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剣の切っ先に照り返されたランタンの炎は、まるで篝火のようだった。
天然の天窓から差す仄かな月明かりを楽しみながら、やがて孵る我が仔の卵に思いを馳せる。
この洞窟に棲む雌竜はそうやって日々を気ままに過ごしていた。
日が沈む頃には食糧を携えて巣に戻ってくる夫もいる。
献身的に続けてきた抱卵が実を結ぶ日も近いはずだった。
「さあ、退いてもらおうか。俺たちの目的はお前の腹の下の黄金だ。お前の命じゃあない」
明かりを纏った剣が竜の顎先に触れるほどの距離で上下した。
彼らこそ、平穏な日常を引き裂いた憎き敵。
幅広の良質な剣を握っているものの、風貌は騎士のそれではない。
継ぎ目の目立つ荒い鎧に革のレギンスを身に着けている。
大方、貴族崩れの賞金稼ぎか何かだろう。つまり、目的は明らかだった。

「とっととぶっ殺しちまえよ、面倒くせえな」
洞窟の入り口の盛り上がった岩に腰掛けていた男が訝って腰から剣を引き抜いた。
竜の目の前で剣をちらつかせていた男がそれに返す。
「竜は我が家紋なんだ。無闇に殺めたくない。
 それに、この狭い洞窟ではこちらも無事では済まない。楽に終わるなら願ったり、だろ?」
「チッ…勘当されたくせに、どの口が言う」
入り口の男が頭の後ろで手を組んで、体を床に放り投げた。
「早くしたほうが身のためだぞ。俺の連れがかんしゃくを起こす前にな」
眼前の男が言った。黄金などくれてやればいい。人間ならそう思うかもしれない。
しかし、彼女には、いや、腹に抱えた我が仔にはどうしても黄金が必用だった。
熱をよく逃がし、恒に清潔。そして、決して腐食しない。
黄金以外の巣材で竜の卵を孵すことは不可能に近い。雌竜はそれを本能的に知っていた。

「早くそこを退け!」
切っ先が竜の顎先に軽く触れた。
硬い鱗には傷一つ付かなかったものの、雌竜は思わず身を反らせた。
その瞬間、彼女の腹の下から純白の半円が顔を出す。
雌竜はすぐに身を屈めたが、男の鋭い眼光はそれを見逃さなかった。
「卵…こいつ、卵を温めてる」
予想だにしなかった光景に、男の動きが止まった。
入り口に寝そべっていた男がそれを聞いて体を起こす。
「なんだと?」
その言葉には不気味な感嘆が込められていた。
男は岩陰から何かを引きずり出すと、それを竜に見えるように乱暴に放り投げた。
「じゃあこいつは、つがいの雄か?」
雌竜の目に飛び込んできたそれは、間違いなく竜の頭だった。
そして合点した。何故、夫の帰りが遅かったのか。
はらわたが煮えくり返る思いだった。
もし自分に守るべきものがなければ、彼らを微塵に引き裂いていたことだろう。
それも今は適わない。夫が命をかけて守ってくれた我が仔を、なんとしても守らなければならない。
「好都合じゃねえか」
粗野な男が眼前の、比較的紳士的な男を押しやって、竜の首に剣を押し当てた。
「知ってるぜ。これでも俺は王国のドラゴン研究を一任されていたんでね。
 卵を温めるには黄金が必用なんだろ?
 …俺は優しいからよ、必要最低限は残してやる。
 その代わり、ちょっくら言うとおりにしてもらおうか」
男はそう言うと剣を鞘に収め、レギンスの革紐に手を伸ばした。
それはするりと下がり落ち、いきり立った雄の象徴があらわになる。
「な、何を!」
片隅に押しやられていた男が驚きを隠すことなく、下半身を露出した男に詰め寄った。
粗野な男は憤りもあらわに返事を返す。
「お前、最後に娼婦を抱いたのはいつだ?」
「…さあな、もう一年近く前だ」
「お前と組んでから、こっちは女日照りもいいとこなんだよ。
 いいじゃねえか。黄金は手に入る。ちょっとした余興だ。
 それに、竜はいくらカネを積んでも抱けないぜ」
レギンスを脱ぎ捨てた男はにやりと笑みを浮かべると、竜の首を掴んで自らの下半身へと引き寄せた。
「変な気は起こさないほうがいいぜ、ドラゴンちゃんよ。
 俺のブロードソードは刀身に竜血樹の樹液を練りこんである。痛い目見るぜ?」
男の腰に下げられた剣から放たれる異様な臭気に、竜は息を詰まらせた。
ドラゴンスレイヤー。剣は、そう呼ばれるものだった。
状況は最悪だった。助けてくれる夫は、もういない。
歯向かえば自分の命も、和が仔の命もないだろう。
そうして、彼女は眼前に突き出されたそれに舌を這わせることを選んだ。

