龍根奇話

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 ――朝起きたら、アレがアレになっていた。

 (落ち着け俺)

 息を吸って吐いて、呼吸を整えこめかみをグリグリと抉り込むように刺激する。

 『痛っ!』

 少々やり過ぎたが完全に目が覚めた。うん覚めたそうに違いない今度こそ。

 ゴソゴソ。

 ――パジャマをまさぐり、再度アレを確認。

 グネッ。

 『……』

 イヤな感触。思い切って下着まで引き摺り下ろす。

 グネグネグネグネ。

 『う、う! うわぁああああああ!』

 ――視線の先に確かにソレはいた。今度こそ間違いない現実。

 (な、な、何?、ナニが起こったんだぁああああ?)

 いや起きては、正確にはおっきしてますが何か? いや何かって俺のナニが、ナニが!

 (り、りりりり、龍?になっちまった?)


 朝っぱらから丸出しになった俺の股間。どっちかと言えば自信の無い愚息の変わりに
悠々とそそり立ちうねる、龍の首。
と言っても東洋系っぽいのでどこまでが首でどこからが胴体かイマイチ分からないのだ
が……結構冷静だな俺。

 『……っと』

 なんとなく触って見る。しゃりしゃりとした鱗と蛇腹を撫でる、いや撫でられる感触が
心地良い。感覚は基本的にアレのままか。俺の感覚を反映してか龍も気持ちよさそうに目
を閉じていた。

 『うっ……!』

 軽く握り締めてしごくと、いつも以上の欲望が漲って来る。押し流されるように俺は行
為に没頭していった。

 『グゥッ…グルルル……グッ』

 『ぐっ……クウウッ……うっ』

 (やべぇ。気持ち良過ぎる)

 愛撫を加える度股間から龍の呻きが漏れるが、それは俺と完全に一致していた。普段は
声なんて出した事はないが、それもまた凄く気持ちがいい。持続時間もいつにも増して長
くなっているような気がする。

 (――そろそろ、イキたい)


 どれぐらい続けただろうか。欲望の開放を思った途端、まるで堰を切った様に熱い絶頂が訪れた。

 『グル、グオオオオオオッ』

 『うっ、うああああああっ』

 アダルトビデオみたいに言葉にすらできない快楽の叫びが、龍の咆哮と響き合う。視界
が霞む中、部屋を汚したという後悔すらささいになる満足感に俺は酔った。

 ドサッ!

 『うっ! ……しまったっ!』

 平衡を失い、背後のベットに倒れた衝撃で少し自分が戻る。慌てて目の前の惨状を確
認。PC確かつけっぱなしだったっけ……修理に出す時どう言い訳をしたらいいものか。

 『ありゃ?』

 コトが済んだ後の生臭い、自己嫌悪を伴う粘液はどこにも付着していなかった。
結構派手にぶっ放した気がするのに……思わず股間の龍をしごいてみる。

 『グァアアッ』

 『ぐぁああっ』

 軽い射精感。もしかしたらあの機能もおかしくなってるのか?


 (もうコレは人間の……じゃない?)

 異形と化した器官に対し遅すぎる恐怖が湧き上がる。身体は正常に反応し龍も萎えるが、
それでもぐねぐねと意思に反したうねりを見せて――こちらに鎌首を向けた。

 『グル……?』

 『ひっ……?』

 明らかな意志を持った龍の瞳が、俺の我慢の限界を越えさせる。

 (い、いいいいイキて、生きてるるるうるる?)

 『うぁああああああああああ!』

 気が付くと、身支度もそこそこに俺は家を飛び出していた。

 『龍根症ですね』

 取るものも取らず駆け込んだ、某医院の一室。診察に当たった若い医師は淡々とした口
調で俺の病状を告げた。

 『りゅう……ナンデスッテ?』

 『グルルル……グルル?』

 途中で声が裏返ったのは聞きなれない単語のせいというより、相手の余りにそっけない
態度だった。ヒトが一大決心をして己の恥部を晒していると言うのに……まるで単なる風
邪の様な扱いに怒りを覚える。(ついでにいうと股間のアレの無邪気な唸りにもだ)

 『"龍根症"。かいつまんで言うと男性器が龍になる病気です。原因は不明ですが長期間
性交経験の少ない、あるいは皆無の方に多いという事が判明しています』

 相も変わらず事務的に解説を続ける目前の推定男・職業自称医業従事者。本当に同じモ
ノをぶらさげている(いた)のかと信じられなくなる。(どうせ今の俺よりお粗末なのは
間違いないが!)

