奪われた平穏2

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やがて呑み込んだ獲物が腹の中で息絶えたのを感じたのか、空を振り仰いでいた雌竜がクスクスと笑いながら再びワシの顔を見下ろしてくる。
そのあまりにも残酷で傍若無人な捕食の光景を見せつけられて、ワシらの周囲を取り囲んでいる村人達もすっかりと言葉を失ってしまっていた。
「ぐ・・・うぅ・・・ワシの力が及ばぬばかりに・・・す、済まぬ・・・」
小声でそう呟きながら眼前で村人を食い殺された激しい無念と怒りにワナワナと身を震わせてはみたものの、このままではやがて村の者達が1人残らず雌竜の餌食になってしまうのは目に見えている。
「さぁて・・・まだこのあたしに楯突こうなんて考えている馬鹿な奴はいないだろうね・・・?」
更には心の弱り切った村人達に駄目押しするように、雌竜が彼らの方を鋭く睨み付けながらそう訊ねていた。
だが当然というべきかそんな脅し文句を肯定する者などいるはずがなく、目の前にあるのはただただ顔を蒼褪めさせながら首を横に振る男達の姿ばかり。
逆らえば死が待っていることをこれでもかとばかりに見せつけられた彼らには、最早この憎き雌竜に対して恭順を示す以外に生き残る術など残されていないのだろう。

「フフフ・・・人間どもなんてちょっと脅し付けただけでこんなもんさ。竜神様とやらも、惨めなもんだねぇ」
「う、うぐぐ・・・弱き者達を恐怖で縛るとは・・・何という卑劣なことを・・・」
メキッ・・・グリリ・・・
「グ・・・アッ・・・!」
その瞬間雌竜の手で踏み付けられた頭へ更に凶悪な体重が預けられ、ワシは今にも踏み潰されてしまいそうなその耐え難い苦痛と屈辱に必死に牙を食い縛った。
「フン・・・何とでも言いな。お前が今まで守ってきた人間がどういう連中なのか、すぐに思い知らせてやるよ」
そう言った雌竜の顔に何やら黒々とした悪巧みの気配を感じて、ワシは誰にも気付かれぬようにそっと背筋を震わせていた。

ズシ・・・ズシ・・・
やがて天高く昇った太陽が西に傾き始めた頃、深い山の中を奇妙な集団が歩いていた。
重々しい足音を響かせながら先頭を行くのは全身を赤鱗に覆われた巨大な雌竜と、その太くて強靭な尾を首に巻き付けられて引きずり回されている雄の老竜。
更にその2匹の巨竜の後ろに、村中から集めた鉄の鎖や杭を両手一杯に持った十数人の男達が互いに身を寄せ合うようにして付き従っている。

ギ・・・ギリ・・・
「ウ、ウグ・・・ゥ・・・」
まるで極太の紐と首輪を付けられた犬のように無様な姿で雌竜に連れ回されながら、ワシは時折抵抗を封じるように首を締め上げられる苦しさに呻いていた。
いや・・・荒らぶる雌竜の暴挙に翼膜を切り裂かれ角も叩き折られてしまったワシにも、流石にこの程度の拘束から逃れるだけの余力は十分に残されている。
だがそれをすればこのワシはともかくとしても、残虐な雌竜の恐ろしさに怯えながら後ろをついてきている村人達は決して無事では済まないことだろう。
こんな深い山中でワシらを連れ回す雌竜が一体何を企んでいるのかは皆目わからぬが、背後の人間達がそんなワシを縛る人質としての役割を兼ねているのはどうやら間違いなさそうだった。

「グ・・・ワ、ワシを一体どこに連れていくつもりなのだ・・・?」
「なぁに、すぐにわかるさ・・・もうすぐだからねぇ・・・」
雌竜にそう言われて狭い視界を辺りに巡らすと、微かに見覚えのある景色が目に飛び込んでくる。
これは・・・昼にも1度目にした景色だ。
ということは・・・ワシらは今、山の中腹にあるあの洞窟へと向かっているのに違いない。
だがもし仮にそうだったとしても、ワシをそこに連れ込んだ後は一体どうするつもりなのだろうか・・・?
そんな先の見えぬ不安が歩みを遅らせてしまったらしく、ワシは再び乱暴な雌竜に首を引っ張られていた。
グイッ、メキキ・・・
「グアッ・・・カハ・・・」
惨めなものだ・・・せめて背後に守るべき人間達さえいなければまだ敵わぬながらも暴れようがあるというのに、こうして手酷い扱いを受けながらも雄としての矜持すら貫き通すことができぬとは・・・

