三十路旦那鋼尾談2

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【どうしたんだい? まさかアタシでは興奮しないって趣味じゃないだろう? 初めて
のガキじゃあるまいし、何ほけっとしてんのさ?】

『……あ、の? 俺が相手を、する? って』

 ワケがわかったようなわからないような混沌とした様子のヴィストに、ノーラはしてや
ったりと言わんばかりに爆笑した。

【アッハハハハハハハハ! だ か ら。言ったじゃないさ……アタシの相手をしても
らうって。その股ぐらにぶら下げてる棒切れでねぇ? まったくもう、ニブイったらあり
ゃしない! アハハハハハ】

 傑作だと言わんばかりに笑いたくる藍の竜に、ようやくしてやられた、という正常な怒
りがヴィストに我を取り戻させた。

『あんたッ……! 最初から俺と戦うつもりはなかったんだろう?』

【んー? 戦うなんて一言も言った覚えは無いがねぇ?……まぁ、ある意味そうなるか
もしれない。アタシとのまぐわいに耐えられなければあの世イキだからね】

 ノーラの切り返しに冷たいものを感じ取り、ヴィストの背筋が再び引き締まった。妻の
手前も重なりムスコは完全に縮みあがってしまい、とても行為に及ぶ所では無い。なんと
も言えない気まずさで顔をしかめる彼の様子に竜は苦笑した。


【あー、そうかいそうかいうっかりしてたよ……大きさを合わせないと】

 瞬間、藍色の巨体が収束した。

【それも、オマエさんの一番大好きなカラダでね】

『!!……す、スーフィ……いやノー、ラ?』

 強烈な既視感に一瞬ヴィストは妻と疑ったほどに……獣脚類の特徴を残す下半身に、や
や蜥蜴人に近いデフォルメをされた上半身の組み合わせ。体色の違いと角のある無しなど、
細部を除けば完璧に孫の変身をノーラは再現していた。

【これならアンタも役に勃つだろう?……フフフフフ】

 ……グジュ。

 腰を淫らにくねらせ、局部の収縮を見せ付ける藍の竜。

『ううっ……くそっ』

 自身の正直な反応に彼は呻いた。散々貪りながらも飽きることも無い妻のカラダが、似
て異なる新鮮な魅力をもって訴えかけてくる。ましてや濡れた欲望を露に魅せられては自
然と勃ち上がってくるモノがあるのは仕方の無い事だった。

【あ、へぇ……お、おばはさめぁ……だめれすぅ、それはわたひのれすぅ……】

 魔力が抜けてきたのか、ろれつの回らない声でスーフィの抗議が聞こえる。沸き起こる
罪悪感にヴィストはむしろホッとして身を委ねた。しかしそれは甘い考えだったのを思い
知ることになる。


【いいじゃないかい減るもんじゃなし。後上手くいけばいつもの10倍たくましい雄にし
て返してやるよ】

【? じゅ……倍? れすか……】

【ああ、今の旦那は少々物足りないだろう? だからアタシが鍛えてやるのさ。いいか
い。これはオマエを思っての事なんだよ……】

(物足りないだと?……余計なお世話だ! 後それ絶対嘘だろう!)

 ノーラのうさんくさいほど神妙な諭しをヴィストは力一杯糾弾した……あくまで心中で。
無論賢い妻が引っかかる筈が……。


【あ、は。嬉し……よろひく、おねがいしまぁはす……】

(んな、アホな)

 あっけなく良識の後ろ盾を失い、あまりのバカらしさにヴィストはもうどうでもよくな
ってしまった。思わず天を仰いで何かに許しを請うと……手持ちの武器ごと全てを投げ捨
て咆哮する。

『うぉおおおおお! も、もうシラネェゾおおぉおおお!』

 彼はむしる様に衣服を脱ぎ、限界まで膨れ上がった己が欲棒を掲げて肉の罠に飛び込ん
で行った。


 グチュ!……グチュグチュグチュグチュ!