 『とにかく……治療法は……』

 怒りと不安で途切れるようにしか声が出せない俺を、医師はバッサリと斬り捨てた。

 『お気の毒ですが、現時点で有効なものはありません』

 『んなっ……』

 ガタンッ!

 椅子の跳ねる派手な音。下半身が裸なのも厭わず俺は仁王立ちになる。


 『落ち着いてください。命に別状はありませんので』

 『これが落ち着いていられるかっ! この、この……』

 藪医者とは流石に言えない程の理性は残っていたが、それもそろそろ品切れだ。この診
療機械の外装を引っぺがして、自分と同じ性別か確かめてやろうと決意する。

 『暴れる前にこれだけ聞いて頂けませんか』

 動揺した風も無く――軽く手を挙げて医師は俺を制した。

 『厳密には治療法は無いわけではありません。ですが私としてはお勧めはしかねます』

 一瞬だが彼の無表情に沈痛な翳りが射した、ような気がする。

 『――手術による除去。何を意味するかはお分かりですね?』

 『ん、なっ……』

 『グ、ガガ……』

 ……ガタンッ。

 椅子のカタつく空しい音。下半身が裸のままなのも構わず、俺(と限りなく龍っぽいイチ
モツ)は脱力感に力なくへたり込んでしまった。

 『アフターケアも含めますと、日本国内法では対処しかねる部分もありますが、現在特
例で性転換処置を行えるように――』

 その後の録音テープの様な医師の説明は殆ど覚えていない。まともにものを考えられる
様になったのは、自宅のベットに辿り着いた後だった。


(俺は……どうしたら……ちくしょう)

 全てを投げ出し放り出し。枕に顔を埋め泣きながら束の間のまどろみに身を委ねる。

 もう、何も、考えたく、ない……。

 ――数時間後。

 『くそっ……ハハッ。夢じゃない、よなぁ』

 空腹にも後押しされて眠りは長くは続かなかった。意外とすっきりとした目覚めの後、
僅かな希望を持って下着を下ろしたのだが。

 『!……グル?』

 不思議そうにこちらを見上げる股間の龍。通称龍根症を患った俺の愚息は主の胸中な
どどこ吹く風といった感じで無邪気に視線を送ってくる。その瞳に確かな知性が感じられ
るのは錯覚だろうか。

 『ちくしょうっ。お前の、お前のせいで俺はっ……』

 俺は思わずそいつに怒りをぶつけたくなった。殺さんばかりの勢いで龍の首根っこを押さ
えて思い切り締め付け――。

 『思い知れ! この……このぉうっ? うくっ!』

 痛みではなく膨張する快楽に俺は仰け反った。見ると龍は刺激に反応したのか明らかに
勃起(?)して太く逞しく、堂々と反り返っている。(まともな愚息だったらどんなに心
強かったか)


 『グルゥ~♪』

 また龍が俺を見た。促しているかのように。その魅惑に理性では抗えなかった。
ああ、俺の、クソッタレ。

 『うっ……うう……ううううっ!』

 ――数 時 間 後。

 『ハァ……ハァ……まだ、硬いのかよ。た、たまんねぇ』

 『グルルルルルルル』

 満足げな唸り声と息も絶え絶えな喘ぎ声が、テレビを聞き流すかのように意識を通り過
ぎる。自己最高記録をぶっちぎりで更新した自慰の連続に俺は崩壊寸前だった。

 『もう、勘弁してくれぇ……』

 自分の愚息に哀願すると言う非常にシュールな光景も、当の本人には真面目な死活問題
と化していた。あの藪医者め。どこが命に別状は無いだか。

 【そうじゃの。そろそろ安定してきたしの】

 『……はい?』

 【礼を言うぞ我が依り代よ。やはり現身(うつしみ)の味は格別じゃ】

 厳かに龍が、いや愚息が、喋った。


 ……いくらなんでも、んなわけない。コイツは由緒正しき現実的な難病。きっと神経衰
弱で幻覚と幻聴が、だ。ここは一度睡眠をとってから忌々しいあの病院へ行こう。
うん早くそうしようおやすみなさいぐっとナイト。

 【――たわけが】

 ムギュウウウ!

