ラーゲル クヴィストの雫2

    

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ラーゲルクヴィストの雫 ELSE:the father of dragonoid


この国には、兵役がある。
しかし、一般人が戦うのは近隣諸国との武力抗争だけではなく、
人間の脅威となりえる生物の早期駆逐のほうが多い。
既に、人間同士の戦争は、コンピュータ同士が操作する
人間達自身が到底及ばないハイレベルな層に達しており、
はっきり言って、一般人上がりの人間などお荷物でしかないのである。
生物駆逐などという、劣等な仕事こそ、一般人の士気向上とコストの面で最も人間に相応しい。
それは、コンピュータの出した淡白な結果だった。

「グレン!」
後ろから声をかけられた。
振り返るとそこには、ウェル伍長が立っていた。
「命令だ。今日も害獣駆逐に行くぞ。
装備を整えたら、1300時に格納庫B3に来るように。」
「はい、了解したしました。」

ウェル総長の私びいきは有名なもので、ほとんどの作戦に私を参加させる。
聞いた話によると、自分の戦争で死んだ息子にそっくりらしく、
「あのウェルのやろう。自分の息子のようにお前も殺そうとしているんじゃないか?」
という冗談を、よく同僚から言われたものだ。
1300時までは時間がある。
私は、テラスまがいに外にせり出した砲台の上に座り、基地を下に見下ろしていた。
米粒ほどの人間が、基地の中でちょこまかと動き回る姿は、
私の大好きな街づくりシミュレーションゲームを連想させた。
私は、その米粒の動きを観察しながら、この基地は、ここをこうすれば、
もっと効率が上がるのにな、などという想像をしていた。

頭の中で基地を置き換えていたら、突然背中を押され、危うくその米粒の世界に飛び込む所だった。
「おわっと!何するんだ!って伍長。」
背中を押しておどけていたのはウェル伍長だった。
「あの、何か?」
「いいや、通りかかったらお前が見えたからな。」
「はぁ。」
ウェル伍長は、隣に座ると、胸ポケットから支給品の安いタバコを取り出し、私に勧めた。
私は、ジェスチャーでいらない意を伝えると、ウェル伍長は、自分の分だけ取り出すと、
隣でタバコをふかした。
「なぁ、人ってどうしてこんな無駄なことばかりするんだろうな。」
伍長が、器用に口を曲げドーナツ型の煙を2~3個吐いた。
「俺は、根っから軍志望だったから良いけど、
お前は違うだろ?後半年でお前は、一般人へと戻る。」
「はぁ。」
私は、話の先が見えないので、何とも言えず相づちを打った。
「可笑しいよな。人間同士の戦争なんて、
今じゃ、コンピュータ同士の頭脳戦。
1mmだって人間が入り込む隙の無い高度な戦いをしている。
じゃあ、その高度な技術でどうして駆逐部隊を強化しないんだろうな。」
伍長は、腰に刺さった剣を抜いて私に見せた。
「これは、剣だ。分かるな。」
「それは…、もちろんですが。」
伍長は、剣を拳で叩きながら言った。
「こんな子供だましの原始的な武器しか渡しやしない。
それで、ドラゴン退治だときたもんだ。可笑しいだろ?
いいか、そもそもドラゴンだって、前世界の技術が作り出した化けモンだ。
俺たちは、前世界の技術を地面だのから掘り出して、世襲しているに過ぎない。」
「ええ、まぁ。」
私は、ぼんやりと下のちょこまかと動き回る米粒を見ながら考えた。
「そんな、腐りきった遺産にだ、自分の息子を殺されるなんて、あまりにもむごいと思わないか。」
私は、あまりにも気まずい空気で息が詰まりそうだった。
「お前を見たときには驚いたよ。
世界には、同じ人間がいるとは言うが、まさかこうも近くにるとはな…。」
伍長は、フィルタまで吸いきったタバコを下へ投げ捨てた。
ひらひらと舞ったタバコは、米粒の世界へと落ちていった。
伍長は、立ち上がってズボンをはたいた。
「なに、お前のことばかり指名するのは簡単な理由さ。
俺の隣にいれば、俺が刺し違えてでもお前を護ってやれる。」
「たぶん、今日がお前の最終作戦だろう。
俺の招集を受けた回数から考えても、
一般人の出陣制限回数を超えるからな。」
伍長は、そう言うと行ってしまった。

