トカゲ竜は寒いのさ

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     *トカゲ竜は寒いのさ*
     /こんにちは、をお持ち帰り/





 師走。すでに風の冷たさは本格的だ。
「これ、カッチンおきんかね。」
必死で布団にしがみつく少年、その掛け布団を奪いとる老婆。
「あ~、ばあちゃん後ちょっとだ。」
そんな時間はないからすぐに支度をせよ、と言い放たれる。
「じいちゃんの葬式だって、ばあちゃんは哀しくないのかよ。」
そう、ぶつくさ言いながら少年は着替えた。

 カッチンはまだ9才。怖さとか哀しさとか、あんまりよく知らない。
楽しさだけを求めていてよく何かを見つける。
「なーんだこれ、みんな真っ黒け変なの。」
つまり何も無いところは退屈な場所、すぐにでもおさらば願いたいのだ。
「カッチン、あの子たちと遊んでくるといい。」
父ちゃんだ、なんて優しいんだろう。
カッチンはすぐに走り出して近場の土手へ向かった。
「おおい、そっちいったあ捕まえろ。」
3人の子供たちが何かを追い掛け回しているようだ。
「俺もいれてくれ、何してんの。」
少し息を切らしながらも大声で声をかける。
「いいよ、一緒にあのカナヘビ捕まえよ。」
うわあ、楽しそうだ。そうカッチンは思った。
穴ぼこに落ちないようにしなきゃ。

 黒いのが一杯、ぞろぞろゆっくりと外へ出てき始めた。
「おっ、終わったな。」
カッチンは満足げに言うと、笑った。
その手にはさっき捕まえたカナヘビがいた。
「僕にも触らせてよ。」
「嫌だい、俺のだ。」
「けちんぼ、かせよ。」
そこから鬼ごっこが始まるのだ。
「危ないから遠くへ行っちゃだめだからね。」
母さんの声が聞こえたが、カッチンはわき見すらせずに走った。
両親祖母全て未だ黒いのと話している、帰るのはもっと遅くなるだろう。
「おい坊主、帰るぞ。」
そうして1人2人と子供たちはしぶしぶ帰っていく。
「あははっ、俺の勝ちだ。」
手の上でカナヘビを転がして腹をつつく、ちょっと冷たくて気持ちいい。
指を噛まれても痛くはないから頭をなでてやる。
カッチンはいい加減飽きてきたから、カナヘビをズボンのポケットに突っ込んだ。
「早く帰ってテレビみたいな。」

 「カッチンどうだった、面白かったか。」
父ちゃんに言われてうんとうなずく。
大きく手を振って下を見て、時々親の顔を見る。
「皆つまんなそう、なんでだろ。」
父ちゃんのワゴンに乗り込んだけど、なかなか走り出さない。
外を見てみるとばあちゃんがまだ外で突っ立っている。
「ばあちゃん、寒くないの。」
そうカッチンが声をかけたら、ばあちゃんはワゴンに乗った。
「寒いよ、寒い。」
ばあちゃんは目を閉じたまま青い唇を少し動かした。
カッチンはその雰囲気が気持ち悪かったからおならをした。
「えへっ、ごめん。」
誰も笑わない。すぐに家につくのに長く感じるままだ。
誰も何も思わないらしい。車でおならをしたらすぐに何か言われるのに。
たった一匹、カナヘビだけが迷惑そうにのたうちまわった。





     *トカゲ竜は寒いのさ*
     /今夜は寝かせない/





 いつもと同じように疲れたから、カッチンはすぐ布団に潜り込んだ。
「カッチン、洗濯物はちゃんと洗濯機に入れてねって言ってるでしょ。」
母さんは優しいからかわりにちゃんと入れてくれる。
だから誰にも邪魔されずにぐっすり眠る事が出来る。
「テーブルって硬いな。」
昼に子供たちから聞いたベッドを試してみたくて、食卓の上で寝ることにした。
敷布団を敷いても畳とははるかに違う感覚だ。
「俺だってもう大人だから、たまには一人で寝たいんだ。」
カッチンは川の字なんてうんざりだった。

 眠りについてしばらくするとカッチンはうなされた。
どうも胸の上に何かが乗っているらしい。
「ああっ、おっきなトカゲに捕まる夢を見た。」
起き上がろうとしたけど上体を持ち上げられない。
暗さになれた目をこすって天井を見ようとしたら、変な生き物がいた。