 『ひぎっ!……』

 呼吸が止まった。止められた。

 『イッ、痛;あ。をjぢwhづうd!!』

 こ、こい、コイツよりによって、た、タマを、玉を……。

 『く…く、う、うぅ~っ』

 どこからともなく生やした腕で、容赦なく握りつぶそうとした、らしい。痛みで視界が
ぼやけて涙と鼻水が垂れ流しになる。床に激しいキスをしない様に身体を支えるので精一
杯だった。

 【大げさに騒ぐなフヌケめが。大事に成る程してはおらんわい】

 頭に響く皮肉げな声。理屈抜きで俺は悟った。というより最初からわかっていたのを認
めたくないだけだったのかもしれない。

 (コイツは……本当に……生きている)

 ――あくまで、俺の、ナニだが。

 ――数分後。

 そりゃあ衝撃の事実だったが……いつまでも浸っているわけにもいかせてもらえず。
お約束どおりというべきか、状況説明のお時間となったのだが。

 『詰まる所お前は俺のナニに憑依した悪霊か妖怪ってわけか? あぁいでででっ!』 

 ムギュウッ。

 【無礼者が。我をいかがわしいモノ扱いしおって】

 またもや股間の龍に急所をムンズと掴まれ激痛にのけぞる俺。破裂でもしたらどおすん
だよっ!

 【ちゃんと加減はしておるから安心せい。そなたの鍛え方が足りんだけだ】

 どうやって鍛えろと仰いますかこの御仁は。心中で慎重に毒付きながら、俺は改めて龍
が話した(というより思考が繋がってるらしいが)経緯を整理してみる。

 "簡潔に話すとだ。我はそなたが呼んだが故ここに在る。それが全てじゃ"

 『……』

 簡潔ですが端折り過ぎて全く説明になっていませんしわかりません。俺は無駄な時間を
過ごした事を後悔した。

 【まぁ、人間の思考では理解できなくとも仕方あるまい。そう落ち込むな。】

 励ましているつもりなのか龍が偉そうに深々と頷く。俺は思わず怒鳴りつけていた。

 『神様でもできるかっ! このアホっぐええええっ』

 ムギュウウウウウ!!

 あ、あぁ……こ、この、股、また掴みやがった。気力を振り絞って激痛に耐えると俺は
龍に詰問する。


 『で……お前、いつ出て行く気だ?』

 もはやコイツの正体などどうでもよくなっていた。こんな超常現象と一秒たりとも一緒
にいられない。早く出て行け俺の青春と性春を返せ。

 【さぁて? どうしようかのぉ~?】

 底意地の悪い笑みを浮かべる龍。予想はしていたがコイツ、性悪だ。あ、いえキツイ性
格をしていらっしゃるあぐええええ。

 ムギュ。ムギュ。ムギュギュ。

 【ぬしの態度がそんなだと、ずっとこのままかもしれんがな?】 

 『く、くぅ。卑怯だ、ぞ』

 玉を指先で軽く弄ばれる。手玉に取られる、という状況をここまで体現しているのは人
類で俺だけに違いない。
このままだと男を引退するのも間近な予感がする。股間を押さえながら俺は無性に悲しく
なった。ろくに人性の楽しみも味わっていないのに、こんな形で握り潰されるなんて……。

 『あ、あんまりだ。畜生。……う、ううううっ、うええええええ』

 涙が止められず俺は泣き崩れてしまった。笑いたければ笑え。こうなったら派手に泣き
喚いてから死んでやる。ああ、死んでやるとも。あの無味乾燥医者にでもコイツをぶった
ぎってもらって道連れだ。


 【……そこまで嫌か?】

 呆れたような、少し傷ついたような調子で龍がおずおずと尋ねてくる。当たり前だ。

 【……じゃがな。我にも出たくても出れない事情があってな。その為にぬしの協力が】

 『何だ何だ! できる事はなんでもするから早く言ってくれ早く!』

 思わぬ提言に悲しみも痛みも一瞬で吹き飛んだ。俺は感激の余り涙しながら龍の首を引
っ掴んで熱い視線をお見舞いする。それならそうと言ってくれればいいのに。今ならコイ
ツとディープキスでもできる気がした。

