忘れようとした記憶

    

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

Lioleia-side
Hunter-side

また、茹だるような暑さの照り付ける季節がやってきた。
不思議な絆で結ばれた人間と愛娘を森に残してこの鬱蒼とした木々の茂る密林に移り住んでから早4週間。
毎晩のように降り頻る激しい雨や涼しい洞窟の中に巣食う不快な虫どもに幾度となく辟易しながらも、私は何とか新たな塒となりそうな美しい縦穴のある洞窟を見つけてほっと胸を撫で下ろしていた。
今頃はもう、あの娘も成体といって差し支えない程に大きく成長しているに違いない。
それにあの人間も・・・

私はそこまで考えると、滝の流れる涼しげな巨洞の地面に蹲ったまま大きく溜息をついた。
この先、もう人間如きとあれ程深く関わることはないだろう。
この密林には私の敵となるハンター以外の人間などは滅多に訪れぬだろうし、あの可愛い娘と離れてしまった今となっては目の前に現れた人間どもを生かしておいてやる道理はどこにもない。
かつてあの娘が生まれる前にもそうしていたように、ちっぽけな虫けらなど散々に蹴散らしてやればよいのだ。
大きな空洞から洞窟の中へと吹き込んでくるそよ風に体を冷やしながら静かに目を閉じると、私はもう1度心地よい眠りにつくことにした。

翌朝、私は雨上がりの晴れ渡った空へと舞い上がって朝食となる獲物を探していた。
そして崖のそばの草原で呑気に草を食む草食竜達が群れを成しているのを見つけると、空腹だった腹がまるで食事を催促するかのようにグルルと唸り声を上げる。
これは丁度いい・・・食いでのある獲物は大歓迎というものだ。
それに満足のいくまで腹を満たせたなら、今日は気分よく木陰で昼寝と洒落込むのも悪くない。
私は草食竜の群れの中から獲物となる不運な1匹を見定めると、自慢の巨大な鉤爪を翳しながら大空を勢いよく滑空していった。

ガッ!ズザザザーッ
ゆったりとした時間の流れる平和で長閑な静寂を最初に切り裂いたのは、鋭い鉤爪が群れの中でも1番大きな草食竜の背に突き立てられた鈍い音だった。
そして強烈な爪撃の勢いをそのままに、巨大な草食竜の体を草の地面の上へと押し倒す。
惨劇の周囲でのほほんと食事に没頭していた他の草食竜達は突然の襲撃者の出現に肝を潰し、グオオオ~というくぐもった悲鳴を上げながらまるで蜘蛛の子を散らすように逃げ出していた。
まあいい・・・この大きさの獲物ならば、たった1匹でも今日1日くらいは空腹に悩まされることもないだろう。
私は背から血を流しながら足元でバタバタと悶えている憐れな獲物と一瞬だけ目を合わせると、その太い喉元に牙を突き立てて一思いにとどめを刺してやることにした。
大きく牙を剥いた顎が近づけられる気配に、獲物の顔に諦観の表情が浮かんでいく。
バクッ・・・グギッ
「グ・・・ゥ・・・」
そしてか細く短い断末魔の声が途絶えると、私は飛竜としての本能のままその生肉をガツガツと貪り始めていた。

バサッ・・・バサッ・・・
太陽の光も遮る程の厚い木々に覆われた森の中、私はすっかり満腹になった腹を抱えて涼しい木陰に降り立つと、巨大な尾を振り回して辺りでやかましく喚き散らしていた邪魔なランポスどもを茂みの向こうに追い払った。
潮の匂いを含んだ爽やかな海風がどこからともなく吹き込んでくるここは、私が新たに見つけたお気に入りの場所なのだ。
かつて森と丘の周辺に住んでいた時も、私はよく澄んだ泉のある木々に囲まれた回廊で翼を休めたものだった。
今頃はきっと、私の代わりに娘があの場所で転寝に耽っていることだろう。
ふふ・・・また、あの娘か・・・
これまでの生涯で子供を産んだことなど数え切れぬ程あるというのに、あの人間との奇妙な関わりのせいなのか最後に産んだ娘だけは、何時まで経っても頭から離れそうにない。
だがそんな淡い思い出もやがて襲ってきた睡魔に押し流されてしまうと、私はそっと暖かい地面の上に蹲って甘い眠気に身をまかせていた。

