雪山の暖2

    

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確かに・・・だがこの心地よさを手放すのは・・・かと言って食ってしまうわけにもいくまい。
どうすればこの人間をここに引きとめておけるのだ?
このまま捕まえておけば逃げられることはなかろうが、人間には食料が必要だろう・・・
そこまで考えたとき、私はある妙手を思いついた。
私が食料を獲ってくる間にも人間に逃げられぬ方法がある。
「フフ・・・フフフフフ・・・」
思わず漏れた笑い声に、人間が恐怖に青ざめた顔で私をじっと見つめていた。

不気味な笑いを漏らすドラゴンの様子に、俺は不安に押し潰されそうになった。
結果がどうであれ、このまま無事に逃がしてくれるつもりはないらしい。
先行きを憂えていると、ドラゴンが突然俺の背中側に回した手を首筋に当てた。
そして着ていたスキーウェアの襟に爪を引っ掛けると、ビィーという音を立てながら俺の服を引き裂く。
「な、何を・・・?」
突然の行動に困惑している間にも、ドラゴンは俺の履いていたズボンまでも引き千切ってしまう。
真っ白な温かい翼に包まれたまま、俺は成す術もなく裸にされてしまった。
それは、吹雪の荒れ狂う洞窟の外には決して逃げられなくなったことを意味していた。
冷たい風が吹きこんでこないお陰で洞窟の奥はそれほど寒いわけではなかったが、それでもドラゴンに温められていなければ凍死の危険がつきまとう。
「あ・・・な、なんてことを・・・」
「フフフ・・・これで逃げようなどという気は起きなくなったであろう・・・?」
ドラゴンはうっとりとした笑いを顔に貼りつけたまま、肌を露出した俺の体をギュッと抱え込んだ。
「ああ・・・いいぞ・・・もっと温めてくれ・・・」
熱を帯びたドラゴンの温かい鱗が肌に擦れる度に、不思議な心地よさが全身を駆け巡る。
火照る俺の体を全身で貪るように、ドラゴンが翼を揺らしながら腹や腕を擦り付けてきた。
「あ・・・はぁぁ・・・」
裸でいるというのにまるで羽毛でできた寝袋に包まっているかのような温かさに、俺は全身の力が抜けていくのがわかった。
気持ちいい・・・どんなに高級なベッドだろうとこれほどの温かさと快適さは生み出せないだろう。
とても雪山の真っ只中で味わえるものではない。
次第に小刻みに震えるように体を揺すり出したドラゴンに、俺は口を半開きにしたまま体をまかせていた。

なんという温かさだ。人肌というものがこれほどのものだとは・・・
厚い鱗を通してすら、体の芯にまで達するような強烈な熱が流れ込んでくる。
私は半ば我を忘れてその温もりを味わった。この人間をもう手放したくない。
当の人間はというと、心地よさに惚けたような表情で私のなすがままになっていた。
「はぁぁぁ・・・あ、温かい・・・」
「フフフ・・・お前も満足そうだな・・・」

若者もドラゴンも、冷たい洞窟の中でお互いに相手の体を求め合った。
相手の体をさすりながら、熱く火照ったところにじっくりと体を押しつける。
快感すら感じられる愛撫と抱擁に耽っているうちに、外の吹雪は何時の間にかおさまっていた。

「む、吹雪がやんだようだな」
裸になった人間にこれでもかと体を擦り付けてその温もりを貪っているうちに、ヒューと甲高い笛のように鳴り響いていた吹雪の音が完全に消えていた。
顔を出した太陽の光が銀幕に反射し、洞窟の奥から見ても雪面が眩しく輝いている。
私はゆっくりと体を起こそうとしたが、驚いたことに今度は人間のほうが私の体に抱きついてきた。
氷点下の中で私の体から離れることの恐怖からなのか、それとも身を包む快楽の虜になったのか、人間は私の大きな胴に両手足を回して、必死で腹の下にくっついている。
「・・・そんなに私の体が気に入ったのか・・・?」
「は、離さないでくれ・・・」
翼を解こうとすると、人間は首を大きく左右に振ってそれを拒否した。
翼の隙間から入り込んだ冷たい空気が剥き出しの背中を撫でると、私に抱きつく手足にさらに力がこもる。
「ここで待っているがいい。何か食べるものを取ってきてやる」
「た、頼む・・・置いていかないで・・・」
洞窟の奥とはいえ、裸の人間は予想以上に寒さを感じているようだった。
このまま置いていけば戻ってくる頃には凍えているかもしれない。服を破ったのはやりすぎたか・・・
「だが、私はこれから外に出るのだぞ?それでもついてくるのか?」
温かい鱗に体を密着させながら、人間がゆっくりと頷く。
「そうか・・・フフフ・・・しかたのない奴だ」
私は広げかけた翼で再び人間の体をギュッと力強く包むと、熱のこもった腹と胸に押しつけた。
その適度な圧迫感と温かさに、強張っていた人間の顔が緩む。
「はぅぅ・・・」