 【う、むぅ……分かったからそのなんというか、情熱的に迫るのはや、めい】

 閉口した様子で龍が俺を制止する。照れたように見えるその表情は、何故か少しだけ
(ほんの少しだけ)可愛いと思ってしまった。

 ――あくまで、俺の、ナニだ…が。

 【コホン……ではよいか? まず我はぬしの、その……イチモツを依代にして存在して
おる。ここまではわかっとるな?】

 俺は頷く。

 【故にそこから離れると消滅してしまう、ということじゃな。安定してきたとはいえま
だまだ自立できるほど霊力は溜まっておらんのだ】

 そこで可笑しそうに目を細める龍。その表情はどことなく艶っぽく、なんとなくコイツ
は雌だと直感した。

 【大体我もこんな形で顕現しようとは思ってもみなかったしの。まさに奇縁中の奇縁と
言えよう。くふふ】

 『お前、ひょっとして神か何かなのか』

 ちょっと真剣になる俺。だったらこの神をも恐れぬふてぶてしさも納得がいぐぁああ!!

 ムギュウウウウ。

 【調子に乗るな。たわけめ】

 『し、しまっ、痛ぅ~』

 不用意に発した、いや想った俺の思考は股間の痛みに握り潰された。全くとんでもなく
気難しい御仁だ。これさえなければ――いいと言えなくも無いのに。に?


 【ん? いまぬしはなんと想ったか?】

 互いの疑問符が唱和した、様な奇妙な感覚。いやなんでもない。こんな緑色でウロコび
っしり、日本絵画から抜け出してきたような龍は俺の好みじゃない。やっぱり毛がふさふ
さで、愛らしくて尽くすタイプでアノ時にはさりげなくリードしてくれるような……。

 【……ほほう】

 背筋に氷を突っ込まれたような破滅の悪寒。

【あんな新 参 共と我を比べて……そういうか。そこまでいうか】

 いつの間にか身体(?)を伸ばした龍の顔が俺の正面にあった。やばいやばいまずい不
味すぎですっ。

 『ま、まま股はマッタ、マッタだ。話せば分かる話せば』

 【いやよう分かっとる。そなたが犯した罪の重さは十分にのぉ~】

 俺の制止と懇願に龍は傍目に分かるほどニンマリと笑った。でもお約束どおり目は笑っ
てな……いや処刑前の罪人の足掻きを楽しむサディストの笑みがたっぷりとたたえてたり
して。

 【加減無く、容赦なく、全力でいくぞ……覚悟はよいかの】

 絶望が俺を襲った。さようなら俺の(未来の)嫁。さようなら俺の(未来の)娘。子孫
丸ごと握り潰される激痛に備えて全身に力を込める……。

 ムギュウウウウウウウ!


 『イッ!……痛ぃひぐうううへ、へほ?』

 思いっきり左右に引っ張られた俺の頬。肝心の息子のお宝は……無事だ。安堵よりも呆
然とする俺の耳を(いや脳を)特大の笑い声が圧倒した。

 【フハ、フハ……。フハハハハハハハハハ! たたた、たまらぬっ。ぬしの間抜けなツ
ラがぁっハハハッ、フハハハハハハハ!】

 手を放し俺の股間で身を捩って笑う龍。俺も五月蝿いやら悔しいやらで頭が割れそうに
なり身を捩った。なんてヤツだ。ホントに……本当にもうこれさえなければ!