「優しく頼むぜ」
屈辱だった。人間の、まして夫を殺した張本人の性器に口を付けるなど。
このまま噛み千切ってやろう。そんな思いが幾度も雌竜の頭を過ぎった。
──だめ、全てが無駄になってしまう。
雌竜は全ての内心を片隅に追いやり、今はこうするしかないのだ、と自分に言い聞かせた。
ゆっくりと、汚らわしい肉の塊が美しい竜の鼻先に迫ってくる。
それは一瞬の出来事だった。男が雌竜の喉元へと一気に自身を押し込んだのだ。
舌の感触を伝う矮小な律動が雌竜の自尊心をさらに蝕んでゆく。
「おうっ…いいねえ。その調子だ」
機嫌を損なえば、何をされるか分かったものではない。
雌竜は押し込まれた肉茎に歯を立てぬよう喉元で愛撫した。
同時に、性器の根元にだらしなくぶら下がっている対になった球状の臓器にも舌を這わせる。
反応は上々だった。粗野な男は竜の口に容赦なく腰を打ち付けては体を震わせた。
「イカれてるよ、あんた」
この淫靡な光景から距離を置いていた真面目そうな男が呟いた。
断続的に喉を攻め立てられ、吐き気と悪寒を催しながらも、雌竜は彼の表情をちらりとうかがった。
背徳感か、または良心の呵責か。
ランタンに照らし出されたその表情に先ほどまでの威勢はなく、むしろ憤りを湛えているようにも見える。
「お前もしゃぶってもらえよ。こいつらは賢いから噛み付きゃしねえ。人間よりずっと上手いぜ…お、うっ…」
「…こんな男が数年前まで我が王国のドラゴン研究を総括していたとはな。全く、世も末だ」
「ま、お前の言うとおりだな。
 研究用の雌ドラゴンに手を出しちまってよ。おかげで爵位は剥奪。この有様だ。
 まあ、吊るし首にならなかっただけ、お前の親父さん、いや、伯爵サマには感謝しねえとな。
 病み付きになるぜ、ドラゴンは…ぐうっ…」
限界に達した男が竜の角をぐっと手繰り寄せ、口腔に深く自らを突き出す。
「ほうら、しっかり飲めよ」
途端、雌竜の口内に暖かな液体がどっと放たれた。
異種であっても、それが何であるかはすぐに分かった。
哺乳類特有の生臭さを何倍にも凝縮した気味の悪い液体が食道を侵食してゆく。
夫のものですら口に含んだことはない、雄の精液。
雌竜は悔しさに口角を震わせながらも、流し込まれたそれをただ必死に飲み干した。

「その辺で解放してやれ。目的は金。強姦じゃないだろ」
射精の余韻に浸る粗野な男の背中に冷淡な口調が突き刺さった。
その口調に内心穏やかではない様子で、粗野な男が乱暴に竜の口から性器を引き抜く。
そして、白けた様子の男の肩に手を掛けて、こう続けた。
「おうおう、ご立派な台詞だねえ。でも、こっちは違うみたいだぜ?」
粗野な男の手のひらが真面目そうな男の下腹部に触れた。
「何を!」
「抱きたいんだろ?あの雌のドラゴンを」
男の下半身は明らかに情欲を期待しての反応を示していた。
人間である自分が雌のドラゴンに興奮しているという受け入れがたい事実と、
それを認めざるをえない現実に、端整な顔立ちがたちまち紅潮してゆく。
「これは…」
「ハハハッ!体は正直だな!
 安心しろ。お前には一発目をやらせてやる。ほら、脱げよ」

