渇望の日々

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深い木々の生い茂る密林の洞窟であのリオレイアと不思議な一夜を過ごしてから数ヶ月・・・
僕は毎日のように護身用の弓を携えながら、彼女のもとへと足を運び続けていた。
もちろんこれは、巨大な雌火竜に対する警戒のためではない。
季節は暑さの厳しかった温暖期から早くも夜の冷え込む寒冷期へと移り変わり、食料の乏しさから空腹で凶暴化した獣達が森のそこかしこで跋扈しているからだ。
尤もそれは当の彼女も同じであるらしく、僕も最近はポーチの中に詰め込めるだけの生肉を押し込んでいる。
そして冷たい風の吹き込む巨洞の中で蹲った彼女と出会う度、僕はその骨付き肉を彼女の口元にそっと運ぶのだ。

プシュン!・・・ズバッ!
身の丈程もある大弓から勢いよく放たれた幾本もの矢の雨が、僕の周囲に五月蠅く付き纏っていた毒針を持つ大きな羽虫を正確に捉えていた。
その激しい射撃の衝撃で、憐れな的となった獲物が緑色の体液を撒き散らしながら粉々に四散する。
「ふぅ・・・結構時間がかかったけど、僕も大分こいつの扱いに慣れてきたな」
かつては弓の扱いが下手なせいで虫1匹すら撃ち落とすことができず、随分と酷い目にあったものだった。
だが今思えば、それが僕と彼女・・・あのリオレイアとの奇妙な親交を深めるきっかけになったのだから、嬉しいはずの弓の上達にも何だか切ない喪失感が伴ってしまう。
もし彼女と初めて遭ったあの時に僕が今程の威力の矢を放っていたとしたら、今頃はペシャンコに踏み潰された挙句ランポスどもに食い荒らされた無残な骸がこの森の中に転がっていたかも知れないのだ。

船着き場から薄暗い樹木の回廊を抜けて歩くこと数十分、やがて海岸を一望する高い断崖の上に辿り着くと、僕はいよいよ彼女の塒となっている洞窟の入口を前にして静かに立ち止まっていた。
そして気持ちを落ち着けるように1つ大きく息を吸って、闇に包まれた暗い穴の中へと身を滑り込ませていく。
細く曲がりくねった洞内を少し歩くと、ぽっかりと空いた岩の隙間から明るい陽光が差し込む広場が見えてきた。
この広場が、彼女の塒だ。
やがて周囲を軽く見回すと、洞窟の中を吹き抜ける風と清らかな水飛沫を上げる滝の音に包まれて転寝をしていた巨大な火竜の姿が目に飛び込んでくる。

「グル・・・ルル・・・?」
突如として洞内に感じた人間の気配に、私は閉じていた目を開けて辺りの様子を窺っていた。
そしておもむろに背後に首を振り向けると、にっこりと笑みを浮かべたあのハンターの姿が目に入る。
「やあ、レイア・・・元気だったかい?」
親しげに投げ掛けられたその言葉の意味は理解できないが、朗らかな表情を見れば彼の機嫌が良さそうなことだけは容易に想像がついた。
「クルル・・・」
そして軽く喉を鳴らして返事をしてやると、彼がいつものように腰に身に着けた袋の中から生肉を取り出す。

嬉しい差し入れだ。
年中通して比較的気候の安定していたかつての森とは違い、この密林は棲んでいる生物達の生態が季節によってガラリと変わってしまうのだ。
そのお陰で最近は満足に獲物を獲ることも難しく、私はいつも空腹に悩まされ続けていた。
恐らく彼の差し入れがなかったら、今頃私は豊かな食料を求めてまたあの緑の丘に囲まれた広大な森に取って返していたかも知れない。
「ほら、腹を空かせてたんだろ?好きなだけ食べなよ」
そっと差し出された美味そうな生肉を受け取りながら、私は精一杯の感謝の表情を浮かべようと努力してみた。
残念ながらその試みは失敗に終わったものの、流石は感情豊かな人間というべきか、どうやら彼は不自然に細められた私の双眸が一体何を意味しているのかを理解してくれたらしい。

「いいさ・・・お前だって、何度か外で僕を助けてくれただろう?」
僕はそう言いながら、どういう表情を浮かべていいかわからず困っている彼女の下顎に生肉をそっと押し当てた。
慌ててそれを咥えながら、彼女が僕の言葉の意味を探ろうと少しだけ首を傾げる。
以前に彼女は、ランポスの大群に囲まれて窮地に陥っていた僕を助けてくれたことがあった。
ギャーギャーとけたたましく鳴き喚く肉食竜達がいざ僕に襲い掛かろうと身を屈めた次の瞬間、一瞬にして周囲を覆い尽したくすんだ緑色の影に僕が一体どれ程安堵したことか。
だが彼女もそれ以上は考えても仕方がないことを悟ったのか、あっという間に肉の塊を呑み込むと早く次をくれとばかりに小さく舌を舐めずっていた。

