光と闇2

    

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~第5章~村の防衛戦

翌朝、エルガイアの見張りについていた男達から連絡があった。
バローネが突如大勢の騎士達を挙兵し、こちらの方角に向かって侵攻を開始したというのだ。
「奴らが来るぞ!みんな準備はいいか!?」
「おお、来るなら来い!こっちにはドラゴンがついてるんだ。奴らが何十人やってこようが、負けるものか!」
「マルケロス王を裏切ったバローネを追い返せ!」
各々武器を持った男達は士気盛んにそう叫ぶと、遠くから聞こえてくるであろう馬の足音に耳を傾けていた。
「・・・来たぞ」
ドラゴンがそう呟いたのに数瞬遅れて、村人達の耳にも幾重にも重なった蹄の音が聞こえてくる。
やがて、森の中から兵装に身を包んだ数人の騎士達が次々と現れてきた。
そして村人達が武装しているのにも関わらず、高慢な態度で声を張り上げる。
「皆の者、よく聞け!この村は今日よりバローネ様の命により、エルガイア国の一部となる!」
「ふざけるな!この村は我々の物だ。とっとと消えやがれ!」
「何だと!?我らに逆らう者は容赦せんぞ!」
村人達の反発を半ば予想していたように、先程の騎士が間髪入れずにそう切り返した。
「黙れ!この村にはお前らに従うような腰抜けは誰1人としていやしねぇんだ!」
「ならば仕方ない。家に火を放て!正義の名のもとに反逆者達の村を滅ぼすのだ!」
平然と部下に放火を命じる騎士の態度に、村人達の怒りが爆発した。

誰に命じられるともなく、木の棒や農作業用の鎌を手にした男達が一斉に騎士達に踊りかかっていく。
だが流石というべきか、彼らは巧みに馬を操ると群がってくる村人達に向けて剣を振るった。
ブン!
「うわっ!」
「うおお!?」
唸りを上げて眼前を通過した鋭利な白刃に、村人達の歩みが止まる。
「いかん!我らも行くぞ!」
男達の士気が一気に下がりかけたのを察知したのか、これまで奥に身を潜めていたドラゴンは勢いよく空へ舞い上がると村の入り口で白刃を振り上げた騎士達に向けて炎を吐きかけた。
ゴオオッという音とともに、紅蓮の炎が3人の騎士達を包み込む。
厚い衣服と鎧のせいで大した被害は与えられなかったものの、突如現れた巨大なドラゴンと炎に彼らの馬が怯え、
けたたましい嘶きとともに上に乗っていた騎士達を地面に振り落とした。
「今だ!みんなかかれぇー!」
後ろから走ってきたレオンの怒声が、騎士の一振りにたじろいでいた村人達の背を押す。
「う、うわああああ!」

数人の村人達に一斉に襲われた不運な騎士達の悲鳴が響き渡る中、放火を命じられた他の者たちは各々が村人達の家に押し入っては金目の物を運び出したり家に残っていた女達を盾に脅迫を始めていた。
「きゃあああ!お、お兄ちゃん!」
とその時、俺の耳に聞きなれた声が飛び込んできた。
反射的に家の方に目を向けると、リリィを抱き抱えた騎士の1人が馬に跨っている。
「く、くそ、退却だ!一時退却しろ!」
怒り狂った村人達によってボコボコにされた騎士達のリーダーがそう叫ぶと、彼らはまるで潮が引くように統率の取れた動きで森の中へと姿を消した。
そして再びリリィを捕まえていた騎士のいた方へ目を向けると・・・いない!?
まさか・・・リリィはあのまま奴らに連れ去られてしまったのか?
「ルース!リリィが・・・妹が奴らにつれていかれた!」
「・・・まかせておけ」
急に焦燥に駆られた俺とは対照的にルースは落ちついた声でそう答えると、バッと大空高く飛び上がった。