「ふぅ・・・それにしても、何であいつらいきなり飛び出してきたんだろう?」
心地よいまどろみの中に微かに聞こえた、若い人間の男の声。
薄っすらと目を開けて辺りを見回すと、私のほんの目と鼻の先に1人の人間が立っていた。
しかもあのランポスどもが逃げていった背後を頻りに気にしているらしく、まだ私の存在にも気がついていないらしい。
背に何やら武器のようなものを背負っていることから察するに、恐らくはハンターなのだろう。
だがこれまでに見慣れたハンター達のような分厚い防具を身に着けている様子は一切なく、随分と軽装のようだ。
「グルル・・・」
私は幸せな眠りを邪魔された怒りを込めながらも、低く抑えた唸り声を上げてやった。
それに気付いた人間が何やらキョロキョロと辺りを見回し始めるが、くすんだ緑色の体色が薄暗い森の景色に溶け込んでいるのか、あまりに近くにいるせいで逆に私を見つけられないでいるらしい。
だが人間がこちらを向いたときにそっと体を揺らしてやると、どこかあどけなかった彼の顔に途端に驚きと恐怖の表情が浮かび上がった。

「なっ・・・あ・・・」
突如として目の前に現れた巨大な飛竜を前にして、人間の息の漏れるような声が途切れ途切れに聞こえてくる。
あの様子からするとこの私と戦いにきたわけではなさそうだが、もしこれ以上私の邪魔をするというのなら生かしておくわけにはいかぬだろう。
寝起きの眠気のお陰で体を起こすのも煩わしく、私は相変わらず地面の上に蹲ったまま眼前の人間の動向をじっと見つめ続けていた。

だが流石に逃げ出すだろうという私の予想を裏切り、人間が何を思ったのか背中に掲げていた武器を取り出す。
まさかという思いとともに、私はほんの少しだけ首を地面から持ち上げていた。
やがて細く尖った矢をそれに番えると、人間が情けない声を上げながら弦を引き絞った手を離す。
「う、うぅ・・・うわああっ!」
ヒュン!キン!
次の瞬間至近距離だというのに山なりに飛来した矢は甲高い音とともに私の顔を覆っている甲殻に弾き返され、サクッという小気味よい音を立てて湿った土の地面の上へと突き刺さった。

「グルォ・・・!」
あのまま逃げ出していれば命は助かったというのに、馬鹿な人間め・・・!
私は眠気を運んでくる睡魔を噛み潰すと、ギラリと人間の顔を睨みつけながら体を起こしていた。
その圧倒的な体格差を見せつけられて、憐れな獲物と化した未熟なハンターの腰が砕けてしまう。
「あ・・・ぁ・・・」
ズシッ・・・
だがまだ生に対する執着は残っていたのか、私が肉薄を始めた途端に人間が地面の上を這って逃走を始める。
逃がすものか・・・この私に弓を引いた報い・・・たっぷりとその身に刻んでくれる!
ズシッ、ズシッ、ズシッ・・・
「う、うわあああ・・・い、いやだ・・・」
私に追われながらも必死に助けを求める人間の声が、森の中へと響き渡る。
そんな無力な獲物を見つめる私の怒りの表情は、いつしか嗜虐的な愉悦の表情へと変わっていたことだろう。
やがてあっさりと地面を這い回る人間に追いつくと、私は薄ら笑いを浮かべながら巨大な脚を振り上げていた。

ドシャッ!
「がっ・・・は・・・」
潰さぬように加減したとはいえ、背に振り下ろされた強烈な一撃に人間の体が地面に強か打ちつけられる。
踏みつけられて首を仰け反らせたその人間の苦悶の表情は、私の怒りを和らげるのに十分なものだった。
ドスッ!ズン!グシッ!ゴシャッ!
「あっ・・・が・・・た・・・すけ・・・」
力も無いくせにこの私に楯突いて眠りを邪魔した愚行を詰るように、私は幾度となく人間の体を踏み拉いた。
脚を振り下ろす度に柔らかな地面の上へ人間の体がめり込み、苦しげな声が激しい足音に重なって聞こえてくる。
だがやがてその声すら上げられなくなる程に人間が弱ったのを確認すると、私はぐったりと弛緩したその体をゴロンと蹴り転がした。

「う・・・ぅ・・・」
痛みに顔を顰めながら呻く人間は一見して怪我を負っているようには見えなかったものの、やはり体を動かすことはできないのか少しもその姿勢を変えようとはしなかった。
そろそろ、とどめを刺してやるとしよう。
私は虚ろな眼差しで虚空を見つめる人間の顔を眺めながら脚を上げると、仰向けになったその脆い体をそっと踏みつけた。
メキッ・・・ミシッ・・・
「ひっ・・・や、やめ・・・て・・・」
かける体重を増していく度に人間の細くて柔な骨が上げる悲鳴が聞こえ、脚の裏に頼りない弾力が返ってくる。
呼吸をするのも辛いのか、人間は両目に一杯の涙を浮かべながら爪の間から出ていた手や足を滅茶苦茶に暴れさせて悶え狂っていた。
だがやがて激しい圧迫に窒息してしまったのか、不意に人間がガクリと意識を失ってしまう。
その瞬間、私は思わず慌てて人間を踏みつけていた脚を離していた。