やがてそんな激しい葛藤に苛まれながらも森の中を歩き続けている内に、欝蒼と生い茂った木々の向こうにかつてワシが住んでいた大きな洞窟が姿を現す。
そして当然の如くその広大な暗がりの中へと引きずり込まれると、突然雌竜がワシの体をゴロンと地面の上に引っくり返していた。
「な、何をする気なのだ・・・?」
だがそんなワシの質問を無視して、雌竜がオドオドと後をついてきた村人達に鋭い命令を下す。
「さあお前達!その杭と鎖で、こいつを地面の上に縫い付けるんだよ!」
「なっ・・・」
「ええっ!?」

雌竜の放ったその言葉に、村人達と竜神様が同時に驚きの声を上げていた。
長い間村を守ってきたこの竜神様を、村人達の手でこの洞窟に封印しろとでもいうのだろうか?
だが到底従うことのできぬその命令に俺も含めてその場にいた誰もが明らかな難色を示したのを見て取ると、雌竜の眼に不意に殺意のこもった冷たい光が宿る。
「何だいお前達・・・まさか、このあたしの言うことが聞けないとでも言うんじゃないだろうねぇ・・・?」
その世にも恐ろしい雌竜の声を聞いた途端に、俺の背中を一筋の冷たい汗が流れ落ちていった。
他の者達も同様に恐怖で足が竦んでしまったのか、誰もが息を潜めたままじっと雌竜の機嫌を窺っている。
竜神様の顔にも緊張した表情が貼り付けられているのを見ると、きっとあの雌竜が村の人々にこれ以上危害を加えないかどうか心配で仕方がないのだろう。
だがそんな優しい竜神様の心情を汲み取った者が俺の他にもいたのか、やがて集団の先頭にいた1人の男がヨロヨロとした拙い足取りで地面に横たえられた竜神様のもとへと近づいていった。

不意に1人の男が見せたその意外な行動が、周囲に緊張の糸をピンと張り詰めていく。
それでも彼は雌竜に見咎められることもなく竜神様のもとへ辿り着くと、その傍らに静かにしゃがみ込んで無言のまま申し訳なさそうに目を細めた。
だがそれ以上は動こうとしないところを見ると、長年村を守ってきた神に自らの手で縛めを施すという背徳的な罪悪感がそんな鉄の鎖を持った彼の手をピタリと止めてしまっているのだろう。
「今はまだ、あ奴に反意を見せる時ではない・・・ワシのことなど気にせず、鎖を掛けるがいい・・・」
やがてそんな彼の抱えている深い悩みと葛藤を読み取ったのか、竜神様が先程から両者のやり取りを窺っている雌竜に聞こえぬようにそっと小声で囁いていた。

「は、はい・・・」
人間を落ち着かせようとして言ったワシの言葉が功を奏したのか、弱々しい返事とともに凍り付いていた彼の手が再びゆっくりと動き始める。
そして弛ませた長い鎖をワシの首に2度程巻き付けると、彼はその鎖の一端を地面の上へと杭で打ち付け始めた。
大きな石が杭の頭へ叩き付けられる度にその鋭い先端が地中へと消えていき、振動に揺れた鎖がカチャカチャと耳障りな音を立てる。
ガッ・・・ガッ・・・
そうしてもう一方の鎖も地面に固定されると、雌竜はようやくワシの首に絡ませた尻尾をシュルリと解いていた。

やがて竜神様の首を縫い付けた男がそっとその場を離れると、ここぞとばかりに雌竜の刺すような視線がなおも固まっている他の村人達へと向けられる。
雌竜が敢えて沈黙を保っているのは、俺達がもうあいつに従わざるを得ないことを知っているからなのだろう。
その有無を言わせぬ無言の脅迫に他の者達も雌竜に目を付けられることを恐れてか、残っていた全員が必死に竜神様の腕や足に鎖を巻き付けてはその端に杭を打ち始めた。
巻き付けられた鎖によって徐々に体の自由が奪われていくというのにもかかわらず、竜神様は一切抵抗する様子を見せることなく静かに目を閉じたまま屈辱的な縛めに身を任せている。
それもこれも全て、村人達の命を守るための竜神様なりの気遣いなのに違いない。
そして俺も他の皆に混じって竜神様の尾の先に鎖を巻き付け終わると、いつしかその緑鱗に覆われた逞しい体が無数の鉄鎖に雁字搦めにされて地面の上に磔にされていた。