「クルルル・・・」
僕の体と同じくらいの巨大な雌火竜の顔が、ユラユラと緩やかに揺れる。
それと同時に猫なで声にも似た飛竜らしからぬ唸りが辺りの空気を震わせ、僕の耳をサワサワと優しく擽った。
決して意識して感情を表に出しているわけではないのだろうが、きっと彼女はこの短い一時を僕以上に楽しんでいるのだろう。
そして次の生肉も遠慮がちに開けられたその口の中に放り込んでやると、僕はその場にそっと腰を下ろしていた。
そんな僕の背中に、すらりと伸びた太い尻尾がまるで背凭れのようにゆったりと当てられる。
ぷっくりと膨らんだその尾の先には猛毒を孕んだ幾本もの毒棘が生えているものの、彼女は目の前の小さな人間にそれを触れぬように慎重に尾を滑らせていた。
万が一この棘が持つ猛毒に冒されたら、酷い倦怠感と息苦しさに襲われて身動きできなくなってしまうらしい。
かつて彼女を狩り出そうとして無謀な戦いを挑んできた数多のハンター達も、きっと悉くこの凶悪な武器の餌食されていったのに違いない。

「ああ・・・助かるよ」
だが僕はまるで殺気のない彼女の目を覗き込みながらそう囁くと、ポーチに入っていた肉を全部取り出していた。
そしてそれを地面の上に並べながら、嬉しげに肉に食いつく彼女の大きな鼻先をそっと撫でてやる。
これ程までに飛竜と心を通わせられた人間が、果たして他にもいるのだろうか?
人間と飛竜が出遭ったなら、大抵はどちらかが命を落とすまで激しい戦いが繰り広げられるものだ。
なのに今の彼女ときたら、まるで飼い猫のように無防備な姿でこの僕に甘えている。
いやもしかしたら、飼われているのは案外この僕の方なのかも知れない。
今は寒さの堪えるこの密林にも、もう少しの辛抱でほんのりとした暖かさとともに繁殖期がやってくるはずだ。
そうなれば餌となる草食竜達の活動も活発になるし、彼女自身もきっと卵を産んで仔竜を育て始めることだろう。
小さな人間と巨大な飛竜・・・たとえその主従がどうであったとしても、この厳しい季節を互いに身を寄せ合って乗り切ることに僕は何の疑問も抱かなかった。

その数日後、僕は久し振りに訪れた快晴の空の下、彼女に会うために森の中を歩き続けていた。
気温は以前に比べて大分暖かくなり、まだ数は少ないとはいえそこかしこの草原で草食竜達が草を食む姿や海岸で砂を漁る大きな蟹達の姿が目に付き始めている。
いよいよ、本格的な繁殖期がやってくるのだ。
だがそんな季節の変わり目を目の当たりにしながら彼女の塒である洞窟へと辿り着いたまではよかったものの、いくら辺りを見渡してもあの心優しい巨竜の姿が見当たらない。
何処かへ出掛けているのだろうか・・・?
そう思いながらいつも彼女が寝そべっている辺りの地面に腰を下ろしたその時、不意に何処からともなくバサッバサッという大きな翼を羽ばたく音が聞こえてきた。
思わず反射的に空に向かって縦穴の伸びた天井を見上げると、両脚の鉤爪で小柄な草食竜を捕らえたリオレイアがゆっくりとこちらに向かって舞い降りてくるのが見える。

「レイア!」
飛竜の女王らしく優雅な姿勢で地面に着地した彼女は眼下で洞窟の主の帰りを待っていた僕の存在に気が付くと、既に息絶えた獲物をドサリと地面に置いて僕の眼前にゆっくりと首を伸ばしてきた。
そしていつものように僕のポーチの端から大量の生肉が覗いているのを目にして、彼女がほんの少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべる。
もう僕の差し入れはなくても大丈夫だと言いたいのだろう。
「グル・・・グオッ・・・ルルル・・・」
だがまるで言い訳を並べているようにも聞こえる途切れ途切れの唸り声が辺りに聞こえ始めると、僕はそれを黙らせるようにそっと彼女の顔を抱き抱えていた。
ほんのりと暖かい鱗から火竜の温もりが伝わってくるようで、思わず体の力を抜いて彼女に身を任せてしまう。

「新鮮な内に食べなくていいのかい?折角獲ってきたんだろ?」
やがてそんな一方的な抱擁に満足すると、そう言いながら彼女の顔をそっと背後にある食料の方へと向けさせる。
だが彼女はその草食竜の亡骸を尻尾の先でゴロンと奥に転がすと、おもむろに僕のポーチに舌を伸ばしてきた。
今しがた仕留めて来たばかりの獲物を打ち捨ててまで、彼女はこの僕から食料を貰いたいとでも言うのだろうか?
そうこうしている内にもグイグイとポーチを力尽くでこじ開けようとするその彼女の勢いに押され、僕は仕方なく生肉の詰まったポーチを一杯に開けて彼女の前に広げてやっていた。