息子に生き写しというだけで、こうも人間は他人を可愛がることができる。

1300時。
伍長の部隊が装甲車2台、バギー1台に搭載される。
二人乗りのバギーに乗ったのは、私と伍長だった。
エンジンをかけ、声が当たりに聞こえなくなってから、伍長は話し始めた。
「今日は、ドラゴン退治だ。それはわかているな。」
「ええ、ブリーフィングで言っていましたから。」
「じゃあ、どうしてドラゴンを退治しなければならないか分かるか?」
ブリーフィングをいくら思い出しても、理由が分からなかった。
「いいえ、分かりません。」
「簡単さ、人間は、人間より強い種族を認めないんだ。
熊でもライオンでも、銃さえあれば1対1で殺り合える。
しかし、ドラゴンは駄目だ。
…それが駆逐理由だ。」
「そんな理由でですか。」
「そうだ、そんな理由だよ。
そして、そんな理由のためにあいつはドラゴンに殺された。
部隊ごと全滅だったそうだ。
他のやつは、体の一部なりタグなりが戻ってきたが、
あいつは、全部消えちまった。」
「まさか、食べられたとか?」
要らぬ相づちだったことに気付いて、私は口をつぐんだ。
「そう思うか?ドラゴンは、人間などという不味い肉は食わないそうだ。」
「はぁ。」
「これから行く所は、そのドラゴンが住んでいる森だ。」
「敵(かたき)をとるわけですね。」
「いや…話をする。」
「…。」
伍長は、それっきり口を開かず、バギーを運転した。
途中、伍長が無線を使い、ナビ用のレーダーの目的地変更を指示していた。

伍長のバギーが突然止まった。
「いいか。お前は黙ってここにいろ。」
後続についていた装甲車がバギーにつられて止まる。
しばらく龍捜索が続いた。
途中、部隊の一人がバギーにちょこんと座っている私に気付き、
たいそう怪訝な顔つきをした後、首を傾げて通り過ぎて行った。

捜索しても龍は見つからず、舞台は早々に切り上げた。
「お前らは、先に撤収。明日の再駆逐に参加するため、十分な休養を取るように。」
2台の装甲車は、簡単な作戦で終わり早退できることへの歓喜を振りまきながら帰って行った。

目的地には、私と伍長のバギーだけが残された。
「さて、本当の目的地に向かうとするか。」
「え、本当のですか?」
伍長は、頷いた。
「ああ、万が一にも、あいつらにドラゴンが倒されるとも限らない。
まぁ、万に9999は、あいつらの負けだろうがな。」
私は、何も言えなかった。

本来の目的地に着くと、伍長は、バギーを目的地からしばらく走らせ、止った後、
私に降りるように促した。
「お前は、ここで待ってろ。30分して戻らなかったら、そのまま帰れ。
そして、伍長は、ドラゴンを倒した、もう出撃の心配は無いとな。」
待っていろと言われても、こんな森の真ん中から一人で帰るほうが難しい。
私は、仕方なく先程の目的地の場所まで歩いていくことにした。
伍長は、そこにいるに違いない。
一体、ドラゴンと何を話そうというのか?

ウェル伍長は、途中、バギーをでたらめに壁にぶつけ
何とか走れる程度に壊した。
「これなら、龍と戦闘したという話もつくだろう。」
ウェル伍長は、目的地に着き、龍を呼んだ。
「ドラゴンよ!さぁ、会いにきたぞ!
どうして私のクヴィストは帰ってこなかったのだ。
現れろ、そして答えろ!」
伍長は、そう叫びながら森を歩いた。
そして、伍長は、龍を見つけた。
目的地に程なく近い、開けた草原の上で、心地よさそうに眠っている龍を。
…、そして、その傍らにいるもう一匹の生物を、
息を飲んで何も言えなくなった伍長に龍が気付く。
龍が、体を動かしたことで、もう一匹の生物もこちらを向いた。
雑兵の服を着た人間に限りなく近い体つきの龍を…。
最後に出撃した息子と同じ背格好の龍人がそこにいた。
「ク、クヴィスト…?」
クヴィストと呼びかけられた龍人は、ゆっくりと頷いた。
「クヴィスト。お前なんだな。ああ、どうしてこんな。」
わなわなと震えながら近づく伍長を龍人は、やさしく抱きしめた。
「ああ、クヴィスト、クヴィスト。やっぱり、生きていたんだな。
姿が変わっても、お前なんだな。」
龍人は、龍特有の唸りを低く漏らして、何か話しかけようとした。
「なんだ、クヴィスト、何が言いたい。」
龍人は、首から下がっていたタグを外してかつて父だった人間に渡した。
タグには、しっかりとクヴィストの名が彫られていた。
「モウ、モドレナイ。ゴメン。」
龍の喉では出せないはずの音を、龍人は懸命に音にした。
そういって、手紙を差し出した。
「父さん、僕は、もう死んだのです。こうして手紙を読んでいるということは、
目の前には、人間でも龍でも無い生き物が目の前にいるということです。
それは、かつてあなたの息子だったものです。
死に行く僕を必死に助けようとしてくれたドラゴンの恩恵が私をこのような姿にしました。
どうぞ、ドラゴンを憎まないで下さい。
憎むべきは、被害者のドラゴンではなく、
無意味な駆逐を続けようとする加害者の人間なのです。
私は、もう戻れません。このまま、このドラゴンと暮らすつもりです。」