ガチャ・・・ジャララ・・・
「ウ、ウヌゥ・・・」
鎖の1本1本だけを見れば実に細くて頼りない代物だが、塵も積もれば山となるとでもいうのか流石のワシも1度にこれだけの鎖を巻き付けられてしまっては自力で体を起こすことはできそうにない。
雌竜もそんなワシの様子に満足したのか、さっきまでとは打って変わって弾んだ声を上げていた。
「フン・・・なかなかに上出来じゃないか。今日のところは、お前達ももう村へ帰りな」
それを聞いた村人達の間に、ようやく雌竜の恐怖から一先ず解放されることへの安堵とこれから身動きの取れぬワシがどんな目に遭わされるのかを憂える2つの表情が見え隠れする。
だが仮に鎖で拘束などされていなかったとしても、この雌竜の前では所詮大した違いなどないのだ。
そして村人達全員が雌竜に追い払われるようにして洞窟の外へ出ていくと、すっかり闇に沈んだ洞内にワシと巨大な赤竜の2匹だけが静かに取り残されていた。

「フフフ・・・どうだい、あんなにお前を慕ってた人間どもにこうもあっさりと裏切られた気分は?」
やがて腕1本動かすことすらできぬワシを更に追い詰めようと、雌竜が優越感に浸った声でそう言い放つ。
その卑劣な手にだけは乗らぬようにと、ワシは敢えて平静を装って雌竜の言葉を撥ね付けた。
「フン!あの人間達さえ平和に暮らせるのなら、ワシは彼らに何をされようとも構わぬわ」
「おやそうかい・・・それじゃああたしは、誰にも邪魔されずにあの人間どもを食い尽くしに行くとするかねぇ」
「な、何だと・・・!」
ガチャ!ガチャガチャッ!
だがそんなワシの強がりをさらりと受け流した雌竜の次の言葉に、思わず鎖を鳴らして激しく暴れてしまう。
「よ、よせ!頼む!あ、あの村には・・・あの者達には手を出さんでくれぇ・・・!」
「フフフフ・・・アッハハハハ・・・お前も面白い奴だねぇ・・・冗談に決まってるじゃないか」
「ウ、ウググ・・・」
心の内ではそれが雌竜の思う壷だということは十分に承知していたというのに、ワシは長い間村の守り神として自分を慕ってくれた村の者達を無碍に扱おうとするこ奴にだけはどうしても怒りを抑えることができなかった。

「ほ、本当にあの村には手を出さぬのだな・・・?」
「このあたしに逆らわないうちは、精々あの人間どもに食い物でも貢がせて楽しく過ごさせてもらうさ」
成る程・・・つまりこの雌竜は、あの村でのワシの立場を横から掠め取ろうとしているのだろう。
正直に言ってしまえば、ワシは村の人間達さえ無事ならそれでも一向に構わなかった。
とはいえあの人間達がこのワシを村の守り神として大いに慕ってくれたのは、ワシの方も彼らに知恵や手を貸してお互いに助け合って暮らしていたからに他ならない。
決して敵わぬ敵だと知りながらもワシを救おうと巨竜に立ち向かって命を落としてしまったあの青年も、きっと心のどこかではワシに対してそれだけの恩義を感じてくれていたのだろう。
故にこ奴があの村の洞穴に棲み付いたとしても、村人達の信望を集めることなどできるわけがないのだ。
だとすれば村に戻ったこ奴が取る行動は、結局のところ恐怖による統治しか残されていないことになる。
だが今日の今日まで何の憂いもなく平和に暮らしていたあの村の者達が、突然そんな緊迫した肩身の狭い生活を強いられても耐えることができるとは到底思えなかった。