ガツガツ・・・ムグ・・・ガブ・・・
一心不乱に地面に置かれた生肉を平らげていくその様子に、僕は何だか彼女が気の毒になってしまっていた。
もしかしたら彼女は僕の来なかったこの数日間、ほとんど何も口にしていなかったのかも知れない。
いつもなら草食竜の群れの中でも1番の大物を仕留めてくるはずの彼女があんな仔竜を狙ったことを考えれば、もう満足に狩りをする体力すら残っていなかったのに違いない。
ならばいつでも食べられる獲物より先に僕の食料に手を付け始めたのは、冷静に考えれば当然のことだった。
やがて僕の差し入れを残さず食べ上げると、多少は落ち着いたのか彼女が僕を懐に抱き込むようにして蹲る。
「落ち着いたかい?」
静かにそう声を掛けてやると、いつものように穏やかな雌火竜の視線が僕の顔を捉えていた。

「グルゥ・・・」
激しい空腹がようやく和らぎ、私は相変わらず無警戒に巨竜へと身を預ける人間の顔をペロリと舐めてやった。
初めて彼と出会ったあの日の夜、不覚にも私の心中に燃え上がった熱い欲情の奔流。
その自分では到底御し切れぬある種の滾りが、繁殖期が間近に迫った今になって再び頭を擡げ始めている。
雄の火竜がいないこの密林で私が見つけた、唯一心を許すことのできる存在・・・それが、彼なのだ。
いつもなら日の暮れる頃にはここを立ち去ってしまう彼だが、今日は何とか引き止めなくてはならないだろう。
かつては人間などただの縄張りを侵す邪魔者でしかないと蔑んでいたのがまるで嘘のように、私はまたこの小さな人間に1匹の雌として我が身を許そうとしていたのだ。

やがて天高く昇っていた太陽が徐々に西へと傾いていくにつれ、清々しく晴れ渡っていた空が重々しい雨雲に覆われていった。
何時の季節も、この密林の夜は激しい雨が絶えない。
そう言えば彼との劇的な邂逅を果たしたあの数ヶ月前の日の夜も、洞窟内の地面を濡らす冷たい雨が降り頻っていたものだった。
静かな幸福の一時に浸っていた彼もようやく空を黒く塗り潰し始めた雨の気配に気が付いたのか、慌てて地面の上から立ち上がろうと腰を上げる。
だが私は素早く彼の肩口に重い顎を乗せると、力尽くで彼の体を立ち上がれぬようにギュッと押さえ込んだ。
「わっ・・・な、何をするんだ・・・レイア・・・?」
突然の私の行動に驚いた彼が珍しく上ずった声を上げたものの、今夜は彼を人間の街へ帰すわけにはいかぬ。
そして相変わらず抵抗の様子を見せようとしない彼の体を優しく地面の上に横たえると、私は彼がこの胸の内を読み取ってくれることを期待しながらじっとその童顔を見つめ続けた。

「レ、レイア・・・僕・・・もう帰らなきゃ・・・」
仰向けに地面へ寝かされたまま岩壁の切れ間から刻々と夕闇に染まっていく空を一瞥すると、僕は彼女に言葉が通じないことを承知の上で恐る恐るそう呟いてみた。
だが昼間とは打って変わって無表情を保ったままの彼女の瞳は、依然として僕を逃すまいと強い眼差しを注ぎ込んでくる。
これはもしかして・・・僕を誘っているのだろうか・・・?
彼女はこれまでにも、何かを伝えようとしてじっと押し黙ったまま僕の顔を覗き込んでくることが幾度かあった。
視線を交わすことこそが、言葉の通じない者達が意思を疎通する唯一の方法であることを知っているのだろう。
試しに僕も彼女の眼を見つめ返したままゆっくりと頷いてみると、途端にその顔に安堵の表情が浮かんだ。

僕の上から顔を退けた彼女がしとしとと濡れ始めた地面の上にゴロンと仰向けに転がり、股間から生え伸びた太い尻尾がまるで雄を誘っているかのようにユラユラと揺らされる。
その尻尾の付け根の部分には、既にとっぷりと溢れ出した桃色の愛液に潤う淫らな秘裂が顔を覗かせていた。
地面の上に大きく広げられた深緑の翼膜が、彼女と僕の閨のように妖しくはためいている。
そんな彼女の持つ不思議な魅力に引き寄せられるままに、僕は下半身に身に着けていた装備を外しながら尻尾の上に攀じ登っていった。

硬い外殻に覆われている体の外側とは打って変わって、彼女の腹は柔らかな皮膜に覆われていた。
こんな弱点とも言える腹を何の躊躇いもなく僕の前に曝け出すくらいなのだから、彼女はそれ程に僕のことを信頼してくれているのだろう。
そして小さく首を持ち上げた彼女と意思の確認をするようにしばしの間見つめ合うと、両手の指先でゆっくりと熱く燃え上がる花弁を押し広げていく。
「グル・・・グゥォ・・・」
肉襞を抉られる快感か、あるいは人間に秘所を明かす羞恥心故なのか、切なげな唸り声と共に微かに身を捩る雌火竜の姿がとても愛しい。
やがてフワリと煮え立つ雌の匂いが鼻をつくと、僕は高鳴る鼓動を抑えながら何時の間にかそそり立っていた自らのモノをそっとその膣へと近付けていった。