『ハァ!……うっ! おおおおおっ!……』

 今までに無い腰使いと獣欲をノーラはたやすく受け止め、心中でこうひとりごちる。

(さてと。ここからさ……鬼が出るか蛇が出るか……あんっ、この場合は少し違うか
ね? ……っうん)

 雌の喘ぎをあげながらも、彼女の情欲に濡れた瞳の奥はあくまでも計算高い竜だった。

 ズチュッ! ズチュッ!

【ウッ!……フフフフ。なるほどぉ、っんんっ……スーフィにもこうやって激しくして
たんだねぇ……おぅ】

『ま、まだこんなもので済むと思うな、よっ!……ハアッ、孫イッ、以上にいやらしい
動きしやがってっ!』

 余裕を装いつつ確実に高ぶりつつあるノーラの瞳を食い入るように睨みながら、ヴィス
トも責めを激しくする。憤りから燃え盛っていた欲情は、いつしか純粋な獣欲にとって変
わりつつあった。妻によく似た抱き心地ながら、結合した肉の動きは明らかに異なる狡猾
な――雄をしゃぶりつくそうとする意図をもって淫らに彼を扇動している。

 グチュッ! ジュブッ! ジュボッ!

 体液がしぶくほど激しいピストンも竜の肉穴はやすやすと呑み込み味わっては吐き出す。
肉棒が僅かな瞬間に幾重もの肉の舌にもみくちゃにされる感触は急速に雄の歓楽を陥落さ
せていった。

『アッ!……あああぁアアア!!……』

 ビュグググッ!

【おうっ。いいねぇ……これが人の、人の若い子種……】


 のけぞりながら最初の射精を迎えたヴィストは、そのまま腰を振り続けていた……いや
正確には続けさせられている事に気が付いた。その元凶は目前の瞳であると看破したがも
う遅い。

『くっ……しまっ……ああっ!』

【ハァハァ……今更気が付いたのかい? 竜の瞳をまともに見ちゃいけないのは常識だ
ろうに……もうアタシの体から逃げられないからねぇ……ほぉら】

 ジュボッ……。

 ノーラの体が淫らな音と粘液を残してヴィストから離れると、そのまま後ろを向いて尻
尾を上げる。いわゆる獣の交尾の姿勢に彼の体は操られるように従った。

 ジュブブブ……ジュチュッ! ジュチュッ!

『うあ!……くそおうっ! い、言う事を……うあああああっ』

 再び激しいピストンを開始した己が体に悲鳴を上げながら、ヴィストは再び昂ぶってく
る射精のうねりに侵食されていった。

【おおうっ! いいよ、いいよぉ……さぁ……何発出してくれるかい? フフフ、最も
出なくなるなんて事は無い、けどさ……生きている間は】

 『なあっ……そんな、あ!ああああああっ!』

 ビュクビュクビュクッ!

『がっ……ああっ、さっ、さっきより、い、イイイッ?』

【以前からすこぉーしずつ魔術で改造していたからねぇ。でなきゃスーフィのカラダにだ
って耐えられない筈さ。覚えがあるだろう?】


 初回より明らかに勢いと時間を増した絶頂に、たまらず彼は喜びの声を上げる。命を搾
り取られる残酷な処刑と認識しながらも、それを受け入れ始めている自分に抗えなかった。
蕩けていく意識の奥にまで、ノーラの囁きが染み込んで来る。

【まだまだもっと激しく……濃くていやらしくなるんだよ……さぁたっぷりとお寄越し!】

 ビュビュビュビュビュビュ……。

『かっ……はっ……ガァアア』

 もはや声すら満足に出せない領域までヴィストは達して、達し続けた。体内の決定的な
何か致命的に精となって流出してイク。このままでは竜の言うとおり、自分は雄としてこ
の上ない死に方をするのだろう。後にスーフィを残して……。

(!!……ナニを馬鹿なっ……)

 度し難い怒りが急激に湧き上がり、彼の体に意志の動きが宿る。腰の動きはそのままに
……片手でノーラの下腹をなぞるとそのまま延長にある肉芽をしごきあげた。

 グォオオッ!