──このままでは、あの人間まで加担してしまう。
お願い。あなたはそんなことしないで。
雌竜は一縷の望みを込めて悲痛な眼差しを伯爵の息子へと投げかけた。
あの男に良心が残っているのなら、夫を奪われ子どもの命を脅かされている若い雌竜を哀れんでくれるかもしれない。
皮肉にも、雌竜に残された最期の希望は憎き敵の片割れだった。

紅潮した男はしばしうつむいていたが、やがて雌竜の顔をちらりと見遣り、両腕を突き出した。
「竜が嫌がってる」
「ああ?お前、何言ってんだ。相手はただのバケモン。人間サマとは違うんだよ」
「そうだとしても、強姦の趣味はない」
伯爵の息子は粗野な男の肩を払いのけて洞窟の入り口に腰を下ろした。
羞恥心が思いとどまらせたのか。それとも、品位が許さなかったのか。
いずれにせよ、この陵辱に加わる様子がないことに雌竜は胸を撫で下ろした。
「けっ、格好つけやがって。まあいい、そこでおっ勃てながら見てろ」
強引に角をしゃくられ、つかの間の安堵はすぐに引き裂かれた。
そう、人数が減っただけ。陵辱が終わったわけではない。
「おうら、尻を上げろ」
剣の鞘が雌竜の後足を激しく叩いた。
それが立ち上がれとの催促であることは明白だった。
一刻も早くこの地獄を終わらせたい。
雌竜はされるがままに腰を上げようとした。その時である。
腹の下に違和感を感じ、雌竜ははっと瞳を見開いた。
この状況下でなければ気付くことすらなかったかもしれない、あまりにか細く、微かな振動。
だが、それは紛れもなく、自分に訴えかけていた。もうすぐ会えるよ、と。
──生まれる。
なんということだろうか。
今、この最悪の状況下で、もっとも待ち望んでいた瞬間が目前に迫っていた。
絶対に退けない。今、立ち上がってしまったら、孵化を許してしまったら、
この粗野な男はかまびすしい仔竜の命を躊躇なく奪うだろう。
いや、もっとむごいことをするに違いない。
雌竜は決してその場を動くまいと全ての力を後足に込めた。


「ずいぶんと強情だな。さて、それもいつまで続くかね」
剣の鞘は足先から太ももへと移動し、下腹部を目前にしてぴたりと動きを止めた。
先端に施された銀の装飾が雌竜の引き締まった割れ目に徐々に埋もれてゆく。
やがて生殖と排出の分岐点に達したそれは、迷うことなく後者の道筋へと侵入を始めた。
鈍痛が脊髄を伝い、全身をびくんと跳ね上がらせた。意図しない呻きが口から漏れる。
男はその様子を楽しむかのように深く剣の全体を押し込み始めた。
鈍痛が吐き気に変わった。
男が剣を突き入れるたび、かすれた狼の遠吠えのような喘ぎが喉から捻り出される。
腸が悲鳴を上げていた。これ以上突きこまれては、どうにかなってしまう。
それでも、腹を伝うぬくもりは腰を上げることを許さない。
「ケツの穴じゃダメか。じゃあ、こっちの穴だ」
異物が排出腔の入り口までずるりと引き抜かれ、再び角度を変えて突き込まれた。
夫しか知らない無垢な生殖腔を容赦なく異物が荒らしまわる。
男は明らかにドラゴンの生体構造を熟知していた。
ついに剣の鞘は輸卵管の近くにまで達し、雌竜はたまらず四肢で立ち上がった。
ランタンが放つ黄色い灯りに純白の卵が照らし出される。
まだ生まれないで。雌竜は我が仔にそう懇願するしかなかった。