チュプ・・・ズ・・・ズチュ・・・
「く・・・くぅぅ・・・」
やがて肉棒の先がほんの少しだけ彼女の中へと呑み込まれたその瞬間、思わず堪え切れなかった喘ぎが喉から漏れてしまう。
熱い花びらがグチュッ、グチュッという淫らな音を発する度に、雌火竜の番いを求める獰猛な蠕動がその最奥へと肉棒を引き込んでいく。
そして彼女の腹の上に身を横たえた僕の雄をあっという間に根元まで呑み込むと、ぬめった愛液を滴らせながら彼女の膣が情熱的な愛撫を始めていた。

「レイアッ・・・す、凄いよ・・・」
なんという気持ち良さなのだろうか。
その周期の長い呼吸とは裏腹に、ドクドクと早鐘のように打っている彼女の鼓動が結合を通して伝わってくる。
彼女もまた久方振りの人間との交尾に、緊張を隠し切れないでいるのだろう。
以前は彼女の方も人間の僕に対して欲情を抑え切れなかったことに何処か後ろめたさを感じていたのだろうが、今の彼女はどうやら僕を繁殖期の番いとして、1個の雄として見てくれているらしかった。
「グル・・・ガウォッ・・・」
やがてじっと動きを止めたまま快感に身を委ねていると、彼女がそっと尻尾を持ち上げて僕の腰を浮かせる。
そしてゆっくりとその長い尾を波打たせながら、凍り付いていた僕の体に抽送の刺激を送り込み始めていた。

ジュプッ・・・ギュッ・・・ジュルルッ・・・
「ああっ・・・!」
闇に包まれ始めた洞窟の中に、人間の上げた甲高い嬌声が響き渡る。
腹の上に突っ伏して無上の心地良さに身を震わせていた彼を視界の端に捉えながら、私は根元まで受け入れたその怒張を自らの膣で優しく弄んでいた。
彼と出会ってから長らく封印していたはずの飛竜の女王としての嗜虐心が、成す術もなく手の内で身悶える無力な雄の姿に再び目覚めていく。
やがてその燃え上がる肉棒が限界を間近に迎えて戦慄き始めると、私は勢いよく彼の全てを搾り上げてやった。

ギュッギュグッビュルルルッ
「う、うあ~~~!!」
射精の予感に張り詰めたペニスがたっぷりと愛液に浸った肉襞に押し包まれたかと思った次の瞬間、突然それまでの手加減がまるで嘘のように捕らわれた雄が強烈な責苦を味わわされてしまう。
そのあまりの刺激に射精を堪えることができず、僕はなおも熱い熱を放つ彼女の中に大量の精を吐き出していた。
ズリュッ、ズリュッ、ズリュリュッ
更には微かに生き残った精の残滓までもを扱き取るかのように、未だ萎えずに堪えていた肉棒が彼女の中できつく締め上げられていく。
「うぐぐ・・・レ、レイア・・・も、もう許して・・・」
あまりにも激し過ぎる快楽に一瞬にして全身を焼き尽くされ、僕は何とか手の届く柔らかな彼女の腹を必死に擦りながら女王の許しを乞うていた。

ドプッ・・・ドク・・・
私の責めに屈して彼の雄から吐き出された白濁の滴が、かつてない高揚感と共に体内に流れ込んでくる。
これまで子孫を残すために幾度となく雄の火竜と交わってきたというのに、このちっぽけな人間の命の種はそんな過去の記憶にある興奮とはまた違った刺激を私にもらたしていた。
深い竜膣の奥底でねっとりと溶け合った人と竜の命の結晶が、噴煙湧き起こる火山のマグマにも似た熱い奔流となって私の中を駆け巡っていく。
だがしばらくしてそんな恍惚感に押し隠されていた自我がようやく手元に戻ってくると、私の耳に力無く助けを求める彼の声が途切れ途切れに届いてきた。
「レ、レイアァ・・・」
何事かと思って仰け反っていた首を持ち上げてみると、すっかり力尽きて全身を弛緩させてしまった彼が広大な腹の上で微かに身を捩りながら懸命に私に気付いてもらおうと手足を暴れさせている。
その辛そうな様子に、私は思わず彼を解放してやった。

「はぁ・・・はぁ・・・」
ようやく雌の巨竜による一方的な営みが終わりを迎え、僕は相変わらず仰向けに寝そべった彼女の上に突っ伏したまま荒い息をついていた。
あまりにも早すぎる降参に彼女の方は全く満足していないだろうが、やはり人間の僕に彼女の相手は荷が重い。
「クルゥ・・・」
それでも僕のことを気遣ってか彼女の口から優しげな声が聞こえ、僕は一先ず安堵に胸を撫で下ろしていた。
そしてその太い尻尾の上から転げ落ちるようにして地面の上に降り立つと、静かに身を起こした雌火竜と行為の余韻を楽しむかのように視線を絡ませる。
辺りには激しく降り頻る雨の音だけがザーザーと鳴り響き、僕はそのまま地面に蹲った彼女の翼に護られるようにして一夜を過ごした。