俺はもう、何も考える余裕などなくなっていた。ただひとつはっきりしているのは、この雪山の中に裸で放置されることが死を意味しているということだ。
なんとか暖を取る方法を考えるまでは、たとえどこに連れて行かれようとこの温かいドラゴンの体から離れるわけにはいかない。
幸い、ドラゴンは一緒についていくことを承諾してくれた。俺自身の体温で十分に温められた真っ白な翼に包まれたまま、一面の銀世界へと連れ出される。
翼の中からはみ出した手足に寒風が当たる度に背筋にぞくぞくと寒気が伝わってくるが、体自体は毛布に包まれたように温かい。
その理不尽な心地よさに、俺は別の意味でもこのドラゴンから離れられなくなりそうだった。
腹に抱き付いたまま雪原を歩き続けるドラゴンを見上げてみると、その顔にはどことなく満足そうな表情が浮かんでいた。

サクッ、サクッとドラゴンが厚い雪を踏みしめる度に、その振動が体に伝わってくる。
確かな温もりとともに与えられるその感触は、はっきりと快感といい切れるほど心地よい刺激だった。
ドラゴンに抱き付いたまま、体を左右に揺すって荒い息をつきながらさらなる快感を求める。
腹の下に擦り付けられる人肌の温もりに、ドラゴンの口からも恍惚の笑いが漏れた。
「フ・・・フフフフ・・・」

その途端不思議な感情に押し流され、ドラゴンは獲物を探すことも忘れて雪の上にドサリと蹲った。
露出した片足が雪に触れ、人間がビクッと身を縮める。
「ああ・・・もう離さぬぞ・・・」
大きな手で人間の頭を掻き抱くと、ドラゴンは雪の上に敷かれた翼の寝床の上で全身を震わせた。
人間もそのなりふり構わぬ求愛の仕草に応えるように、寒さを忘れて滑らかな鱗に覆われたドラゴンの胸に頬を擦り付ける。
冷たい雪床の上で、種族の違う雌雄は一言の言葉も発せずにお互いを抱き締めた。
もう何もいらない。ただ相手がいてくれればそれでいい。

どれくらいそうしていたのだろうか?
お互い無言のうちに相手への想いを表現し尽くすと、ドラゴンは踵を返して人間を抱いたまま再び洞窟へと戻ってきた。
そして、元のように冷たい岩の地面に人間を組み敷いた。
ふぅっと大きく息をついて、人間がドラゴンの言葉に返事を返す。
「俺も・・・もうあんたと離れたくない」

若者とスキーを楽しむためにロッジに集まっていた男達は、いつまで経ってもやってくる気配のない友人の身を案じていた。
晴れた空の下、男の1人がふとロッジのテラスから外を眺めると、純白の雪に埋もれた真っ赤なスキー板がほんの少し顔を出しているのを見つけた。
慌てて皆を引き連れてスキー板を掘り出してみたが、若者の姿はどこにも見当たらない。
突如不安と焦燥に駆られた彼らの数メートル下で、1人の人間と1匹のドラゴンはこれから先の生涯をともにすることを誓い合った。

その後、ドラゴンと結ばれた若者がどうなったのかは誰も知らない。
だが、雲1つない晴天に浮かぶ真冬の太陽は、真っ赤に身を燃やしながらどこまでも続く広大な銀世界に祝福の光を振りまき続けていた。



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