「悪いドラゴンちゃんには調教が必要だな」
四肢を持ち上げた雌竜の体高は男の身長の倍はあった。
皮肉にも、その高低差は雌竜の恥部と男の腰の高さに合致していた。
「安心しろ。気持ちよくしてやるからよ」
生殖腔に深く挿し込まれた剣の柄にぎゅうっと力が込められ、ぐるりと時計回りに回転した。
肉の壁を内側からめくり上げられる奇妙な感覚が全身を突き抜ける。
それは一度では終わらなかった。二度、三度と、剣は繰り返し生殖腔をかき回した。
雌竜の腰はその度に浮き沈みを繰り返し、股下の卵に触れそうになった。
力を抜けば、卵を押しつぶしてしまう。
快楽による蹂躙。憎き敵は自分の体を知り尽くしている。
一方的に性感帯を刺激され、望まぬ快楽に身を震わせなければならない。
これがどれほど辛いことか。
無慈悲にも陵辱はさらに激しさを増した。
膣をいじり回すに飽き足らず、剣の先端がある一点を執拗に刺激し始めたのだ。
そこに剣の先端が触れる度、雌竜はびくんと腰を跳ね上がらせた。
もはや四肢は全くおぼつかず、卵を押しつぶす寸前で踏みとどまっているに過ぎない。
溢れんばかりに秘所から滴り落ちた愛液が巣材の黄金を艶かしく輝かせている。
「たまんねえな。やっぱり若い雌は反応が違う。
 …今度はこっちで相手してやるよ。ドラゴンのオスよりいいぜ」
そう言って、男は剣を引き抜くと、自らの腕を雌竜の割れ目に突き入れた。
先ほどまでとは違う有機的な刺激が生殖腔内を支配してゆく。
男の指先は雌竜の性感帯へと達し、五本の指が柔らかな肉の床を撫で回した。
口角からだらしなく舌が垂れ、唾液がとめどなく糸を引いて床にこぼれる。
既に雌竜の気力は限界に達していた。
次の瞬間、ふっと頭の中から全てが吹飛び、真っ白になった。
後足ががくがくと震えながら崩れ落ち、支えを失った腰が卵の真上に迫った。

みしり、と、つややかな純白のカーブに亀裂が走った。
圧倒的な質量の前になすすべもなく楕円が歪む。
弾けとんだ意識の断片を必死でかき集めようとする雌竜の脳裏を一頭の竜の姿が過ぎった。
他の雌に比べて体が小さく、健康な卵を産める見込みのなかった自分を受け入れてくれた、優しい夫。
愛し合い、求め合い、苦労の末にようやく卵を授かったことを彼は心から喜んでくれた。
その大切な卵を人間に陵辱された挙句に自重で潰してしまったとあっては、彼をどれほど悲しませることだろうか。