「それにしても・・・相変わらず随分と無様な神様だねぇ・・・」
やがてそんな遠い思考を遮るように、雌竜が地面に磔にされた無力なワシをジロジロと眺め回す。
その言葉についさっきまでは村人達の命を守ろうと思うあまり必死になって体を張っていたワシも、いざ己の置かれているそのあまりにも絶望的な状況を再認識して思わずブルッと背筋を震わせた。
チャラッ、チャララ・・・
その震えが体に巻かれた鎖にも伝わったのか、微かに鳴った不規則な金属音が雌竜にも聞こえてしまう。
「おやおや・・・みっともなく震えちまって・・・そんなにこのあたしが怖いのかい・・・?」
「だ、誰がお前など・・・ウ・・・ゥ・・・」
だが実に底意地の悪い笑みを浮かべる雌竜に負けじと声を張り上げた瞬間、無防備に曝け出されたワシの喉元に再びその巨大な牙が近づけられた。

「フフフ・・・もう少し長生きしたいのなら、あまりあたしを怒らせない方が身のためだよ・・・」
そう言いながら、雌竜が昼間噛み付かれた時にできた首筋の小さな傷を舐め上げる。
お前の息の根を止めることなど朝飯前だとでも言いたげなその余裕たっぷりの仕草に、ワシはグッと声を押し殺したままひたすらに牙を食い縛って耐え忍んでいた。
「い、一体ワシをこれからどうするつもりなのだ・・・?」
だがやがてペロペロと首筋に味わわされる執拗な舌責めに自慢の忍耐力も限界を迎え、ほとんど動かせぬ首を精一杯仰け反らせたままそう雌竜に訊ねてしまう。
そしてその問いに返ってきた雌竜の言葉を聞いて、ワシは思わず自分の耳を疑った。

「なぁに・・・お前には毎晩このあたしのまぐわいの相手になってもらうだけさ・・・嫌とは言わせないよ」
「は、初めからそれが目的だったのなら、素直にそう言えばワシはいくらでも応じてやったというのに・・・」
ドンッ!
「ウグッ・・・!」
その瞬間重々しい肉と肉のぶつかり合うような鈍い音とともに全身に凄まじい衝撃が走り、鎖に巻かれていたはずのワシの体が一瞬くの字に折れ曲がる。
一体何事かと思って閉じていた目を少しだけ開けて見ると、どうやら雌竜が仰向けになったワシの腹に目掛けてその太い尻尾を思い切り振り下ろしたらしかった。
「ガ・・・アウ・・・グアァ・・・」
ジャラッ・・・ジャラララ・・・
ロクに身を守ることもできぬまま腹へと叩き付けられた強烈な尾撃の威力には流石のワシも耐え切れず、雌竜の前だというのに息の漏れるような苦悶の声を上げながら鎖を鳴らしてのたうち回ってしまう。
「フン、何を勘違いしてるのさ。あたしにとっては、お前なんて所詮使い捨ての玩具でしかないんだからね」
そして雌竜からそんな屈辱的な言葉を投げ掛けられると、ワシはついに反抗する気力も失って無言のまま荒い息をついていた。

一方その頃、雌竜の余興に付き合わされた男達がようやく竜神様のいなくなった寂しい村へと辿り着いていた。
山を下りている間中ずっとこの胸に去来していたのは、憎たらしい雌竜の脅されてやったこととはいえあの竜神様に自ら鎖を掛けてしまったという重い罪悪感。
くそ・・・俺は何てことをしちまったんだ・・・
その痛恨の思いは他の男達も皆同感だったらしく、誰もが自分のしてしまった行為を思い返してはそれを詰るかのようにじっと己の両手を見つめ続けている。
もし今頃竜神様があの残酷な雌竜に酷い目に遭わされていたりなどしたら、その原因の一端は俺達にもあることになるのだ。
だが・・・今更いくら悔やんでみたところで、全てはもう後の祭り。
やがて男達が1人、また1人と無言のまま自分の家に帰っていくのを見届けると、俺も暗く沈んだ面持ちを浮かべながらそっと我が家に入っていった。

ズシ・・・ズシ・・・
翌朝、俺は外から響いてきた大地が揺れるような足音で目を覚ましていた。
昨夜は竜神様のことが気になってなかなか寝付くことができなかったせいでまだかなり眠かったものの、聞き慣れた重々しい足音がそんな俺の眠気を吹き飛ばしていく。
「まさか・・・竜神様・・・?」
だが竜神様が戻ってきたのではという淡い期待を踏み躙って森の中からのそりと姿を現したのは、昨日村を襲ってきたあの憎たらしい雌の巨竜の方だった。
こいつが村へやってきたということは、きっと竜神様の代わりにあの洞穴へ棲み付くつもりに違いない。