この光景を、私は前にも見たことがある。
2ヶ月近く前、あの人間と初めて出会った日のことだ。
卵から孵った我が子に手を出そうとしていた人間を痛めつけ、そして踏み潰そうと脚を振り上げた瞬間・・・
唐突に脳裏に蘇ったその忘れたはずの記憶に、私は気絶した人間を間近で覗き込んだ。
一体何故だ・・・?この人間は間違いなくハンターだ。しかも、この私に攻撃まで仕掛けてきたのだぞ?
それなのに、どうして私は心の底でこの人間を殺すことに躊躇いを感じているのだろう?
最初から最後まで、こやつに私に対する敵意がなかったからだろうか?
確かにこの人間は私に向けて弱々しい矢を放ちはしたものの、それも飛竜との突然の邂逅に気が動転していたというのならわからぬ話ではない。
だが仮にそうだったとしても、それはこやつの命を奪えぬ理由にはならぬだろう。

そこまで考えた時、私は無意識の内に辿り着くのを避けていたある結論を見出していた。
もしかして私は・・・またあの人間との奇妙な共生を欲しているのだろうか・・・?
ハンターと呼ぶのすら憚られるこの未熟な人間の姿が、私の存在に怯え切っていたあの男と重なって見えてくる。
馬鹿な・・・そんなことなど認めるものか!
私は力なく足元に横たわった人間を殺そうと、鋭い牙の生え揃った顎を大きく開いた。
「グルルルル・・・」
そして目の前の獲物に対する殺意を滾らせるかのように唸り声を上げてはみたものの・・・
やはり、その牙を振り下ろすことはどうしてもできなかった。

ほんの一月にも満たぬ程に短かった人間との生活。
それが今、数十年にもなる私の生涯の大部分を侵蝕しようとしている。
気を失っている今なら、この人間を密かに塒へ連れ込むことなど簡単に・・・
そんな心の内に芽生えた甘い誘惑を振り切るように、私はブンブンと頭を震わせた。
何故火竜である私が、わざわざ人間如きと共に暮らすことを望まなければならぬというのだ?
どうしても殺せぬというのなら、こやつをこのままにしてここを立ち去ればよいだけのことだ。

だがそう心に決めてその場を飛び去ろうと翼を広げた瞬間、さっき1度は追い払ったはずのランポス達の鳴き声が私の耳へと届いてきた。
ギャーギャーとけたたましく喚き散らしながら、茂みの向こうで青い姿をチラチラと覗かせている。
もしや、この人間を追ってきたのだろうか?
いや・・・仮にそうではなかったとしても、この人間をこのままここに放置していれば確実に奴らの餌食になってしまうことだろう。
最早是非もない・・・私は茂みの奥に隠れている邪魔者どもをキッと睨みつけると、仰向けに寝ていた人間の体をそっと口に咥えていた。
背骨を舌で持ち上げるようにして支え、両顎から生えた幾本もの牙が刺さらぬように優しく包み込んでやる。
そしてバサッバサッという音とともに左右に広げた翼を勢いよく羽ばたくと、私はかつてもそうしたように人間を咥えたまま新たな塒に向かって飛び上がっていた。

幻想的な雰囲気を放つ大きな洞窟の奥に、私の見つけた新たな塒が静かに佇んでいる。
かつて他の飛竜どもが住んでいたのか、あの森と丘の塒と同じように岩棚の上に子育てに丁度よい小さな寝床が築かれており、どこからともなく吹き込む風が適度な気温を保っていた。
更にはそこから空へと向かって大きな縦穴が伸びており、実に理想的な住み処が自然に形成されているのだ。
私は気を失った人間を咥えたまま洞窟の中へ降りていくと、硬い岩の地面の上にそっと彼を横たわらせてやった。
飛竜に対する殺気を漲らせた他のハンター達とは違う邪気のない童顔が、私に踏みつけられた痛みと息苦しさに醜く歪められている。