【なっ! 何をするんだいっ! イッ…そんな、激しくっ……百年ぶりな……ヒッ!】

 ありえない事に……途端に彼女の声が乱れた。ヴィストはすかさず空いた手で結合部を
なぞると、愛液で滑った指先を……竜の肛門へと無理やり押し込む。


 グジュ……。

【そ、そんなトコっ! お、およしよっ! 汚いじゃないかい、アアッ……】

 竜の喘ぎが別次元のモノに……明らかに余裕を無くした羞恥に悶える成分を含んでうね
る。正気と勝機を見出したヴィストはさらに追い討ちを掛ける。

『クッ! ……ケダモノ、同士じゃこんな所は可愛がってもらえなかっただろう?……
こんなに、こんなに無防備に晒しているんだからなっ! このハァハァ、汚くていやらし
い、トコを』

 グリュグリグリグリュ。

【あっ! 調子に、の、乗るんじゃないよ、アッ……!!】

 突然の陵辱にうろたえていた竜の肛門がギュッと締まる。それは彼女にとって決定的な
ある衝動を意味していた。

【ア……ちょ、お、おおお待ち! このままじゃ……】

『出ちゃうかな? いいや! まさか誇り高き竜の賢者様が矮小な人間の前で……イタ
スわけないよなぁ? ……孫とは違って、ね』

【こ、この……人間! まさかスーフィにも……たっ、ただじゃすまさない、よっ……
ヒッ! アアッ……】

 失態の予感に震える声をさらに煽るヴィスト。重ね重なる屈辱に竜の喘ぎに怒りがこも
る。が直接どうこうする余裕は既に無い様だった。

 グリュ。

『タダじゃすまさないのはこっちの方だって、なっ!』

 焦りと腰の動きを激しくするノーラに気を良くした彼は、さらに指を深く押し進めた。
人間で言えば丁度膣裏にあたると思われる直腸壁をすり潰すように圧迫してやる。それは
排泄をこらえる苦痛とは正反対の喜悦を竜に与えたらしく、混乱した喘ぎと叫びが洞窟内
にこだました。

【は、あ……い、ぃイイッ! いい加減に、おし……】

『ぐふぁっ……んっ!』

 竜の尾が彼の首に巻きつき乱行を阻止しようとするが、挿入した指先をねじ込む様に
突き進み、子宮のコリコリとした感触に辿り着くとあっけなく束縛は解けた。操られるま
ま精を注ぎ込むヴィストのイチモツの先端が、刺激にせりあがって来た最奥の肉穴に一層
吸い付けられる。


 グリュグリュ。

【が、ア……こ、こんあッ! に、人間の……だってされた事ないのにさ!……アッ、
あアッ、ああああ……】

 異質な未知の快楽に震える藍の鬣が一瞬大きく逆立ち――。

『そぉら! 止めだ竜め……イッ、ちまえっ!』

 グリュグリュグリュ!

【な、アアアぁっ! なんてコト、だい……! ん、んんーッ!!】

 ガアッ! グァアオオオオオゥーッ!!

『んん……がッ、吸われ……締ま、るっ』

 聞く者の意識が飛ばされそうな咆哮に全身を震わせて、ノーラは絶頂に達した。黒水晶
の瞳孔を目一杯開き、結合部はもはや狡知とは程遠い本能に任せた雌の収縮を繰り返す。
その口は恥も外聞も無く雌の喜びを謳い続け、それが途切れた時堕ちた賢者はぐったりと
腰を落とした。

 『はぁ……ハァア……ははっ。やっ 犯ってやったぜ……どう、だ?』

 ジュボ……ゴボボボッ……。

 快哉を叫びながらヴィストは己自身を引き抜いた。結合部からは愛と精の混合が淫らな
音と共に噴き出すが、思ったよりも少ない事に一瞬拍子抜けする。しかし触れていた竜の
下腹、その微かな膨らみで理解した――ほぼあまさず注ぎ込んだ雄としての本能的な満足
感に酔う。