「くそ・・・奴らめ、我々に逆らうとどういうことになるのか、目に物見せてくれる!」
森の中をエルガイアへ向けて疾走しながら、騎士達のリーダーがそう叫んだ。
「まあそう熱くなるな。娘を1人捕えてある。こいつを人質にして脅せば、奴らも従わざるを得ないだろう」
得意げに話す騎士の肩に、当身を受けて気絶したリリィが抱き抱えられている。
だが次の瞬間、疎らに降り注いでいた陽光の筋が巨大な影で覆い尽くされた。
そして驚いて上を見上げた騎士達の目に、怒りの表情を浮かべたドラゴンの姿が飛び込んでくる。
「貴様ら、その娘は我の物だ。連れていくことは許さんぞ!」
大気を震わせるような声が響き渡った途端、ドラゴンが木々の屋根を突き抜けて彼らの頭上に姿を現した。
「な、何だこいつは!?」
「おのれ、邪魔をするな!」
だがドラゴンはその言葉を聞き流すと、大きく息を吸い込んで太い尻尾を思い切り左右に薙ぎ払った。
ドスッバキバキッ
「ぐあっ」
「ぎゃあ!」
その強烈な尾の一振りで、リリィを抱き抱えていた者以外の全員が馬の背から叩き落された。
ある者は隣を走っていた騎士の体とぶつかり合い、ある者は道の脇に聳えていた大木の幹に叩きつけられていく。
そうやってあっさりと邪魔者を排除すると、ドラゴンはリリィを抱えて走っていた騎士を彼女ごと巨大な脚の鉤爪で掴んで空へと舞い上がった。
そして両脚で器用にリリィと騎士を引き離し、怯えた表情を浮かべた騎士に向かって問いかける。
「このまま我に握り潰されるか、一縷の望みをかけて飛び降りるか、好きな方を選ぶがいい」
その言葉に、騎士は顔を蒼褪めさせると下も見ずに叫んでいた。
「は、離してくれぇ!」
ドラゴンはニヤリと笑みを浮かべると、騎士の体をポイッと空中に放り出した。
「うわあああああああ・・・」
憐れな男が悲痛な叫び声を上げながら落ちていき・・・厚く積み重なった木々の梢の上に落下する。
「クククク・・・悪運の強い奴だ」
ドラゴンは愉快そうに笑い声を上げると、気絶したリリィを掴んだままレオンの待つ村へ向けて羽ばたいた。


~第6章~作戦会議

妹の身を案じてやきもきしながら待っていると、やがてバサッバサッという羽ばたき音が聞こえてきた。
空を見上げると、リリィを掴んだルースがこちらに向かって飛んできている。
俺はドラゴンの手の内に妹がいることに内心不安を覚えたものの、ルースは彼女の体を尻尾で巻き取るとドオンという音とともに着地して俺の目の前に気絶した妹を差し出した。
「ああ、リリィ・・・よかった・・・ありがとう、ルース」
妹を受け取りながら、ドラゴンに礼を言う。
「フン・・・いずれは我のものになる娘だ。丁重に扱わねばな」
ルースはそれだけ言うと、元のように村の端に向かって歩いて行った。