勘違いしている人間達も多いようだが、私は・・・いや、多くの飛竜達は、人間を食料とは見ていない。
私はただ身を守るために、或いは自らの縄張りを侵す邪魔者を排除するためだけに、目に付いたハンター達に襲いかかっているだけなのだ。
だがこの密林は・・・まだ移り住んで1月と経たぬ私にとって縄張りと呼ぶには性急過ぎるというものだろう。
それに落ち着いてよく見てみれば、このハンターも私に危害を加えられるような危険な人間には見えなかった。
だとすれば、一体私にこの人間を殺すどんな理由があるというのか。
私はそんな自らの取った行動に尤らしい理由をつけて納得すると、しばらくして息を吹き返した人間の様子をじっと見守っていた。

「ぐ・・・う・・・げほっごほほっ・・・」
滞っていた酸素の供給を取り戻すかのように苦しげな咳を漏らしながら、人間が薄っすらと目を開ける。
そして地面に横たわったままゆっくりと周囲を見回したものの、どうやら少し距離を取って頭の方に蹲っていた私の姿は視界に入らなかったらしい。
だが自分が何故こんな所にいるのか理解できないといった表情で体を起こした次の瞬間、何の気配が伝わったのか人間が背後に佇んでいた私の存在に気が付いていた。
やがてあからさまに不安げな表情を浮かべてこちらを振り向いた人間としっかりと目が合い、その口から押し殺した悲鳴が漏れ聞こえてくる。

「ひっ・・・」
それに続いて、何やら武器を探るように人間が何もない辺りの地面へと手を伸ばす。
まあ・・・無理もない反応というべきだろう。
経緯はどうあれ、彼が今味わっているのは飛竜に痛めつけられて巣へと運ばれた憐れな獲物の恐怖に他ならない。
やがて彼はどこに隠し持っていたのか私の鉤爪よりも小さなナイフを取り出すと、それをブルブルと震える手で私の前へと突き出した。
「く、来るなっ・・・」
だがいくら精一杯の強がりを口にした所で、逃れ得ぬ死を目前に膨れ上がった恐怖は確実に溢れ出している。

ズッ・・・
私はそっと静かに1歩を踏み出すと、相変わらずカタカタと怯えている人間に首を伸ばした。
そして私に向けて構えたナイフが十分に届く所にまで顔を近づけ、なおも動こうとしない彼の今にも泣き出しそうな情けない顔にフッと湿った息をかけてやる。
更には限界まで張り詰めた人間の緊張の糸を引き千切るように、悪戯っぽい笑みを浮かべて喉を鳴らしてやった。
「グルル・・・」
「ああ・・・ぅ・・・」
カララァン・・・
全ての希望が潰えたことを象徴するかのような、力のない嗚咽。
やがて抵抗は無駄だと悟った人間の手からポロリとナイフが取り落とされ、しんと静まり返った洞窟の中に金属の弾ける音が尾を引いて響き渡る。
だが後はとどめを刺されるのを待つだけだとばかりにきつく目を閉じた人間の様子は、彼を殺す気の無い私にとってはどうしようもなく滑稽で、そして憐れに見えた。

ペロォ・・・
目頭に浮かべていた大粒の涙がポロリと零れ落ちたのを目にして、そっとその塩辛い雫を舐め上げてやる。
熱湯のように熱く滾った唾液を纏った舌が顔に触れた途端に人間がビクッと身を強張らせるが、余程恐ろしいのかその目が見開かれることはなかった。
ただただ声にならない短い喘ぎが体の震えとともに吐き出され、私の鼻先に人間独特の匂いを運んでくるばかり。
可愛いものだ・・・
森と丘で人間と暮らしていた時は娘のことばかり気にかけていて全く気がつかなかったが、私に対して必死に恭順さを示す人間の不思議な魅力に思わずまじまじと魅入ってしまう。
だが、これ以上彼を追い詰めるのはよくない。
そろそろこのいつ終わるとも知れぬ恐怖と緊張と絶望の底から救い出してやらなければ、彼の心の表面に走ったひび割れが大きく裂けてしまうのは目に見えていた。

「・・・・・・・・・?」
しばらくして、何も起こらぬことを怪訝に思ったのか人間の身に微かな変化が起こった。
じっと辺りの音を聞くようにして耳を澄まし・・・私の息遣いを聞き取ったのか人間の喉が嚥下の蠢きを見せる。
そして恐る恐るといった様子で薄目を開けて周囲を見回し、人間の様子を観察していた私と目が合った。
彼は恐らく意識していなかったのかも知れないが、その顔に深い疑問の表情がありありと浮かび上がる。
「グルゥ・・・」
だがそんな人間を安心させるように溜息にも似た小さな声を漏らすと、ようやく彼は自身の安全を悟っていた。