【し、信じられない……こ、こんなにイイ……アタシが言うのもなんだが、ね……全く
人間ってのは、恐ろしいよ……アタシの旦那様以外はこ、ここまではイカないのにねぇ】

 コトが済んだ後の余韻を全身で味わいながら、満足そうにノーラも返す。その声には年
経た竜らしき傲慢めいた気取りはどこにも無く、雄を享受できた喜びに溢れていた。

『お、思い知ったか……俺の勝ち、だ……あ れ ?』

 立場を変えながらの陵辱とも言える交わりでありながら……どこか睦言めいた囁きを楽
しんでいたヴィストの視界は急速に暗転する。

『あ……そう、か。ハハハ、俺は……』

 彼自身の決定的な何かが空になった認識と共に、意識が崩れ落ちていく。不思議と苦痛
も恐怖も無かった。

(もう、終わっていたんだな……)


 とっくに限界を超えた命。無理やり動かしていた竜の呪縛は自ら断ち切ってしまった。
もうヴィストをこの世に繋ぎ止めるものは何も無い。例え彼女でも。

【あ!……アナタっ!……】

(ご、めんなスーフィ……できるなら、おまえと……欲しかったな)


 未練はある。だが何故かすがりつこうとは思わなかった。奇妙な安堵感に包まれながら、
こうするのが正しいという確信を持って、ヴィストは今の自分を受け入れる。

 ――大丈夫だ。心配無い。

 もはや見ることすら叶わない妻を安心させようと、ヴィストは最後の力を振り絞って笑
った。

『だ……いじょう……少し休め、ば……愛して、る』

 なんとか間に合った、そう思った瞬間彼の人生はあっけなく幕を閉じた。

 ――

 ――――虚無。

 ―――――――それが形を成し。

 ―――――――――――そして。声。

『……アナタ』

(ん――なんだ? オレ、は。おれは俺は……)

 虚無に還った筈の意識。ヴィストという名前のそれは、全く唐突に世界に孵ってきた。

『いい加減起きないとお仕事に遅れますよ?……今日は……』

(今日は……何だ? ああ――の日だったな?)

『ってマズイっ! でないと……』

 慌ててヴィストは跳ね起きた。目覚める寸前までナニを、何かシテいたような重大なこ
とになっていたような気がするが思い出せない。恐らくナニかしらろくでもない悪夢でも
見ていたのだろう、彼は結論付けて一気に気持ちを切り替えた。

『お目覚めですか? もう。ずっと待っていたんですから』

 寝台から身を起こした目の前には、見慣れた我が家の風景と朱鷺色の安らぎ。妻の微笑
みが彼を出迎える。


『すまないな……少し遅れるが仕度を頼む』

『もうできていますよ。フフッ……あの仔ったらはりきっちゃって朝から頑張ったんで
すから。ちゃんと褒めてあげて下さいね?』

『ああ……全くあの元気は誰に似たんだかな。ん?』

(あの 仔? ああ、そうかいや何だ誰だ?)

 ヴィストは自然に口から漏れた言葉が信じられなかった。知っている筈で知らない筈の
フレーズに一気に思考が混濁する……がすぐに寝覚めの悪いせいだろうと頭を振って疑念
を追い払う。

『あなた?』

『ああ? あ……行こうか。あの仔は、――はどこだ?』

 訝しげに伺うスーフィを手で制したヴィストはまたもや混乱する。――の名前も忘れる
とは年だなと苦笑するが、疑念を追い払うことはできなかった。

 ――忘れるワケが無い。

『――、お父さんが起きたわよ? そろそろ仕度なさい』

『はぁーい』

 子供らしい無邪気な声が足音と共に迫ってくる。しかしヴィストにはその源を確認する
余裕は無くなっていた。気のせいか視界すらぼやけてきた気がする。


 ――そもそも、知らないのだから。

(くそっ! 黙れっ……)

 冷酷かつ残酷に意識を苛む一つの声に彼は頭を抱えた。へたり込んだその体に小さな、
柔らかい何かが触れる。

『パパ? ねぇ。大丈夫?』

『ん? ……いやちょっと寝過ぎて頭が痛いだけだ。――は優しいな』

 幼い思いやりにも笑って誤魔化せ――無い。理不尽な意識の混濁は明確な苦痛となって
ヴィストの視界と思考を切り崩していった。こらえきれず悲鳴を上げようとした時――。

【大丈夫だよ】

 いつの間にか周囲を包む虚無の中。柔らかい声に癒される。

(誰、だ……)