「…、ああ、お前にあえて本当に良かった。
そうだ、その姿では、街には戻れないな。」

一方、何とか目的地にたどり着いたグレンは、
ドラゴンと謎の生物に取り囲まれているウェル伍長を発見した。
ウェル伍長が襲われていると、とっさに判断したグレンは、
弱そうな生物の方に突進した。
抜いた剣が、生物を貫く瞬間に、その刃先は伍長によって阻まれた。
深く刺さった剣からグレンの下に血が伝い落ちる。
「ご、伍長!」
伍長は、どさりと倒れ、
「バカやろう…。俺の、…息子だ。」
そう言って、事切れた。
「あ…、ああ、そんな、伍長!」
伍長の血に染まった手紙に気付き、内容を呼んで確信した。
私が刺そうとしたのは、伍長の息子であると。
私は、家族の感動の対面の場を血に染めたのだと…。

私の背中に伍長の息子の気配を感じた。
私は、帽子を取り、首元を差し出した。
私にできる精一杯の礼儀だった。
しかし、私を貫く一撃の代わりに、肩に軽く手を置かれただけだった。
振り向いた私に、龍でも人でも無いその生物は、寂しい笑みをみせた。

「あのウェルのやろう。自分の息子のようにお前も殺そうとしているんじゃないか?」
同僚に言われたことは、全くのでたらめだった。
伍長は、本当にただ息子に似た私を護っていただけなのだ。

私は、フラフラと立ち上がって、その場を後にした。
すぐそこには、ボロボロになったバギーがあった。
逃げるようにエンジンをかけ、基地へと帰る。
破損したバギーに驚いた整備員が放心状態で帰ってきた私を気遣う。
「大丈夫ですか!?」
私は、ただこう言った。
「伍長も、ドラゴンも死んだ。もう、あの森に用は無い。」

結局、そうして獲得した森も、責任問題や権利問題といったお役所ごとで、
開発されぬまま放置されることになった。
これは、あの伍長の子供とドラゴンにとっては朗報だったことだろう。

半年後、兵役を終え、めでたく一般市民に戻った私は、
国から見離され、不気味さを増した森へと入っていった。
あのクヴィストと呼ばれた龍人に会いに行くために…。

かつて私が、息子の目の前で伍長を殺してしまったあの地へと着いた。
手に持っていた花を手向け、目を閉じた。
目を開けたときには、すでにクヴィストが目の前にいた。
「言いたいことがあってきた。
この森は、国から見離された。
権利問題がねじれ切れるという人間の欲のおかげだ。」
もうこの森に手をかけようと思う輩はいなくなるだろう。
龍人は、それを聞いていたのかいないのか、表情を変えずに立ち去った。
「そして、私はいつでも死ぬ覚悟ができている!
許してくれとは言わない!」
龍人は、それを聞いて立ち止まったが、振り向きもせず、また歩を進めた。

私は、龍人がそのまま森の奥に消えるまで、その背中を見送っていた。

ラーゲルクヴィストの雫ELSE:after the manslaughter


とある国のとある街のとある森。
その森には、化け物が住み着いているという噂がある。
ある噂では、羽の生えた巨大な生物。
またある噂では、二本足で立って歩いていたという、牙の生えた鱗だらけの化け物。