しかし・・・これ以上一体どうすれば私はこの人間に歩み寄ることができるのだろうか?
一応は顔に安堵の表情を浮かべているものの、あの人間がまだ私に強い警戒心を持っていることは否めない。
だが下手に無言で近づけば無為に彼を怯えさせてしまう結果になるだろうし、そうかといって言葉も通じぬのでは意志の疎通もあったものではないだろう。
とその時、私の脳裏にかつての森で人間と暮らしていた頃の記憶がまざまざと蘇ってきた。
その記憶を辿るようにゆっくりと地面の上に低く身を伏せ、人間の方に向けた片翼を少しだけ持ち上げる。
そして言葉など発さずとも心に訴えかけるような切なげな視線を投げかけてやると、人間が意外なほど大きな反応を示していた。

「僕に・・・こっちへ来いって言うの・・・?」
不安げに漏れたその言葉の意味はわからなかったが、恐らく彼は私の不可解な行動を問い質したのだろう。
だが、安易に頷くわけにはいかない。
命を盾に取った高慢な命令などではなく彼自身の意思で私のもとへと来てもらわなければ、とても彼からの信頼を勝ち取ることなどできないからだ。
肯定も否定も含まない、それでいて彼を引きつけて逃がすまいという鋭い眼差しを注ぎながら、私は長い間地面の上に根を下ろしている彼の腰が上がるのを辛抱強く待ち続けていた。

しばらくして、人間がゆったりとした動きで地面から立ち上がる。
そしてギシギシと悲鳴を上げているであろう重い体を引きずりながら、少しずつ私の方へと近づいて来た。
やった・・・!
胸の内一杯に広がった歓喜を彼に悟られぬように必死で押し殺し、そばへとやって来た人間を迎え入れるように翼をもう少し高く上げてやる。
その様子に流石に人間の方もどうすればよいかわかったのか、やがて彼は何も言わずに私の隣へとその小さな身を滑り込ませて来た。
地面に寝そべった私の胸にその柔らかな体を押しつけてくる人間は、もう私に対する恐れなど全く抱いていないように見える。
ハンターなど敵でしかないと思っていたのが馬鹿らしくなり、私は人間の上に優しく翼をかけてやった。

「ああ・・・」
心地よさそうにうっとりと声を上げる人間の様子に、私は何故か心の底から安堵していた。
もしかして私は、番いとなる火竜のいないこの密林に移り住んでからの1ヶ月間、打ち解けられる仲間のいない孤独を憂えていたのではないだろうか?
思えばあの娘を育てていた時の私は、今までにないくらい充実した生活を送っていたような気がする。
娘のための獲物を仕留めた後、今度は人間の食料を求めて豚や猪どもを追い回しては思う存分に炎を吐いて暴れたものだった。
何故あの生活を手放してしまったのか・・・そんな後悔がなかったといえば嘘になるが、心の奥底にこびりついていた人間に対する憎悪のようなものが頑なにそれを認めようとしなかったのだろう。
だからこそ、産まれたばかりの娘は何の抵抗も無く人間との共生を受け入れたのに違いない。
だが私は、またあの充実した日々を取り戻せるかもしれないという期待が胸の内に湧き上がってきたのを感じていた。
この人間が私に心を許してくれたという事実が、あらゆる不安を吹き飛ばしてくれたのだ。

ふと気がつくと、私の耳にスースーという人間の静かな寝息が聞こえていた。
翼を少しだけ持ち上げて中を覗いてみると、人間が気持ちよさそうな寝顔を浮かべて眠っている。
無理もない・・・あれほど私に踏みつけられて気を失った挙句、つい数分前まで私に殺されると怯えていた身だ。
その緊張の糸が切れて、溜まっていた疲れが一気に溢れ出してしまったのだろう。
私も、このまま一眠りすることにしよう。
洞窟の外に覗く薄暗い夕焼け空を眺めながら、私は自らもそっと人間の体に身を摺り寄せると静かに目を閉じた。

ザァーー・・・
ぼやけた意識の内に割り込んでくる、嵐のような激しい雨音。
毎晩のように降り続く密林の豪雨の匂いに、私は珍しく目を覚ましていた。
辺りは既に真っ暗な闇に覆われていて、厚い雲間から漏れた薄い月明かりが長い縦穴を通して洞窟の中に心許ない光の筋を落としている。
一面岩で覆われている地面は縦穴から流れ込んできた雨にしっとりと濡れていて、静かに吹き込んでくる生暖かい風だけが湿り気を帯びた私の体を頼りなげに摩っている。
ふと気がついて温もりを持っていた片翼を持ち上げてみると、人間は相変わらず私の腹にしっかりと体を押し付けながら夢の世界を彷徨っているようだった。