【ごめんね。どうしてもパパに会いたくて……ちょっと早くでてきちゃった】

(パパ?……お前は、いや俺の――クッ)

 ヴィストは呻いた。また先程の苦痛がぶり返し始めそうになるのを感じる。しかし額に
当てられた小さな柔らかい手が、それをあっさりと封じてしまった。

【いいんだよ。思い出さなくても……だって、ね】


 声は少しだけ寂しげに、儚げに。

【――はまだ……生まれてないの。名前はまだ、ないんだから】

(そうか……そうなんだな)

 ようやくヴィストは理解した。声の主、いつになるかはわからないが必ず出会うであろ
う愛しい者を。今は名前さえ呼んでやれないがせめて――彼は精一杯父親らしさを込めて
呼びかけた。

『ああ、パパはお前が生まれてくるのを楽しみにしているよ』

【うれしいっ。いっぱい、いーっぱい抱っこしてね? いろんな所に連れて行ってね】

 『あぁ。お前には見せたいものがたくさんあるんだ。早く生まれておいで……パパとマ
マも頑張るからな』

 とちょっと微妙な表現に互いの苦笑が虚空に響いて……溶ける。次への覚醒が近い事を
ヴィストは悟った。存在が希薄になる感覚に己を任せつつ、とりあえずの別れを告げる。

『じゃあまたいつか……な。それまでいい仔にしているんだぞ』

【うんっ! あ……待って】

 年相応の寂しそうな声の調子が、少しだけ慌てたものになる。


【……あの……いつかね。パパのお皿を割ってしまうかもしれないけど……あんまし怒
らないでね】

 ヴィストは声に出さず笑った。多分この事は覚えていないし、自分は確実に怒るのだろ
う。それでも、それでも心に刻み付けておこうと誓う。

『あぁ……お尻を叩くのは止めにしておくよ……』

 その語尾は、彼の意識ごと虚空に溶けて、完全に消えた。

 ――そして。再び竜の巣。

【……さて、後はオマエしだいさスーフィ。煮るなり焼くなり好きにおヤリ】

 敢えて短く、言葉で孫娘を突き放すと竜の賢者は元の巨躯を翻して外へ消えた。

【う、嘘……】

 スーフィの目前に力なく横たわる――最愛の夫。一糸纏わぬその肉体には生気の欠片も
感じられない。その近くに足取り重く彼女は身を寄せた。

【ああ……こ、こんな……】

 変わり果てたヴィストの姿に、スーフィは混乱の極みにあった。喘ぐ様に息継ぎをしな
がら、彼の肉体を凝視する。

(あなた……ごめんなさい)

 祖母の言葉を思い出し気を引き締めると、彼女は震える口を開き……そっと夫の肉に口
を付けた。

 クチャッ……。

 ――熱い。

 それがヴィストが己の肉体に感じた最初の感触だった。

 クチュ。クチャッ、クチャ……


 未だ視界は霞のまま、体の一部が咀嚼されているのを彼はぼんやりと知覚する。

【あ、あぁ……アナ、タっ……】

 粘ついた音の協奏に、魂を搾り出したような熱く、切ない喘ぎ声が重なった。それはヴ
ィストに取って何よりもかけがえの無い――彼女。

(ああ、そうだ。スーフィ……)

 自身に圧し掛かる愛しい重み。何度と無く重ねた肌触り。それらを道標に彼の体は急速
に感覚を取り戻しつつあった。

【ああああっ……もう、これ以上は……】

 まだ意識と感覚のズレはあったものの、切羽詰った妻が心配になり彼は思い切って目を
見開いた。

【スー、フィ? 一体ナニを、何をやっているん、だっ……うくっ!】

 締め付けを増した肉のあぎとがヴィストを一層責め苛む。彼の体に圧し掛かり、息も荒
く貪りを続ける雌がそこにいた。

【ア、ナタっ……よ、よかったっ……!】

【ぐあおおっ!!】

 途端に脱力したスーフィに押し潰されて彼は悲鳴を上げる……が思ったよりすんなりと
彼女を受け止めることが出来た。本来なら骨が折れていてもおかしくないのだが。


(ん……なんだかヘンだぞ……)