翌日の昼過ぎ頃、密林からドンドルマの街に戻ると大勢のハンターで賑わう酒場が妙な盛り上がりを見せていた。
もうすぐ待望の繁殖期が訪れるとあって、狩りの準備に余念のない男達の姿がよく目につく。
繁殖期は飛竜や草食竜達が子供を産み育てる季節だ。
それ故に飛竜達も寒冷期の食料難とはまた違った理由で凶暴にはなっているものの、ハンターズギルドからの貴重な報酬を目当てに大きな竜の卵を盗み出そうとする者達は後を絶たない。
そんな活気溢れる酒場からそっと抜け出してくると、僕は質素な部屋を借りて少し体を休めることにした。
あの密林で彼女と初めて出遭ったのは、確か蒸し暑い温暖期の初めだったように思う。
それまではあそこでリオレイアを見かけたことなんて1度もなかったから、きっと彼女も何処かから密林に移り住んできて間もない頃だったのだろう。
もしそうだとすれば、彼女が密林で繁殖期を迎えるのは恐らく今回が初めてなのに違いない。

本来であればこの時期は雌雄の火竜が塒を共にして子作りに勤しむはずなのだが、番いとなる雄のいないあの密林で繁殖期を迎えることに彼女も不安を隠し切れないでいるらしかった。
いくらお互いに心を通わせているからとはいえ巨大な火竜が人間の僕を交尾の相手に選んだという事実が、何よりも如実にその複雑な心境の程を物語っている。
だがどれ程その心中に深い悩みの種を抱えていたとしても、今の彼女は密林を統べる飛竜の女王なのだ。
もう間もなくして本格的な繁殖期に突入したとなれば、血気に逸ったハンター達がそんな彼女をも容赦なく狩りの標的にしてしまうであろうことは火を見るよりも明らかだった。

その1週間後、いつも季節の変わり目に見られる連日の悪天候がようやく収まっていた。
いよいよ世界各地で豊かな緑の萌える、新しい芽吹きの季節がやってきたのだ。
それと同時に街の酒場では飛竜の卵を追い求めて採集の依頼に殺到するハンターが目立ち始め、雌火竜の卵を狙って意気揚々と出掛けていく者達の姿も何人か見受けられる。
今頃、彼女はどうしているのだろうか・・・?
ここしばらく様子を見に行くことができなかっただけに、早く彼女に逢いたくて堪らない。
やがていつものように適当な理由を付けて出発の準備を整えると、僕は以前と比べて随分と暖かくなった風に吹かれながら密林へと向かう船に身を預けていた。

密林の傍に広がっている真っ白な砂浜に船が到着したのは、丁度昼を少し回った頃だった。
そして逸る気持ちを抑えながら、彼女の待っているであろう洞窟に向かってもう幾度通ったかもわからない森の回廊を突き進んでいく。
やがて遥かな断崖の上にぽっかりと口を開けた暗い塒への入口が見えてくると、僕はそっと中を窺うようにしながらその通い慣れた暗がりの中へと入っていった。
「レイア・・・いるかい・・・?」
だがまだ暗さに目も慣らさぬまま狭い通路から広大な飛竜の塒へと身を乗り出したその瞬間、間近で迸った大気を震わせるような激しい咆哮が僕の耳を劈く。

「グオアアアアアアアーーッ!」
「うわぁっ!」
突如として激しい衝撃にも似た轟音に脳を直撃され、僕は思わず両手で耳を塞ぎながらその場に身を伏せていた。
更には何が起こったのかもわからぬままドンという鈍い音とともに無防備だった体を派手に跳ね飛ばされ、地面の上へとうつ伏せに転がった僕の背中に間髪入れず凄まじい重量が圧し掛かってくる。
ズン!
「がはっ!あ・・・は・・・」
「グオァッ!グル・・・グルルル・・・」
い、息が苦しい・・・でもこれは・・・彼女の声・・・?
有無を言わさず巨大な健脚に踏み付けられた僕の頭上から、怒りに満ちた雌火竜の唸りが聞こえてくる。
だが反射的に彼女の足下から逃れようと身動ぎしたその途端、獲物の抵抗を封じようと更なる体重が僕の背に預けられていた。

ミシッ・・・メキィ・・・
「う・・・ぁ・・・レ、レイアッ・・・僕だ・・・よ・・・」
またしても大事な卵を狙ってやってきたのであろうハンターを一瞬の内に仕留めると、私は足下で何やら苦しげに喘いでいる獲物にそっと顔を近付けていった。
そしてグリグリとその小さな体を踏み躙りながら、私に楯突こうとした愚か者の苦悶の声に耳を澄ませてやる。
「レ、レイ・・・ア・・・」
「・・・?」
だがその瞬間、不意に何処かで聞いたことのある声が私の耳に届いてきた。
まさか・・・?
そう思って硬い岩の地面に押し付けられた人間の顔を横から覗き込んでみると、もう何度目にしたかわからぬという程に見覚えのある童顔が息の詰まる苦しみに歪められている。

「グォッ・・・!」
慌てて彼の上から脚を退けてやると、ようやく解放された人間が荒い息を吐き出しながら仰向けに身を翻した。
「はぁ・・・はぁ・・・ひ、酷いよ、レイア・・・」
ロクに相手を確認せずに襲い掛かってしまった私を詰るかのように、彼の目に微かな非難の色が浮かぶ。
そんな人間に許しを乞うかのように、私は彼の顔をペロペロと舐めてやった。
確かに彼が再び私と逢うためにこの塒へとやってくる可能性がある以上、洞窟内に入ってきた人間を見境なく攻撃してしまったのは些か浅はかだったと言えるかもしれない。
だがもちろん、それには理由があるのだ。
やがて彼の怒りが収まるまで地面に押し付けられて汚れてしまったその顔を一頻り献身的に舐め続けると、私はその理由、命を懸けてでも守るべき宝を彼に見せるべくそっと翼を広げて彼の視線を誘導してやった。