「こんばんは、おチビさん。」
カッチンは驚いた、トカゲがしゃべってる。
「誰、そこどいて。」
トカゲは長い首をぶんぶんと横に振った。
「やだね、後2時間はこのままだ。」
カッチンはいらいらしはじめた。
「いじわるすんなよ。」
トカゲは体をかがめて顔を近づけてきた。
「いじわるじゃない、仕返しだ。」
意味が分からない。
「可愛くないおチビさん、あなたは私を尻で潰しておならまでしたんだ。」
カッチンはあっ、と思った。
「謝ったじゃんか。」
「でもどかなかった、だから私もどかない。」
どうやらこのトカゲの尻に潰されているらしい。
驚いた事にいつの間にか枕もない。それはトカゲの太い尻尾だ。
「このやろー。」
カッチンはトカゲの尻を殴った。
けれども弾力があって跳ね返される、おまけに表面はかたくてちょっと痛い。
「乱暴もの、無駄だね。」
トカゲは尻尾をパタパタ動かしたからカッチンの頭がぐらぐら揺れる。
おなじように尻尾で頭をなでられるのが最高に恥かしい。
カッチンになす術なし、疲れただけだった。

 気付いたら朝だった。
カッチンは寝た気がしない。
「ちっくしょー。」
学校も冬休みでいつもならちょっと遅く起きるのに、珍しく早起きだ。
「どーこーだ、どーこーだ。」
家中あちらこちらを探し回った。
トカゲに復讐したいだけ、踏み潰してやる。
「カッチンうるさい、静かになさい。」
母さんに朝しかられるのも久しぶりだが、やはりばつが悪いものだ。
「めんご。」
すぐにどこかで笑い声が聞こえた。
カッチンはあっと思って表に出ると、洗濯物のズボンのポケットをひっくり返した。
「なんもない、くっそ。」
カッチンはその日から洗濯物を自分で出そうと思った。
頭上でバサバサと何かが飛ぶ音がしたけれど、カッチンは気に留めなかった。
まだ思い切り上を見上げる事が出来るような年じゃなかったから。





     *トカゲ竜は寒いのさ*
     /また会えたけど忘れてた/





 夏真っ盛り、寝る時も布団はいらない。
「勝司起きろ、朝だぞ。」
父に蹴り起こされる。
「後3分、親父頼んだ、母ちゃんごまかしといて。」
馬鹿言うなと言われてしぶしぶ起きる。
「親父は両親いなくなって寂しくないんだか。」
頭をかきながらむすっとした表情で呟いた。

 勝司は今年で18だ。
彼女がいない事が哀しくて、近所のお兄さんたちが怖い。
何をしたいのか見つけられなくて進学も就職もまだ決まらない。
足元ばかり見ている生活だ。
「あー暗い暗い。だいっきれーだ。」
あまり面識のない人と話交えることほどつまらない事はない。
どうせ言葉だけのことを言ってお互いなぐさめあうんだろ。
「勝司、しっかり挨拶しろよ。」
父に言われて少しだけ頭をさげる。
「俺ちょっと向こう行ってくる。」
うっす、と挨拶だけ済ますと土手に向かって走り出した。
ついた頃には息も切れ切れでひざの上から手を離せない。
「俺、どうしよっかなあ。」
ため息をついて土手に座り込むと、川を見下ろした。
「そっちだ、あっちもだ一杯いるぞ。」
子供が2人で遊んでいる。
「最近は外で遊ぶガキも見かけねーや。」
あくびをしながら寝転がった。

 勝司は急に腰のあたりにくすぐったさを感じた。
「うおっ、やっべえ寝てた。」
慌てて辺りを見回すと喪服を着た人もまばらに見えた。
「どこいった、でてこーい。」
1人だけ残った子供がすぐ近くでまだ何かを探している。
「おい坊主、もうそろそろ遅くなるぞ。帰んな。」
子供ははーい、と言って川べりを走って帰っていった。
「俺がガキん頃はあんなに聞き分けよくなかったな。執念深かった。」
今そのくらいならとっくにやりたい事決めてるな、と思いながら両親の元へ戻った。