「フウーッ・・・」
低い唸り声と共に、竜のものとしては幾分か華奢な後足が地面をしっかりと掴んだ。
青葉のような深い緑色の表皮が時折痙攣を繰り返していたが、意識はしっかりと戻っていた。
卵は無事だ。若干の亀裂が走ってしまったが、我が仔はまだ殻を破れないでいる。
雌竜は長い首を後ろに向けて秘所をいじくり回す男を睨みつけた。
「そう怒るなよ。気持ちよかっただろ?…さて、本番だ」
男はけらけらと笑いながら腕を引き抜き、天をつく自らのそれを雌竜の割れ目にあてがった。
いずれこの瞬間が訪れることは覚悟していた。
それでも、矮小な──夫を手に掛けた人間の性器を受け入れなければならないという現実に目を覆いたくなった。
入らなければ、諦めるかもしれない。
雌竜は精一杯力を込めて押し入ってくる男に抵抗した。
だが、先ほどまでの行為によって充分に湿り気を得ていた秘所は無情にも押し付けられた男根を吸い込んでゆく。
「この締まり具合、やっぱ若いのは半端ねえな」
押し込められたそれは生殖腔の入り口付近で止まった。
いや、人間の大きさではこれ以上到達できないのだ。
男はそんなこと全くお構いなしに腰を打ち付けている。その滑稽な姿に、もはや哀れみすら覚えた。
だが、そんな雌竜の目線に気付いたのか、男は尻尾を持ち上げてこう言い放った。
「人間のアレじゃあ満足できねえか?安心しろ、お前も楽しませてやるからよ」
途端、男の性器が角度を変えて打ち込まれた。
雌竜は総排出腔の内部で生殖と排泄を隔てる肉の襞に強い圧迫感を覚えた。
どちらの穴にも侵入せず、境界にみちみちと突き刺さる肉茎。
痛みとも快楽とも表現しえない、しかし強烈な感覚が下腹部を駆け巡った。
敏感な部分を圧迫される感覚に呼吸が乱れ、足がぴんと伸びきる。
男がいっそう深く腰を突き入れると、男根を押し留められなくなった分岐点は排泄の穴へとそれを滑り込ませた。
例え入り口までとはいえ、こんな反動をつけて挿入されてはたまったものではない。
「ギャウ!」
甲高い喘ぎと共に舌先から涎が滴った。
男が腰を打ち込む度、生殖と排泄、そしてその境界までもを犯され、雌竜は声にならない悲痛な叫びを上げた。
はがゆかった。この状況を打開できない自分の非力さが。
そして、少なからず快感を覚えてしまっている自分の肉体が。
朦朧とする意識の中、ふと顔を上げた雌竜の眼前に伯爵の息子の姿が飛びこむ。
彼はこの凄惨な行為から目を背けながらも、雌竜が見せる苦悶の表情を時折伺っていた。
──私を見ないで。
夫が残した卵の上で人間の男にいいように犯されている。
そんな姿を誰かに見られていると思うだけで身が引き裂かれそうになった。
「ほうら、しっかり立てよ!卵が潰れちまうぞ」
先ほどより量を増した愛液がびちゃびちゃとこぼれては股下の卵を濡らした。
男が果てればこの辱めも終わる。そう信じることだけが雌竜の精神を支えていた。
雌竜は前かがみになって顎を地につけ、翼と前足を伏した。
既に姿勢を変えなければ体を支えられないほどに責め立てられていたのだ。
痙攣を起こした総排泄腔全体が激しい伸縮を繰り返し、男の肉茎を締め上げる。
限界を感じた男は雌竜の生殖の入り口に自らを深く挿し入れた。
「うっ…出すぜ」
男の性器が激しく躍動を繰り返し、夫だけに許した雌竜の領域へと人間の精液が勢いよく流し込まれた。
既に十分な体液で満たされていたそこは全てを受け入れられず、やがて互いの精液は交じり合って逆流を始めた。
前屈姿勢の腹を伝い、ついには顎先にまで到達し、だらしなく地に垂れた雌竜の舌を汚した。
人間に支配される屈辱感と、体を支配する快楽の狭間で、雌竜は悔しさに牙を食いしばった。

しかし、これで全てが終わったのだ。
失いかけた意識の中で、雌竜はただ安堵していた。

「…ろ!」
「落ち着け。…を返すんだ」
人間の声がむき出しの岩肌に叩きつけられては残響と消えた。
まぶたが雨の日の翼のように重い。
極度の疲労と望まぬ快楽の地獄から開放され、奇妙な浮遊感に包まれながら、雌竜は夢と現を往来していた。
やがて意識が定まると、雌竜は慌てて後ろを振り向いた。
卵はひび割れながらも以前としてつややかな球形を保っていた。
傍らに置かれたランタンの蝋にはまだ相当な長さがある。
恐らく、ごく僅かな時間をまどろんでいたのだろう。
「離せ!」
「剣を返せばな」
向き直った雌竜は思いがけない光景に我が目を疑った。
伯爵の息子の手には真紅の鞘に収められた剣が握られており、
粗野な男がそれを奪おうと彼の腕を掴んでは揺すっていたのだ。
ドラゴンスレイヤーを巡って争っている。状況を解するまでにさほど時間はかからなかった。
しかし、一体どうして?
あれはつい先ほどまで粗野な男の手中にあったはず。
奪ったのだとすれば、自分が意識を失っていた間の出来事だ。
終始傍観に徹していた彼がいったい何故そんな行動を起こしたのか。
状況が呑み込めず、雌竜は喧騒から離れるようにして卵に身を寄せた。