夕方頃になって、俺は男達を全員村の中でも最も大きな村長の家に集めていた。
「今回は追い払えたが、この次はこちらにドラゴンがいることを知って奴らもそれなりの準備をしてくるだろう」
「じゃあどうするんだ?幸い今日は誰も被害らしい被害を受けちゃいないが、今度もそうだとは・・・」
「方法は1つだ・・・今すぐにでも、バローネを討つ」
俺の言葉に、村人達の顔に驚きの色が浮かぶ。
「そ、それはまだ無茶だ。バローネの野郎は多分、城の中に引き篭って外へは出てこないだろう」
「そうだ、国民の恨みを買ってるだろうからな。それに、あの騎士団がそれで収まるとは・・・」
「あの騎士達はこれまで全くなかった戦いに一時興奮しているだけさ。賢明な君主が治めれば、奴らも収まる」
大の男達が漏らした弱気な声に、俺は声量をもう1つ上げて主張した。
「しかし・・・一体どうやって?」
「ドラゴンと一緒に・・・俺が1人でエルガイアへ行く」
「馬鹿な!それこそ自殺行為だ!」
確かに馬鹿げた作戦にしか見えないが、実際のところ有効なのはそれしかない。
「みんなにはこの村を守っていてほしい。だが村を脅かす元凶を断つのは、この村に救われた俺の役目なんだ」
「だがレオン、いくらドラゴンとはいえ、城の中にまで入っていくことはできないだろう?」
「確かに・・・城の入り口からバローネのいる玉座までの間、ドラゴンの力を借りることはできない」
テーブルの上に乗せられた燭台の灯かりが、村人達の動揺に応えるようにゆらゆらと揺れた。
「無理だ・・・城の中にだって鍛えられた衛兵がゴマンといるだろう。そんな所に1人で・・・」
「それにレオン、お前は特別戦いの訓練を受けたこともないだろう?」
「確かに・・・だが、外でなくてもいい。城の入り口の近くまででもバローネを誘き寄せられれば・・・」
それは、俺の苦し紛れの一言だった。
だが予想だにしていなかった声が、それに応える。
「私が囮になるわ、お兄ちゃん」
バッと家の入り口に目を向けると、そこでは全ての話を聞いていたリリィが心配そうに立ち竦んでいた。

「聞いてたのか・・・リリィ」
「囮になるだって?一体どうする気だ?」
「・・・彼らに捕えられるの。城の前でバローネを侮辱して逃げるわ」
リリィは覚悟を決めるように深呼吸すると、はっきりとした声で言った。
「なるほど、兵士の目が逸れている間に楼閣に降りることができれば、玉座までの距離を稼げるというわけか」
「確かに玉座のある3階には階下ほど厳重な警備は敷いていないだろう。テラスから直接そこへ入れれば・・・」
「いや、だめだ・・・」
初めて否定的な意見を漏らしたレオンに、一同の視線が集中した。
「リリィ、お前にそんな危険なことはさせられない。もし奴らに捕まれば、殺されはしなくても酷い目に・・・」
「・・・ならば、我がこの娘を守ろう」
俺の声をかき消すように、リリィの背後から空気を震わせる声がそう言った。
「どうせ、貴様を城に降ろした後は退屈なのでな」
巨大な顔で家の中を覗き込みながら、ルースがドラゴンらしいしたり顔を浮かべている。
「・・・・・・わかった・・・リリィを頼む」
ルースがついていてくれるなら・・・昼間の一件で、俺はいつしかリリィを捧げると誓ったこのドラゴンに妹の身を任せることを不安に思わなくなっていた。


~第7章~単身エルガイアへ

翌朝、俺はドラゴンの棲む洞窟へ向かった時と同じように胸当てと剣だけを身につけると、妹の手を引いて村の端で待つルースのもとへと向かった。
「準備はよいのか・・・?」
「ああ、行こう」
俺の言葉に応えるように、ルースは地面に身を伏せると翼を大きく左右に開いた。
硬くも滑らかな鱗に覆われた広い背に妹を先に乗せ、その後ろから押さえるようにドラゴンの首を抱き抱える。
「しっかり捕まっておれよ」
バサァという激しい音とともに、ドラゴンの脚が地を離れる。
初めて空から見下ろす村の景色に、リリィがゴクリと息を呑んだ。