「グル・・・ルルル・・・」
遠慮がちに漏らしてみた唸り声にも、人間が反応する様子は全く無い。
彼はもう、すっかり私のことを信頼しきっているのだろう。
かつて共に暮らした人間もそうだったが、彼らは何故1度は命を奪われかけた相手にこうも安心してその身を委ねることができるのだろうか?
野生の動物達であれば、1度敵と判断した相手に対して警戒心を解くなどということはまず有り得ない。
いつも死と隣り合わせの過酷な環境で生きている者達にとっては、危険に対する妥協などあってはならないのだ。
だが、どうやら人間というものはそうではないらしい。
いつ飛竜に、或いはそこかしこに巣食っている危険な生物達に逆に命を奪われかねないという危機的な状況に身を置くハンターですらが、今もこうして火竜である私の隣で緩んだ寝息を立てている。
彼らにしてみれば、時に命すらもが相手への信頼を表す道具の1つでしかなくなるのだろうか。

私は隣の人間を起こさぬように努めて静かに立ち上がると、心地よさそうな寝顔を浮かべている彼をじっくりと眺め回した。
あまりに無防備なその寝姿を見ている内に、だんだんと説明のつかない妙な疼きが込み上げてくる。
そしてゆらゆらと定まりなく辺りに漂っていた私の視線は、やがて薄い腰皮で覆われていた彼のある場所に釘付けになっていた。
「グ・・・ルゥ・・・」
だがだらしなく弛緩した顎の端からトロリと唾液が零れ落ちた途端、思わずハッと我に返る。

わ、私は今・・・一体何を考えていたのだ・・・?
逆らい難い本能に突き動かされそうになった所までは辛うじて覚えているものの、私はこの数十秒の間の記憶がぽっかりと抜け落ちてしまっているのに気がついた。
まるで何かに焚きつけられるかように体が内側から火照っていく感覚が、たった今感じた不可解な衝動の正体へと私の意識を導いていく。
馬鹿な・・・いかに互いに心を許しているからとはいえ、こやつは人間・・・所詮私とは生きる世界が違うのだ。
こんな吹けば飛ぶようなか弱い命を灯している人間などに、あの雄々しい火竜の代わりなど務まるわけが・・・!

激しい葛藤が、私の中で終わりの見えぬ戦いを繰り広げていた。
いや寧ろそれは葛藤などという生易しいものではなく、深い懊悩というべきだったかも知れない。
かつては虫けらと嘲笑っていたちっぽけな人間に、ともすればこの身を許してしまいそうになることへの抵抗。
そして孤高に生きる飛竜であるが故に、そんな種族の壁に突き当たってしまうことに対する悲しみ。
世に生まれ落ちてから長い時間をかけて醸成してきたはずの高貴な自尊心は、ふと胸の内に湧いたたった1つの極めて単純な欲望の前に敢え無く瓦解の時を迎えようとしていた。

この人間が・・・欲しい・・・

その瞬間理性と野生を隔てていた最後の堤防が砕け散り、本能に支配された甘い奔流が全身を駆け巡っていく。
私は大きく息を吸い込むと、人間の身に着けていた薄手の防具に尖った牙を剥いて荒々しく襲いかかっていた。
ビッ・・・ビリッ・・・ブチッ・・・バリリッ・・・
胸当てを留めていた皮紐が勢いよく引き千切れ、腰巻きが派手な音を立てて破れ落ちる。
そんな欲情した雌竜の暴挙にされるがままに翻弄されて、人間が慌てて目を覚ましていた。
「うっわっ・・・な、何をするんだ・・・レ、レイア・・・!」

ドスッ・・・グッ・・・
「うあっ・・・あ・・・はぁ・・・」
だが突然の事態に思わず起き上がろうとした人間を逃がすまいと、巨大な顎を押しつけて地面の上に縫いつける。
強く胸を圧迫されて漏れた苦しげな声も意に介さず、私は疲れ切った人間の体が動かなくなるまでグリグリと顎を擦りつけるのを止めようとはしなかった。
「ぐぅ・・・うぅ・・・」
やがて私からは逃れられないと悟った彼の目に諦めにも似た切ない光が宿ったのを確認すると、ボロボロに破れた服の間から何時の間にか顔を覗かせていた肉棒へと視線を移す。
これが・・・彼のモノ・・・
巨大な雄火竜のそれとは比べるべくもない小さな小さな雄の象徴が、彼の荒くなった呼吸とともに揺れていた。

