぼろげな境界線を頭上に戴きながら、何とはなしに広大な南の森へ向かって翼を羽ばたいてしまう。
何処にも行く当てが無い以上、今の俺にはそうするしか他にできることがなかったのだ。

民家の建ち並ぶ夕暮れの町の様子をぼんやりと眺めている内に、やがて現れた深い森の木々がその視界を深緑に染めていく。
上空からこの森を見下ろすのはもちろん初めての経験だったものの、目的の洞窟の場所はぽっかりと空いた厚い梢の隙間から容易に見つけ出すことができた。
恐らく、あの雌竜もあそこから空へと飛び立っているのだろう。
そして静かに翼を翻しながら森の中に滑り降りると、俺は眼前に口を広げた巨洞を複雑な気分で見上げていた。
前にここに来た時は、2回とも敵となるドラゴンの存在に内心酷く怯えていたものだった。
だが自らが竜となってしまった今となっては、こんな殺風景極まる漆黒の穴倉が何故だかこの世のどんな所よりもゆっくりと落ち付ける場所のような気がしてしまうのだ。

ズッ・・・ズッ・・・
竜になって以前より2回りも大きくなった体が、1歩踏み出す度にその体重に見合った重々しい足音を立てていく。
やがて一条の光すら差し込まぬ洞窟の最奥にまで到達すると、夜目が利くのか俺はその完全な真っ暗闇の中に人間だった時には決して見えなかったある不思議な光景を目の当たりにしていた。
地面の上に隣り合って敷かれている、細い枯れ枝を踏み拉いて作ったと見える広大な2つの寝床。
その一方に、あの巨大な雌竜がゆったりと蹲っている。
そして不意に音もなくその首が持ち上げられると、何処か懐かしささえ感じるしわがれ声が辺りに響いていた。

「おやおや・・・随分と遅かったじゃないか。よく今まであの娘を救う気力が萎えなかったものだねぇ?」
「だ、黙れ!俺に・・・俺の体に一体何をしたんだ!?」
まるでこうなることを予め知っていたかのようなその雌竜の態度に、思わずそう声を荒げてしまう。
「フフフ・・・今更そんなことを知って、一体どうするつもりだい?」
「う・・・ぐ・・・と、とにかく・・・俺を元の姿に戻してくれ!」
「そいつはできないねぇ・・・お前はもう一生その姿のままさ。それが、あたしの夫を殺した報いだよ」
そ、そんな・・・俺はもう・・・1匹のドラゴンとして生きていくしかないのか・・・?
城で竜に姿を変えた時から恐らくそうであろうと薄々覚悟はしていたものの、改めて雌竜の口から厳しい現実を聞かされて深い絶望感が襲い掛かってくる。

「く、くそ・・・俺・・・これから一体どうしたら・・・」
そして肩を落としてそう呟きながら洞窟の入口へと引き返し始めたその時、意外にもそれを引き留めようとする雌竜の声が聞こえてきた。
「おっと・・・何処へ行くつもりだい?」
「え・・・?」
俺をこんな姿にしたことで、この雌竜の復讐はもう済んだはず・・・
だがこれ以上俺に一体何の用だという微かな憤りを込めながら雌竜の方を振り向くと、その鋭い2つの竜眼に何処か愉快そうな喜悦の色が見え隠れしていた。

「どういう意味だ?まだ、俺に何か用があるのか?」
「別に、そのままの意味さ。ここらには他に竜の暮らせるような洞窟なんて1つもないんだよ?それに・・・」
「それに・・・?」
雌竜の言わんとしている言葉の意味が今ひとつ読み取れず、俺は相変わらず洞窟の主に背を向けたまま次の言葉を待っていた。
「お前は森の獣達を狩った経験だってないんだろう?それでこの先、一体どうやって暮らしていくつもりだい?」
そしてそんな"精々そこらで野垂れ死ぬのがオチさ"と言わんばかりの雌竜の言葉に、思わず面と向かって地に蹲った雌竜を睨み付けてしまう。
「お前が俺をこんな姿にしたんだろう?俺に一体どうしろっていうんだ!?」
だがついに抑えきれなくなった怒りにまかせてそう怒鳴り立てると、雌竜からまるでそれを待っていたかのように澄ました返事が返ってきていた。