 「ったく、どこ行ってた馬鹿もん。」
父の説教だ。頭を振って何も言わないでおく。
ワゴンに乗り込むと不思議な感じがした。
「助手席のばあちゃんがお袋になって、俺の隣は空きか。」
頭の後ろで手を組んで視線を上にあげると勝司はため息をついた。
かわっちまった。そう思えて仕方ない。
「夜は冷えんなあ、親父寒くねえのか。」
そう勝司が声をかけたら父は車を出した。
「さんみーよ、頭もサイフもなあ。」
皆で少しだけ笑った。
たった一匹、カナヘビだけが笑わなかった。





     *トカゲ竜は寒いのさ*
     /だから俺が温めてやるんだ/





 勝司は普段夜遅くまで起きてゲームをする。
夏休み半ばになると学校が恋しくなる年だ。
「なんかだりーなあ。」
この日だけは憂鬱で、自分の部屋で寝転がっているだけだった。
「宿題でもやるかなあ。」
何だかいつもとは違うしっとりとした感覚だ。
「たまには皆で寝てみようかなあ。」
勝司は心の奥底では意識せずとも不安でたまらなかったのだ。

 ふと気が付くと夢の中だ。とても安心できる。
獲物を狙う猛禽から逃れるため岩のしたに隠れる小動物。
「うおっ、なんであの岩がでっけえ生き物なんだよ。」
ため息をついて寝返りをうとうとしたがかけているタオルが動かない。
かすんだ目で自分の隣を見てみると、変な生き物がいた。
「こんばんは、おチビさん。」
勝司は驚いた、あいつだ。
「お前か、どけよ。」
トカゲは体をくねらせて拒否した。
「やだね、後1時間はこうだ。」
勝司はあきれはじめた。
「俺が何したってんだ。」
トカゲは顔をすりよせてきた。
「助けてくれた、恩返しだ。」
意味がわからない。
「ステキなおチビさん、あなたは私を子供の手から逃してくれたんだ。」
勝司はえっ、と思った。
「身に覚えはない。」
「でも助けてくれた、だから私も助ける。」
どうやらこのトカゲと一つ同じ床の中らしい。
驚いた事にかけていたのはタオルと思っていたのにこのトカゲの翼だった。
「めんどくせえ。」
勝司はトカゲの横腹をひじでど突いた。
少し冷たくて湿り気がある、少し早い全身の脈動を感じられる。
「気持ちいいでしょ、じめじめした夏に程よい冷たさなんだから。」
トカゲが翼をバサバサ動かすものだから埃がまって勝司はむせてしまった。
もうどうでもいいや、そう落ち着いた。

 「お前は一体なんなんだ。」
勝司の問いかけにトカゲは答えない。
「見たことないぞ、どっからきたんだ。」
トカゲは首を器用に捻ってそっぽを向いた。
「それが恩人に対する態度かよ。」
勝司は手を伸ばして強引にトカゲの顔を自らに向けさせた。
しゅーっと言う吐息とともに出てきた舌が勝司の首をなでる。
「私はただのトカゲだ。」
そんなはずはないだろうと勝司は翼を持ち上げて起き上がる。
「じゃあなんで俺と同じくらいでっけえんだよ。」
トカゲは勝司を尻尾で巻いて押し倒すとその上に優しくのしかかった。
「小さすぎたら潰される。大きすぎたら入れない。」
勝司は思わず、はあっと声をあげた。
「意味がわかんねえ、わざわざここに来る必要はないだろ。」
トカゲは横を向いて寂しそうな顔をすると一回だけ横目で勝司の目をのぞき込んだ。
「だって寒いんだもの。」
頭を抑える勝司の両手を器用にかわすとその胸にあごをのせて目をつむった。
勝司は正直どきどきしていた。なんか悪くないかもと感じていた。
気が付いたら意識せずにトカゲの頭と首を撫でていた自分を少しだけ好きになれた気がする。
「俺は熱い。でもお前だったらくっついてても苦しくないな。」
トカゲの翼が完全に二人だけの世界を作りだしていた。

 気が付いたら朝だった。
勝司は納得がいかないまま頭の後ろで手を組んでむすっとしていた。
「ちっくしょー。」
いつかあいつの正体を暴いてやる。そう決めた。
勝司は天井しか見えないのにただ上一点を見つめて満足していた。
またいつか会えるだろう、だって俺は温かいからな。
「トカゲ竜は寒いのさ。いつだってな。」


感想

  • 何だか、ほのぼのとしていていい話でした。…なんか羨ましいな…。 -- fist (2009-08-29 22:29:13)
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