しばらく妹とともに空の旅を楽しんだ後、ルースはエルガイア領の境界に当たる森の切れ目にリリィを降ろした。
「気をつけろよ。城の前に着いて空に俺達の姿が見えたら、バローネを侮辱してすぐに逃げるんだぞ」
「わかってるわ。お兄ちゃんこそ気をつけてね。それに、ドラゴンさんも・・・」
「フン・・・小娘に心配されるとは、我も落ちぶれたものだ・・・」
リリィが城に向かって駆け出していくと、ドラゴンは再び大空へと舞い上がった。
兵士たちの目に付かぬように可能な限り高度を上げ、雲の切れ間から城の様子を覗き込む。
「リリィは・・・上手くやってくれるかな?」
「貴様の妹であろう?我に捧げると言った以上、こんなところで傷でも負われて味が落ちてはかなわぬぞ」
ルースの放ったそのおどけた一言に、俺は胸の内に込み上げてきた不安が少し和らいだ気がした。
「む、娘が城の前へ到着したようだ。しきりにこちらを見上げておるぞ」
ルースにそう言われて眼下を覗くと、米粒のように小さな妹が数人の兵士たちに追いかけられて町の中を逃げていくのが見えた。
「逃げ始めたぞ!今だ、早く降りてくれ!」
「黙っておれ、舌を噛むぞ」
ルースはそう言うと、城の真上に向かって猛烈な勢いで急降下していった。
そして兵士たちが無礼な小娘に目を奪われている間に、城の3階へと続くテラスの傍へと降ろしてもらう。
「リリィを頼んだぞ!」
地に降りるなり、俺はルースに向かってそう叫びながら城の中へと忍び込んだ。

無鉄砲な男が城の中へ消えたのを確認すると、我は再び空へ飛び上がって娘の姿を探した。
隅々まで目を凝らすと、城下町の端で4~5人の兵士達に追い詰められている彼女の姿が見える。
奴らに捕まってしまってからでは厄介だ。
我は翼を小さく折り畳むと、人目につくのも厭わずに窮地に陥っていた娘のもとに向けて急いだ。

「バローネ様を侮辱するとは、命知らずな娘だ」
「城へ引き渡す前に、ここでたっぷりと可愛がってやるか」
「へへへへ・・・」
今やエルガイアの兵士たちは、マルケロス王の善政によって抑えつけられていた蛮性を解き放っていた。
山賊さながらのいやらしい目つきでリリィを追い詰めながら、思い思いに欲望を表に曝け出している。
だが1人の兵士が今にもリリィに飛びかかろうとした時、巨大な影が彼の頭上を覆った。
ドガッ
「ぐあっ!」
空から突っ込んできた巨大な赤竜が兵士を突き飛ばし、その体を大きな脚でドスッと踏みつけたのだ。
「急げ娘よ!ここを離れるぞ!」
「は、はい!」
首尾よくリリィの体を抱き抱えると、ドラゴンは慌てふためく兵士達を尻目に空へと飛び上がった。
「お兄ちゃんは?」
「奴ならもう城の中へ入った。今頃は、どこぞの柱の陰でバローネの隙でも窺っておるのだろう」
人間の手の届かぬ空を優雅に舞いながら、ドラゴンは得意げにそう言った。

「何?ドラゴンが現れたじゃと!?そんなもの、弩兵を集めてさっさと撃ち落さぬか!」
報告にきた兵士が怒鳴りつけられている様子を覗きながら、俺は玉座の間の柱の陰でバローネが1人になる瞬間をじっと待っていた。
だがバローネの両側に立っている2人の槍を持った兵士だけは、いつまで経っても持ち場を離れてくれそうにない。
「くそっ・・・」
襲撃のチャンスに恵まれず、俺はじっと息を潜めたまま小さく悪態をついていた。