「簡単なことじゃないか。お前が、あたしの夫になればいいだけの話だよ」
「な、何だって?」
「フフフフ・・・あたしが、一体何のためにお前を前の夫とそっくりの姿にしたと思っているんだい?」
確かに王女の部屋にあった姿見で自分の姿を見た時、俺は前に殺した黒竜にそっくりだと思った。
しかしそれすらもが、この性悪な雌竜が仕組んだことだったなんて・・・
「ふ、ふざけるな!どうして俺がお前なんかと・・・」
「ふぅん・・・まぁ、嫌なら無理強いはしないさ。勝手に何処へでも行って、独り寂しく野垂れ死ぬがいいさね」
「く、くそ・・・どうしてこんな・・・」
目の前で仲間を殺された挙げ句に俺自身の姿までドラゴンへと変えたこの憎たらしい雌竜と、一体どうやって共に暮らせというのだろうか・・・?
だがそうかと言ってこのまま洞窟を出ていっても、俺に待っているのは惨めな暮らしであることに変わりはない。
外は既に暗い夜の闇に包まれていて、突然野生の世界に放り出された俺の心を激しく打ちのめしていた。

「さて、と・・・どうするんだい?」
「う・・・畜生・・・わかったよ・・・」
その俺の返事を聞くと、雌竜の顔に明らかにそれとわかるような勝ち誇った表情が浮かび上がる。
そして地面に身を伏せたまま大きく持ち上げた尻尾で隣に敷かれていた寝床を指しながら、雄を誘うようなねっとりと艶の掛かった声が闇に覆われた洞内に響き渡った。
「それなら、早くここへ来な。お前を養ってやるんだから、夜はしっかりとあたしに尽くしてもらわないとねぇ」
「な、何をするんだ?」
「なぁに、ちょいとした夫婦の嗜みさ・・・わかるだろう?」
やがてそう言いながら、寝床の上で体をずらした雌竜が俺の前にその股間に走った淫らな割れ目をチラつかせる。
「お、お前・・・まさか最初からそれが目的だったのか・・・?」
「何か文句でもあるのかい?一月以上もこのあたしを飢えさせたんだ・・・今夜は朝まで寝かせやしないよ」

そうか・・・俺の体で罪を償ってもらうっていうのは、つまりそういうことだったんだな・・・
それまでずっと謎だった雌竜の行動と怒りに潜んだ真の理由を理解して、俺はそのまま何も言い返すことができずに雌竜の傍へと吸い寄せられていった。
やがてゆったりとした足音だけが聞こえる数秒間の沈黙を挟んで俺が指し示された寝床の上に足を踏み入れると、そこはかとなく凄艶な笑みを浮かべた妻が大きく股を左右に広げながら仰向けに身を翻す。
クチュ・・・ニュチュ・・・
一面を白い皮膜に覆われた柔らかい下腹部に口を開けた大きな雌の縦割れが、まるで長い間干されていたことに対する怨み事を呟くかのように淫靡な水音を漏らしていた。

「さぁ早く、遠慮は要らないよ・・・それとも、あたしの下でこっ酷く搾られる方がいいのかい?」
やがてそんな雄を小馬鹿にしたような妻の言葉に、俺の股間から雌を責め立てる大きな肉棒がそそり立っていく。
その人間だった時とは比べ物にならないほどの立派な雄槍に、俺の中でこの鼻もちならない雌竜に対する密かな報復の願望が首をもたげていった。
「へっ・・・そんな減らず口を叩いていられるのも、今の内だぞ!」
だがそう叫びながらズブッという音とともに雌竜を貫いたまではよかったものの、その渾身の一撃がいともあっさりと深い秘裂の中で受け止められてしまう。
「フフフフ・・・なかなかに激しいじゃないか・・・ほぉら、お返しだよぉ」
ギチュ・・・グリュリュッ・・・
「ふあおぉっ!!」
そして反対に肉棒へと叩き込まれた熱い歓迎の締め付けに甲高い嬌声を漏らしながら背筋を仰け反らせると、俺はこれから始まるであろう長い夜と竜としての生活に一筋の希望を抱きながら喜びの喘ぎを発し続けていた。



感想

  • 続編希望! -- 名無しさん (2008-08-07 09:28:17)
  • 続編ですか・・・
    難しいですがそのうち書いてみます -- SS便乗者 (2008-08-07 22:12:00)
  • 姫のところに夜這いに行き、帰ってきたところを雌竜にフルボッコにされる主人公のその後とか読んでみたいです。 -- 名無しさん (2008-10-04 16:09:11)
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