しかしそれよりも気になるのは、あの洞窟に囚われた竜神様が一体どうなってしまったかの方だ。
まさか俺達にあれだけのことをさせておきながらあっさりと竜神様を殺してしまったとは考えにくいが、どことなく満足げな笑みを浮かべている雌竜の様子を見る限り竜神様が無事に済んだとも思えない。
そしてしばらくすると、俺と同様に雌竜の足音で目を覚ましたのか昨日竜神様とともに山の洞窟へ同行させられた男達が次々と雌竜の前に集まり始めていた。
正直あの雌竜の真意が計り切れていないのが少し不安だが、俺もあそこへ行くべきだろう。
しばし迷った挙句にそう結論すると、俺は素早く服を着替えて家の外へと出て行った。

やがて昨日と同じく村の入口に佇んでいた雌竜の前へと辿り着くと、そこにあったのは何時の間にか村中の者達が集まってできたと見える大勢の人だかり。
まるで敵から身を守るかのように寄り集まった彼らが雌竜に向けている視線は決して友好的なそれではなく、むしろこれ以上ないくらいの憎しみと敵意に満ち溢れていたといってもいいだろう。
「お、おいお前!今度は何をしにきやがった!」
「そうだ!もうこの村に用はないんだろ!それにあの竜神様を痛めつけたりしたら、俺達が黙っていないぞ!」
先程から雌竜に向かって大声で罵声を浴びせ続けている彼らも、時折見られる声の震えから察するに内心ではいつその爪牙の矛先を向けられるかと怯えているのに違いない。
だがやがて村人のほとんど全員が目の前に集まり終えた頃合いを見定めると、それまで村人達の罵声を涼しい顔で聞き流していた雌竜の眼に突然鋭い光が宿っていた。

「お黙り!!」
次の瞬間、ゴオッという激しい空気の震えが雌竜の一喝とともに村人達の間を駆け巡る。
ギュッと身の縮むようなそのあまりの迫力に、頻りに声を張り上げていた者達が急にしんと静まり返っていた。
そしてその場にいた全員が恐怖に凍り付いたのを確認すると、雌竜がおもむろにこちらへ向かって足を踏み出す。
ズ・・・ズシ・・・
「ひっ・・・」
「あ・・・あぅ・・・」
そんな突然の雌竜の肉薄に詰まった息を吐き出すような短い悲鳴がいくつか重なって聞こえてはきたものの、その場から動くことができた者は誰1人としていなかった。
いや正確には、今逃げ出せば確実にこの恐ろしい巨竜の餌食になることをここにいる全員が理解させられたのだ。

「今日からお前達の竜神様はこのあたし・・・誰か異論のある奴はいるかい・・・?」
更には不気味に低めた声でそう言いながら、雌竜が薄っすらと細めた眼で無力な群衆をグルリと眺め回す。
もちろん、異論など到底挟めるはずもない。
竜神様もいなくなってしまった今、この雌竜に目を付けられて生きていられる可能性など万に1つもないのだ。
「フン・・・どいつもこいつも腰抜けばかりだねぇ・・・そら、わかったのなら供え物の1つでも持ってきな!」
そして誰も反抗できないのをいいことにそんな傲慢極まりない命令を下すと、雌竜が左右に分かれた人々の間を悠然と歩きながら村の奥にある大きな洞穴の中へと消えていった。