おもむろに広げられた不思議な斑紋のある雌火竜の巨大な翼・・・
その深緑の幕に導かれるようにして洞窟の奥にあった岩棚へと視線を移したその瞬間、僕はどうして彼女がこれ程までに殺気立って洞窟への侵入者に攻撃を仕掛けたのかを悟っていた。
僕が両手でやっと1つ持ち上げることができるかどうかという、大きな大きな火竜の卵。
その濃い灰色をした3つの卵が、暖かそうな寝床の上へと大切に安置されている。
あれがきっと、彼女の産んだ子供なのだろう。
「グルル・・・クゥゥ~・・・」
「ああ、わかってるよ・・・あの子供を守ろうとしたんだろう?僕と、お前との間にできた子だもんな」
そうしてゴロゴロと可愛げな声を上げながら頬を擦り付けてくる彼女を優しく摩ってやると、僕は不思議な魅力に満ちた飛竜の卵にしばらくの間目を奪われ続けていた。

「さ、触ってもいいかい?」
僕がそう言いながらそっと卵の方へ歩み寄ろうとした途端、彼女が驚いたように服の端を噛んで僕を引き止めた。
「いいだろ?ちょっとだけだよ」
「グル・・・グルゥ・・・」
だが1分程もそんな静かなやり取りが続くと、彼女がようやく折れたのかじっと噛み締めていた僕の服を放す。
そしてできるだけ彼女の不安を煽らぬように、僕はそっとくすんだ灰色の卵へと手を触れてみた。
暖かい・・・まだ産み落とされてから1週間と経っていないはずなのに、もうこの硬い殻の中で小さな何かがゴソゴソと動いている感触が伝わってくる。
ふとすぐ傍にいたリオレイアの方へ視線を向けてみると、彼女は人間の僕にもそれとわかる程の心配そうな表情を浮かべながらじっと僕の様子を窺っていた。

いくら大勢の人間達に恐れられる強大な飛竜だとは言っても、同時に今の彼女はハンターや他の外敵から大事な子供を護ろうとする母親なのだ。
彼女は互いに心を許しているはずの僕が卵に触れることにさえこんなにも肝を冷やしているというのに、万が一この卵をハンターに奪われでもしたらその心中の怒りは僕にはとても推し量ることなどできそうにない。
やがて心ゆくまで飛竜の卵の感触を堪能すると、彼女を安心させるようにそっと寝床の上へ卵を戻してやる。
その瞬間、フゥーという長い安堵の息が大きな彼女の口元から漏れ聞こえてきた。
そしていらぬ心配を掛けた僕を責めるように、彼女が服の上から僕の腕に軽く噛み付いてくる。
「グルルル・・・グォッグゥゥ・・・」
「わっ・・・よ、よせよレイア・・・僕が悪かったから・・・」
だが照れ隠しなのか悪戯っぽい笑みを浮かべた彼女の眼に相変わらず殺気が全くないことを見届けると、僕はしばらく彼女の成すがままに体を預けていた。

1週間振りの人間との邂逅にしばしの穏やかな時間を過ごすと、彼は徐々に薄暗くなり始めた空を見やりながら何やら別れの言葉を私に囁いて洞窟を出て行った。
満たされた時間が終わりを迎えてしまったことに多少の心残りはあったものの、季節が移り変わってからも彼はまた私に会いに来てくれるに違いない。
そうして洞窟の周辺から人間の気配がすっかり消えてなくなると、私は雨が降り出さぬ内に夕食の獲物を狩ってくるべく大きな翼をバサリと広げていた。

夕暮れ時を迎えた密林の上空に吹く、仄かに暖かな熱を孕んだ優しげな風。
今はまだ晴れているものの、もう1時間もすればこの一帯も激しい雨に襲われることだろう。
私自身この土地で本格的な繁殖期を迎えるのは初めてだったものの、徐々に近づいてくる大雨の気配は今も確かに感じられる。
やがて手頃な獲物を探して空を飛ぶ私の眼下に、重厚な装備に身を包んだ数人の人間達の姿が見えてきた。
恐らくは私の命か、或いは私の産んだ卵を狙ってやってきた輩共に違いない。
早く手頃な獲物を仕留めて巣に戻るべきだろう。
私はそんな地を這う邪魔者達を憎々しげに一瞥すると、いつも草食竜達が草を食んでいる草原を目指して翼を羽ばたいていた。

ゴオオオッという風を切るような音に気付いてふと上空を見上げてみると、木々の隙間から狩りに出掛けたのであろう雌火竜の姿がチラリと垣間見える。
ドンドルマの街へ帰る船に乗り込むべく、僕は森の中をゆっくりとした足取りで歩き続けていた。
大事な卵を残したまま塒を離れるのは彼女にとってもあまり心穏やかなことではないだろうが、そうかと言って日々の食料を手に入れないことには始まらない。
だが空を見上げていた僕の目にポツリと降り始めた雨の雫が飛び込んでくると、僕は些か急な坂を下りる足を早めていた。