 【くっ、クフフフフフフッ、ま、まぁ過ぎた事じゃ許せ。大体ぬしの玉は我の龍玉じゃ。
壊してしまっては元も子も無い】

 ちょっと驚いたがスグに合点がいった。龍がよく宝玉を持っているというアレか。

 【まぁ仮の、じゃがな。だがこれのおかげで我はこうして話しておるとも言える。送ら
れてくる精命の力が強ければ強いほどに、我もまた強く在る事ができるのだ】

 龍はそこで一旦言葉を切る。その試すような視線にも不思議と怯まず、俺はコイツの言
いたい事をなんとなく悟っていた。

 『【つまるところ――】』

 俺と龍の声が唱和し、一時の沈黙。ちょっと気恥ずかしいが俺が後の言葉を引き取る。

 『その、精力――を供給し続ければ、お前は独立できるんだな?』

 ものすごく恥ずかしくなった。端的に言うとアレだ。アレをコレしてこーすルという事
ではないだろうかという事。股間の龍もニヤニヤしながらこちらを見ている。

 【意外に察しの良いの。確認の為に言うのじゃが具体的にはオ……】

 『わーわーわー!! わーわーわー!!』

 誰も聞いていないのだが、コイツの口から言わせたくない4文字言葉を俺は必死に阻止
しようと大声を張り上げた……無駄だろうが。わかってる。俺に言わせたいんだろう。

 『言ってやるぜ!うおおおおお!、お、オナ、ニ、ぃ……すればいいんだろうがっ!!』

 【恥ずかしいヤツじゃの。本当に言いおった】

 ケラケラと笑い声が頭に響いて痛い。特に俺の心が。だが言ってしまえばもう怖いもの
は無いとも思った。

 【正解じゃ。本当はまぐわいが一番じゃと思うが……相手すら探せぬ身のぬしには酷と
いう物じゃろう】


 その原因の一端がその様に仰いますかそうですか。だが独り身の欲求不満を舐めるなよ。
俺は一念勃起、じゃなくて発起して押入れの中の封印を解く事にした。

 【む!……ぬ……ぬしは……なんという……まさか】

 徳用ローションに秘蔵のDVD、柔らかいナニか(息子用)に硬いアレ(直腸用医療器
具)。床に広げられる大きな声では言えない漢グッズの数々に、さしもの龍も圧倒されて
いる様で小気味良かった。

 【ま、待て! 我の話はまだ】

 『もう十分わかってるって。待ってろ。スグにエネルギー満タンにしてやっからな』

 【……好きにせい】

 それでは無駄だと思うがの、と呆れた様な龍の声を無視して、俺式発電所は最大出力で
運転を開始した。

 ――半日後。

 『はぁ……ハァァア、ハァ。真っ白に……燃え尽きたぜ』

 DVDを燃料にジェネレーターを焼きつかせんばかり欲望のフルドライヴに、さしもの俺
もはしたない格好で床に伸びていた。電力換算すると少なくとも我が家の一年分は賄える
と思う。


 『どぉーだ! 結構イッタだろう?』

 深い達成感に酔いながら(でないとやってられない)俺は龍に問いかけた。あれだけ扱
かれたのに鱗一つ剥れていないソイツは、大きくあくびを一つ。

 【やはり……話にならぬ。せいぜい1割じゃ】

 とても冷たく、えげつないお言葉を一つ。

 【だから言ったであろう。無駄じゃと】

 最後に鋭い蔑みの視線をくださいやがりました。

 『ななな!、なんでだよ! そんな筈はないだろ普通!』

 話せるようになるまで先程より手間は掛からなかったのだから、もう少し溜まったって
いいだろうに。憤りを隠せず迫る俺を、龍はぽつりと。

 【情けが、足りんのじゃ】

 わけのわからない、けれど何かしら重い言葉を放って止めたのだった。

――情け? 