何のことは無い。
羽の生えた方は、ラーゲル。
二本足の方は、クヴィスト。
二人とも、この深く広大な森で平和に暮らしている。
護るべきもの、それ自体が枷となっているラーゲル。
元人間であったからこそ、今の姿で世に出ることの恐ろしさが分かるクヴィスト。
どんなに広大な森であったとしても、やはり、この二人にとっては、そこは小さな庭でしかなかった。

「社長、何をしているのです?」
秘書が私に聞いた。
「ああ、いや、バードウォッチングだよ。
ほら、君も見てみるかね?」
私は、手に持っていた双眼鏡を秘書に渡そうと差し出した。
「いいえ、間に合っています。ところで、前回失敗した企画の件なのですが…。」
「ああ、あれなら、副社長に言ってくれ。」
秘書が、少し心配そうに聞いた。
「社長、ここ最近は、心此処にあらず、の状態ですね。
…、そんなにあの森が気になりますか…。」
秘書が、恐ろしげに森を見た。
ビルの窓から見下ろされた森は、深い緑を湛え、昼でもシンとしている。
「あ、まぁね。あそこには、色々とあるもんでな。
いや、こうして手に入れてみると実にいい森だ。
この森はこのまま手付かずで取っておくべきだ。
君もそう思わないかい?」
秘書は、ずり落ちかけたメガネを片手で直しながら言った。
「いえ、私には言いかねる質問です。」
社長は、秘書のファイルを手に取り、所々に目を通したり、サインをしたりしながら言った。
「そんな硬く考えることじゃないよ。で、どう思う?」
秘書は、困ったようなしぐさを見せた。
「はい、その、やはり不気味というか。
早くなくなった方が良いと思っている住人の方が多いと思います。」
「ふむ…。やはりそんなところか。
それなら、なおさら私が手に入れて正解だった。
なに、あの森の権利など安いものだったよ。
なんせ、祟りがあるからね。」
「祟り、ですか?」
秘書が、また怖いもの見たさで森を見る。
「ああ、ドラゴンの怒りを信じるかね?」
「え…あの。」
「ああ、すまん。変なことを言ったな。
他に何か用はあるのか?」
秘書は、慌ててファイルを見直した後、こう告げた。
「いえ、後はありません。では。」
秘書がいなくなって、また森の中のようにシンとした社長室の中で、
社長が独り椅子に腰掛ける音が大きく響いた。

あれからいろんなことをやった。
私は、命を捧げた身。
あれからも、時々合間を縫っては、あの場所に行き、花を手向ける。
花を手向ける先は、小さな墓石。
私が手作りで作ったものだ。
この場所は、誰にも知られたくない。
誰もこの森を汚せないように、合法的に権利を買い取ったりもした。
おかげで、街の再開発が進んでも、森はグリーン何とかというプロジェクトの元、
数少ない完全な自然の森ということで保護されることとなった。
龍の住む森、人間が入り込むような整備された道など無い要塞。
興味本位で入ったところで、何も見つかりっこない退屈な森。

その奥で、二人は安らかなときを過ごしている。
花を手向ける私の元に、時々クヴィストが現れるときがある。
私は、いつでも彼に殺められる覚悟がある。
しかし、彼は、ただその眼差しで私を見つめるだけであり、
その眼には、怒り、憎悪の感情は見られなかった。

彼を見るたびに私は思う。
私は、彼に何をしてやれただろうかと。
「なぁ、グレン。人ってどうしてこんな無駄なことばかりするんだろうな。」
かつて、私にそう問いかけ、この森で私の手によって殺された。
私が護らなければ、この森もいつか無駄なことばかりする人間の手に落ちてしまうだろう。

森を後にした私は、そのまま徒歩で会社へと戻った。

ラーゲルクヴィストの雫ELSE:into the eyes


社長亡くなりし後、7~8世代は手付かずだった森も、
結局は再開発のあおりを何度も受け、少しづつ切り取られていった。
今では、ドラゴンなどという戯けた話に耳を貸すものなどいない。
100年も経てば、結局のところ、先代の意志など薄らぐというわけか。
切り取られていった森で、最後の龍が発見された。
これまでに見たことのない龍と人の姿を合い持った生物もいっしょに…。
龍は、生物を背に乗せ護るように、
そのまま誰に危害を加えるわけでもなく何処へも無く、飛び去ったという。
かつては、龍が護っていた区画も、今ではこうして我々人間が支配している。

龍から奪い取った土地は、見る見るうちにリゾート化されていく。
人間の毒が入っていない新鮮な土地は、そうして汚されていった。
一方で、毒で汚されつくした土地は広がり、人間は住む土地を失い続けていた。