ポツポツと降り始めた冷たい小雨の感触を背に感じながら、私はようやく草食竜達の餌場に辿り着くと雨を嫌って洞窟へと避難し始めた憐れな群れの姿をその眼に捉えていた。
少し前までは飢えに体力が衰えたお陰でロクに食いでのない小さな獲物しか狩り出せなかったものだが、今はもうそんな歯痒い思いなどする必要もない。
やがて群れの最後尾を拙い足取りでヨタヨタと走っていた草食竜の子供には目もくれず、私は先頭にいた1番大きな獲物目掛けて鉤爪を翳しながら雨空の下を滑空していった。

ズガッ!ドドォッ!
次の瞬間鋭利な爪が肉に食い込む鈍い音が辺りに響き渡り、獲物の倒れる重々しい振動がしっとりと濡れ始めた地面を激しく揺らす。
「グオオ~!」
そして不運にも私の餌食となった群れのリーダーをその場に残すと、他の草食竜達が恐怖に彩られた雄叫びを上げながら一目散に暗い洞窟の中へと逃げ込んで行った。
さて・・・久し振りに辺りを大勢のハンター達がうろついている以上、早く巣へと帰った方がいいだろう。
私は息絶えた獲物を両脚の鉤爪でしっかりと掴みながら、更に勢いを増した雨を睨み付けるように天を仰いだ。
更には大きな雨粒に濡れた翼に力を入れ、無数の水滴を弾き飛ばすかのように思い切り羽ばたき始める。
そしてバサッバサッという小気味よい音とともに体が宙に浮き上がると、私は住み処へと向けて急いでいた。

果たして、卵は無事なのだろうか・・・
塒のある高い岩山の上空に向けて舞い上がっていく間中、私の胸の内にはそんな拭い去れぬ不安がしつこく纏わりついていた。
狩りに出掛けた時に見かけた数人のハンター達の姿は何処にも見えず、大切な卵を奪われるという過去に幾度も味わってきた遣り切れぬ悔しさが脳裏に去来する。
だが、今回ばかりは決してあの卵をハンターどもに奪わせるわけにはいかぬ。
何故ならあれは、私がこの長い生涯の内で完全に心を許したたった1人の人間・・・
あの男との繋がりを示す象徴とも言えるべき存在なのだ。

やがて塒へと通じる暗くて長い縦穴をゆっくり降りていくと、私は捕らえてきた獲物を地面の上に置いて卵の無事を確かめようと背後を振り向いていた。
そこには相変わらず仄暗い灰色を湛える2つの卵が、狩りに出掛けた時と同じように寝床の上に・・・
2つ・・・だと・・・?
一瞬我が目を疑って寝床の上に顔を近付けてみたものの、やはり卵が1つ無くなっている。
更には寝床のある岩棚の周辺に濡れた土が付着した人間の足跡が点々と残されていて、私は心中に渦巻いていた不安が現実となったことに激しく激昂していた。

「グオオオオオオオオオオオオーーン!!」
「な、何だ・・・?」
密林中の木々がざわめくようなリオレイアの咆哮が聞こえ、僕は思わず帰りの船へと乗り掛けた足を止めていた。
彼女の断末魔ではない。
その慟哭とも取れる声に込められていたのは、底知れぬ激しい怒りの感情だ。
一体何があったというのだろうか・・・?
やがてそんな間抜けな疑問が脳裏を掠めかけたその途端、僕はぶんぶんと頭を振ってそれを外へと追い出した。
そんなこと、考えなくてもわかりきっている。
少なくとも僕に対してはあれ程温厚な態度を見せる彼女が怒りを露わにする原因など、初めから1つしかない。
ハンター達に、大切な卵を盗まれたのだ。
何とかしなければ・・・そんな逼迫した思いが胸に湧き上がってきたものの、何をどうすればいいかについては皆目見当もつかなかった。
まさか必死に飛竜の巣から卵を奪ってきたハンターにそれを元に戻せなどとも言えるはずがないし、そうかと言って子供を失った彼女の辛い顔も見たくはない。
だがこのまま何も知らぬ振りをして街に帰る決心だけはどうしてもつけられず、僕はおもむろに踵を返すと再び大雨の降り頻る森の中へと走っていった。

許さぬ・・・ハンターどもめ!1人残らず血祭りに上げてくれる!
私は轟々たる咆哮となって迸ったそんな怒声とともに大きく翼を羽ばたくと、一気に塒の外へと飛び出していた。
そして急速に密林を潤していく激しい風雨の合間を縫うようにして遥か上空まで飛び上がると、大切な卵を奪った不埒なハンター達の姿を見つけ出そうと眼下の喧騒に目を光らせる。
そして必死にあちこち探し回った挙句、一体何処で行き違ったのか私は先程草食竜達を見つけた広い草原に目的の3人の人影を見つけ出していた。
重そうに両手で卵を抱えたハンターを護るように、武器を構えた2人のハンター達が周囲を警戒している。
その光景を目の当たりにして、私は胸の内に燃え上がった怒りを真っ赤な双眸に宿らせながら彼らの眼前へと勢いよく急降下していった。