「おい・・・俺達、一体どうすりゃいいんだ・・・?」
「そんなこと言っても・・・あいつに逆らったら殺されるだけだぞ。お前だって昨日のを見ただろう?」
洞穴の奥で聞き耳を立てているであろう雌竜に聞こえぬように、そんな声を潜めた会話があちこちで交わされる。
今日のところは洞穴の中に昨日竜神様にお供えした物が大量にあるだろうから問題はないが、明日以降もこんな調子であいつが村の人々を脅かすようであればこれは由々しき事態だと言えるだろう。
あの雌竜のいる洞穴に1人で入ろうものなら誰にも気づかれぬまま食い殺されてしまってもおかしくないし、ましてや村人達の願いを聞いたり相談に乗ってくれるようなことなど望むべくもない。
そして結局、その日は丸1日誰も洞穴に近づかないようにして今後の雌竜の動向を見守ることになった。
それはあの雌竜に対する非力な俺達なりのささやかな反抗ではあると同時に、村人達から期待通りの反応を得られなかったあいつが一体どういう行動に出るのかを観察するためでもある。
高く昇った太陽が徐々に西に向かって傾いていくにつれて、村人達は皆自分の家に閉じこもったまま今にも業を煮やした雌竜が洞穴から飛び出してくるのではないかという予感にじっと息を潜めていた。

ドスッ・・・ドスッ・・・
やがて朱に染まった西の空がすっかりと深い藍色に染まりきった頃、恐らくは雌竜のものであろう軽い地響きを伴った足音が村の中に響き渡った。
人間達に徹底的な無視を決め込まれて苛立っているのか、雌竜が1歩足を踏み出す度に力強く地面を踏み鳴らす。
そして何事も起こらぬままいつしかその不穏な足音も何処か遠くへと消えてしまうと、それまで静かに外の様子を窺っていた男達が恐る恐る家の外へと出てきていた。
「あ、あいつ・・・一体どこに行ったんだ?」
「きっと竜神様の様子を見るためにあの洞窟へ行ったんだろう」
「竜神様・・・まだ無事なのかな・・・」
何の予兆もなく突如として村を出て行った雌竜の行方を巡って、男達の間にそんな希望を孕んだ憶測が飛び交う。
だがやがて1人の男が発したある言葉に、周囲が一瞬静まり返った。

「・・・後を尾けてみようか?」
「え・・・?」
「こんな夜になってから、あいつが一体森に何をしに行ったのか確かめるんだよ」
それは一見すると明らかに無謀な提案に思えたものの、意外にもその場にいた男達の何人かがすぐに興味を示す。
「悪くない話だな・・・どうせこのまま何もしなければ、この村もいずれはあいつに食い潰されちまうんだ」
「それにもし竜神様が生きていたとしたら、まだ俺達にも希望があるかも知れん」
「そうだ・・・竜神様なら・・・竜神様ならきっと、今度こそあいつを何とかしてくれるはずだ」
その活発な議論を黙って傍で聞いていただけのこの俺も、成る程確かに言われてみれば何か行動を起こす必要があるような気がする。
村長の代わりを務めていた竜神様がいない今こそ、俺達が村のために行動を起こす番なのだ。
「よし・・・あいつの後を尾けてみるとしよう。だが目立つとまずいから、森に入るのは3人だけだ」
「他の連中はどうするんだ?」
「村の皆に状況を説明して、もしあいつが戻ってきても不自然な振舞いをしないようにしておいてくれ」
他の人々にも話を通しておくのは山の中で雌竜を見失ってしまった場合の保険であると同時に、万が一後を尾けていることが雌竜にバレた時にこれ以上村に被害が及ばないようにするためでもある。
「わかった。それで、一体誰があいつを尾けるんだ・・・?」

やがて暗闇の中で行われた話し合いによって、雌竜の後を尾ける3人の男達がようやく決まっていた。
この俺も、当然のことながらその3人の中に含まれている。
「よし・・・行くぞ」
そして村に残る大勢の人々に向かって軽く手を振ると、俺は2人の男達とともに不穏な闇に包まれた森の中へと静かに身を滑り込ませていった。

ガサガサ・・・ガササ・・・
淡い月明かりすら届かぬほどに深い森の中は、まるで水を打ったように不気味な静寂に包まれていた。
そんな暗がりの中を手探りで歩きながら、おぼろげに残っている昨日の記憶を頼りにあの大きな洞窟を目指す。
実際のところ雌竜もそこを目指しているという確証は何もなかったものの、まさかこんな夜になってから腹を空かせて狩りに出かけたわけではないだろう。
そしてその予想を裏付けるかのように、森の奥へ進むにつれてあの雌竜の足音が遠くに聞こえ始めていた。
巨木の立ち並ぶ森の中では俺達でさえ欝蒼と生い茂る草木を掻き分けてようやっと歩を進めているというのに、あの巨体を誇る雌竜が通れる場所となればかなり限定されてしまうのは間違いない。