 言われている事が理解できなかった。そんな俺の心中は文字通り以心伝心で、龍の溜息
が大きく響く。

 【今までの戯れとどう違うのか、と聞きたいのじゃな】

 『当たり前だ。その、オナ……という点では一緒・・・・・・だろう』

 なんとなく言葉が胸に引っ掛かる。自分でも気が付いているのに分からないような、曖
昧で矛盾したもどかしさ。それを何とかして欲しくて、俺は龍に眼で訴えた。

 【我の口から言って欲しそうじゃな。情けないヤツめ】

 ソイツの視線には責める色は無かった。むしろそこには柔らかい優しさがある。反論す
る毒気を抜かれて俺は自分でも驚くほど素直になってしまった。

 『……たのむ。教えてくれ。もうどうしたらいいかわからないんだ』

 事実上の敗北宣言。白旗を揚げたのを実感しつつも、悪い気分はしなかった。

 【くふふ。まぁ頼られるのは受け入れられたという事じゃ。そこは素直に嬉しい】

 龍から向けられる微笑を、俺はなんら抵抗無くそのまま返す。

 【ふふふふっ……くふふふふっ】

 『ははっ……はははははっ』


 お互いに交わされる笑声。驚いた。いつの間にか俺はコイツの事を――。

 【まぁそれは言葉では説明しにくい。頭でっかちなぬしらでは特にな】

 龍が身体を伸ばして迫ってくる。いかん。なんとなく先の展開が読めてきた。

 『ちょッ……ま、まま待て、マッタ』

 ……まったくどこかの同人じゃあるまいし、そもそも俺の好みは(以下略)。

 【好みかどうか。フフフ、試してみるかの?】

 視界一杯に肉薄する気配を感じた次の瞬間、何が起こったのか把握できなかった。

 『う!……うむむうっ……』

 一瞬か、それとも数刻後か。松のような清清しい香りの体温が、俺の口腔に密やかに侵
入しているのを自覚。

 (……お? わわわき、キ、キス! 口に龍が……いやそれって……あ)

 クチュ。クチュ……クチュクチュッ。

 ――抵抗出来ないほど、優しさと魅惑を伴っての龍の口付け。戸惑う俺の舌は、それに
優しく愛撫され、やがて濡れ絡まりながらダンスを踊り始める。

 【導かれるのが、好きじゃったな?】

 途切れる快楽。俺から顔を離し、確かめるまでも無い確認を龍はした。正直ワケが分から
ないし、こんなご都合主義エロゲ的展開なんてアホだと思う。それでも。


 『あぁ……好きだよ。悪いか?』

 【ほんに情けないヤツじゃ。がそれもまた良い。ふふ、鍛え甲斐があるというもの】

 それでも俺は頷いた。状況や過程は釈然としないが、この気持ちは認めざるを得ない。コイツと
なら、ナニするのも悪くないと素直に思える。高まる期待感が実に心地良かった。

 【では、伽と参ろうか?】

 頭に響く甘美な声は、とても楽しそうだった。

 相手が自分の(以下検閲削除)である事への躊躇いが無い訳ではないが、快楽への誘惑
があっさりと打ち勝つ。俺達は口腔で先程よりも深く濃密に交わった。

 『むうっ……はむぅっ』

 【おうぅっ。そうじゃ。もっと深く……】

 緊張も解け、互いを貪りあう事に馴れた頃。龍の手が俺の胴体にそっと廻される。

 【我の……身体を撫でるの、じゃっ……おおお、よいぞ】

 操られるように伸びた俺の手は、蛇体をそっと背中から蛇腹まで思いつく限りの優しさ
で愛撫する。お返しとばかりに爪を引っ込めた指が、やさしく背中を掻いていた。

 『ふはぁっ! こうすると、気持ちいいか? あッ……いい』

 【んっ……くぅ】

 鱗を一枚一枚を愛しむ様に指で撫でたかと思えば、大胆に蛇腹を両手で抱えてゆっくり
と扱きあげてもみる。その度に龍の快楽が高まっていくのが、自分のそれと重なっていく。

 あぁ――そういう、コト、か。俺はふいに理解した。

 【ただの欲望だけなぞ、所詮は空しい。のう?】

 問いかける声に同意し濡れた器官を絡ませる。これまでの欲望の処理――まさしく言葉
通りの行為は空しさを後に残してゆく事が多かった。実に陳腐でありふれてはいるが、俺
が忘れていたのはたった一文字。


 ("アイ")

 考えるだけで恥ずかしい。が必要なのはまさしくそれなのだ。自分へのアイ。他人への
アイ。後者の方、龍の言う『まぐわい』の方が直感的でわかりやすいのは真理だと思う。

 【他者を愛せ。自分も愛せ。さすれば全ては天上の褥じゃ】

 射精を急ぐ必要など、無い。俺は焦らず、ゆっくりと相方を――自分自身を抱く。付き
まとう筈の後ろめたさは快楽に溶け、ただひたすら愛しい。ただひたすらに心地良い。
全身全霊がゆっくりと高まり、満たされていく恍惚に俺は、いや俺達は酔った。

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