ある大陸の3/4を覆う砂漠の真ん中に、龍の形をした岩があるという。
逸話では、力尽き堕ちた龍が、そのまま岩になったといわれている。
いっしょに、龍の姿をした人も堕ちたといわれ、
なんとその龍人が今でも生きているという、バカらしい噂が立っている。

なんでもそのオアシスは、、この毒で腐りきった砂漠にもかかわらず、
岩の回りに草木が繁茂しているのだという。
龍の最後に落とした涙の雫が、オアシスを作ったという話もある。
現に、そのオアシスは塩辛いという噂も聞く。
しかし、土地と共に世襲したをも技術を失い、衰退している人間が、
広大な砂漠を渡ってオアシスに近づく術は無い、果たして本当に確かめたものがいるかも妖しい所だ。
人は、
「龍は、護るべき場所を護る生き物なの。」
そう噂話に付け加えた。
かつて、龍を駆逐して回った人間は、そう語り継いでは、龍の助けを請うのだった。


人間は、かつて、自分より強い存在を認めないという、エゴイズムの手によって衰退をたどった。
技術や知識は全てリセットされ、また位置から世界を始めるチャンスを与えられた。
そうして、前世界の技術を世襲した人間は、また同じ過ちを繰り返した。

オアシスは、ゆっくりとした歩で広がりを見せている。
しかし、人間の住む場所は、それ以上の速さで失われて続けていた。

ラーゲルクヴィストの雫ELSE:unchained legend


「船長。ご報告があります。」
船員の一人が慌しく船長室へと駆け込んできた。
「なんだね、騒々しい。ノックも忘れるとは、よほど緊急のようだな…。」
船長が、メガネを直しながら言った。
船員は、恐縮して敬礼しながら言った。
「はい、その、青いのです。」
「何が…。」
「私たちが帰る惑星がです。」
「何!?」

人間が滅ぼした惑星。
その命、最後の一滴まで絞りつくされた惑星は、赤茶けた砂の惑星に成り下がっていた。
そうなる前に、逃げ去った一握りの人間たちがいたのはご存知だろうか。
その5世6世が見たことも無い故郷へ夢を膨らませるのは言うまでも無い。
宇宙を航行するための莫大なエネルギーが、夢を夢で終わらせる所以だった。

「私たちの先代が、テラフォーミングを行ったとでも言うのか?」
「いえ、記録にはございません。ただ、観測した所、大きな森がひとつ見えます。
惑星の4分の1を覆う大きさです。
他は全て、砂漠のようです。」

テラフォーミング用の大規模な装置を惑星の外に残したまま、
森の中心部に程なく近い場所に探査艇は着陸した。
「さぁ、最初の一歩を踏み出した証に、この森の中心に旗でも立てようじゃないか。」

しばらく歩いていった船員たちは、その森の中心で息を飲んだ。
そこには、安らかに眠る龍がいたのだ。
緑色に苔むしたその岩は、龍そのものだった。
「船長…。」
「ああ…。」
船長が、メガネを外し、ハンカチで目を拭いた。
「護られたんだよ。この惑星は…。」
そう言いかけた船長が、もう一度龍の形をした岩を見た。
岩の陰から、龍人が顔を出す。
船長が感嘆の声を上げた。
船員たちもそれに気付いてそれぞれに声を漏らす。

船長が、振り向き声を上げた。
「引き上げるぞ。この惑星は、もう新たな生命が息づいている。
これから私たちがここに住むことは、侵略に他ならない。
本部には、利用価値無しと伝えておけ。」

飛び立つ準備をする船を見ながら、竜人は手を振ったのだった。
その表情は、誰が見ても分かる顔だった。
ただ、護られている。
そう感じずにはいられない、温和で清閑な表情だった。
手を振る龍人を残し、探査艇は大気圏外へと飛び去った。


「龍は、護るべき場所を護る生き物、か。」
「え、なんですか?船長。」
船長は、横に首を振った。
「いや、なんでもない。
言い伝えは本当なのだなと思っただけさ。」
「はぁ…。」
船員は、わけが分からず困惑していた。

ラーゲルクヴィストの雫ZEALOTRY


この惑星。
雫が生まれたその場所は、砂漠、海、森…。
ありとあらゆる場所で、雫はいっせいに生を享けた。
何も無い場所に、突然存在を始めた雫は、
その薄く輝く透明な光を身にまとって形無いまま辺りを見渡した。