 首を支点にして妻を抱き起こすとヴィストは改めて妻の様子を確認し、驚愕に喉を鳴ら
した。

(お、おい!……いったいナニと……ヤってるんだ? ……いや)

【お、俺は、ダレダ……】

 ――最初に理解した状況は妻が交わっているという事。

 ――そして。いや、しかし。

 ――その局部は見たことも無い鋼の鱗を伴っており……しかも延長上にあるのはどう考
えても自分のカラダであるはずがそれもまた異質の――彼はひたすら混乱するばかりだっ
た。

【スー、フィ! なぁ! スーフィ!】

 ぐったりと目を閉じた彼女の安否も気にはなったが、とにかく状況を誰かに説明しても
らいたくてヴィストは抱き抱えたその体を揺さぶった。

【ンッ……ああ、あっ、アナ、タ……】

【頼む教えてくれっ!……俺は何がどうしてどうなって……こう、なってるんだ!】

 彼が妻の視界に翳したのは、甲の部分がまるで鎧のような鱗を纏った青く輝く……竜の
手だった。動揺を忠実に再現してわななくそれに、彼女の朱鷺色の手がやさしく重なる。


【あぁ……素敵です。想っていた通りでした……大丈夫です。大丈夫ですから】

 愛しくてたまらないとばかりにゆっくりとヴィストの手、たくましい二の腕、そしてマ
ズルの突き出た顔をなぞるスーフィの手。それは彼の輪郭を持ち主に伝え、不思議に動揺
を鎮めていった。

【俺は……なんだ、な】

【はい。おばあさまが仰ってました。私の相手が竜ならば……エルダーの方々も文句は
言えまいと】

 彼女のオッドアイが後ろめたそうに閉じられる。

【その為には……アナタが竜に変わるためには一度ヒトとして死ななくてはならないと。
交わりの間、おばあさまはずっと自身の精を送り込んでいたのだそうです】

(なるほどな……タダではすまない、か)

 交わる前にノーラが言った台詞を思い出し、ヴィストは苦笑する。同時に鼻から漏れた
吐息は焼けた鉄の匂いがした。

【でも姿形は変えられても命が芽吹くかどうか、アナタがアナタのままでいられるかど
うかは……正直賭けでした。ですから】


 彼と繋がるスーフィの膣がキュッと締まる。

【私が、精を送り込んで覚醒させろと言われました。それが一番いいだろうと】

【おまえの体なら忘れようが無いしな……すまない。相当消耗しただろうに】

【いえ……アナタの為でしたらいくらでも命を削りま……んんっ】

 お互いに声無き笑いを交わした後、二頭の竜は静かに口付けしながら、束の間の休息に
沈んでいった。

 ――そして月の昇る頃。

【上手くイッタ様だね?】

 外で様子を伺っていたのだろう、ノーラが洞窟内に姿を現した。その眼は同族の誕生を
心から喜ぶ慈愛に満ちている。

【ああ。おかげさまで、な。このありさまだ】

 既に感づいていたヴィストは口を僅かに歪めて笑いを表現した。表情が作りにくいのは、
慣れだろうと彼は再び苦笑し、妻の支えを感じながら起き上がる。

【ま、ついておいで……とりあえず自分の姿を見ておかないとね】

 踵を返した竜の賢者に従い、ヴィストもゆっくりと後に続く。慣れない四足歩行にやや
ふらつきながらもなんとか外に出る事が出来た。

【これは……】

 歩く事しばし。近くの湖畔に導かれたヴィストは、己が姿を水鏡に映し唸った。

 ――腹を除く全身を青鋼の装甲が覆い。

 ――顔は厳ついながらも、威圧感の無い気だるげな翡翠の瞳が自分らしい。

 そして。


【これが……俺の?】

 ――まるでメイスの如く、装甲が集積した強靭な尾。

【そうさね。この鋼の尾がアンタの竜としての象徴さ。覚えがあるだろう?】

 傍らからノーラの楽しそうな声。

【ああ……】

 彼の尾に宿るのはかつての愛杖――全てを『撹乱する』概念付与の魔力。しかしその威
力はケタ違いである事は容易に実感できた。おそらく竜の吐息も魂も思うがままに掻き乱
し、打ち破る事ができるだろう。