~第8章~赤竜の告白

「む・・・何だ?」
ふと城の様子を窺うと、何やら物々しい武器を持った兵士たちが楼閣の上に整列を始めている。
「第1弩兵隊、構えぃ!」
リーダーらしき男が我の方を指してそう叫ぶと、その場にいた数十人の兵士達の内3分の1が我に向けてその弓状の武器を構えた。
「放てぇ!」
ドシュドシュッという空気を裂くような音を上げて、返しのついた十数本の矢が我に向けて発射された。
「いかん、飛び道具か!」
この娘を守ると言った手前、彼女に怪我をさせるわけにはいかぬ。
我は娘の身を庇うように弩兵達に背を向けると、恐怖に身を固くした彼女の体を抱き締めた。
ドスッドスドスドスッ
「ぐっ・・・う・・・」
磨き抜かれた鉄の鏃が硬い鱗を突き破り、数本の矢が我の背中に突き刺さる。
「第2弩兵隊、構えぃ!」
だが苦痛に顔を歪めている間にも、背後から再び弩兵達を指揮する男の声が聞こえてきた。
「放てぇ!」
ドスドスッ
間髪入れずに放たれた第2波が、再び背に突き刺すような痛みを注ぎ込む。
「うぬぅ・・・おのれ・・・我をなめるでないわぁ!」
我は苦痛を堪えて兵士たちの方へ向き直ると、集まっていた兵士達に向けて炎を吐いた。
「うおっ!だ、第3弩兵隊・・・放てぇ!」
真っ赤な炎の渦に巻かれながらも、数人の兵士達が苦し紛れに矢を撃ってくる。
娘の身を守ろうと再び兵士達に向けた背と翼に、またしても数本の矢が激しく食い込んだ。
「ぐ・・・あ・・・こ、これまでか・・・」
傷ついた翼では姿勢を保つこともできず、我は娘に怪我だけは負わせぬようにその身を抱え込むと城の前の広場へと墜ちていった。
「だ、大丈夫ですか・・・?ドラゴンさん・・・」
地へと墜ちた我の周りを、弩と槍で武装した兵士が取り囲む。
ドクドクと背中から滴り落ちる血の雫を眺めながら、我は時折薄れそうになる意識を何とか気力だけで保ち続けていた。

「バローネ様!弩兵隊がドラゴンを撃ち落としました!」
「何?本当か!お前達、行って様子を見てくるのじゃ!」
玉座の間に飛び込んできた兵士の報告に、バローネは近くにいた側近達に様子を見に行かせた。
恐らく、これ以上自分に危険が迫る可能性があるのかどうかを確認するためだろう。
俺は兵士の報告に一瞬耳を疑ったものの、邪魔な護衛兵が消えたことでバローネに無理矢理意識を集中した。
そっとバローネの背後に近づき、腰に帯びた剣を振り翳す。
だがその時、玉座の背後から差し込んでいた陽光がバローネの前に剣を振り上げた俺の影を映し出した。
「ぬ!誰じゃ!?」
バローネが反射的に立ち上がったせいで、振り下ろした剣がその肩を掠める。
「マルケロス王の仇だ!食らえ!」
グサッ
第1撃がかわされたにもかかわらず、俺は立ち上がったバローネの胸元に無理矢理剣を深々と突き刺していた。
「うぐぁ!・・・おのれ・・・だ、誰かこやつを・・・・・・」
胸の傷を押さえながらそう声を絞り出したものの、バローネは玉座の前にドサリと崩れ落ちるとそのまま動かなくなった。
早く・・・後は、城の前で勝ち鬨を上げるんだ。そうすれば、この国は元に戻るはず・・・
玉座の間から通じるテラスへの扉を開くと、俺は眼下に集まってきていた兵士と民衆に向けて声を張り上げた。
「反逆の大臣バローネは俺が討ち取った!マルケロス王の意志に従う者はみな武器を捨てるんだ!!」