ゴオオオッ
「うわっ!」
「な、何だ?」
「レイアだ!見つかったぞ!」
大気を切り裂くような風の音に気が付いたのか、数人の男達が私の姿を見つけて何やら口々に騒ぎ始める。
私はズザザザッという音とともに一気に地面の上へ降り立つと、目の前で弓を引き絞ろうとしていたハンターを威嚇するようにギラリと睨み付けてやった。
「ひっ・・・!」
プシュン!ザクッ!
「グッ!」
その射抜くような視線に恐れを成したのか思わず力の抜けた男の指から気のない矢が撃ち出され、硬い甲殻に覆われた私の顔に鋭い鏃の先が僅かな痛みとともに浅くめり込む。
だが私は顔に刺さった鏃をすぐに振い落すと、ブゥンという音ともに尻尾を振り回してその男を薙ぎ払っていた。

「ぐああっ!」
肉と肉のぶつかり合うような何とも言えない湿った音とともに、私にとってはあまりにも軽い人間の体がその強烈な尾撃の前にまるで木の葉の如く派手に吹き飛んでいく。
やがて地面の上に力無く転がった男にはまだ息があるらしかったが、もうあの人間は動けぬだろう。
卵を奪い返したら、後でゆっくりととどめを刺してくれる。
更に2人目の獲物を見定めようと首を振り向けると、自身の背丈よりも長い大剣を持った別の男が大きく振り被った体勢で私の頭に狙いを定めているところだった。
そして私が振り向いた瞬間を狙ったのか、その重々しい切っ先がブォンという風切り音とともに振り下ろされる。
だが私は微塵も慌てることなく首を振ってその危険な刃をヒラリとかわすと、眼前で剣を空振ったお陰で大きな隙を曝け出してしまった2人目の獲物を思い切り踏み付けていた。

ズシッメキッメキメキキッ
「が・・・あ・・・」
その一切手加減のない殺意の込められた一撃の前に、人間の身に着けている防具が弾けるような音を立てて拉げ潰れていく。
私の縄張りを侵しただけならばまだしも、こやつらは何よりも大切な私の卵を奪おうとしたのだ。
このまま、原型も留めていられぬ程粉々に踏み潰してやろうか・・・
だが脳裏にそんな考えが過ぎった次の瞬間、いまだ卵を抱えたままの最後のハンターが酷く怯えた様子でその場に立ち竦んでいるのが視界の端にチラリと映る。

そうだ・・・腹いせにこやつらを嬲り殺すことなどいつでもできる。
その前に、今はまずあの卵を取り返すことの方が先決ではないか。
私はそう心に決めると、既に踏み付けられて気を失っている人間の上からそっと巨大な脚をどけていた。
そして恐怖に駆られた獲物が誤って卵を取り落したりせぬように、ゆっくりとした肉薄を開始する。
「う・・・うぅ・・・ま、待て・・・待ってくれ・・・」
あっという間に2人の仲間を失って、孤立した人間が情けない声で命乞いを始めていた。
だが・・・今更もう遅い。
重い卵を持ったままでは人間風情がこの私から逃げ切ることなど到底できるはずもなく、最早この男には無事に生き残る術など欠片も残されてはいなかった。

「グルルル・・・」
自分でももう逃げられないことを悟っているのか、卵を抱えた男はガタガタと震えながら私を見つめ続けていた。
1歩、また1歩と私が足を踏み出す度、それに同調するかのように追い詰められたハンターが少しずつ後退さる。
問題は、どうやってあの卵を奪い返すかだった。
下手に刺激すれば卵を落として割ってしまいかねないし、こやつ自身も卵を持っていることだけが自分の命を辛うじて繋ぎ止めていることを自覚していることだろう。
だがそうかと言って私の心中に渦巻く怒りは容易に抑え込めるようなものではなかったらしく、赤黒い炎のような熱い熱気が口の端から漏れ出すその様子に男が更に恐怖の色を濃くしていった。
「ひっ・・・ひぃ・・・」
そして情けない悲鳴を上げながら更に1歩退いた拍子に、長い草で足を取られたのか男の体がグラリと傾ぐ。

「グォッ!」
思わずしまったと思った次の瞬間、よろめいた男の手から地面の上に滑り落ちた私の卵がパキャッという嫌な音を立てて粉々に砕け散っていた。
やがて割れた卵の中から姿を覗かせた、仔竜の形をした小さな生き物・・・
あまりに未発達な雛が細かな殻の山の中からもぞもぞと這い出そうとして、途中でクッと力尽きてしまう。
私の子供が・・・彼との間にできた・・・私の子供が・・!
それは、私にとってあまりにも信じ難い光景だった。
しばし呆然とした様子で可愛い我が子が息を引き取る瞬間を見つめながら、胸の内で何か大事なものが弾け飛んでしまった感覚が全身に跳ね回る。
「あ・・・あぁ・・・」
やがて自らの犯してしまった取り返しのつかない大罪を嘆くかのように、絶望に打ちひしがれたハンターの空しい嗚咽が辺りに響いていた。

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