【いくら人間が作ったヘナチョコ棒でも、使い慣れたのが一番だろうからね。おせっか
いかもしれないけど、移させてもらったよ】

【ヘナチョコは、余計だ……いや、ありがとう】

 己を、いや守りたいものを守り抜ける力。力強く一振りするとヴィストは礼を言った。
その傍らではスーフィが静かに身を寄せている。彼女の頼るべき居場所はそこだと言わん
ばかりに。

【さてと……覚悟は決まったようだし、仕上げといこうかい】

【仕上げ?】


 またナニかをヤるのかと、恐怖と期待が半々の声音で応じる彼の様子に二匹の雌竜は可
笑しそうに顔を歪めた。

【んー? ハハッ。まぁソッチの方は後でたっぷりイタすとしてだ。まずは新しい名前
だよ、ナ・マ・エ】

【お、俺の……?】

【お、おおおばあさまっ! だめですコレは私のですっ! ……えと、そのですね、人
間から完全に変わる為に必要な儀式なんだそうです。私もさっき聞いて驚いたんですが】

【アタシも、そうしたからね……しっかり考えな。まぁ、元自分の名前を入れとくと馴
染みがいいかもね】

 ノーラ。

 リューノゥーラ。

 ……ノーラ。

(そうか。そういうことか)

 竜の賢者の名前を反芻し、ヴィストは、いや鋼の竜は納得の溜め息を付いた。そして、
決める。

 ――いや、既に決まっていたのかもしれない。


【ヴィストリュア】

 その響きが自分に染み込んでいくのを確認し、彼は、ヴィストリュアという鋼の竜は天
高く咆哮する。

【鋼尾のヴィストリュア、かい。良い言霊だね……おめでとう。ヴィストリュア。藍の
賢毛の名において歓迎し承認するよ】

 ノーラの神々しい声音に打たれ、雄竜は頭を垂れてそれを受け入れる。例えるならそれ
は人間で言う騎士叙勲の風景に似ていた。新しい生と言う使命を与えられた誕生の時。

【お誕生日、おめでとうございます。アナタ】

【ありがとう、スーフィ】

 妻の祝福の言葉にも今度は後ろめたさも無く――ヴィストリュアは笑った。そんな夫の
顎の下に鼻先をこすりつけて甘える朱鷺色の竜は、フッといたずらっぽい笑みを浮かべる。

【そうそう。今度は私にもおめでとうをくださいな?】

【ん?なんだ? まさか……おまえも?】

【残念。はずれです。ウフフフフッ】

 顔を紅潮させて、スーフィは己の下腹に眼を細めた。


【私というより……この仔に、ですけど】

【んなっ……】

 地肌が赤くなる程狼狽する雄竜にノーラが追い討ちをかける。

【ハッハッハッ! なった途端にデキるなんてよっぽど相性がいいんだねぇ? 父と仔
の誕生日が一緒ってのも傑作だ。いや縁起がいいことこの上ないよ】

(俺を介抱している時に……いくらなんでも偶然すぎ)

【……でもないか】

 ヴィストリュアの思考がその口から零れ落ちる。何故かわからないが既に決まっていた
様な気がした。彼は精一杯父親らしさを込めて、妻の下腹に呼びかける。

【おめでとう。パパはお前が生まれてくるのを楽しみにしているよ】

 ――新しい二つの命を、頭上の輝きはただ静かに祝福していた。

【三十路旦那鋼尾談 了】


感想

  • あなたの作品 大好きです -- 名無しさん (2008-07-14 12:00:52)
  • 面白かったです
    続きが見れるとは思ってもみませんでした(´・ω・`)ノシ
    ここまで来ると子供のその後が気になってしまいます(爆) -- 名無しさん (2008-07-19 20:48:08)
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