そして、雫は自分のすべきことを理解する。
いや、思い出したのだ。
「護る。」
ただそれだけ…。

その思いが、雫の形を決定付ける。
あるものは水、またあるものは火、風、森、岩…。
それぞれが護るべきものに最も近い存在をあがめたそれぞれの龍へと姿を変えた。

開発者としての夢が、兵器の姿を決定付けた。
本来なら、自分を作り出した国を護るための守護神。
その意味をこめて、人間たちがもっとも崇め恐怖するスタンダードな姿が龍。
人間の世界が終焉を迎えたそのとき、暴走した長い年月が、
未起動の兵器をの眠りを醒ましてしまったのだ。

前世界に開発されたエネルギーのみで構成された生命体。
太陽光、風、溶岩、あらゆるエネルギーの落差を糧とし生きることができる。
大気と言う不安定の塊りのような存在が、その生命体を不老不死の兵器の仕組みだった。

兵器は、自分の生まれた場所を護るという純粋な命令を実行し続けた。
龍は、護り続けている。
一度は滅んだ人間のかつての基地を…。




一握りの前世界を世襲した人々。
彼らにとっても、龍は人間が作り出したものと言うことまではわかったのだが、
何故、そこを護るのかまでは、理解できないでいた。
なぜなら、カモフラージュされた自然のその下には、前世界の瓦礫しかないのだから。
停止方法の存在しない兵器。
前世界も厄介なものを残してくれたものだ。

世襲した技術から発掘された兵器はどれも、人間の能力を遥かに超えていた。
何故稼動するのかさえ忘れ去られた兵器は、相変わらずその機能を維持していた。
しかし、それらの兵器は、どうしても龍を目標として捉えることができなかった。
答えは簡単で、兵器は無機物、熱源。
龍のような純粋なエネルギーは、
目標としてではなく高エネルギーの空間としてしか認識できないのだった。
たとえ、出撃させても無駄うちを繰り返した挙句、撃墜されてしまう。
せっかく発掘された兵器をそれ以上無駄にするわけには行かなかった。
世襲した人々は、これらの暴走した龍を止め、新たな土地を確保するために、
無知な一般人を集め、悪魔のような存在として龍を位置づけ、駆逐隊を結成したのだった。




「敵意を持って接すれば、強力な矛となり、
友好を持って接すれば、それは強力な盾となる。
一度固定された兵器は、その場所を護るという意志だけを持つ。
攻め込むには、敵意が必要だ。
敵意無しの戦争などありえない。
もしあるとすれば、それは不可解な合意であり、それは兵器の出る幕ではない。
この兵器は、そうした矛盾にさえ対応するものである。」
理論を考え出した人が拳を空で握り締めながら言う。

「敵意を持って接すること無かれ、友好のみが己が道を切り開く。
…なぁ、カッコイイだろ?」
突然おどけたかと思うと、こちらに向かって満面の笑みを向けた。
「はぁ…そうですね。」
話しかけられた開発者の人が煮え切らない返事を返す。
「姿は龍で決まりだ。」
「何故ですか?」
「だって、カッコイイじゃん。人々を護るランドマークとしては、これ以上ぴったりのものは無いと思うね。」
「…そうですね。」
バカと天才は何とか、とはよく言ったものだ。
よくもカッコイイなどという幼稚な理由で龍にするなどといえたものだ。
開発者は、ポケット常備の胃薬を取り出すとそれを服用した。

上のほうにその理論を考え出した人が言うには、
「龍の形は、我々人間にとって無意識下で戦意喪失を働きかけます。
それは、小さな頃から教え込まれた恐怖と言うものから成り立つものであり、
心理学担当のものがこれを証明しています。
なお、敵意と友好に対する見解ですが、
一度設置した自国の兵器を攻撃する者が何処にいるでしょうか。
例え、攻め込まれたとしても私の兵器は、己が滅するまで戦い続けます。
つまり、攻め込まれた所で兵器が敵の手に落ちることなどまず無いでしょう。
この意識プログラムは、そう言った意味でこれ以上シンプル、端的なものはありません。」
…よくもまあ、これだけヌケヌケと考え付くものだ。
開発者は、上にも下にも愚痴をこぼせないまま、開発を続けた。

こうして、名実ともに龍の兵器を完成させたのだった。


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