レヴィタス

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違う。ぼくのキャプテンじゃない。
近づく足音の方向をちらりと見遣り、小さな竜は深いため息をついた。
途端、その腹部から赤黒い血が溢れ出す。
「レヴィタス、しっかり!」
竜を腕に抱いた青年が声を上げた。
こぼれた涙が幾度も竜の頬を叩くが、反応は薄い。
足音が止んだ。
竜はまぶたを閉じる瞬間、怒りに身を震わせる足音の主を見た。

──ローレンス。
あなたの怒りは、ぼくのキャプテンに向けられているんですね。
でも、違うんです。キャプテンは悪くないんです。

飛行士の多くは、戦闘能力に秀でたリーガル種や、ロングウィング種の担い手を志す。
自らの人生を捧げる相手に希少価値や強さを求めるのは至極当然と言えるだろう。
この小さな竜はウィンチェスター種だった。英国ではありふれた、さして強くもない種だ。
竜に騎乗できること自体が軍人としての誉れであるとはいえ、
貧弱な竜の担い手になることをよしとする者は決して多くない。
だが、彼のキャプテンはそれを快く受け入れた。

レヴィタス。与えられた素敵な名前にどれだけ喜んだことか。
訓練に挫けるたびにキャプテンが贈ってくれた数多の宝石に、どれだけ励まされたことか。
彼はキャプテンが大好きだった。

いつからだろう。そんなキャプテンが自分よりも社交の場を優先するようになったのは。
激励は冷ややかな命令に変わり、鼻づらを撫でてくれた暖かな手のひらも、今や脇腹を叩くだけ。
自分が役立たずだから、大型種に劣るから、キャプテンを失望させてしまったに違いない。
次第に竜は率先して過酷な任務に身を投じるようになっていった。
期待に応えれば、きっとあの優しいキャプテンが戻ってきてくれる。そう信じて。

結局、願いは叶わなかった。
斥候任務中に致命傷を負っての帰還。
ドラゴン所有数の少ない英国空軍にとって、最もあってはならない事態だ。
キャプテンはさぞ失望しただろう。
ならばせめて、キャプテンの目に触れず、ひっそりとこの世を去ろう。
竜は大きく、ゆっくりと、最後の息を吸った。

薄れゆく意識の中、ふと甘い香りが竜の鼻をくすぐった。
その瞬間、開きかけていた瞳孔がくっきりと楕円を形作る。
「レヴィタス、誰が来たか、見てごらん」
いや、見るまでもない。
これはキャプテンが大好きな、ワインの香りだから。

「ぼくの、キャプテン?」
「そうだ。ここにいる」

そして、待ち望んでいた一言が与えられた。

「おまえは、とても勇敢だった」

──キャプテン・ランキン。あなたのドラゴンでいられて、本当によかった。
竜が名残惜しげに息を吐き出す。
二度と感じることのできない、大好きなキャプテンの香りと共に。


感想

  • レヴィタスは大好きなのでよかったです。
    まさか彼が死ぬとは思わなかったので、すごくショックを受けていたのですがこの話に救われました。 -- ブライト (2009-12-12 00:36:25)
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