だが、最後まで決して油断はできなかった。
確かに雌竜に気付かれずに後を尾けなければならない俺達にとってはそれは相当に有利な条件ではあったものの、下手をすれば命をも落としかねない危険な状況であることに依然として変わりはない。
ズッ・・・ズッ・・・
そして木々の間を縫って届いてくる足音を聞き逃さぬように闇の中を進んでいくと、雌竜がやがて薄っすらと見えてきたあの大きな洞窟へと入っていった。
「やっぱりあの洞窟か・・・」
「この後はどうするんだ?いくらなんでも、まさかあそこへ入っていくわけにはいかないだろう?」
「いや・・・このまま朝を待とう。もしあいつが出てきたら上手くやり過ごして、竜神様を助けに行くんだ」
俺は背後の2人に向かってそう言うと、夜風を凌げそうな大きな木の根元へと静かに腰を下ろしていた。

ズシ・・・ズシ・・・
突如として広大な洞窟の中に響き渡った、不吉な巨竜の足音。
ワシは昨夜と同じく仰向けに地面の上へ縫い付けられた姿勢のままその憎き同族を睨み付けると、何よりも先に胸の内で1番気になっていたことを雌竜に問い質していた。
「あ、あの村の者達には手を出したりしておらぬだろうな!?」
「フン・・・この期に及んでまだあんな人間どもの心配をしているなんて、お前も呆れた奴だねぇ・・・?」
「どうなのだ!?さっさと答え・・・グアッ・・・ア・・・アアァ・・・!」
ドスッ・・・グリ・・・グリグリリ・・・
だが返答をはぐらかそうとする雌竜に思わず大声を張り上げようとしたその瞬間、全身を縛める鎖の間から露出していた小さく萎んだ肉棒を巨大な足で踏み付けられてしまう。
そしてグリグリとまるで擦り潰すかのように肉棒を左右へ踏み躙られると、そんな屈辱を伴った暴力的な快感に固くしこった雄槍が股間から聳え立っていた。

「グ・・・グウゥ・・・」
「フフフ・・・人間思いの竜神様も、こっちの方には随分と素直じゃないか・・・アッハハハハ!」
「お、おのれぇ・・・言わせておけば・・・」
逆らい切れぬ快楽にそそり立たせてしまった肉棒を雌竜からジロジロと眺め回される度に、雌如きに成す術もなく弄ばれているという悔しさがワシの雄としての尊厳を容赦なく責め詰る。
だがやがてワシの上に覆い被さってきた巨竜の顔に昨夜も見せつけられた凄艶なる雌の表情が浮かぶと、これから味わわされることに対する激しい恐怖と微かな期待がワシの全身から一切の力を奪っていった。
ジュル・・・クチュ・・・
真っ暗な洞窟の中に、淫靡な粘液の弾ける断続的な音が鳴り響く。
その直後、天を衝くかのように真っ直ぐと伸びたワシの肉棒の先へ妖しく花開いた雌竜の蜜壷が迫ってきていた。

ジュプ・・・グチュヌブヌブ・・・
熱く熱せられた膣の中の空気を押し出しながら、目一杯に張り詰めた怒張が灼熱の肉の海へと溺れていく。
「ウ、ヌゥ・・・」
ガチャチャ・・・ジャラッ・・・
そんなまるで全身の血液が沸騰するかのような凄まじい快感を余す所なく肉棒へと塗り込められ、ワシは必死に身を捩りながら射精を堪えていた。
「おやおや・・・もう限界なのかい?まだ入れたばかりだってのに、随分と情けない雄だこと」
「グ・・・ウ・・・クゥ・・・」
膣の中に入れているだけでもじんわりと肉棒を締め付けられる快感に果ててしまいそうだというのに、ワシはこれから鎖に繋がれて身動きも取れぬまま朝まで思う存分こ奴の玩具として嬲り者にされるのだ。
今朝も危うく意識を失いそうになったところでようやくこ奴から解放されたというのに、連日連夜こんな拷問を味わわされていたのでは到底身がもたぬというものだろう。
だが今更この残酷な巨竜に抗う術など到底あるはずもなく、ワシはグッときつく目を閉じたまま長い夜の訪れに向けてひび割れた覚悟を築き上げていた。

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