「黄金を奪い、卵を奪い、あまつさえ命まで奪うというのか」
「そうだ。それが目的だろう」
「でも、あんたは竜に卵と巣材は残してやると!」
伯爵の息子は竜のような切れ長の目をつり上げ、剣の柄に手を掛けた。
それを見た粗野な男はたまらず彼を解放し、呆れた様子で両手を広げた。
「全部嘘だ。やかましい誰かさんを黙らせるためのな。
 こいつらの巣材に余分なんてねえ。殺すしかないのさ。お宝が欲しけれりゃあな。
 それに、竜の卵は黄金以上の価値がある。みすみす逃す手はねえ。
 思い出してみろ。この洞窟に辿りつくまでの道のりで、俺たちは何を口にした?
 カビたパンと羽虫の集ったバター、歯も通らない堅い干し肉だ。
 怪物の命など気にかける余裕がどこにあるかね」
伯爵の息子は剣の柄から手を下ろし、顔を背けた。
「そうかもしれないが、強姦の末に殺すだなんて…」
粗野な男は彼の言葉に悪びれる素振りすら見せず、
ものぐさそうに首を掻きながら空いた手で剣を拾い上げた。
「女日照りに嘆く哀れな盗賊にどこぞの酔狂な神サマがうら若い雌竜をお与え下さったんだよ。
 まあ、どうしてもそいつを渡さないつもりなら、別にいい。
 これだけ弱ったドラゴンなら、お前のお飾りの剣でも殺せるさ」

翼竜の紋章が刻まれた美しい鞘から抜き身の刃が現れ、雌竜の目にぎらりと灯りを反射させた。
あの男に再び視線を向けられた恐怖心から背筋が凍りつく。
もう間もなく卵は孵る。黄金が欲しければ好きなだけ持っていくといい。
雌竜は卵を前脚で抱え込み、あとずさった。
しかし、男の歩みは黄金を踏みしだいてなお止まる気配がない。
「殺す前に気持ちよくしてやったんだ。むしろ、感謝してくれてもいいんだぜ。
 …あの世でな」

両手で振り上げられた剣が天窓から覗く満月を真っ二つに切り裂いた。
もう逃げられない。
だが、あの男も竜殺しの剣を奪われている。
雌竜は覚悟を決めた。
なれば誇り高き竜族の末裔として戦うことを。
よしんば卵を守れず討ち死んだとしても、夫に顔向けはできる。
雌竜は大きく息を吸い込み、四本の角を逆立てて咆哮を上げた。
強烈な轟音と、仔を守らんとする竜の形相に男がたじろぎ姿勢を崩す。
振り下ろされる剣より速く懐に潜りこみ、あの男の肉を引き裂かなければ勝機はない。
雌竜はこの好機を逃すまいと首を伸ばして牙を剥いた。
──遅い。
辱めに耐え続けた体はとうに体力の限界を超えていた。
竜の首は男の手前で完全に勢いを失った。
振り下ろされた切っ先が眼前に迫る。
雌竜は訪れるであろう衝撃と苦痛に備えて両目をきつく閉じた。

「…あ?」

鼻先を伝う生暖かい感覚。血だ。
男の剣が自らの鼻先を捉えたのだろうと竜は思った。
しかし不思議なことに、痛みは一向に襲ってこない。
やがて雌竜はゆっくりとまぶたを開き、驚愕した。
男の胴体を一筋の赤い"何か"が貫いていたのだ。
いや、あやふやなものではない。
それは紛れもなく剣だった。