我を取り囲んだ兵士たちが再び弩を構えた直後、城の方からレオンの声が聞こえてきた。
周囲にいた兵士達にもその内容は伝わったらしく、ほとんど全員が持っていた武器をその場に取り落とす。
そして高らかに勝ち鬨を上げ終わると、レオンは我と妹の姿に気付いて駆け寄ってきた。
「ルース!大丈夫か!?」
「く、口惜しいが・・・どうやら我の命も・・・ここで尽きるようだ」
矢を受けた傷から止めど無く流れ落ちる血が、徐々に我の体温を奪って行くのを感じる。
「そ、そんな・・・」
「ククク・・・人間の頼みなどを聞いて命を落とすとは・・・我も、愚かなことをしたものだな・・・」
だが我の顔を見つめるレオンの顔には、我が予想したような安堵の色など欠片も浮かんではいなかった。
むしろ、我の身を心の底から案じているようにすら見える。
「どうした・・・心残りがなくなって嬉しくはないのか?」
「え・・・?」
「目的を達しても・・・貴様にはその娘を我に差し出すつもりなどなかったのだろう?」

ルースの放った言葉に、妹が俺の顔を覗き込む。
「ど、どうしてそれを・・・」
「フン・・・我が貴様のような若造の嘘を見抜けぬとでも思ったのか?」
「だったら・・・どうして俺の望みを聞いてくれたんだ?」
ルースは疲れ切ったというように自らの血溜まりの中で蹲ると、静かに眼を閉じた。
「初めは力ずくでもその娘を貴様から奪ってやるつもりだった・・・だがあの夜・・・気が変わったのだ」
「あの夜・・・?」
「あの夜・・・貴様は我に名をくれたであろう?ルース・・・光という意味だったか」
俺は数日前、初めてドラゴンを村に連れて来た日の夜のことを思い出していた。
「アビス・・・それが我の本当の名だ・・・暗い深淵や奈落・・・闇を意味する」
「・・・アビス・・・」
「だが・・・貴様のお陰で、我はこれまで闇に閉ざされていた生涯に一筋の光が投げかけられたような気がした」
ルースがゆっくりと俺の方へ顔の持ち上げ、薄く眼を開ける。
「礼を言うぞ、レオン・・・革命を起こしたのは貴様だ・・・ふ、2人で・・・この国を治めるがよかろう・・・」

「ルース!」
だがルースはそれだけ言うと、再び眼を閉じてしまった。
完全に力の抜けたドラゴンの巨体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。
「ルース!済まない・・・俺は・・・俺のせいで・・・」
その場にくず折れながら、俺はルースに向かって必死で話しかけていた。
バローネは倒れた。リリィも無事だった。全て上手くいったのに・・・なのに・・・ルースが逝ってしまう・・・
目からボロボロと不思議な涙が溢れ出し、ルースの血溜まりの中に落ちては丸い波紋を広げていった。
「泣くな・・・小僧が・・・」
眠っているような穏やかな顔で力尽きたルースの口から、か細い声が漏れる。
そして、それきりルースが動くことは2度となかった。
「う、うう・・・うああああ~~~!!」
集まった兵士と民衆によって人だかりのでき始めていた城の前に、悲しげな嗚咽が響き渡った。


~エピローグ~

革命の数日後、俺はリリィとともに彼のマルケロス王がそうしたように城の前の演壇に立っていた。
民と平和を重んじたマルケロス王の意志を引継ぎ、エルガイアを再び平和に治めると民衆に誓うためだ。
そして、あのドラゴンのためにも・・・
「みんな、聞いてくれ―――」

雲1つない快晴の空の下、民衆で埋め尽くされた城の前には前までなかった大きな円形の花壇が作られ、今は赤や黄色の色鮮やかな花々が植えられている。
そしてその花壇の中央には、青銅でできた大きなドラゴンの彫像が建てられていた。
美しく磨かれた台座に職人達が精魂込めて彫り上げた碑文を、ここに読み上げよう。

―――正義と平和の名の下に人間に力を貸し 不運にも尊い命を落とした偉大なる赤竜 ここに眠る―――
―――Luce ?-1476―――



感想

  • 御冥福を祈ります。 -- Nakachik/UP (2009-06-05 14:21:03)
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