パクッ・・・
「ふあっ・・・」
そんな肉棒の挑発的な誘いに打ち負けて、私は吸い込まれるように彼のモノを口に含んでいた。
そして鋭く尖った牙で傷つけてしまわぬように熱く燃える雄を舌先で絡め取り、敏感な粘膜に高温の唾液をたっぷりと擦りつけてやる。
ジュル・・・ズ・・・ズリュゥ・・・
「うあっあっ・・・レ、レイアッ・・・」
バタバタと体を捩りながら、人間が艶のかかった声を上げていた。
そんな女王に備わった嗜虐心を煽り立てるかのような声の響きが何とも耳に心地よく、なおも人間の喘ぎを絞り出そうと執拗に肉棒を揉み拉いてはドクンドクンと脈動を繰り返す固い鏃を舐め上げる。

ギュゥ・・・グリュッ・・・ヌチュッ・・・
「はぁっ・・・レ、レイア・・・もう、だめ・・・」
やがて赤黒い舌のとぐろに捕えられて責め苦を受けている肉棒が、間近に迎えた絶頂の予感にブルブルと戦慄いていた。
「グルッ・・・ガァ・・・ゥ・・・」
そして無心に雄を求めようとする衝動が空気を震わす唸りとなって漏れ出し始めると、とどめとばかりに彼のモノを渾身の力を込めてきつく締め上げてやる。
グジュッジュルルッヌチャ・・・ギギュゥッ
「レ、レイッ・・・う・・・うあああああ~!!」
ビュビュッビュルルルルルッ・・・
次の瞬間、激しい噴出音とともに苦い粘液の味が口内に広がった。
だが勢いよく精を吐き出した肉棒は快楽の余韻に震えながらもなお固く張り詰めていて、限界を迎えた今もなおその奥に熱い滾りを隠していることが窺える。
これで終わりになどするものか・・・!

ジュッジュルルッズゥ~
「あっだ、だめ・・・吸わないで・・・ああ~!」
仕留めたと思った獲物にまだ余力が残っていたことが許せずに、私は射精直後の彼の肉棒を思い切り啜り上げていた。
再び襲ってきた凄まじい快楽に人間の体が激しく跳ね回るが、そんな必死の足掻きも今の私には無駄なこと。
1度交尾の相手に選んだからには、私はたとえそれが人間であろうとも容赦するつもりなど一切なかった。
ズッ・・・ズズッ・・・ズルルッ・・・
ビュルッ・・・ビュルルッ・・・
やがて成す術もなく2度目の限界を迎えてしまったのか、今度は一言の声もないままに勢いを失った精の飛沫が肉棒の先から発射される。
そしてその薄味の白濁も淫靡な表情を浮かべながら残らず飲み干すと、私はようやく人間の肉棒から口を離した。

「はぁ・・・はぁ・・・」
「グルル・・・グルルルル・・・」
長く濃厚だった前戯が一応の終わりを迎えたのをきっかけに、お互いに荒い息をつきながら見詰め合ってしまう。
私は本能の赴くままにあんなに激しく、そして強引に彼を犯してしまったというのに、意外にも彼の顔からは私に対する不信感や警戒心は全くと言っていいほどに何も感じられなかった。
こんな崇高な火竜らしからぬ私を、彼は許してくれるのだろうか?
だがやっとの思いで築いたはずの人間との信頼関係を自ら壊してしまったのではないかという私の危惧をよそに、人間が心底呆れたといったような口調で何かを言い放つ。

「あはは・・・何だ、大したことないじゃないか・・・もう終わりかい?」
何だと・・・!?
正直なところ彼が何と言ったのかはよくわからなかったものの、その言葉の調子から私は何だか酷く侮辱されたような印象を受けていた。
「グオアァッ・・・!」
試しに冷たい殺意を漲らせた威嚇の声を上げてみると、流石にたじろいだのか人間の顔が一瞬だけ引き攣る。
だがすぐにその顔に私を小馬鹿にするかのようなニヤついた笑みが戻ってくると、私は大きな眼を見開いて人間を睨みつけていた。
おのれ・・・この生意気な人間めが・・・!