天窓から飛びこむ、風にざわめく木の葉の音。
他の一切が息を潜めていた。男は悲鳴一つ上げようとしない。
「あの世で感謝するのは、俺のほうか」
男は胸を貫く剣の切っ先に手を触れてそう呟いた。
殺意に満ちた剣幕も、得体の知れない笑みも、もうどこかへ消えていた。
「そうか、お前も…
 でもな、竜に想いを寄せれば、破滅するぜ。俺のように。
 所詮は異種族、報われんよ」
男の膝が血溜りに崩れ落ちた。
男は、震える手を自らの胸元に差し入れると、
小さな牙をあしらった首飾りを取り出して、それを握り締めたまま動かなくなった。
「すまねえな、アーシア。お前が死んでから、俺は…おかしくなっちまったらしい。
 でも、これで…」
そこまで続けて、男は事切れた。
表情は安らかだった。

剣を握り締めたまま唖然と立ち尽くしている伯爵の息子に、雌竜は首を摺り寄せた。
「やめてくれ。俺は君に優しくされるには値しない男だ」
彼は夫を殺した。それは許せない。けれど…
その時だった。
雌竜の腹の下で純白の卵に亀裂が走り、中から小さな頭が顔を覗かせた。
その瞳は卵の前で立ちつくす男の姿を捉えていた。
竜は生まれて初めて目にしたものを親と慕う。
つまり、今この時をもって、彼は我が子の父親であり、夫だった。
今は信じるしかない。過去を怨むのはやめて、今の彼を愛そう。
雌竜は前脚で男を抱き、頬を優しく舐めた。
「…ありがとう」
人間の手のひらほどの大きさの仔竜は、
よちよちとおぼつかない足取りで母親の懐から這い出すと、男の足に身を寄せて丸くなった。

『これは、一体どういうことだ?』
望んだ形ではないにせよ、ようやく訪れた幸福なひととき。
それを引き裂いたのは洞窟の入り口から飛びこんだ、低い唸り声──それも、竜の声だった。
怒気に満ちた足音はぐんぐんと近づき、互いに身を寄せる雌竜と男の前で止まった。
『まさか…!どうして!』
赤茶色の表皮に鋭い二本角、引き締まった体は凛々しい四肢を備え、翼は洞窟全体を覆うほどに巨大。
失ったはずの夫が、眼前に立っていた。
『あそこに、あなたの頭が…』
雌竜は前足で洞窟の入り口に転がっている竜の頭を指した。
『ふん…似てはいるが、私ではない。
 見え透いた言い訳を。そのニンゲンがそんなに大切か?』
暗がりに横たわる竜の頭は夫とよく似ていたが、よくよく見れば、確かに別の竜だった。
しかし、あの状況で正確な判断などできるはずがない。
『違うの、これは』
『黙れ!』
雄竜の鋭い眼光が妻の胸元で震える人間を捉えた。
巣材の周囲には未だ乾ききっていない性行為の名残が飛散している。
『我が妻を寝取るとは、度胸だけは褒めてやろう。
 …塵も残さず消し去ってくれる!』
雄竜の屈強な前脚がとてつもない速度で振り下ろされた。
人間の後ろでうずくまり寝息を立てている仔竜の存在に、彼は気付いていない。
『だめ!』
雌竜は一瞬のうちに前脚で男を左に跳ね除け、長い首で仔竜を庇った。
鋭い鉤爪は速度を落としたが、完全に停止するには至らず、首をかっさいて地面に突き刺さった。
雌竜はだらりと首をうなだれ、その場に倒れこんだ。
雄竜が仔竜の存在に気がついたのはその時だった。
仔竜は既に凶爪に倒れ、妻もまた、静かに息を引き取った。
人間の姿はもうどこかへ消えていた。


──怒れる竜は夜な夜な巣を這い出し、百の町を焼き尽くし、千の人を食らったという。
やがて竜は翼竜の紋章を掲げた男と対峙し、巣まで追い詰められた末に相討ちとなり、
これはドラゴンスレイヤー伝承の一つとなった。
身分の知れない男の武勇伝は後世に語り継がれることもなく、
ただ王家ではない者たちによってワイバーンの紋章が広く用いられるようになったきっかけとして残るのみである。
竜の巣から運び出された大量の黄金もまた、竜を強欲、或いは貪欲の象徴として形作るに至っている。

だが、誰が想像するだろうか。
竜も人も、互いを想うが故に傷つけあったということを、
その背後に、一頭の雌竜の深い愛情があったということを。


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