「ガアァッ!」
ドンッ
「うぐっ・・・」
激しい憤りを込めた短い咆哮を轟かせ、地面の上に座っていた彼を顎の先で乱暴に小突き倒す。
そして威圧するように大きく翼を広げながら倒れ伏した人間の上へと覆い被さると、私は無駄な抵抗を封じるようにその小さな顔をベロリと思い切り舐め上げてやった。
人間の分際で私を侮辱するなど、身の程知らずにも程があるというものだ。どうするか思い知らせてくれる!
腹下に組み敷いた人間の卑小な肉棒を呑み込もうと昂ぶる私の秘所が、早くも熱い粘液に濡れ始めている。
「グルルルル・・・」
怒りに荒らぶる巨大な火竜に組み敷かれて、人間はさぞ絶望的な表情を浮かべていることだろう。
だがそう思って彼の顔を覗き込んで見てみると、そこには先程までと違って驚くほど邪気のない落ち着いた笑みが貼り付いていた。

もしや・・・私は彼の言葉にいいように乗せられてしまったのだろうか?
人間に嫌われてしまうことを恐れていた私に陳腐な慰めの言葉や憐れむような視線を投げかける代わりに、彼は私を挑発することで自然にこの状況を誘発させようとしたのだろう。
一切の抵抗もせずに静かに私の全てを受け入れようとしている彼の表情から、それが私の自尊心を傷つけまいとしての気遣いであったことは十分に理解できた。
人間などに気を遣われるとは、何とも気恥ずかしいものだ・・・だが、さして悪い気がしないのは何故だろうか。
いや・・・種族の違いなどという些細なことにいつまでも拘り続けるのは、もう止めるとしよう。
今はただ、何も考えずに目の前の人間と互いの体を求め合えばよいだけなのだ。
私は自分の心にそう踏ん切りをつけると、長いこと焦らしてしまった秘所を花開いて彼の雄へと狙いをつけた。

ズ・・・ズプッ・・・ズズ・・・
「くっ・・・はぁっ・・・」
火竜独特の高熱を帯びた愛液が淫唇に咥え込まれた肉棒に塗り込められた途端、人間がかつて味わったことのない未知の快楽に火照った喘ぎ声を上げる。
まだ腰も膣も全く動かしてはいないというのに、そんな彼の肉棒は既に限界にまで漲っていた。
ヌリュッ・・・リュリュゥ・・・
「あっく・・・うはぁっ・・・」
「グルゥ・・・グゥゥ・・・」
キュッと収縮した膣が捕えた人間のモノを更に奥深くへと吸い込むと、私と彼はほとんど同時に喜びの声を上げていた。

欲しい・・・彼が・・・彼の全てが・・・力尽くでも構わない・・・!
私の体内で無上の刺激にドクンドクンと力強く戦慄いている彼の雄さえも、熱い欲と肉で容赦なく嬲っては愛し、弄んでは慈しみ、そして何もかも・・・丸呑みにしてしまいたい・・・!
「グルオァァァーー!」
私は逞しく鍛え上げられた両脚でしっかりと濡れた地面を踏み締めると、激しい野生の解放に身を震わせた。
グッ、グシュッ、ヌチャッ、グチュゥッ
そして山のように大きな体を激しく前後上下に振りながら、欲望の赴くままに人間のモノを貪り尽くす。
「くぁっ・・・かっ・・・ふぁっ・・・うあああっ・・・!」
無防備な肉棒に無慈悲に叩き込まれていく快楽に人間が悲鳴とも嬌声ともつかない大きな声を上げたものの、それは寧ろ私の暴力的な興奮を何倍にも増幅させた以外に何の効果も発揮することはなかった。

「ガアッ!グ、グオガッ!グルルァッ!」
「ぐ、ぐうぅ~~・・・!」
頭の中で、白い光が花火のように弾けていく。
彼を、人間を、愛する者を一方的に犯しているという倒錯的な状況が、込み上げる快楽を際限なく膨れ上がらせていく。
ギュッ、ギュウウッ・・・!
「ぐっ、うあああああああ~~~~!」
「グガアアアアアアァーーーーッ!」
深い密林中に響き渡った絶頂の断末魔は、やがて激しく降頻る雨音の中へと溶け込んでいった。

「・・・ア・・・僕・・・お前が好きだよ」
不意に現実へと引き戻された意識の中に飛び込んでくる、甘い人間の囁き声。
私はそのままの姿勢でゆっくりと目を開けると、翼の下に寝転んでいる人間の顔をじっと見据えた。
彼は今、一体何を私に囁きかけたのだろうか?
人間の言葉などまるでわからないというのに、何だかとても大事なことを言われたような気がしてしまう。
だが・・・今はそんなことなどどうでもいい。
私にとっては、こうしてこの人間と平和な時間を共有できていること以上に大切なものなど有りはしないのだ。
「グルゥ・・・」
そして人間の言葉に小さな声で一応の返事を返すと、私は再び幸せな眠りの世界へと旅立っていた。



感想

名前:
コメント:
|新しいページ|検索|ページ一覧|RSS|@ウィキご利用ガイド | 管理者にお問合せ
|ログイン|